第一章5 『得がたき成果』
「ねえ、何か食べたいスイーツはある? ちょうど通りかかったから、あなたと私が仲間になったお祝いの品として、私にご馳走させて!」
今回の周回は、奏にとってルフィアと初めて同行する機会だった。しかし、奏はルフィアの楽しげな様子を見つめながら、これまでの三周にわたる凄惨な経験を思い返し、
「こんな風にのんびりしている場合ではないはずだ」と危機感を募らせていた。
「君は本来……どこへ行くつもりだったんだ?」
奏は深呼吸をして尋ねた。ルフィアの動向が、これほど平凡なものであるはずがなかった。
実のところ、奏の精神力は決して常人より優れているわけではなかった。彼は本質的にただの平凡な人間に過ぎず、死に対して人一倍の恐怖を抱いていた。いくら「ルフィアを救う」という明確な目標があるとはいえ、頻繁に繰り返される死の苦痛によって、彼の頭は割れるように痛み、首元には消えない幻痛が走り続けていた。今や黒い色彩を目にするだけで、あの死神の姿が脳裏にフラッシュバックするほどだった。
それでも奏は不快感を必死に押し殺した。彼はこうした苦痛に耐えることには、ある種慣れていた。かつて学校のクラスメイトたちの前で骨折したことがあったが、あの時に周囲から向けられた哀れみと好奇の混じった視線の冷たさこそが、彼にとって魂に突き刺さるほど忘れがたい記憶だったからだ。
「実は、行きたい場所があるのです……」
奏の問いかけを聞いた瞬間、スイーツの屋台へと向かっていたルフィアの足がピタリと止まった。彼女はわずかに首を傾げた。街道沿いの粗削りな石壁を通り抜けた夕日が、彼女の白い髪の輪郭に淡い金の輝きを添えている。しかし、彼女の特徴である二本の長い水母辮くらげおさげは、不安げに胸の前で弄ばれており、その内心の葛藤を雄弁に物語っていた。
「本当は……ある人にお会いしに行くはずでした。そして、あの暗い路地裏が、そこへ通じる唯一の、必ず通らなければならない道なのです」
ルフィアは声を極限まで潜め、ゆっくりと手を伸ばして傍らの路地裏を指差した。そこは文字通り、一寸先も見えないほど深い闇に包まれていた。
奏の瞳孔が急激に収縮した。
首元を襲う、あの黒い鎌に断ち切られた時の幻痛が、この瞬間に実体を持ったかのように奏の神経を狂おしく掻きむしった。
「うっ……」
奏は影に呑み込まれた、まるで死んだように静まり返る路地裏を見つめた。その黒々とした闇は、まるで死神が血に飢えた大口を開け、彼が四度目の罠に自ら飛び込んでくるのを嘲笑いながら待っているかのようだった。
暗殺者は、第一周目の時にまさにあの路地裏でルフィアを襲撃したのだ――。
行ってはだめだ! 行けば、確実に死ぬ――。
奏は拳を血がにじむほど強く握りしめ、爪の先を手のひらに突き立てた。肉体の生々しい痛みを借りて、喉元まで込み上げてくる激しい乾吐きを強引に押さえ込む。
だが、ルフィアの前でだけは絶対に弱気な姿を見せるわけにはいかなかった。絶対にだ。彼女を守ると決めたのだから……。
「誰に会うつもりんだ? その人は……暗殺者が潜伏していると分かっていても、命を懸けてまで会いに行かなきゃいけないほど重要な相手なのか?」
奏は自分の声をできるだけ平穏に保とうと努めたが、注意深く聴けば、そこに隠しきれない掠れが混じっているのは明白だった。
「ええ……」
ルフィアは奏の尋常ではない表情に少し驚いたように、薄い下唇を軽く噛み、やがて諦めたように溜息を漏らした。
「王室御用達の銀月花ぎんげつかを調合している、薬師のおじ様です……おじ様が作った特製の隠蔽薬さえ手に入れば、私は誰にも気づかれずにこの街を脱出することができます。だから、どうしても行なければならないのです」
「銀月花」というその三文字を耳にした瞬間、奏の脳裏に激しい閃光が走った!
第一周目の世界、彼が息絶える直前に冒険者ギルドのテーブルの上で目にした、あの満開でありながらどこか枯れかけていた銀色の花――すべての線索が、この一瞬で完全に繋がった。
あれは単なる華美な装飾などではなかった。ルフィアが生き延びるための希望そのものだったのだ。しかし、ルフィアは第一周目で路地裏を通り抜けることに失敗した。ならば、なぜあの薬師は自らギルドへ花を届けにきたのだろうか?
いや、あまりにも怪しすぎる――。
その「薬師のおじ様」とやらは、他の誰よりも早くルフィアの死を知っていたことになる。何しろ、あの時はまだ第一周目の翌朝の早朝だったというのに、あの花はすでにテーブルの上に堂々と飾られていたのだから。
「その薬師を……君は本当に信用しているのか?」
奏は勢いよく振り返ると、ルフィアの華奢な両肩を掴み、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめ据えた。
「もし……もしその薬師が、とっくに君を裏切っていて、彼が指定したあの暗い路地裏こそが、君のために用意された完璧な断頭台だとしたらどうする?」
「そんな、まさか……おじ様は父上と浅からぬ仲で……二人は親友だと……」
ルフィアは息を呑み、顔面を瞬時に蒼白に染めた。本能的に奏の手を振り払おうとしたが、奏はすぐにその手に力を込めた。恐怖と怒りによって微かに震えながらも、死に物狂いで発されたその力は、まるで鉄製の枷かせのようにルフィアをその場に固定し、身動きを許さなかった。
「離してください……父上が今服用されているお薬も……すべておじ様が調合されたものです……もしあなたの言葉が本当なら……そんな、それでは……」
周囲の市場の喧騒は相変わらずで、亜人たちは楽しげに声を上げて商売に励んでいる。しかし、この街の一角で、奏は自分の三度の命と引き換えに得た貴重な情報を使って、ルフィアの「確定された死の運命」を強引に捻じ切ろうとしていた。
だが、それによってさらに大きな問題が浮上することになった。
「俺を信じて、ルフィア」
奏は深く息を吸い込み、胸中に渦巻く「黒」と「死」への恐怖を強引に飲み込むと、極めて不器用ではあったが、どこか人を安心させる優しい微笑みを浮かべた。
「君は今、逃亡中の身だ。今すぐにお父上のところへ行くことはできるかい?」
奏は気遣うように尋ねた。
ルフィアは力なく視線を落とし、静かに首を横に振った。それが彼女の答えだった。
「それなら、今そのどちらへ向かっても自ら罠に飛び込むようなものだ……今日の昼間の行動は、俺の指示に従ってほしい。あの路地裏には行かない。俺たちが向かうのは……」
奏の視線が市場を素早く掃過し、最終的に、様々な奇妙な鉱石や防具を販売している一軒の武器屋の前に止まった。
暗殺者が今夜、確実に自分たちを見つけ出すというのなら、黒夜やみが降臨する前に、この非力な現代の高校生は、最大の速度を以て、自分とこの王女に少しでも多くの勝算を積み上げなければならなかった。
「買い物に行こう。いいかい?」
「お買い物……ですか?」
ルフィアは困惑したようにその言葉を繰り返した。先ほどの恐慌のせいで、彼女の大きな瞳にはまだ涙が溜まっていた。彼女は奏の疲弊しきっていながらも熱く燃えるような瞳を見つめ、それから遠くにある、古びた鉄槌の看板が掲げられた武器屋へと視線を移した。そこからは、日光に温められた劣悪な機械油と生鉄の臭いが漂ってきている。
彼女の常識では、逃亡の旅における一歩一歩はすべて隠密であり、ハラハラドキドキするものであるはずだった。しかし、目の前の奇妙な外来者は、帝国を揺るがしかねない恐ろしい陰謀を暴いた直後だというのに、まるで日常の暇潰しであるかのように、彼女を買い物へと誘っているのだ。
「だって……正直に言って、ルフィア……今の俺たちじゃ……一番普通の不意打ちの矢さえ防げそうにないからね……」
奏の声は低く、拒絶を許さない響きを持っていた。彼の掌は、あの「路地裏」を連想しただけで滲み出た冷や汗で濡れていたが、ルフィアの肩から手を離した瞬間、彼はその両手をTシャツのポケットへと突っ込み、自分の太ももを死ぬほど強くつねった。肉体の鋭い痛みを使って、脳髄まで凍りつかせそうな幻痛を追い払う。
彼は倒れるわけにはいかなかった。自分は学校の体育のテストでも平均的な成績しか残せない普通の学生に過ぎず、クラスで骨折した时でさえ、周囲の目が恥ずかしくて全身が凍りつくような思いをした人間だ。だが今の彼は、この世界で唯一「シナリオ」を握っている存在なのだ。
もしあの薬師のおじ様とやらが本当に裏切り者であるなら、第一周目でルフィアは彼を信じて路地裏に足を踏み入れ、結果として手足を奪われ、凄惨な死を迎えたことになる。
その結果、そしてそこへ通じる唯一の暗い路地裏――あまりにも揃いすぎた不審な条件の数々は、薬師の容疑を完全に排除することを不可能にさせていた。
そして薬师は、自分の嫌疑を晴らすため、あるいはより残虐な政治的メッセージとして、翌朝、王室の象徴である「銀月花」を冒険者ギルドへと送り届け、堂々とテーブルの上に配置したのだ。心ある者たちへの無言の警告として。
これはルフィアを標的にした完璧な狩猟ハンティングであり、あの通り慣れた路地裏は、最初から地獄へと直通する一方通行の入り口だったのだ。
「ですが……私はもう、それほどお金を持っていません。国を出る時に持ち出した晶球しょうきゅうも、道中の目を誤魔化すために使い果たしてしまって、残っているのはこれだけです……」
ルフィアは青白い下唇を噛み、少し決まずそうに、懐から薄汚れた絹の小銭入れを取り出した。紐解くと、中には微かな光を放つ透明な球体が、ぽつんと三つだけ入っていた。それはまるで、今にも消え入りそうな蛍の光のようだった。
この世界において、晶球は通貨であり、生存のための資本そのものだ。
奏はその三つの晶球を見つめ、それから自分のポケットに入っている、何の役にも立たない一連の日本円に触れ、胸の内に苦い感情を抱いた。しかし、彼はすぐにその無力感を振り払い、自分の着ている大袈裟な表情のプリントされたTシャツを指差した。
「十分さ。何十晶球もするような魔法の甲冑や精鋼の長剣を買う必要はない。そんな目立つものを身につければ、かえって君の身分を露呈させてしまう……俺たちに必要なのは『平民の偽装』、そして毒素をせめて防げるかもしれない護具だ」
彼はルフィアの背中を押し、不吉な影を落とすあの路地裏から彼女を強引に引き離すと、薄暗い武器屋の中へと足を進めた。
チリン――
入り口のドアベルが乾いた音を立てると同時に、皮革の硝化剤、劣悪な滑石粉、そして何年も蓄積された鉄錆の混ざり合った刺激臭が容赦なく鼻を突いた。
店内は想像以上に薄暗かった。壁には所狭しとあらゆる防具が掛けられていたが、そのほとんどは冒険者たちが使い古した中古品で、縁は酷く摩耗し、中には洗い落としきれなかった暗褐色の血痕がこびりついているものさえあった。
カウンターの奥には、豪猪ヤマアラシのような硬い髭を生やしたドワーフの店主が座っており、火のついていない煙草を咥えたまま、まるで死刑囚を品定めするかのような冷徹な視線で、入ってきた二人を睨みつけていた。
正確に言えば、奇妙なTシャツを着た奏を、だ。
「妙な人間のガキだな、それと……」
ドワーフの店主の視線は、ルフィアの最大の特徴である白い水母頭くらげあたまを捉えた瞬間にわずかに静止し、それから不機嫌そうに鼻から荒い息を吹き出した。
「うちはツケはお断りだ。出所の手がかりもないようなガラクタは引き取らん。命が惜しくて買い物がしたいんなら、まずは晶球を見せな」
ルフィアは本能的に首をすくめ、その三つの晶球をカウンターの上に並べようとしたが、奏がその手首を上から素早く制した。
奏は一歩前へ出ると、ルフィアを自分の背後に完全に隠し、ドワーフの店主の凶悪な視線を受け止めながら、顔に極めて「社会的な」微笑を浮かべた。それは地球にいた頃、先生や先輩に対して言い訳をする時にしか使わなかったような、取り繕った営業スマイルだった。
「親方、完成品を買うつもりはありません。俺たちが欲しいのは、厚手の熟皮で作られた護頸ネックガードです。内側に薄い鉄片が仕込まれているような、安物であればあるほどいい。それから、ここには武器を拭くための粗塩とアルコールは置いてありますか?」
ドワーフの店主は一瞬呆気に取られたように動きを止め、カウンターの下に伸ばしていた手をゆっくりと離すと、野卑な嘲笑を漏らした。
「護頸だと? ガキ、お前は商売の仕組みってやつが分かっとるのか? ここに来る冒険者はみんな護心鏡チェストプレートや精鉄の籠手を求めるもんだが、お前は首当てだと? 何だ、首を撥ねられるのがそんなに怖いのか?」
その言葉は、まるで一本の巨大な重槌ハンマーのように、奏の太陽穴こめかみへと容赦なく叩きつけられた。
「うっ……!」
首元の幻痛がこの瞬間に跳ね上がり、奏は思わず声を上げそうになった。彼の視界は一瞬だけ白黒にフリーズした――死神、巨大な黒い鎌、そして頭部が切断された瞬間に視界が上下反転しながら真っ逆さまに落ちていく光景。あの恐怖の記憶が、彼の理智を狂おしく貪ろうとしていた。
だが、これは奏に対する明確な試練だ。彼は自分の舌の先を強く噛みちぎらんばかりに噛み、口腔内に鉄の味が広がるのを感じて、ようやく震える声を無理やり押さえ込んだ。
「そうさ、俺は臆病なんだ。護頸だけじゃない、一番厚手の一枚が欲しい。鈍器やナイフの不意打ちを、せめて一度だけでも防げればそれでいいんだ」
奏は自分の軟弱さをいささかも包み隠さず直截に認めた。そのあまりの潔さは、かえってドワーフの店主の軽蔑を和らげる結果となった。
「ふん、骨のない腰抜けめ。だが、お前の言うようなゴミクズ同然の皮具なら、裏庭の木箱に山ほど眠っとる。鉱山で落石を防ぐ苦力クーリーどもが使うやつだ。晶球二つで四つ持ってけ。それから甲冑を洗うための安物の烈酒も一瓶つけてやる、値切り交渉は一切無しだぞ」
「交渉成立だ」
奏は一切の躊躇なく、ルフィアに目配せをして支払いを促した。
ルフィアは逆に少し躊躇った。何しろ、それは彼女に残された最後の命綱の晶球だったからだ。しかし、彼女は目の前で必死に自分のために策を練ってくれている奏の横顔を見つめ、やはり納得して晶球を支払った。
「自分で裏へ行って取ってきな」
ずっしりと重い熟皮の護頸と、ツンとするアルコール臭を放つ粗製の烈酒の瓶をその手にしっかりと握った時、奏の心にようやく、微かな現実の着陸感がもたらされた。
「助かったよ、親方」
武器屋を一歩外に出ると、正面から差し込む強い夕日の光に、奏は一瞬眩暈を覚えた。彼はそのうちの二つの厚手の皮製護頸をルフィアへと手渡し、かつてないほど厳粛な表情を浮かべた。
「これを今すぐ着けて、君の長いおさげで完全に隠すんだ。いいかい、今夜何が起ころうとも、絶対に他人に自分の首元や後頭部へ近づかせてはだめだ」
ルフィアはツンとする硝皮の臭いが残る護頸を受け取り、奏自身がすでに待ちきれないといった様子で、その黒褐色の皮具を自分の首元へと死に物狂いで固定する姿を見つめた。その不器用な動作は、彼の着ている滑稽なTシャツと相まって酷く違和感を放っていたが、同時にある種病的なまでの執念を感じさせた。
「奏……あなたは一体、何をそんなに恐れているのですか?」
ルフィアはついに耐えきれず、その疑問を口にした。彼女には分かっていた。目の前の、冒険者パーティーも持たない、非力の少年は、あらゆる手段を尽くして自分を守ろうとしてくれているが、彼自身が今にも崩壊しかねない極限の恐怖の淵に立たされているということが。
彼の顔色は紙のように白く、額には冷や汗がびっしりと浮き、街角を黒い鳥が横切るたびに、彼の身体は拒絶反応のように激しく痙攣していた。
その問いを耳にし、護頸のベルトを締めようとしていた奏の指先がピタリと止まった。
彼は大声で叫びたかった:俺はもう三回も死んだんだ! そのうちの二回は、この首を文字通り生生と叩き切られた! そしてあの黒い鎌は、俺が言葉を一つ選択し間違えただけで、いつでも再び降臨するんだ!と。
だが、彼は決して口にしてはならなかった――
一度でもそれを言葉にしてしまえば、時間は再び停止し、世界は白黒へと変わり、あの固く目を閉じた純黒の死神が虚無の中から歩み寄きて、彼がこの第四周目でようやく掴み取った微小な成果を、跡形もなく粉砕してしまうだろう。
彼は死神が降臨する詳細な機序を知らない。だからこそ、今ようやく得られた成果を手放すわけにはいかないのだ。第二周目の時のように、開始早々に絶望を迎えることだけは、絶対に避けなければならない!
「俺はただ……君を死から遠ざけたいだけさ……ついでに、俺自身が死ぬのも御免だからね……」
奏は自嘲気味に微笑み、ルフィアへと視線を戻した。その瞳の奥には、現代人の理智と、ギャンブラーの狂気が複雑に混ざり合った、危険な光がギラギラと明滅していた。
「残る晶球はあと一つだ。行こう、ルフィア。今夜のための最後の準備を買いに行くんだ。あの暗殺者のナイフには、人を麻痺させる猛毒が塗られている。薬師のおじ様のところへ行けない以上、他の店で解毒草を買うか、あるいは……麻痺の中でも強引に意識を保っていられるような、強烈な痛覚刺激物(気付け薬)を探すしかない」
奏のその常軌を逸した発言を耳にしながら、ルフィアはただ、恐ろしそうに首をすくめることしかできなかった。
「そのようなお薬は、かえって危険なのでは……」
落日の残光が徐々にその影を伸ばし、青石板の道の上に、二人の影を長く、どこまでも長く引き延ばしていく。
黒夜やみが、四度目となる降臨の時を、奏の瞳の奥で静かに待っていた。




