↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄に罷免騒動。届いたのはロミオメールでした。愛をこじらせた男たちの詩的な未来。  作者: よみなぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/4

聖女を守ろうとして罷免された元聖騎士から、英雄叙事詩が届きます。なぜか私が試練を与えたことになっています。

元聖騎士から、恋文が届いた。


差出人はレオンハルト様。


先月まで、神殿で私の護衛を務めていた方である。


『我が命より尊き聖女、エリシアへ。


 ついに、私たちの愛は神殿に裁かれた。


 君は覚えているだろうか。


 私が君の居室へ向かったとき、衛兵たちが立ちはだかった、あの夜を。


 彼らは言った。


 聖女様はお休みです。お引き取りください、と。


 ああ、なんと残酷な言葉だろう。


 君が私に会いたくないはずがないというのに!


 私は悟った。


 これは、私たちを引き裂こうとする神殿の陰謀なのだ。


 私は剣を抜き、君を解放しようとした。


 だが、神殿は私を罷免した。


 心配しないでほしい。


 君が眠る間も、私の愛は眠らない。


 いつの日か、必ず君を迎えに行く。


 そのときこそ、二人で自由の空を見上げよう。


 神殿に引き裂かれた、君の守護騎士レオンハルトより。』


「……私、普通に寝ていたのだけれど」


侍女のミーナが頷いた。


「はい。翌朝はよく眠れたとおっしゃっていました」


レオンハルト様は、魔物討伐で数々の功績を挙げた優秀な聖騎士だった。


ただ、私のこととなると、少々思い込みが激しかった。


神殿の仕事を「聖女への虐待」と決めつけ、非番の日まで居室へ押しかけてきたのである。


何度注意されても「聖女を守るのが使命だ」と譲らず、とうとう罷免された。


「お返事はどうなさいますか?」


「しないわ。神殿から、もう近づかないよう命じられているもの」


私は便箋をしまった。


「それに、自由の空なら昨日も見たわ」


「はい。市場へお買い物に行かれましたからね」


◇


二通目は、十日後に届いた。


『我が囚われの白百合、エリシアへ。


 君を失った私にも、ようやく新しい使命が与えられた。


 商隊の護衛だ。


 私は幾十もの荷馬車を率い、街道へ出た。


 だが、旅の途中で運命の知らせが届いた。


 君が北の村へ向かったというのだ!


 私はすべてを理解した。


 君は、私に道を示してくれたのだ。


 直接会うことを禁じられた私たちに残された、唯一の方法。


 それは、偶然の再会を装うこと!


 なんと健気なのだろう、エリシア!


 私は直ちに商隊の進路を北へ変えた。


 荷主たちは、目的地は西だと騒いだ。


 私は彼らに告げた。


 諸君、愛に方角はない!


 だが、今は北にある!


 残念ながら、彼らには理解できなかった。


 護衛契約は解除され、私は再び職を失った。


 そして北の村に着いた私は、君がいないことを知った。


 ああ、エリシア。


 君は、私の身を案じて先に立ち去ったのだね。


 わかっている。


 次こそ必ず、君の残した道しるべを見つけよう。


 北の空に君を探す、レオンハルトより。』


「……北の村?」


私は首をかしげた。


「聖女様、先週は南の村へ巡回診療に行かれましたね」


「ええ」


「北には行っていらっしゃいません」


「そうね」


私は便箋を畳んだ。


「それに、商隊を勝手に北へ連れていったそうよ」


「荷主の方々は大変だったでしょうね」


「本当にね」


「それで、聖女様は道しるべを残されたのですか?」


「残していないわ」


「そうですよね」


◇


三通目は、ひと月後に届いた。


『我が遠き星、エリシアへ。


 私は今、王国の西の果てにいる。


 王都では、もはや誰も私の剣を受け入れなかった。


 だが、私は気づいたのだ。


 君が私を遠ざけたのは、私を嫌ったからではない。


 私に、もっと大きな男になってほしかったからだと!


 君はきっと、こう言いたかったのだろう。


 レオンハルト様。私一人を守るだけでは、あなたの力がもったいありません、と。


 ああ、エリシア!


 君はなんと深く、私の才能を理解していたのだろう!


 私は辺境の討伐隊に加わった。


 そして黒き森で、百を超える魔狼の群れと遭遇した。


 若い兵たちは震え、隊長は撤退を考えていた。


 私は剣を抜いた。


 エリシア!


 君が私に望んだのは、この戦いだったのだな!


 私は先頭に立ち、魔狼の群れへ斬り込んだ。


 兵たちも後に続き、ついに魔狼を撃退した。


 隊長は私を小隊長に任命してくれた。


 これでようやく、君の試練の第一段階を終えたことになる。


 次は何を望むのだろう、エリシア。


 安心してほしい。


 君が何も言わなくても、私は必ず答えを見つける。


 百の魔狼を退けた、君の騎士より。』


「……まあ」


私は思わず声を上げた。


「聖女様、今度は大変なお手柄ですね」


ミーナも嬉しそうだった。


「ええ。魔狼の群れを追い払ったなんて、すごいわ」


「小隊長にもなられたそうです」


「よかった。ようやくお仕事が見つかったのね」


私は便箋を畳んだ。


「でも、試練なんて与えていないのだけれど」


「はい」


「何も言わなくても答えを見つけるそうよ」


「それは少し困りますね」


「ええ。今度こそ、お仕事に集中していただきたいわ」


◇


四通目は、さらにひと月後だった。


『我が勝利の女神、エリシアへ。


 君の望みが、また一つわかった。


 君は私に、家庭を持つ覚悟を求めていたのだ。


 私は今、三十人の兵を率いている。


 三十人だ!


 彼らは腹を空かせ、疲れれば眠り、時には喧嘩もする。


 私は初めて、誰かの食事や寝床を気にかけるようになった。


 そこで私は悟った。


 これは、君との未来の予行演習なのだと!


 考えてもみてほしい。


 三十人の部下を養える男が、君一人を幸せにできないはずがない!


 先日の戦いでは、谷から押し寄せた魔物を迎え撃った。


 私は十人を左翼に、十人を右翼に、残る十人を中央に配置した。


 魔物が中央へ突進した瞬間、両翼から挟み撃ちにしたのだ。


 勝利は我らのものとなった。


 兵たちは歓声を上げた。


 私はその声を聞きながら、君との結婚式を思い浮かべた。


 きっと、その日もこれほど盛大な歓声が上がるのだろう。


 ああ、エリシア。


 私はもう、君を守るだけの騎士ではない。


 君との家庭を支えられる男になったのだ。


 三十人の家族を養う、君の未来の夫より。』


「……三十人の隊長さんになったのね」


「はい。立派でございます」


「部下の方々のことも考えているみたい」


「よい変化ですね」


私は微笑んだ。


「ええ。本当に」


そして、手紙の最後をもう一度読んだ。


「……三十人の家族?」


「兵士の皆様ですね」


「そうよね」


「結婚式の歓声は、兵士の皆様の歓声とは少し違うと思いますが」


「ええ。そもそも結婚する予定がないわ」


私は手紙をしまった。


「でも、三十人の方々をちゃんと守っているのは嬉しいわ」


◇


五通目が届いたのは、冬の初めだった。


封筒には、辺境伯家の紋章が押されていた。


『我が雪原の太陽、エリシアへ。


 君の愛が、ついに千の魔物を退けた。


 西の辺境に、魔物の大群が押し寄せたのだ。


 数は千を超えていた。


 領民は逃げ惑い、砦の兵たちは絶望した。


 私は村人たちを砦へ避難させ、橋を落として魔物の進路を断った。


 残された道は、狭い谷が一つ。


 そこへ槍兵を並べ、弓兵を高台に置いた。


 三日三晩、我らは戦った。


 四日目の朝、援軍が到着した。


 魔物の大群は撃退され、砦は守られた。


 辺境伯は私の手を取り、感謝を述べてくださった。


 そして、私を騎士団の指揮官に任命してくださったのだ。


 ああ、エリシア!


 君があの日、私を神殿から遠ざけた理由が、今ならわかる。


 君は私に、千の魔物を退けるほどの英雄になってほしかったのだ。


 君は最初から、私の未来を見通していたのだね。


 だが、心配しないでほしい。


 私はどれほど出世しても、君との約束を忘れない。


 千の魔物を退けた私なら、君の居室の扉も、今度こそ開けられるだろう。


 その日まで、待っていてほしい。


 雪原に愛を刻む、君のレオンハルトより。』


「……すごい」


私は便箋を握りしめた。


「聖女様、千を超える魔物を撃退されたそうです」


「ええ。村の人たちも助かったのね」


「はい。辺境伯様からも感謝されたそうです」


私は嬉しくなった。


「本当に立派なお仕事だわ」


「そうですね」


「……でも」


私は最後の一文を見つめた。


「居室の扉を開けるために、千の魔物を倒す必要はないと思うの」


「はい。面会の許可をいただければ済む話です」


「そうよね」


「もっとも、許可は下りませんが」


「ええ」


私たちは顔を見合わせ、笑った。


◇


六通目は、春になってから届いた。


『我が春の女神、エリシアへ。


 ついに、君を迎える準備が整い始めた。


 私は今、二百人の騎士を率いている。


 砦を修復し、街道の警備を整え、商人たちが安心して行き来できる土地を作った。


 かつて魔物に怯えていた村々には、再び笑顔が戻っている。


 そして私は気づいた。


 君が私のもとへ来られないのは、王都に仕事があるからではない。


 私が君を迎える場所を、まだ用意できていなかったからなのだ!


 考えてみれば当然だ。


 聖女である君を、粗末な兵舎へ迎えるわけにはいかない。


 だから私は、砦の一角に新しい建物を作ることにした。


 広い居室。

 日当たりのよい庭。

 清潔な浴室。


 君が安心して暮らせるよう、すべて整えよう。


 辺境伯は、私の提案を聞いて喜んでくださった。


 遠方から来る高官や使節のための迎賓館が必要だったのだという。


 ああ、エリシア!


 やはり、私たちの未来は祝福されている!


 君のために考えた館が、辺境の外交にも役立つのだ。


 完成した暁には、最初の客として君を迎えたい。


 君の帰る家を築く、レオンハルトより。』


「……迎賓館ができるそうよ」


「はい。立派な施設ですね」


「高官の方々もお喜びになるでしょうね」


「ええ」


私は手紙を畳んだ。


「でも、私の家は王都にあるのだけれど」


「はい。神殿の居室でございます」


「引っ越す予定もないわ」


「はい」


「……最初のお客様は、別の方にしていただきたいわね」


「辺境伯様も、そのほうがお喜びになるかもしれません」


◇


七通目が届いたのは、その年の秋だった。


今度の封筒には、王家の紋章が押されていた。


『我が永遠の花嫁、エリシアへ。


 ついに、運命の日が訪れた。


 王都から使者が来たのだ。


 国王陛下が、私の功績をお認めくださった。


 魔物の大群を退け、辺境の守りを立て直した功績により、私は王国騎士の称号を授かった。


 そして、さらに大きな使命を与えられた。


 北西国境にある、グランヴァルト要塞。


 王国最大の国境要塞の一つだ。


 私は、その司令官に任命されたのだ。


 ああ、エリシア!


 私はついに、君を迎える資格を得た!


 かつて神殿の衛兵に追い返された男が、今や王国の盾となったのだ。


 もはや、誰も私たちの愛を妨げられない。


 私は国王陛下に、君を迎えに行く許可を願い出ようとした。


 だが、その前に陛下はおっしゃった。


 グランヴァルト要塞を十年間、守り抜いてほしい、と。


 十年!


 なんと壮大な愛の試練だろう!


 陛下は、私たちの愛が十年の歳月にも耐えられるか、試しておられるのだ!


 私は迷わず、その使命を引き受けた。


 安心してほしい、エリシア。


 十年など、我らの永遠の愛の前では一瞬にすぎない。


 私はこの要塞を守り、王国の平和を支え続けよう。


 そして十年後。


 すべての試練を乗り越えた私は、君のもとへ帰る。


 そのときこそ、神殿も、衛兵も、国王陛下でさえも、私たちの愛を祝福してくださるだろう。


 どうか、待っていてほしい。


 十年後、必ず君を迎えに行く。


 国境の盾となった、君の未来の夫レオンハルトより。』


私は便箋を読み終えた。


「……ミーナ」


「はい、聖女様」


「レオンハルト様、本当に立派になられたのね」


罷免されたときは、どうなることかと思った。


商隊の護衛も失敗し、王都では誰も雇ってくれなかった。


けれど、あの人は自分の力を必要とする場所を見つけた。


魔物を退け、兵士を育て、村々を守り、ついには国王陛下から国境の守りを任されたのだ。


私は心から嬉しかった。


「それに、十年間の任期ですって」


「はい。要塞の司令官ともなれば、簡単には王都へ戻れませんね」


「……そうよね」


私は手紙の最後に、もう一度目を落とした。


十年後、必ず君を迎えに行く。


その約束だけは、いただけない。


「聖女様。十年後、本当にお迎えにいらしたら、どうなさいますか?」


私は少し考えた。


そして、笑顔で答えた。


「そのときは、もう十年、国境を守っていただくわ」


レオンハルト様。


どうか末永く、王国の盾でいてくださいませ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
10年! 国王陛下、グッジョブ!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。