第一章6 『落ち着かない』
市場の喧騒はまだ衰えることを知らず、正午の太陽が露店の間に張られた古びた布棚を通り抜けて、青石板の道に斑な光と影を落としていた。
奏は左手にあの安物の烈酒の瓶を下げ、右手で護頸の紐を固く握りしめていた。その表情は、先ほどの崩壊寸前の状態からようやくいくらか落ち着きを取り戻し、ルフィアの後ろに従って、色とりどりの商品が並ぶ露店の間を縫うように歩いていた。
「こちらは獣の角の串焼きを売る店です。焼くと非常に美味だそうで、長い旅路を行く冒険者たちが体力を補給するために専門に供給されているのですよ」
ルフィアは説明しながら、向こうからやってくる人込みを器用に避けて進んだ。彼女の体つきは華奢で、天秤棒を担いだ行商人や、尻尾を揺らす獣人の子供たちの間を軽快に通り抜けていく。
奏はぴったりと後ろをついていったが、目は思わず周囲をきょろきょろと見回していた。
この市場は想像以上に広大だった。延々と続く様々な露店、売り込みの声、値切る声、そして炉の上で食材が焼けるジューシーな音が絡み合い、異世界特有の、混沌としながらも生命力に満ちた喧騒を形作っている。
五色の鉱石を並べた露店があり、鉱石の内部には微かな光が流転していて、通貨である晶球にどこか似ていた。獣の皮や羽毛が掛けられた店は、仕立て屋が衣服を作るためのものだろう。さらに、一目で低階級の魔法生物を召喚するためのものだと分かる奇妙な巻物が、角に無造作に積み上げられ、呆れるほど安い価格がつけられていた。
空気の中には、焼き肉や香料、䔀して奏が見たこともない果実が放つ甘酸っぱい臭いが立ち込め、それらが混ざり合って、意外にも食欲をそそる。
「こちらです! こちらに布地を売る店があります。地味なものを選んで、あなたにまともな服を一着作りましょう。その格好のままでは、少し目立ちすぎますから」
ルフィアは奏の袖を引っ張り、様々な粗布が並ぶ露店の前へと彼を連れて行った。
奏は、すでに汗でびっしょりになり、流行遅れの表情包が施された自分のTシャツを見下ろし、それから露店にある色のくすんだ、肌触りの粗そうな布地を見つめた。正直なところ、これらの布地が自分の服より目立たないとは思えなかった――少なくとも、彼のTシャツを奇妙な目で長く見つめる者などいないだろうが、逆にこの異世界特有の粗末な麻衣を着たほうが、彼にとってはよほど不審者に見えるに違いなかった。
しかし、奏は声を出して反論しなかった。彼はただ黙ってルフィアに選ばせ、たまに同意を示すように頷くだけだった。
こうして歩いているうちに、奏はルフィアが、先ほど路地裏の入り口で顔面を蒼白にさせ、崩壊しかけていた少女に比べて、徐々にいくらかの落ち着きを取り戻していることに気づいた。彼女は一つ一つの品物を丁寧に選び、店主と掛け合う姿にもどこか慣れた様子があり、まるで本当に、これからやってくる遠出の準備をしている普通の町娘のようだった。
だが、奏はいくつかの不自然な細部に気づいていた。
特定の露店――例えば、色鮮やかな絹の花や髪飾りが並ぶ店、あるいは鮮やかな色彩の子供用玩具が掛けられた店――の前にさしかかるたび、ルフィアの足取りはいつも無意識に半拍ほど遅れるのだ。彼女の目はそれらの品々の上に数秒長く留まり、その瞳の奥には、極めて刹那的ではあるが、奏が捉えるには十分なほどの「悵然」がよぎっていた。
そして彼女は、ハッと我に返ったように素早く視線を外し、足早に前へと進み出す。まるで、今の一瞬の失神など最初からなかったかのように。
奏は最初、大して気に留めていなかった。何しろ彼自身の精神状態も今はお世辞にも良いとは言えず、首元の幻痛はまだ完全に消えていない。街角を黒い鳥が横切るたびに、彼の肩は制御を失ったように激しく震えるのだ。しかし、このような「失神」が三、四回も繰り返されると、奏もついにそれをただの偶然として片付けることができなくなった。
「ルフィア、大丈夫かい?」
奏はついに、香料を売る露店の前で声をかけた。彼は、ルフィアがまたしても遠くで赤ん坊をあやしている母親の姿を見つめ、一瞬だけ瞳の焦点を失っているのを見ていた。
「あ……いいえ、何でもありません。私はただ……」
ルフィアは一瞬で現実に引き戻されたかのように慌てて首を振り、無理に笑顔を絞り出した。しかし、その笑顔の弧度は硬く不自然で、先ほどまでの落ち着いた様子とは明らかに異なっていた。
「少し疲れただけだと思います。何しろ……今日はたくさんのことが起こりましたから」
奏はそれ以上深く追及せず、ただ頷いて、機転を利かせて話題を切り替え、ルフィアが露店の間を通り抜けるのに付き合い続けた。
しかし、彼の心の底にある疑惑はそれによって消え去るどころか、むしろいっそう濃厚になっていった。
彼らはさらにいくつかの通りを歩き、魔法の巻物を専門に扱う店を通り過ぎ、様々な薬草を売る露店の前を通りかかった。奏はわざわざ足を止め、店主に解毒草や麻痺の解薬について二、三質問してみたが、返ってきた答えは「そのような希少な薬草は、町の薬局へ行かねば手に入らん。市場の露天商ではそのような高価な品は扱えんよ」というものだった。
奏はこの手がかりを黙って脳裏に刻み、後で改めて策を練ることにした。
そしてこの間にも、ルフィアのあの「失神」はさらに二度も現れた。一度は子供用の木剣を売る露店の前を通り過ぎた時、そしてもう一度は、王室の紋章が描かれた旗が掲げられた掲示板の前を通り過ぎた時だった。
奏は見逃さなかった。ルフィアはその旗を目にした瞬間、顔色がにわかに蒼白になり、唇を微かに震わせ、何かを言いかけながらも、それを強引に押し殺したのを。
奏の心の中で、疑念は完全に形を成した――。
ルフィアが今見せているものは、決して「逃亡中の王女の疲労と恐怖」だけではない。あの瞳に混ざり合っているものは、明らかにさらに深い階層にある、絶望に近い「葛藤と躊躇」だった。
彼女は何を考えているのだろうか。何を恐れ、何に心を残しているのだろうか。
奏は深く息を吸い込み、これ以上見て見ぬ振りをすることはできないと決意した。
彼はルフィアを促し、市場の端にある比較的ひっそりとした角へと歩いて行った。そこには打ち捨てられた噴水があり、水流はとっくに干上がって、いくつかの暇そうな小鳥が噴水の傍らの石彫に羽を休めているだけだった。喧騒を一時的に避け、本音を話すには絶好の場所だった。
「ルフィア、少し座って話そう」
奏が先に噴水の縁の冷たい石台の上に腰を下ろすと、ルフィアは少し躊躇ってから、同じように腰を下ろした。二人の間には決して近くない距離があり、空気は一時的に少し奇妙な沈黙に包まれた。
「君は今日……ずっと心此処に在らずだったね」
奏は回りくどい言い方をせず、自分の観察を直截に告げた。
「俺には分かるんだ。君が何か別のことを心配しているって。ただの暗殺者だけじゃない、そうだろ?」
ルフィアの肩がにわかに強張った。彼女は視線を落とし、華奢な指先が無意識にスカートの裾をきゅっと掴んだ。その指の関節は、力を入れすぎたせいで微かに白くなっている。
「私は……」
彼女は口を開けたが、その言葉を再び喉の奥へと込み上げてしまった。何かを天秤にかけているようでもあり、あるいは自分の心の奥底にある巨大な恐怖や躊躇と戦っているようでもあった。
奏は急かさず、ただ静かに待ち続けた。彼は知っていた。運命によって絶境へと追い詰められた少女にとって、自ら語り出すこと自体が、おそらくすでに絶大な勇気を必要とすることなのだと。
噴水の傍らの小鳥たちが羽を羽ばたかせて飛び立ち、微かな埃を舞い上げた。
長い沈黙の後、ルフィアはついにゆっくりと口を開いた。その声は周囲の喧騒にかき消されそうなほど細かった。
「奏、あなたは奇妙に思うかもしれませんね……なぜ『暗殺者に狙われている王女』である私が、このように町の中を不自由なく行動でき、白昼堂々と市場を半日も歩き回ることができているのか、東奔西走して隠れる必要もないのかと」
奏はその言葉を聞いてハッとした。これは確かに、彼が最初から最後まで深く考えていなかった不審点だった――もし本当に命の危機が迫っているのなら、ルフィアは今頃どこかの暗室に身を潜めているべきであり、彼とこのようにのんびり買い物をしている場合ではない。
「それは……父上のご命令があるからです」
ルフィアの声には、徐々に苦い感情が滲み出してきた。
「父上は、城内の者は誰も私に対して不届きな真真をしてはならない、さもなくば厳罰に処す、とお触れを出されました。これは父上がご自身の権勢を以て、無理やり私に用意してくださった『安全な領域』なのです。だからこそ、本当に私の命を欲している者たちも、昼間から公然と手を下すことはできず、夜、あるいはあの暗い路地裏のような、誰も見ていない瞬間を狙って、密かに私を処理するしかないのです」
奏は眉をひそめ、心の中の不安はいっそう鮮明になった。
「だけど、もしそうなら……どうして君は、誰よりも怯えているように見えるんだ?」
ルフィアは顔を上げ、奏の瞳を見つめた。その琉璃のように澄んだ瞳の中には、今や絶望に近い疲弊と恐怖が満ちており、先ほど市場で見せていた、あの取り繕ったような偽装姿とは完全に別人だった。
「なぜなら……父上が今服用されているお薬は、すべて、あの薬師のおじ様の手によるものだからです」
彼女はついに、自分を苦しめ続けながらも、どうしても奏に打ち明けることができなかった真実を口にした。
「もしあなたの言う通り、あの薬師のおじ様が本当にすでに王室を裏切っているのだとしたら……彼はいつでも、父上が毎日必ず服用される湯薬の中に、毒を仕込んで父上の命を奪うことができるのです」
ルフィアの声が震え始め、彼女の瞳に涙が溜まったが、彼女はそれを決して流すまいと必死に堪えていた。
「実して、ひとたび父上が崩御されれば……私が依存しているあの『保護』は、一瞬にして消え去ります」
「その時になれば、もはや暗殺者や路地裏の手を借りる必要すらありません……王宮全体、この町全体の、とっくに王位を虎視眈々と狙っている有力者たちが、何の躊躇もなく、この身寄りもなく、価値もなく、血筋さえ認められていない『弱勢の王女』である私に向けて、一斉に凶刃を振り下ろすでしょう」
奏の呼吸がピタリと止まった。
彼はここでようやく、ルフィアが今背負っているものが、自分の想像を遥かに超えて重いものであるかを完全に理解した――これは単に「今夜の暗殺者の一撃を避ける」というような、単純な生存ゲームなどではなかったのだ。
彼女が直面しているものは、幾重にも張り巡らされた死の罠のように緻密に絡み合い、いつ完全に崩壊してもおかしくない、頭上に吊るされた多重の絞首刑の縄だった。
薬師の裏切りが事実であるなら、今夜救わなければならないのは、決してルフィア一人の命だけではない――さらに緊迫しているのは、おそらく、陰謀の渦中にありながらそれを全く知らずにいる彼女の父親(王)のほうだった。
「だから君は今日、ずっと心此処に在らずだったんだね……お父上のことを、心配していたんだ」
奏は呟くようにその答えを口にした。ルフィアはそれを聞き、ついに瞳の涙を堪えきれず、ただ声もなく、苦しげに頷くだけだった。
「……はい」
奏はルフィアの愁容を見つめ、心の中で静かに、しかし固く決意を下した。
「俺を信じて。君を簡単に死なせたりは絶対にしない!」
ルフィアはその言葉を聞き、驚いて顔を上げた。そこに浮かんでいたのは冗談などではなく、奏の極めて確信に満ちた、真剣そのものの表情だった。
「はい……あなたを信じます……」
夕日の余韻は徐々に西へと傾き、二人の影をいっそう細長く引き延ばしていった。黒夜の足音が、静かに、しかし確実に忍び寄っていた。




