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冒険者ギルドに転移したら、何度も死に続ける王女殿下に出会った件、知らぬ間に彼女と死の運命を共にする契約が結ばれていた  作者: ぼうせん ゆきりん
第一章 『死に寄り添う海月』

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第一章4 『俺の仲間になってくれ』

「嫌だ、嫌だ、嫌だ!!!」


  奏が猛然と目を開けると、そこには夜の静寂とはかけ離れた見慣れた午後の光景と、深夜の空気にはおよそ似合わない酒と肉の臭いが広がっていた。


  奏は巻き戻ったのだ。異世界に転移してきたまさにその瞬間、あの冒険者ギルドに現れた刹那のタイムラインへと。

  これこそが、彼がこの異世界に転移してきてからのわずか二日という短い時間の中で、身を以て経験した三度目の巻き戻りだった。


「う、あ……」


  身体には、なぜかまだあの毒による麻痺の余韻が残っているような気がした。おそらくは心理的な錯覚だろう。しかし、奏の心臓は狂ったように脈打ち、必死に酸素を求めて加速し続けていた。さっき肌で感じた、あの鎌が振り下ろされる直前の恐慌が、今も脳裏に焼き付いて離れない。それはまるで斬首刑に処されるかのような恐怖だった。通常の罪人であれば一度耐えれば済むはずのその絶望を、奏はすでに丸々二度も経験させられているのだ。


  精神は崩壊の一歩手前まで破壊されかけていた。それでも完全に狂わずにいられたのは、奏の心の中に一つの精神的支柱アンカーが存在していたからだ。すなわち、目の前にいるルフィアである――。


「今度こそ……今度こそルフィアを一人で生かせちゃだめだ。俺がついていかなきゃ。ルフィアのバッドエンドを変えられるなら……」


  奏は荒くなった呼吸を無理やり整え、必死に思考を巡らせ始めた。

  まず前提として、あの「死神」はルフィアを殺した暗殺者本人ではない。暗殺者は別に存在しており、そして「死神」の標的はいつだって奏自身だった。三度の死はいずれもそうであり、その事実だけは一度も変わっていない。


  奏は自分の両手を見つめた。彼が今、この狂った異世界で命を繋ぎ止めていられるのは、偏にその原理不明な「巻き戻り」のおかげだ。

  もしかすると……「巻き戻り」が発動する条件は、他でもないあの「死神」の手によって斬殺されることなのだろうか? あるいはその可能性が高い。何しろ、死神が登場する際の時間停止は、「巻き戻り」の時間逆行という現象とあまりにも酷く噛み合っている。


(あの黒い鎌を持った存在を、とりあえず「死神」と名付けよう)


  それに、奏のこれまでの三度の死は、すべて死神が容赦なく手を下した結果によるものだ。

  もしも、もし仮に死神以外の存在に殺されてしまったら、奏は二度と「巻き戻り」を行えなくなってしまうのではないか?


「だしたら、最悪だ……」――奏は苦悩に顔を歪め、がしがしと髪を掻き毟った。奏には死神が現れる法則など、何一つ分かっていないのだから。


  まさにその時、ルフィアがいつもと同じように歩み寄ってきた。しかし、奏が酷く苦悩している様子を目の当たりにしたためか、ルフィアの顔には微かな困惑と気まずさが浮かんでいた。そのため、彼女の問いかけも心なしかせっかちで、どこか口籠るようなものになっていた。


「あの……私を……あなたの冒険者パーティーに入れていただけないでしょうか……」


  その言葉を聞き、奏は極めて真剣な眼差しでルフィアの瞳をじっと観察した。彼女はまるで、結末があらかじめ童話の絵本に書き込まれてしまっている王女のようだった。どんなに運命を捻じ曲げようとしても、彼女が今夜命を落とすという結末だけは、厳然として微動だにしない。


  奏が何を考えているのか分からないルフィアは、そんな風に真っ直ぐに凝視されたことで、不審さと羞恥心を抱いたのだろう。たまらず、たじろぐように数歩後退した。


「もし君が助けを必要としているなら、遠慮なく俺に言ってくれ。それに、君に伝えておかなきゃいけないことがたくさんあるんだ」――奏は自ら進んでそう切り出した。


「私に……伝えたいこと、ですか?」


「うん! だから、人のいない場所に移動して話そう」


「あまりにも突然すぎます。どうして私があなたを信用しなければならないのですか? 私たちはまだ、今初めて会ったばかりなのに……」――ルフィアは途端に警戒の色を強めた。目の前にいる奏の態度があまりにも強引で、不審に満ちていたからだ。


「俺が話したいのは、君の悩みを解決できることなんだ。つまり、君を狙う暗殺者の――うぐっ――!」


  奏が言葉を紡ぎ終えるより早く、ルフィアは慌てて彼の口を手で塞ぎ、左右に視線を走らせて周囲の冒険者たちを窺った。どうやら、この情報が周囲に漏れるのを極端に恐れているらしかった。


「分かりました。お話ししましょう」


  こうして、ルフィアの手引きによって、奏は三度目となる冒険者ギルドの二階へと足を踏み入れた。


  しかし、これまでの周回とわずかに異なっていたのは、ルフィアの態度だった。今回の彼女の態度は、あからさまで慎重な警戒心に満ちている。何しろ、奏は出会い頭にルフィアの最大の秘密であり、最も深い懸念を口にしたのだから。


  その警戒心の正当性を、奏は痛いほど理解していた。


「あなたは一体誰なのですか? なぜそれを知っているのですか? 他に何を知っているというのです?」――ルフィアの放った立て続けの三連問は、彼女が今どれほど奏を警戒しているかという何よりの証明だった。


  奏はその問いに対し、ただ真っ直ぐに、誠実な重みを持ってルフィアの瞳を見つめ返した。


「今夜、暗殺者が君の前に現れる。これは俺が偶然耳にした情報だ。その暗殺者が使うナイフには猛毒が塗られていて、傷を負った者は全身が麻痺し、言葉を発することさえできなくなる」


  ルフィアにとって、その情報はあまりにも正確で、いささかの狂いもないものだった。なぜなら奏は、疑う余地も変更の余地もないという確信に満ちた口調で語っていたからだ。彼の紡ぐ言葉のどれ一つとして「かもしれない」という曖昧さはなく、すべてが「確定事項」として告げられていた。


  ルフィアは冷や汗を流しながら、ごくりと唾を飲み込んだ。しかし、彼女はまだ完全に不信感を拭い去れたわけではなかった。


「偶然盗み聞きしただけの話なら、普通は疑問の形になるはずではありませんか? なのに、あなたのその確信に満ちた言い方は、まるで当事者のようです。あるいは……酷く嘘が上手な方のようにも思えます……」


「これは嘘じゃない。それと、これだけは絶対に覚えておいてくれ。夜になったら、絶対に暗い路地裏へは行かないでくれ。そこは本当に危険だ」


  奏のその真剣極まる眼差しに押され、ルフィアはついに折れた。彼女は奏がもたらした一字一句の情報を、必死に脳裏へと刻み込もうと試みた。

  それを確認し、奏がそれ以上何も語らず沈黙を守ると、ルフィアは丁寧にお礼を言って立ち去ろうとした。


「ありがとうございます。本当に予想もしないほどの情報量でした。これらが私の助けになることを願います!」


「いや、まだ話は終わってないんだ……実は、俺からも一つお願いがある」


  奏の眼差しが、先ほどの厳格なものから一転して温和なものへと変わるのを見て、ルフィアもまた、彼が何を言おうとしているのか耳を傾けることにした。


「俺の仲間になってくれ。冒険者パーティーはないけれど」――奏が突如としてそう切り出したため、ルフィアは驚きのあまり言葉を失い、ぽかんと口を開けた。


  奏にとって、もし何の繋がりも持たない状態のまま別れてしまえば、前の周回の二の舞になることは火を見るより明らかだった。ルフィアは奏が同行することを拒むだろうし、その決断がもたらす未来は、彼女の凄惨な死でしかない。

  ゆえに、奏は敢えて自ら進んでルフィアと協力関係を結ぶ道を選んだのだ。これこそが、彼女に随行するための最善の上上の一手だった。


  案の定、奏のあまりにも唐突な要求を耳にしたルフィアは、どうしていいか分からず困惑したように身動きを止めた。


  しかし、ルフィアは一階にいる粗暴な冒険者たちに目をやり、それから再び目の前にいる奏へと視線を戻すと、深く息を吸い込んだ。


「分かりました。ですが……あなたは私の身の上を知っているのですか?」


「もちろん」


「それなら、災いが我が身に降りかかることを恐れないのですか?」――ルフィアは不安そうに首をすくめた。


「仲間が安全でいられるなら、それ以外のことは何も気にしないよ」――奏は毅然とした態度で請け合った。


  奏のその嘘偽りのない誠実な態度を見て、ルフィアは小さく頷くと、自らそっと手を差し伸べ、奏と「仲間」としての契りを交わした。


「それでは……今日から、あなたは私の仲間ということですね!」――ルフィアはどこか新鮮な響きを感じたように、小さく微笑んだ。


「ああ。だけど、お願いだから君に同行させてほしい。今日一整天、君のすぐ傍にぴったりと張り付いていたいんだ!」


  それを聞いたルフィアは、驚きのあまり数歩後退した。それではまるで、何か下心でもある不審者そのものではないか。

  奏も自分の発言がどれほど突飛であるかは十分に理解していた。しかし、彼は今のところ決して交渉や会話が得意なわけではなかった。学校の口頭テストでも良くて中レベルの成績しか取れなかった彼にとって、この不器用なストレートさこそが現在の限界だったのだ。


「頼む。俺は君の命を守りたいんだ。暗殺者は間違いなく今夜現れるから」


「もし……私と一緒に、あなたまで死んでしまったら?」――ルフィアの表情もまた引き締まり、真剣なものへと変わった。彼女は冷静に奏の反応を見極めようとしていた。


  しかし、奏はただ小さく、優しく微笑み、首を振るだけだった。まるで一度死線を潜り抜けてきたかのような達観した表情を浮かべ、ルフィアの瞳を真っ直ぐに見つめ据える。


「その時は、何があっても君の生存を最優先にする。絶対にだ!」


  ルフィアは気恥ずかしそうに視線を外してクスリと笑うと、すぐさま一階へと階段を駆け下りていった。そして、奏がついてきていないことに気づると、わざわざ振り返って彼を促すように見つめてきた。


  奏はそれがルフィアの「同行の許可」であることを理解し、弾むような喜びを胸に彼女の足取りを追いかけ、共に冒険者ギルドを後にした。


  物語は、ここにきてようやく、確かな第一歩を踏み出したのだった。

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