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『戦闘の天才』はヴィンセント侯爵邸に潜入する!

 私の名前はエルベルト・クラッソ。

 今、ヴィンセント侯爵邸宅に潜入しようとしている。


 門の前には門番が二人。

 私はその門番に一気に近づく。

 そのまま流れるように気絶させる。


 門番は一瞬顔を強張らせたが、その時はもうすでに私の間合いだ。

 私は堂々と正面から侵入する。


 ただ、どこにフェシリテがいるかわからない。

 しょうがないので一部屋づつ探すことにする。

 石原曰く、フェシリテの健康状態は良好そうだったらしいので、恐らく地下牢に幽閉されていることはないだろう。

 普通、これから嫁に出す自分の娘を幽閉はしないだろう。

 日の当たる部屋に置くはずだ。


 私はとりあえず屋根までジャンプし、屋根を伝って明かりの灯る部屋まで歩く。

 そのままそっと、屋根に剣を突き立てる。

 そのロープを下まで垂らせば下に安全に降りられるというわけだ。

 私はそっと部屋をのぞき込む。

 すると、使用人たちが仕事を終えてくつろいでいる姿が見えた。

 どうやら外れだったようだ。

 

 私がそうやって4回目くらいで、やっとフェシリテを見つけることができた。

 私はそっと窓をノックした。


 フェシリテは驚いた顔をしてこっちを見る。

 しかし、すぐに察して窓を開けてくれた。


「どうしてきたんですか?」


 フェシリテが戸惑い、そう聞いた。


「仲間を助けに来た」


 フェシリテはそれを聞いて泣き出した。


「泣くことないだろう」


「だって.... 」


 恐らく、今までフェシリテを張り詰めさせていた何かが切れたのだろう。


「時間が無いんだ、単刀直入に教えてほしい。どうしてこんなことになった?」


 私がそう聞くと、フェシリテは涙を拭いて答えた。


「まず、私はあの日、ヴィンセント侯爵に誘拐されました。それから、こう言われました。『石原孝雄と結婚するか、バーミントン公爵と結婚するか選べ』と」


 バーミントン公爵は石原に反抗的な勢力の筆頭だ。

 どうしてその2人なのだろうか。

 それになぜフェシリテにそんな事を言うのだろうか?


「実は、私はヴィンセント侯爵の実の娘なんです。色々あって家出したんですけど.... 」


 うっすらと予想はしていたがまさかその予想が本当だったとは。


「ヴィンセント侯爵は石原さんがこの国で奴隷制を廃止しようとしているのが気に入らないんです。それで、それを阻止するために出世しようと私を利用したのです」


「では、なぜフェシリテがそれに協力するんだ?何か脅されているのか?」


 私がそう聞くと、フェシリテは顔を強張らせた。


「もし、私が逃げたり石原さんが結婚を断ったら、ヴィンセント侯爵はこの国で謀反を起こす気なんです.... 」


「ヴィンセント侯爵に勝算はあるのか?」


 石原はジェストカン神聖国を倒した男。

 一端の貴族が謀反を起こしたところで勝てるとは思えない。

 あの『戦車』とやらは非常に強力だ。


「ヴィンセント侯爵は子供の奴隷を買い漁っているんです。そしてその子らに武器を持たせて、『死にたくなかったら城の前で蜂起するように』と命令しています。あくまでも子供たちが勝手に蜂起したということにして.... 」


「子供ならなおさら勝てないんじゃないか?」


「その目的は勝つことじゃないんです。武器を持った子供たちを石原さんに殺させるんです」


 私は理解できなかった。

 いや、理解したくなかった。


「そうすれば、石原さんは子供を殺す悪人になります。そこでヴィンセント侯爵がそれを糾弾して民衆を味方につけるんです。民主主義に向かっているこの国の民衆を味方にすればヴィンセント侯爵は必然と地位を得られるんです」


 つまりはこうだ。

 ヴィンセント侯爵が子供の奴隷を買い漁り、武器を持たせて城で蜂起させる。

 石原はそれを鎮圧せざるを得ない。

 ヴィンセント侯爵はそれを『石原が子供を虐殺した』として糾弾。

 結果、ヴィンセント侯爵は地位を得られる。

 ということだろう。


 反吐が出る。


「子供はどれくらいいるんだ?」


「500人は超えていました」


 500人。

 相当な人数だ。

 掛かった費用も莫大だろう。


 いきなり、フェシリテが震えだした。

 そしてゆっくりと、深刻そうな顔をしながら、話し出した。


「私.... 実際に見たんです.... 子供たちを.... 暗い部屋に閉じ込められてて、泣いてる子供もいれば、ママに会いたいって言ってる子供もいるんです。そんな中で、ひとりの子供が怯えながら『おうちに返して.... 助けて.... 』って私に向かって言ったんです。私はあの子の目が忘れられなくて.... 彼女たちが殺されないためにも、私は石原さんと結婚するしかないんです。そうすれば、誰も傷つかなくて済むから.... 」


 見たことがないほどにフェシリテは青ざめている。

 フェシリテが抱えている精神ストレスは計り知れない。


「その子供たちの居場所は分かるか?」


「ごめんなさい。目隠しをされていたのでわからないんです」


 となれば救出も困難だ。

 もし、何かしらの行動を我々が起こして、口封じに子供たちを殺されれば元も子もない。


「状況は分かった。あとは任せてくれ」


「何か策があるんですか?」


「私には無い。だが、フィストにはヴィクトワール王国、クライスト公国、ジェストカン神聖国を打ち破った『戦争の天才』がいるんだ。こんな問題、すぐに解決してくれるだろう」


 私はそう言ってにこりと笑った。


「そうですね。石原さんを信じます。もし何かできることがあったら言ってください。なんでもします」


 気づけばフェシリテの表情はさっきよりも格段に良くなっている。


「では一度戻って、石原と相談してくる。すぐ助けに来るからもう少しだけ待っていてくれ」


 私はそう言ってヴィンセント侯爵の邸宅を後にした。

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