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婚約破棄に罷免騒動。届いたのはロミオメールでした。愛をこじらせた男たちの詩的な未来。  作者: よみなぎ


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4/4

婚約破棄した王太子から、建国神話が届きます。どうやら私への愛を証明するつもりのようです。

元婚約者から、恋文が届いた。


差出人はアレクシス様。


三か月前まで、レオニア王国の王太子だった方である。


王家の紋章は、黄金の獅子。


私の実家、ベルフォール公爵家の紋章は、白百合。


両家の婚約は、幼い頃から決められていた。


アレクシス様は、昔から私を愛していると公言していた。


ただし、少々問題があった。


「セレスティア! 君は私の太陽だ! 私の王妃になることこそ、君に与えられた最高の幸福なのだ!」


こういう方だったのである。


私が公爵領の穀物備蓄について意見を述べても、彼は聞かなかった。


「君は何も心配しなくていい! すべて私が守ってみせる!」


そして、ある日。


私は王家の備蓄を増やすよう進言した。


近隣諸国で不作が続き、穀物価格が上がり始めていたからだ。


しかし、アレクシス様は笑った。


「君は心配性だな! 黄金の獅子が守る国に、飢えなど訪れない!」


私は説明を続けた。


王家の備蓄が不足すれば、価格高騰に対応できない。


今のうちに商人と契約を結ぶべきだ、と。


ところが彼は、私の言葉を自分への不信と受け取った。


「私の力を信じられないのか!」


「そういうお話ではありません」


「ならば証明してみせよう! 君がいなくとも、私は立派な王になれる!」


その勢いで、婚約を破棄してしまった。


国王陛下は激怒された。


「婚約とは、感情に任せて破棄するものではない! 頭を冷やしてこい!」


こうしてアレクシス様は、王太子としての公務を停止され、国境の向こうにある王家の辺境領へ送られた。


ただし、陛下は息子を見捨てたわけではなかった。


領地には、井戸掘り職人や農業技師、行政官などが派遣された。


アレクシス様に、国を治める仕事を現場で学ばせるためである。


そして三か月後。


最初の恋文が届いた。


『我が永遠の白百合、セレスティアへ。


 私は、ついに運命の意味を知った。


 あの日、君は私に別れを告げた。


 いや、違う。


 君は別れを告げたのではない。


 私に、試練を与えたのだ。


 君はきっと、こう思っていたのだろう。


 アレクシス様。私を迎えに来るなら、王冠に頼らない男になってください、と。


 安心してほしい。


 私は君の願いに応えるため、荒野へ来た。


 ここには宮殿も、舞踏会もない。


 だが、君への愛だけはある。


 私は今日、一輪の白百合を植えた。


 君の家に伝わる、あの美しい花だ。


 この花が咲く頃、君も私の成長を感じ取るだろう。


 そして、いつか君は言うのだ。


 アレクシス様。私の試練を乗り越えてくださったのですね、と。


 その日まで、私はここで待とう。


 王冠を預けた君の王、アレクシスより。』


「……お嬢様」


侍女のリリアが手紙を覗き込んだ。


「はい」


「試練を与えたのは、国王陛下では?」


「そうね」


「婚約を破棄したのも、アレクシス様ご自身でしたよね」


「ええ」


私は便箋を畳んだ。


「でも、白百合を植えるのは素敵ね」


「荒れ地で育つのでしょうか」


「……そこは少し心配ね」


◇


二通目は、半年後に届いた。


『我が荒野の女神、セレスティアへ。


 君と離れて半年が過ぎた。


 私はようやく、君があの日、何を伝えようとしていたのか理解した。


 人は、水がなければ生きていけない。


 どれほど立派な宮殿を建てても、井戸がなければ誰も住めないのだ。


 そして私は気づいた。


 君が私に求めていたのは、宮殿ではなかった。


 井戸だったのだ。


 あの日、君は穀物の備蓄について話していた。


 だが、それは本当の願いを隠すための言葉だったのだろう。


 君はきっと、こう言いたかったのだ。


 アレクシス様。私たちの愛にも、いつか枯れない泉が必要です、と。


 安心してほしい。


 私は君の願いに応えた。


 父上が派遣してくださった井戸職人の力を借り、ついに水を掘り当てたのだ。


 井戸の周りには農民が集まり、畑を作り始めた。


 君が私たちの愛の未来を心配していたことが、今ならよくわかる。


 私はもう、あの日の未熟な王太子ではない。


 君が次に私のもとを訪れるときは、好きなだけ水を飲んでほしい。


 もちろん、料金など取らない。


 君だけの泉を守る、アレクシスより。』


「……村ができたそうよ」


「井戸掘り職人の方が優秀だったのですね」


「ええ。地下水脈を見つけたそう」


「それにしても、お嬢様は井戸をご希望だったのですか?」


「いいえ。穀物の備蓄を増やしてほしかったの」


「そうですよね」


私は手紙を机に置いた。


その横には、公爵領の穀物取引の報告書が積まれている。


近隣諸国の不作によって、国内の穀物価格は上がり始めていた。


私は商人たちと交渉し、周辺領地から穀物を運ぶ手配を進めていた。


アレクシス様が愛の泉を掘っている頃、私は穀物の値段と格闘していたのである。


◇


三通目は、さらに半年後だった。


『我が不落の城、セレスティアへ。


 君は、なぜ私に穀物の備蓄を勧めたのだろう。


 私は長い間、その意味を考えていた。


 そして、ついに答えを得た。


 君は、私たちの愛を守る城壁が必要だと伝えたかったのだ。


 村が大きくなるにつれ、盗賊が現れるようになった。


 私は剣を抜き、村人たちに告げた。


 この村には、私の愛する女性の名が刻まれている。


 何人たりとも、踏み込ませぬ、と。


 だが、村人たちは言った。


 殿下、叫ぶより先に柵を作りましょう、と。


 私は頷いた。


 その通りだ。


 君が私に教えたかったのは、愛を守るための備えだったのだ。


 柵を作り、見張り台を建て、兵士を雇った。


 給金を払うため、税を集める仕組みも整えた。


 そして、ついに村は城壁に囲まれた町となった。


 ああ、セレスティア。


 君があの日、備蓄を勧めた理由が、今ならよくわかる。


 君は、私たちの未来を守るために、備えを求めていたのだ。


 私は、その願いに応えた。


 君の愛を守る城壁となった、アレクシスより。』


「……城壁ができたそうよ」


「はい。立派な町になったようですね」


「でも、穀物の備蓄と城壁は、少し違う気がするわ」


「少しどころではないと思います」


私は笑った。


その日、私は公爵領の商人組合と新しい契約を結んだ。


穀物の輸送を安定させるため、複数の商人に運搬を任せる仕組みを作ったのだ。


一つの商会に依存していては、事故や値上げで領民が困る。


私は、そういう仕事のほうが性に合っていた。


◇


四通目は、一年後に届いた。


封筒には、見慣れない紋章が押されていた。


『我が勝利の女神、セレスティアへ。


 君に報告がある。


 私の愛は、ついに三つの町を結んだ。


 隣町が盗賊に襲われたのだ。


 私は兵を率いて救援に向かった。


 盗賊は退き、町は守られた。


 すると、その町の代表者が私に言った。


 どうか、私たちの町も守ってください、と。


 私は答えた。


 もちろんだ。私の愛する女性が暮らす国に、危険があってはならない、と。


 その噂を聞いた別の町も、我らのもとへ加わった。


 今では、三つの町が同じ旗を掲げている。


 住民たちは、私を大公と呼ぶようになった。


 そして、皆で新しい紋章を考えた。


 白百合を抱く金の王冠。


 君の家の紋章を、我らの旗に掲げたのだ。


 かつて私が掲げたのは、黄金の獅子だった。


 だが今、私には新しい旗がある。


 ああ、セレスティア。


 君の名が、ついに三つの町を結んだのだ。


 白百合の大公、君のアレクシスより。』


「……大公ですって」


「はい。三つの町を治めていらっしゃるそうです」


「それは立派ね」


「はい。ただ……」


リリアは封筒を見つめた。


「公爵家の家紋を、勝手に使っていらっしゃいますね」


「そうなのよ」


私はため息をついた。


「お父様に相談しておきましょう」


その頃、公爵領では周辺の領主たちと穀物の共同備蓄を始めていた。


飢饉に備え、余裕のある領地が不足した領地を助ける仕組みである。


私は各領主の利害を調整し、ようやく協定をまとめたところだった。


国を治めるには、剣よりも契約書が役に立つこともある。


◇


五通目が届いたのは、その翌年の春だった。


『我が国の太陽、セレスティアへ。


 君への愛が、ついに法律となった。


 我らの土地に、国境を越えて人々が集まり始めたのだ。


 戦乱を逃れた家族。

 土地を失った農民。

 新たな商機を求める商人たち。


 私は彼らを受け入れた。


 君の花園に、行き場のない者を拒む門など必要ない。


 だが、人が増えれば争いも起きる。


 そこで私は、住民たちと法を定めた。


 土地を奪ってはならない。

 働いた者には、正当な報酬を払う。

 争いは、剣ではなく裁判で解決する。


 ああ、セレスティア。


 君を愛する心が、ついに法典となったのだ。


 私は法律の第一条に、こう記そうとした。


 すべての民は、セレスティアを敬愛しなければならない。


 だが、宰相に止められた。


 陛下、それは法律ではなく、個人的な願望です、と。


 私は深く考え、第一条を変更した。


 すべての民は、法の下に平等である。


 君への愛が、万人の幸福へと姿を変えたのだ。


 白百合の大公、君のアレクシスより。』


「……法律になったそうよ」


「はい。第一条が変更されて何よりですね」


「宰相の方が優秀なのね」


「そうですね」


私は微笑んだ。


その日、王都から届いた報告書には、国王陛下のご病状が悪化していると書かれていた。


王位継承を巡り、貴族たちが対立し始めているという。


私は父と相談し、公爵領の備蓄を増やすことにした。


争いが起きれば、最初に困るのは民衆だからだ。


◇


六通目は、さらに一年後に届いた。


封筒には、金色の封蝋が押されていた。


『我が永遠の王妃、セレスティアへ。


 ついに、この日が来た。


 私は王となった。


 周辺諸国の使節が、我が宮殿を訪れたのだ。


 彼らは、我らの土地を独立した国家として認めると告げた。


 そして私は、王冠を戴いた。


 ああ、セレスティア。


 かつて王冠を預けた男が、今、再び王となったのだ。


 だが、あの日の私とは違う。


 この王冠は、生まれながらに与えられたものではない。


 荒野に花を植え、井戸を掘り、町を築き、人々とともに作り上げた国の証なのだ。


 私は、この国をセレスティア王国と名づけた。


 君の名を、永遠に残すために。


 我が愛しきセレスティア。


 この国の王妃となってほしい。


 私は君のために王国を築いた。


 もはや、私たちの結婚を妨げる者は、国際法に逆らうことになる。


 建国王となった、君のアレクシスより。』


「……リリア」


「はい、お嬢様」


「国ができてしまったわ」


「はい。国が一つ増えましたね」


「しかも、私の名前がついているそうよ」


「はい。セレスティア王国だそうです」


私はしばらく考えた。


「……国際法に逆らうことになるのかしら」


「ならないと思います」


「そうよね」


私は便箋を畳んだ。


「でも、アレクシス様が立派な国王になられたのは嬉しいわ」


「はい」


「国を治めるのは、大変なお仕事だもの」


私は微笑んだ。


「いつか、気づいてくださるといいのだけれど」


「何に、でしょう?」


「国は、恋文の返事をもらうために作るものではない、ということに」


◇


七通目が届いたのは、建国から半年後だった。


いつもの白百合の封蝋ではなく、黄金の獅子が刻まれた封筒だった。


『我が愛しきセレスティアへ。


 祖国レオニアで内乱が起きた。


 国王陛下が崩御され、王位を巡って貴族たちが争っている。


 王都では火が上がり、多くの民が家を失ったという。


 そして今日、祖国から使者が来た。


 かつて王太子を廃された私に、帰還してほしいと。


 正統な王家の血を引く者として、国を救ってほしいと。


 ああ、セレスティア。


 私はずっと、君を迎えに行く日を夢見ていた。


 王冠を取り戻せば、君は私を見直してくれるだろうか。


 立派な宮殿を築けば、君は私のもとへ来てくれるだろうか。


 そんなことばかり考えていた。


 だが今、私の前には別の道がある。


 祖国には、救いを待つ人々がいる。


 私は、彼らを見捨てることができない。


 君が今も祖国にいることは知っている。


 君の安全が、何より心配だ。


 だが、君一人を救うために兵を動かすことはできない。


 私は、王都に残されたすべての人々を救うために進軍する。


 どうか、無事でいてほしい。


 白百合の国王、アレクシスより。』


私は手紙を読み終えた。


「……リリア」


「はい、お嬢様」


「アレクシス様が、祖国へ帰ってくるそうよ」


「はい。内乱を鎮めるために」


私は窓の外を見た。


王都の方角には、黒い煙が上がっていた。


国王陛下が崩御されてから、貴族たちの争いは激しさを増していた。


王都の一部は焼け、多くの民が避難を始めている。


私は公爵家の倉庫を開放し、避難民を受け入れる準備を進めていた。


備蓄していた穀物を放出し、商人たちには追加の輸送を依頼した。


「お嬢様。避難民の受け入れについて、領主会議から返答が届いております」


「ありがとう。すぐに確認するわ」


私は手紙を机に置いた。


君一人を救うために兵を動かすことはできない。


その一文が、胸に残っていた。


かつてのアレクシス様なら、きっと違うことを書いていただろう。


君のために王冠を取り戻す。


君のために敵を討つ。


君のために勝利を捧げる。


けれど、今のあの人は違った。


私への恋心よりも、救いを求める人々を選んだのだ。


「……立派になられましたね」


リリアが静かに言った。


「ええ」


私は頷いた。


「本当に、立派になられたわ」


そして、生まれて初めて思った。


あの人に、会いたい。


◇


内乱は、さらに三か月続いた。


その間、私は公爵家の領地を拠点に、避難民の受け入れと食料の輸送を続けた。


王都へ続く街道は、戦闘によって何度も封鎖された。


私は商人たちと協議し、迂回路を確保した。


食料を運ぶ荷馬車には、公爵家の白百合の旗を掲げた。


その旗は、やがて避難民たちの間で知られるようになった。


白百合の旗を見れば、食料が届く。


白百合の旗を見れば、安全な避難所がある。


そう言われるようになったのだ。


一方、アレクシス様は黄金の獅子の旗を掲げ、王都へ進軍していた。


彼の軍は反乱軍を退け、各地の街道を解放していった。


戦いが終わったのは、秋の初めだった。


◇


八通目が届いたのは、王都が解放されてから十日後だった。


『セレスティアへ。


 戦いが終わった。


 祖国の内乱は鎮まり、王都に平和が戻った。


 私は黄金の獅子の旗のもとに兵を率いた。


 だが、勝利をもたらしたのは私一人ではない。


 故郷を守ろうと立ち上がった兵たち。

 飢えた人々に食料を届けた商人たち。

 敵味方を問わず負傷者を救った神官たち。


 そして、白百合の旗を掲げて人々を救った、君たちだ。


 セレスティア。


 私は戦場で、何度も白百合の旗を見た。


 最初は、我が国の兵が来たのかと思った。


 だが、違った。


 それは君の公爵家の旗だった。


 君は、私が知らないところで、多くの人々を救っていたのだな。


 私は君を守ることばかり考えていた。


 けれど、君は自分の力で立ち、多くの人々を守っていた。


 今ならわかる。


 かつて私が王太子だった頃、君がどれほど優れた人だったのか。


 私は、何も見ていなかった。


 貴族たちは、私に王位を継ぐよう求めている。


 私は、その責任を引き受けようと思う。


 そして、白百合の国と獅子の国を、一つにまとめるつもりだ。


 君のためではない。


 両国の人々が、二度と戦乱に苦しまないために。


 セレスティア。


 私は君に、何度も恋文を送った。


 君のために花を植え、町を築き、国まで作った。


 今思えば、ずいぶん身勝手なことをしていたと思う。


 君の気持ちを、一度も尋ねなかったのだから。


 だから、これが最後の恋文だ。


 私は君を迎えに行かない。


 君が望まない限り、二度と求婚もしない。


 ただ、一つだけ伝えたい。


 私は今も、君を愛している。


 そして、もし君が許してくれるのなら。


 いつか私とともに、この国を守ってほしい。


 アレクシスより。』


私は、何度も手紙を読み返した。


最初に届いた恋文を思い出す。


王冠を預けた君の王、アレクシスより。


あの頃の彼は、王冠を失ってもなお、自分を王と呼んでいた。


それから、荒野に花を植えた。


井戸が掘られ、村ができ、町が生まれた。


人々を守るために兵を率い、法を定め、国を築いた。


そして今、祖国を救い、再び王冠を手にしようとしている。


けれど、最後の手紙には、王も、大公も、建国者もいなかった。


ただ、アレクシスと書かれていた。


「……お嬢様」


リリアが心配そうに私を見つめた。


「お返事は、いかがなさいますか?」


私は便箋を机に置いた。


「書くわ」


「まあ」


リリアが目を丸くした。


「初めてでございますね」


「ええ。初めてよ」


私は新しい便箋を取り出した。


今度は、私の番だった。


◇


『アレクシス様へ。


 お手紙を拝見しました。


 内乱を鎮め、多くの人々を救われたこと、心からお祝い申し上げます。


 そして、これまでのお手紙も、すべて読んでおりました。


 荒野に植えられた一輪の花が、村となり、町となり、ついには国となったこと。


 その一つひとつを、私は嬉しく思っておりました。


 ただ、私はずっと、あなたの求婚にお答えすることができませんでした。


 あなたが愛していたのは、私ではなく、あなたの思い描いた理想の王妃だったように思えたからです。


 けれど、今は違います。


 あなたは、私がいなくても人々を守れる方になりました。


 そして、私が望まないことを、無理に求めない方になりました。


 そんなあなたに、私は初めて、お会いしたいと思いました。


 アレクシス様。


 あなたが守ろうとしている国を、私にも見せてください。


 そして、もしよろしければ。


 これからは、私にもあなたの隣を歩かせてください。


 セレスティアより。』


手紙を書き終えると、リリアがそっと微笑んだ。


「……お嬢様」


「なあに?」


「これは、恋文でございますね」


私は頬が熱くなるのを感じた。


「……そうね」


「アレクシス様が、どれほどお喜びになることでしょう」


私は封筒に封をした。


「きっと、また長いお返事が届くわ」


「英雄叙事詩でしょうか」


「いいえ」


私は微笑んだ。


「今度は、普通の恋文がいいわ」


◇


それから三か月後。


私は、王都の大聖堂でアレクシス様と結婚した。


大聖堂の前には、二つの旗が並んでいた。


祖国レオニア王家に伝わる、黄金の獅子。


そして、アレクシス様が荒野に築いた国の、白百合。


かつて王冠を失った王太子は、白百合の国を築き、獅子の国を救った。


そして今日、その二つの旗が一つになった。


新しい王旗には、黄金の獅子と白百合が並んで描かれている。


黄金の獅子は、祖国を守ったアレクシス様の象徴。


白百合は、民を救った私たちの象徴。


二つの旗が並んだとき、ようやく一つの国が生まれたのだ。


「セレスティア」


アレクシス様が、私の手を取った。


「君を愛している」


私は微笑んだ。


「存じておりますわ」


「……そうだな。ずいぶん手紙を書いたからな」


「ええ。国が一つできるほどに」


彼は照れくさそうに笑った。


「これからは、君の話も聞かせてほしい」


私は、その手を握り返した。


「もちろんです。これからは、二人で決めましょう」


大聖堂の外で、新しい王旗が風にはためいていた。


黄金の獅子と、白百合。


二つの国が一つになり、二人の未来も一つになった。


こうして、長い長い恋文は、ようやく返事をもらった。


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