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冒険者ギルドに転移したら、何度も死に続ける王女殿下に出会った件、知らぬ間に彼女と死の運命を共にする契約が結ばれていた  作者: ぼうせん ゆきりん
第一章 『死に寄り添う海月』

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第一章29 『馬車街道』

  朝の霧はすっかり消え失せ、正午の激しい日差しが遮るものもなく降り注いでいた。


  奏はノンノンを連れてデルイラ王国の賑やかな大通りを歩いていた。ここの地面は平らな青い石畳で敷き詰められ、両側には石造りの建物が軒を連ねている。あちこちから物売りの威勢のいい掛け声が響き渡り、並外れた賑わいを見せていた。

  奏は右手を服のポケットへと伸ばし、指先を少しこわばらせながら暗青色の革のウエストポーチを探った。指先が中にある氷のように冷たく無骨な金属の塊に触れ、そこから伝わる感触が、彼のただでさえ焦っていた心をさらに重くさせた。


「さっきの食事で十五個の晶球を使ったから、残りは二百八十五個か。ここからさらに御者の車賃を払うとなると、この晶球の袋だけでは生きていけないかもしれないな」


  奏は少し重い足取りで歩きながら、心の中で静かに計算していた。

  先ほど、すっかりお腹が空ききっていた胃袋を満たすため、二人は路頭の屋台で黒パンと濃いスープを慌ただしく胃袋へと流し込んだ。わずかこの一回の一番基本的な食事だけで、流れる水のように丸々十五個の晶球が消え去ったのだ。元々は重みを感じていた三百個の晶球が、今や厳しい現実を前にして、一瞬にして一回り縮んでしまった。


  奏は突然、自分が裕福な身分から一気に谷底へと転落したかのような感覚に陥った。

  この悪意に満ちた異世界において、十分な資金が無いということは、満足な補給を得られないことを意味する。そしてこれからの遠征は、数年に及ぶ長期の泥沼戦になるはずだ。もし最初の資金すらこれほどまでに心許ないとなれば、二人の身を待ち受けているのは、やはり誰に知られることもない荒野の中で、飢えと寒さのために何度も死に戻りを繰り返す悲惨な結末かもしれない。


  そこまで考えると、奏の額からは細かな冷や汗がにじみ出、眉間も死んだように固く結ばれた。

  しかし、そんな様子にまったく気づいていないノンノンは、傍らで嬉しそうに尾を揺らしていた。


  あの黒く太長い龍の尾が空中で楽しげな弧を描き、鱗が空気を摩擦して、少し急いたような風切り音を立てる。ノンノンはその白い腕で、食べた後に少し膨らんだ、贅肉のまったくないへそ出しのお腹を優しく揉みながら、ペタペタと軽快な足取りで歩いていた。あの短く整えられた黒い髪が動きに合わせて上下に揺れ、爛々と輝く縦長の瞳には満足感と元気が満ち満ちている。


  ノンノンにしてみれば、一回お腹いっぱい食べられさえすれば、世界はそれだけで美しいのだ。

  それを見た奏も、自身を奮い立たせなければならなかった。絶対にノンノンに不安を与えてはならない。


  奏は深く息を吸い込み、頭の中にある金銭と未来に関する焦りをすべて無理やり押し殺した。彼は右手を持ち上げ、自身の少し乾いた頬を力強く叩くと、少しこわばりながらも気楽に見える笑みを作った。彼は自分が隊長として背負う責任を痛いほど分かっていた。もし彼までもが弱気で絶望的な表情を見せてしまえば、彼を信頼し、彼と共に運命に抗うために死線へと赴くこの龍人族の少女は、一体誰を頼りにすればいいというのか。


  絶対にここで怯えを見せるわけにはいかない。

  奏は自分のあの破れた黒い半袖シャツの裾を引っ張り、背筋をまっすぐに伸ばすと、ノンノンを連れて再び城門の方向へと歩いて行った。


  それから長い時間が経ち、太陽が沈みかける頃、二人は城門の片隅にうずくまるしかなかった。

  元々は黄金色に輝いていた日差しも、今は少し寂しげな黄昏の景色へと変わり、二人の影を氷のような石の地面の上へと長く引き伸ばしている。城門の前は人が行き交い、様々な装飾を施された馬車が兵士の検問を受けながら順番に出入していたが、それらの賑わいはすべて二人には無関係だった。


  なぜなら、彼らを乗せていこうとする馬車が、ただの一台もいなかったからだ。

  奏は力なく腰を曲げ、両手で膝の布地を必死に掴みながら、城壁の根元の影の中に小さくなって蹲っていた。傍らのノンノンも退屈そうに両脚を揃えて蹲っており、あの元々は元気いっぱいに動いていた龍の尾は、今は力なく埃にまみれた地面の上に引きずられ、尖った耳は少し落ち込んだように両側へと垂れ下がっていた。


  実際のところ、ここから格魯塞王国へ通じる道のりは決して近くない。

  奏はギルドや通行人から色々と聞き出していたが、格魯塞王国はデルイラの極東の辺境の外に位置している。両国の間には広大な荒野と複雑な丘陵地帯が横たわっているのだ。


  最も速い歩行で前進したとしても、少なめに見積もって二泊三日はかかる。

  これは道中でいかなる魔獣の襲撃も受けず、いかなる突発状況もないという前提のもとで初めて到達できる限界の速度だ。もし単に二本の脚だけでこの距離を歩き通そうとすれば、長期にわたって栄養不良の状態にあり、長旅など経験したことのない奏にとっては、自殺行為に等しい苦行にほかならなかった。


  それゆえ、車賃は最低でも三十五個の晶球を要求された。

  しかし、奏はその価格を聞いた瞬間、御者たちが余所者を騙しているとしか思えなかった。


  三十五個の晶球。これは彼らの現在の全財産のほぼ七分の一にあたる。計算に長けた現代人の思考からすれば、このような足元を見る行為は断じて容認できない不当な要求だった。奏は、一日中城門の前で客引きをしているこの御者たちが、自分たちの貧相な身なりと移動手段がないことを見透かし、故意に結託して物価を吊り上げているのだと感じた。


  それゆえ、すべての空いている御者に一通り尋ねてみるつもりだった。

  奏は簡単には諦めない。彼は歯を食いしばり、地面から身体を起こした。お尻の上の埃を叩き、無理やり愛想のいい笑みを作ると、木陰の下に集まって煙草を吸いながら談笑している数人の御者へと歩み寄った。


  しかし、現実は彼に厳しい現実を突きつけただけだった。

  結果として得られた答えは、どれも三十晶球を下回ることはなかった。


  奏がいかに姿勢を低くし、いかに粘り強く交渉を尽くそうとも、皮膚が黒く焼け、目の奥に世慣れた冷淡さを湛えた御者たちの提示する限界線は、どれも三十個の晶球以上だった。それどころか、何人かの気性の荒い年配の御者は、奏のあの破れ果てた黒いへそ出しの半袖シャツを見るや、不機嫌そうに手を振り、まるで蝿でも追い払うかのように彼を追い払った。


  これでは奏は金を節約するどころか、御者たちはみな仕事を受け取って去っていってしまった。

  夕日の最後の一筋の光が地平線へと呑み込まれるにつれ、城門の前にあったあの元々は空いていた馬車も、次々と身なりの整った商人や旅人たちに雇われていった。鋭い鞭の音と馬蹄の響きを伴い、一台また一台と馬車が砂煙を揚げて走り去っていった。元々は混雑していた駅の空き地は、一瞬にして空っぽになり、ただ冷たい夜風が通りを吹き抜けるだけとなった。


  奏は顔色を真っ青にさせてその場に立ち尽くし、少し脱力したように身体を揺らした。彼は自分がまるで寒風の中で数時間も突っ立っていた馬鹿のように思え、結果として一文の得も得られなかったばかりか、格魯塞王国へ馬車で赴く希望を完全に断たれてしまったのだ。


  彼は城壁の根元へと這い戻り、再びがっくりと蹲るしかなかった。

  まさにその時、奏の傍らに蹲っていたノンノンが不思議そうに尋ねた。


「なんで直接歩いていかないの?」

  ノンノンは首を傾げ、あの明るい縦長の瞳を薄暗い夜の中で少し天真爛漫に輝かせた。彼女は少し困惑したように頭を歪め、二つの尖った耳を不思議そうに震わせると、あの黒い大尾で地面を少しイライラしたように二回叩いた。龍人族の観念において、移動と奔走は骨の髄まで刻まれた本能であり、彼女には自分の隊長がなぜ人間たちのあの壊れかけの木車のためにこれほど多くの時間を浪費しているのか、まったく理解できなかったのだ。


  奏はその言葉を聞き、口元が微かに引きつった。彼は首を回し、ノンノンのあの何も考えていないような綺麗な顔を見つめ、心底から深い無力感を抱いた。


  歩行だと。もし道中で危険に遭遇すれば、身を隠すための遮蔽物すら無いのだぞ。

  しかし、そうは言っても、奏も実際には方法がないと感じており、歩いて苦労するしかないと思い至った。


  現在の状況は、いかなる御者も値下げに応じる気配がなく、ここの馬車もすでにすべて去ってしまった。もし彼らがこのままデルイラ王国の城門の前で時間を費やし続ければ、残り少ない時間と食料を浪費するだけで、何の意義もない。状況がすでにすべての退路を塞いでいる以上、あとは自身の二本の脚で耐え抜くしかなかった。


  奏は仕方のない様子でため息をつき、妥協してうなずいた。彼は両手で膝を支え、立ち上がろうとする身構えを見せ、ノンノンと共に夜の中の荒野へと踏み出そうとした。


  しかし、思いがけず一つの声が伝わってきた。

  それは少し甲高く、容赦のない、そして狂乱した怒りに満ちた女性の声だった。凄まじい怒鳴り声が城門から遠くない一箇所の辺鄙な民家から炸裂し、静まり返った通りを切り裂くとともに、奏とノンノンの動作を同時に空中で凍りつかせた。


  見れば、一人の白髪の少年が母親によって家から追い出されるところだった。

  バタンという音とともに、あの古びた民家の木製の大扉が内側から乱暴に押し開けられた。洗濯されて白くなった灰色の粗末な半袖シャツを纏い、少し乱れた白髪の少年が、凄まじい力によって無様極まりなく外へと飛び出してきた。彼の手のひらと膝が激しく硬い青石の道へと叩きつけられ、鈍い衝突音を響かせた。


  彼の母親の口からは、まだ呪詛のような罵声が途絶えていなかった。

  体型が少し丸々と太り、顔に粗悪な化粧を塗った女性が両手を腰に当て、門口の上に立って、唾を飛び散らせながら地面の白髪の少年へ向かって罵声を浴びせていた。怒りのために少し歪んだあの顔立ちは、薄暗いオイルランプの光に映し出されて、いっそう醜悪に見えている。


「お前のその臭い馬を連れて失せな。私はもうお前の母親じゃない。私には新しい夫がいるんだよ」

  女性の怒鳴り声は通りの半分にまで伝わり、その口調には隠そうともしない嫌悪と冷酷さが満ちていた。


  そのまま重々しく扉が閉められた。

  バタン。

  重く古びた木扉が女性によって内側から激しく閉ざされ、凄まじい力は扉の上の積もった埃を揺らし落とした。鈍い響きが静まり返った大通りに長く響き渡り、屋内の灯火と温もりを完全に隔絶した。


  ただ、白髪の少年のあの打ちひしがれた姿だけが残された。

  白髪の少年は少し茫然自失として冷たい地面の上に座り込んでいた。彼の両方の手のひらは青石の板の上に必死に押し当てられ、強すぎる力のために指の関節が白くなっていた。あの少し目立つ白髪が夜風の中で乱雑に舞い、彼の顔の大半を遮って、その時の表情を他人に悟らせないようにしていた。だが、彼の微かに震える肩と、身体全体から発せられる絶望的な死気は、どれも彼がこの瞬間に遭遇した裏切りと苦痛を物語っていた。


  少年の身側では、全体が雪のように白く、少し骨が浮き出るほど痩せた馬が少し不安げに蹄で地面を削っており、少し湿った鼻先で少年の肩を優しく擦りながら、少し低い鳴き声を上げていた。


  それを見て、このすべてを目撃した奏は、本能的に素早く立ち去ろうとした。

  奏の黒い瞳が微かに縮んだ。数々の残酷な死に戻りの中で、彼はとうに人間の薄情さと醜悪さを見慣れていた。この未知に満ちた異世界において、余計な世話を焼くことは、往々にして面倒と危険の始まりを意味する。彼らの現在の最優先事項は格魯塞王国へ赴くことであり、他人の家庭の事情に干渉するような余分な時間と精力は毛頭なかった。


  奏は自分の半袖シャツの裾を引っ張り、ノンノンを連れてこの厄介な場所を迂回しようとした。


  しかし、ノンノンはとても前へ出て事情を聞きたいようだった。

  龍人族の少女はあの白髪の少年の無残な姿を見た後、あの明るい縦長の瞳の中に極めて速く一抹の同情を閃かせた。同じく世間に容れられず、外を流浪する者として、彼女は母親に捨てられたあの少年の姿に、ある種の共鳴を覚えたようだった。ノンノンのかかとが地面の上でピタリと踏み止まり、両手は少し落ち着かない様子で衣服を揉み、あの二つの尖った耳は焦りのために激しく動かしながら、大きな目で奏をじっと見つめていた。


  それゆえ奏はため息をついた。実際のところ、彼もそうしたいと考えていたため、同意したのだ。

  ノンノンのあの懇願と哀れみの色が浮かんだ綺麗な顔を見つめ、奏の心底にある人間に属する温かさが、ついに冷酷な理性に打ち勝った。彼は少し仕方のない様子で首を振り、自分がいつからこれほど無情になってしまったのかと心の中で自嘲した。だが、仲間がこれほどまでに譲らず、あの白髪の少年も確かに憐れに見える以上、前へ進んで手を貸すのも悪くはなかった。


  奏はノンノンの頭を優しく叩き、その後、少しこわばった足取りを動かして、ノンノンを連れて一歩一歩と地面の上の白髪の少年へと歩いて行った。


  二人の足音が近づいてくるのに気づいた時。

  ササッという靴の摩擦音が、静まり返った大通りに少し鮮明に響いた。

  白髪の少年は警戒を以て彼らを見た。


  音を聞いた白髪の少年の身体が、極めて明白に一瞬だけ強張った。彼は猛然と頭を上げ、あの乱れた白髪の下から、少し端正でありながらも涙の跡と埃に汚れた顔を露出させた。彼の目は赤く腫れ、あの少し焦点の定まらない瞳は、奏とノンノンのあの奇妙な黒いへそ出しの冒険装を見た瞬間、深い警戒と敵意を即座に宿した。彼は無意識に身体を後ろへと縮め、身側のあの白馬の手綱を手で必死に掴んだ。


「何か用ですか?」

  白髪の少年の声は極度の悲しみと枯れた掠れ声のために少し甲高く聞こえ、この言葉を吐き出す時ですら、彼の身体は制御を失ったように微かに震えていた。


  ノンノンはこの時、白髪の少年が負傷していないかを絶えず心配していた。

  龍人族の少女は相手の敵意に怯むことはなかった。彼女は直接、白髪の少年の前に一気に蹲り、白い腕を少し焦急に伸ばして、少年の擦りむいた手のひらを検査しようとした。彼女のあの黒く太長い龍の尾は空中で心配そうな弧を描き、二つの尖った耳はピクピクと直立し、明るい縦長の瞳には隠そうともしない純粋な善意が満ちていた。彼女は少し不器用そうに袖で少年の顔の埃を拭いながら、澄んだ声を上げて矢継ぎ早に尋ねていた。


  ノンノンのあの少し行き過ぎた熱意と、何の計算もない真っ直ぐな態度の前に、白髪の少年の目の中のあの頑なな氷の殻も、ついに少しずつ砕け始めた。


  そして長い時間が経ち、三人は遠くない場所にある長椅子に座っていた。

  そこは城門の内側に位置する、行き交う旅人が足を休めるための古びたオークの長椅子だった。夜風が高い場所にある窓を通り抜け、周囲の雑草をサササと摩擦させている。白髪は少し脱力したように椅子の背にもたれかかり、大白という名のあの痩せた馬は長椅子の傍らに静かに立ち、温かい息で空気の中の寒さを駆逐していた。


  白髪の少年は、ようやく気を取り直したようだった。

  彼は袖で真っ赤な目を力強く拭い、元々は緊張していた身体をようやく少しリラックスさせた。彼は身側から差し出された、半分に割った硬い黒パンを持つノンノンを見つめ、また一側に座って黙り込んでいる奏を見て、掠れた声で口を開いた。


「慰めてくれてありがとう、ずいぶんマシになったよ。ところで、二人とも見慣れない顔だね、どこの王国から来た旅人なの?」

  白髪の少年は首を傾げ、この同じ特徴の黒い半袖シャツを纏い、寒風の中でへそを露出させている奇妙な男女を少し好奇そうに観察した。


  奏とノンノンは顔を見合わせ、同時に首を横に振った。

  二人の動作は極めて緊密に連動し、黒い瞳と明るい縦長の瞳が一瞬の間に意思を通じ合わせた。この厄介ごとに満ちた王国の辺境において、彼らが先ほど白い王宮を大いに騒がせたあの驚天動地の身分を明かすほど愚かであるはずがなかった。


「俺たちは冒険者だ、ただ、あちこちを流浪している類のな」

  奏は少し落ち着かない様子で自分の半袖シャツの粗末な裾を引っ張り、少し低い落ち着いた口調で回答した。流浪の冒険者という身分は、今や彼らがこの異世界を歩く上で最も都合が良く、かつ最もまっとうな隠れみのとなっていた。


  ノンノンはそれを聞くと、何気なく言った。

「でも馬車に乗せてくれる御者がいなくて、徒歩になっちゃったんだよね、へへ」

  龍人族の少女は仕方のない様子で舌を少し出し、その声には少し情けない自嘲が混じっていた。あの長椅子の下に垂れていた龍の尾が地面の上で微かに擦られ、ササッという音を立てた。


  それを聞いた白髪の少年の両目が輝いた。

  元々は死んだように暗く少年の眼底に潜んでいた陰鬱な空気が、この瞬間、その一言によって突如として消え去った。彼は少し信じ難そうに奏とノンノンを見つめ、元々は震えていた声すら過度の驚きのあまり少し高くさせた。彼は猛然と長椅子から身体を起こし、首を回して身側の大白を一瞥した。


「じゃあ、僕が二人を乗せていくよ。ちょうど僕も新しい生活に向かおうとしていたところなんだ、今回の車賃はいらないよ」

  白髪の少年の口調には、ついに救いを見出したかのような焦りが閃いていた。あのいわゆる家がすでに彼の居場所を失わせ、あの欲深い母親が彼を完全に捨て去った以上、遥かなる外界へ赴くことは、明らかに彼が新しい人生を切り開く最高のきっかけだった。


  この嬉しい知らせを聞き、奏とノンノンは共に満面の喜びを浮かべて同意のうなずきを返した。

  それはまさに恵みの雨のようだった。

  奏の今にも張り詰めすぎて千切れそうだった神経が一瞬にして完全に緩んだ。三十五個の晶球を費やすことなく、さらに馬車の移動手段が得られるということは、元々は苦労する覚悟を固めていた彼に、運命に味方されたかのような狂喜を抱かせた。一側のノンノンはさらに大喜びして尖った耳を再びピクピクとさせ、黒い大尾を空中で狂ったように振り回して、ブンブンという風の音を何度も引き起こした。


  三人は余計な時間を無駄にすることなく、白髪の少年の案内のもと、城門の前の長椅子を後にした。


  白髪の少年がずっと暮らしていたあの辺鄙な古い家へと戻った。

  そこは城南の一箇所、めったに人が足を踏み入れない狭い路地の突き当たりに位置していた。周囲はどれもいくつかの廃棄された倉庫や青苔の生い茂る低い平屋ばかりだった。空気の中には少し鼻を刺すような粗悪な革の匂いと、干し草の腐った気配が満ちている。


  白髪の少年は自己紹介をしながら、家の裏から一台の古びた車体を押し出してきた。

  それは全体が名も知らぬ暗灰色の木材によって造られた車体で、形は古めかしく、表面の塗装はとうに剥げ落ちて、内側の乾燥しひび割れた木材の繊維を露出させていた。車輪には暗紅色の鉄錆が無数に浮き出ており、少年の動かす力に伴って、軸の部分から人が不快に感じるような、ガタガタという激しい摩擦音を立てていた。


「僕の名前はフィキです。父は生前、勤勉な御者でしたが、過労のために病気で亡くなってしまいました。この馬と車体は父の遺品なんです」

  フィキは少し苦しそうに肩で車体の縁を支え、それを緩慢に大白の後ろへと移動させた。彼の洗濯されて白くなった灰色の粗末な半袖シャツが動きに伴って張り詰め、乱れた白髪の下、その瞳の奥には一筋の極めて深い寂しさと懐かしさが閃いていた。


  フィキの言葉を聴きながら、奏もフィキの境遇に対して少しの同情を覚えた。

  奏は静かにその場に立ち、この少し痩せた白髪の少年を見つめていた。この秩序と階級の圧迫に満ちた異世界において、底辺の凡人は想像よりも遥かに過酷に生きている。父親は生計のために命をすり減らして死に、残された唯一の遺品すら母親の目には実に邪魔なゴミと映ったのだ。あの女性は自身の新しい悦びのために、実の息子と亡き夫の遺品を、まるでボロ靴を投げ捨てるかのように寒風の中へと躊躇なく放り出した。


  このような残酷な状況は、奏に自身が暗い路地の中で無数に惨死し、誰にも顧みられなかった悲惨な経験を不可避に思い起こさせた。

  奏の黒い瞳の奥深くに一抹の共感の冷徹さが閃き、その後は無駄口を叩かず、直接前へと歩み寄り、両手を伸ばしてフィキと共にあの重い車体の車軸を持ち上げるのを手伝った。


  間もなく、車体の設置が完了した。

  三人で力を合わせた作業の末、暗紅色の鉄の部品と粗末な麻縄がついにしっかりと噛み合った。


  奏とノンノンは手伝いをしたため、共に額にたくさんの汗をかいていた。

  細かな汗の粒が奏の少し端正な額の生え際から滑り落ち、彼のあの破れた半袖シャツの襟元を濡らした。彼は干し草の匂いを帯びた冷たい空気を大きく呼吸し、両手は激しい体力労働のために微かに震えていた。一側のノンノンも少し脱力したように顔の汗を拭い、白いお腹が激しい呼吸のために微かに上下していた。


  しかし、それでも達成感に満ち溢れ、満足そうに馬車の上へと腰掛けた。

  車内の内部の空間は少し狭く、座布団の上の麻の布地はすでにいくつかの大きな穴が開いており、中の乾燥した稲藁を露出させていて、座るとゴツゴツしており、どこか肌を刺すようだった。だが、寒風の中で飢えと寒さに耐え忍んでいた二人の流浪者にとって、この夜風を遮ることのできる避難所は、すでに彼らに心からの満足を感じさせるに十分だった。


  奏とノンノンは車内の中に並んで座り、外でフィキが手綱を片付ける音を聴いていた。

  前方に座るフィキは少し笑い、手綱を固く握りしめた。


  彼は少し簡素な運転席に腰掛けていた。彼は手首を力強く揺らし、あの二本の粗末な麻縄を自身の掌の中にしっかりと巻き付けた。彼は首を回して車内の二人を一瞥し、あの端正な顔の上、笑顔の奥深くにようやく一抹の再び燃え上がった希望を浮かび上がらせた。


「大白、出発だ」

  フィキは少し掠れた声を絞り、前方に向かって通る声を低く放った。

  大白という名の馬はその言葉を聞くや、大人しく出発を開始した。


  あの少し骨の浮き出た白馬は響かしい鼻鳴らしを一つ上げ、四本の細い馬蹄を頑丈な青石の道の上に重々しく一踏みした。鈍い足音に伴い、古びた車体が激しく一揺れし、軸の部分から少し苦しそうなガタガタという鈍い音を立てた後、辺鄙な路地をなぞって、緩慢にデルイラ王国の極東の大門へと走っていった。


  道中、フィキの技術が未熟だったため、どこかひっくり返りそうだった。

  フィキは明らかに長い間、一人で馬車を運転していなかった。馬蹄が少し凹凸のある青石の隙間を踏むたび、あるいは車輪が路頭の砕石を踏むたびに、車体全体が極めて突然に一側へと激しく傾いた。車内のあの乾燥した稲藁が振動によって部屋中に舞い散り、硬い木製の背もたれが時折、奏とノンノンの背中へと激しく衝突し、そのたびに火を吹くような鈍い痛みを呼び起こした。


  しかし、奏とノンノンはそれによって嫌悪の言葉をただの一言も口にすることはなかった。

  奏はただ両手で車窓の縁を必死に掴み、自身の身体を座布団の上に強引に固定していた。彼の黒い瞳は窓の外を急速に後退していく夜景を注視し、表情は平穏だった。一側のノンノンもただ無言で両手で椅子を必死に押さえ、あの黒い大尾を狭い空間の中で小さく縮めていた。彼らは無料の車に乗る上での最低限の礼儀を痛いほど分かっていた。この残酷な世界において、風雨を遮る場所があって自分たちをこの泥沼から連れ出してくれること自体がすでに莫大な恩恵であり、最初から文句を言う資格などないのだ。


  馬車は堂々と誰もいない東城門を通り抜け、城を守る兵士はただ適当にこの壊れかけの木車を一瞥しただけで、手を振って通過させた。

  古びた車体はついに完全にデルイラ王国の勢力範囲を離れ、外の夜色と濃霧に完全に呑み込まれた広大な荒野の中へと走り入った。


  突然、フィキの少し焦った声が前方の運転席から伝わり、カーテンを突き抜けて二人の耳へと届いた。この時、馬車はすでに荒野の一箇所の交差点へと差し掛かっており、前方の道路は漆黒の夜の中で二つの全く異なる方向へと分かれていた。


「夜も遅くなりました。格魯塞王国へ通じる道路は二つあります。一つは森林の小道、もう一つは貿易の往来がある馬車道です。僕たちはどちらを走るべきですか?」

  フィキは語りながら、少し苦しそうに手綱を制御し、大白の速度を少し落とさせた。彼は首を回し、少し落ち着かない様子で車内の奏を見つめ、この豊富な経験を持つ流浪の冒険者が建設的な意見を提示してくれるのを待った。


  その質問を聴き、奏は少しの猶予もなく、より理想的な馬車道を選択した。


「大路を選んだ方が安全だろう」

  奏にはいかなる迷いもなかった。無数に及ぶ惨烈極まりない周回の中で、彼はとうに血の教訓を以て一つの真理を理解していた。未知の異世界の荒野において、いかなる近道を模索する行為も、往々にして逃れられない死の地へと踏み入ることを意味する。森林の小道は距離こそ短いかもしれないが、内部には絶対に数え切れないほどの夜行魔獣と複雑な未知の地形が隠されている。一方で、貿易の往来がある馬車道は少し回り道になるかもしれないが、長期にわたって商隊が通行している以上、その安全度と地面の平坦さは森林よりも遥かに高いということだ。


  彼らは冒険をする必要はなく、堅実に前進することこそが生き残るための唯一の策だった。

  前方のフィキはそれを聞くや、大声で応じ、即座に右手を一振りして手綱で空気の中に鋭い弧を描いた。大白は鼻鳴らしを上げ、右側のあの無数の商隊の車輪によってしっかりと踏み固められた広い馬車道をなぞって、平穏に前方へと走り続けた。


  道中は非常に順調だった。

  漆黒の夜は粘り気のある墨汁のように世界全体を包み込み、ただ車体の前方に掛けられたあの微弱なオイルランプだけが、少し青白い光を放っていた。馬車道は想像よりも平坦であり、時折いくつかの突然の揺れがある以外は、大白の足取りは極めて規則正しかった。道中ではいくつかの枯れ果てた低木が夜風の中でサササと音を立てているだけで、魔獣の襲撃などにはただの一度も遭遇しなかった。


  彼らはさらに野外でキャンプをし、素晴らしい夜を過ごした。

  深夜近く、三人は馬車道から遠くない、少し静かな岩場の傍らを選択して夜営の準備をした。フィキは熟練の技で鉈を使い、いくつかの枯れ枝を伐って空き地に一つの焚き火を立ち上げた。オレンジ色の火の粉が寒風の中でパチパチと音を立て、周囲の冷たい空気と不気味な気配を駆逐していく。


  奏は腰の魔導具のウエストポーチから、昼間の残りの黒パンと水を取り出し、みんなへと分配した。

  ノンノンは興奮して黒い大尾を揺らし、尖った耳をピクピクと直立させていた。彼女は大きくパンを噛みちぎりながら、口いっぱいに頬張ったままでフィキに龍人族の古くからの伝説について語り聞かせていた。フィキの少し端正な顔立ちは火の光に照らされて少し赤みを帯び、彼は少し緊張気味に耳を傾けながら、どこか嬉しそうに目の前の、行動こそ風変わりでありながらもこれ以上なく真摯な二人の仲間を見つめていた。


  奏は静かに一枚の乾いた花崗岩の上に腰掛けていた。彼の黒い瞳には焚き火の影が映り、手のひらは少し脱力したように温かい陶器の器を捧げていた。その一瞬、耳元にはノンノンの大きな笑い声があり、目前には少し温かい火の光があった。この異世界へ転移して以来、彼は初めて一種の安らぎを覚えた。暗い路地の中の凶器もなく、白い王宮の中の騙し合いもなく、ただ純粋な夜空と仲間だけが存在していた。


  その晩、彼らは極めて深く眠りについた。


  しかし、まさに翌日の途中のことだった。

  青い天空は正午頃に突如として少し重苦しい曇り空によって覆われ、周囲の空気の流れが一瞬の間に極めて突然に静まり返った。古びた車体は馬車道の上で規則正しく揺れ、軸が少し鈍いガタガタという音を立てていた。


  馬の大白が突如として動かなくなった。


  いかなる予兆もなく、あの元々は規則正しく走っていた白馬が、二本の前蹄を極めて突然に地面の上へと必死に食い込ませ、一際大きな砂煙を巻き上げた。巨大な慣性のために、車体全体が激しく前方へと傾いた。


「どうしたんだ?」


  奏の身体は衝撃によって木製の背もたれへと叩きつけられ、火を吹くような鈍い痛みを呼び起こした。彼は少し痛む胸元を揉み、自身のあの破れた半袖シャツの裾を引っ張った。彼はこの痩せこけた馬が長旅の中でついに体力の限界に達したのだと思い、カーテンをめくって問い質そうとした。


  しかし、思いがけずフィキは顔中に冷や汗をかいていた。

  フィキの運転席の上の身体は、一瞬の間に固まって縮こまった。彼の両方の手のひらは強すぎる力のために必死に麻縄の中へと食い込み、指の関節が真っ白に浮き出ていた。彼のあの白髪は静まり返った空気の中で硬直して垂れ下がり、端正な顔の上は極めて突然に青ざめ、大粒の冷や汗が彼のこめかみをなぞって流れるように滑り落ちて、彼の襟元の粗末な衣類を完全に濡らしていた。


「大白、引き返せ。早く」


  フィキの声は一瞬の間にほとんど裏返るほどに甲高く尖り、その口調には隠そうともしない、取り乱した凄まじい恐怖が満ちていた。彼の手首は極めて狂ったように震え、命がけで手綱を引っ張り、大白を後ろへと走らせようと試みていた。

  その言葉を聞いた瞬間、奏の無数の死によって鍛え上げられた本能が、一瞬の間に最も凄惨な警報を鳴り響かせた。


  おかしい。

  ある種の極めて恐ろしい存在が、すでにここを狙っている。


  奏は眠っているノンノンを見た。

  ノンノンはこの時、力なく車内の片隅にもたれかかっており、白い腕は少しだらしなく太ももの両側へと垂れ、短く整えられた黒い髪は少し散乱していた。彼女のあの黒く太長い龍の尾は力なく稲藁の山の中に引きずられ、昨晩あまりに深く眠りすぎたため、この時はまだ甘い夢の中から完全に覚めていなかった。


  奏は首を回し、連れて警戒を以てあの馬車道を遮る存在を望み、車内の前方の厚手のカーテンを一気に引き裂いた。その黒い瞳は恐怖のあまり限界まで縮まった。


  それは、絶えず震えている一人の人間だった。

  まさに馬車の前方から五十メートルも離れていない広い馬車道の中央に、静かに一つの不気味な影が立っていた。その人間は少し破れた灰色の衣服を纏い、馬車に背を向けていた。


  その震えのたびに、まるで骨折か、あるいは身体を解体するかのような異様さがあった。

  その物の肩は、およそ人間の骨格構造には適合しない不自然な角度を以て、極めて劇的に上下に痙攣していた。その激しい動きのたびに、周囲の静まり返った空気の中からは極めて鮮明に、毛の逆立つような、骨がバラバラに砕け散る鈍い音が伝わってきた。あの身体はまるで無数の目に見えない糸によって乱暴に引っ張られ、縫い合わされているかのようで、いつでも地面に崩れ落ちそうだった。


  その震える影の周囲では、地面の上の雑草が肉眼で見える速度を以てみるみる枯死し、黒い灰へと化していた。


  実におぞましい。

  言葉に尽くせない骨の髄まで凍るような寒気が奏の背筋をなぞって一気に炸裂し、彼の頭頂へと直に突き抜けた。彼のあの前例のないほど激しく鼓動していた心臓が一瞬の間に極度の恐怖のために動きを止め、目前の世界はこの瞬間に再び、彼に吐き気を催させるあの青白い世界の死の色を浮かび上がらせた。


  あの物は、絶対に人間ではない。

  魔王軍か。あるいはある種の禁忌の魔物か。


  逃げるんだ。

  直ちに逃げなければならない。

  奏の爪は手のひらの中へと深く食い込み、身体の中の空間法則はこの瞬間に完全に沸騰して、能力の本能が彼に空間を引き裂くよう狂ったように催促していた。


  ドサッ。

  いかなる魔力の予兆もなく、いかなる音声の警告もなかった。


  一筋の、あたかも地獄の深淵から噴き出してきたかのような、あまりにも濃密で粘り気のある本物の赤い光が、何の予兆もなくあの震える影の中心点から凄まじい勢いで爆発した。あの赤い光の速度は雷よりもさらに遥かに速く、一瞬の間に五十メートルの空間を強引に引き裂き、道中の空気を完全に蒸発させ、消し去った。


  奏が反応するのを待つことなく。

  彼の思考はこの一瞬の間に、この圧倒的な破滅の力によって完全に凍結された。彼は一本の指を持ち上げることも、頭の中で能力の名前を思い浮かべる時間すらもなかった。

  奏はただ目を開いたまま、フィキと大白が一筋の赤い光によって撃ち抜かれるのを見るしかなかった。


  グシャッ——


  それは鋭い刃物が豆腐を切るかのような鈍い響きだった。運転席に座り、必死に手綱を引っ張っていたフィキの、その上半身全体が赤い光に接触した一瞬の間に、極めて突然に一面に舞い散る血煙と砕けた骨へと化した。悲鳴の一声すら上げる余裕もなく、あの端正な顔を持ち、新しい生活を切り開くことを渇望していた少年は、完全にこの世界から存在の痕跡を消し去られた。


  同様に撃ち抜かれたのは前方のあの白馬だった。大白のあの大きな馬の頭は前半分の身体とともに一瞬の間にバラバラに砕け散り、大量の暗紅色の鮮血と内臓の破片が激しい雨のように周囲へと狂ったように吹き飛んだ。


  馬車は瞬時にひっくり返り、大破するに至った。

  前方の支えと引っ張る力を失い、加えて赤い光がもたらした巨大な衝撃により、あの暗灰色の木材によって造られた古びた車体は馬車道の上で極めて激しく二回揺れ、その後、耳を労するほどの凄まじい衝撃音を伴って、全体が底を天に向けて激しくひっくり返っていった。


  木材が砕け散る音が辺り一面に重なった。

  奏は車内で巨大な混乱に巻き込まれ、激しい目眩を起こしていた。彼の身体は頑丈な木板と乾燥した稲藁の間を何度も衝突し、肋骨の部分から一際明白な骨折の鈍い音が伝わって、彼の目の前の焦点を狂わせるほど痛んだ。


  しかし奏には反応する余裕がなかった。

  彼は舌の先を必死に噛み、口の中に満ちてきた血生臭い味が彼の頭脳に最後のわずかな意識を保たせていた。彼は少し脱力しながらも両手を伸ばして、この砕けた木箱から這い出そうとした。


  次の一筋の赤い光が奏の目前に現れた。

  砕け散った車窓の木板を突き抜け、あの人に絶望を感じさせる、粘り気のある血生臭い気配を帯びた赤い光が、再び瞳の中で無限に拡大した。死の色彩が一瞬の間に目の前へと肉薄した。


  終わった。

  一体何が起きたんだ。またここまでなのか。


  奏の瞳は恐怖に縮まり、少し絶望しながら両目を閉じた。

  ドゴッ。顔中が血に染まる。


  巨大なエネルギーの轟音が鼓膜の中で炸裂した。しかし、予想されていた肉体が砕け散る苦痛は奏の身には降臨しなかった。その代わりに、極めて濃密で、一筋の馴染み深い獣の生臭さを帯びた熱い鮮血が、まるで滝のように彼の頭から身体全体へと浴びせかけられた。温かい液体が彼の端正な頬を滑り落ち、彼の両目を塞いだ。


  ノンノンがなぜか突如として一瞬の動きを見せていた。

  この誰もが反応する余裕のない絶対の死線の中で、あの元々はまだ夢の中にいた龍人族の少女が、いつの間にかあの明るい縦長の瞳を開いていた。あの短く整えられた黒い髪が狂暴な気流の中で激しく舞い、あの白い両腕の上、元々は瑞々しかった皮膚の表面には、極めて突然に一層の隙間なく並んだ黒い狂暴な龍の鱗が覆い被さっていた。


  それはノンノン自身が一種の命を投げ打つような凄惨な気迫を帯び、両手を伸ばして、奏のあの破れた半袖シャツの胸元へと必死に押し当て、全身の最後の力を振り絞って、激しく後ろへと一押ししたのだった。

  巨大な力によって奏の身体は木板の隙間に沿って無様極まりなく後ろへと滑り出ていった。


  ノンノン自身は、あの赤い光によってお腹を射抜かれていた。


  ドスッ——


  あの圧倒的な赤い光が、確実に龍人族の少女のあの贅肉のまったくないへそ出しのお腹へと直撃した。白い皮膚が一瞬の間に高温によって引き裂かれ、炭化し、黒い龍の鱗が粉々に砕け散った。赤い光はある種、すべてをなぎ倒すような残忍な威力を帯び、容赦なく彼女のお腹全体を石の大きさほどの恐ろしい空洞へと引き裂いた。


  引き裂かれた内臓が車内に溢れ出た。

  大量の暗紅色の龍の血と破砕された内臓が、あの焦げた空洞をなぞってドクドクと湧き出し、一瞬にしてひっくり返った車体の底部を一面の生々しい血の赤へと染め上げた。あの乾燥した稲藁が粘り気のある血の海の中に浸かり、人を不快にさせる強烈な血生臭さを放っていた。


  奏は一瞬にして吐き気を覚えたが、しかし心配のあまり、ただ満面の恐怖を浮かべて震えながら両手を微かに持ち上げるしかなかった。

  彼は身体全体が巨大な衝撃のために馬車道の外の草むらの中に倒れ込んでいた。彼は必死に袖で両目を覆った鮮血を拭い、彼が目前の光景を見た瞬間、彼は自身の魂全体がこの一瞬の間に無残に引き裂かれたのを感じた。


「ノンノン。ノンノン。嫌だ。嫌だ、死なないで、死なないで」


  奏は絶望のあまりほとんど声にならない凄惨な叫びを放った。彼の声は一瞬の間に完全に枯れ果て、目は極度の怒りと驚きのために見開かれ、少し赤い血の涙を流した。彼は慌てふためいて地上から這い寄り、掌は極度の震えのためにどうしても合わせることができず、彼は命がけで両手であの流れ出た内臓をノンノンのお腹の中へと詰め戻そうと試みていた。


  しかし、それらの熱い液体はただ彼の指の隙間をなぞって流れるように狂ったように滑り落ちるだけで、どうしても止めることができなかった。


「死なないで。頼むから」——奏は取り乱してノンノンへ向かって泣き叫んでいた。


  しかし、瀕死のノンノンのあの明るい縦長の瞳は、この時すでに急速に光を失い、暗く沈んでいた。彼女の二つの白い尖った耳は力なく両側へと垂れ下がりました、あの黒く太長い龍の尾が二回痙攣すると、そのまま力なく血の海の中に静止した。彼女は少し救われたように目前の人の形を失うほど泣き崩れる隊長を見つめ、少し蒼白な口元を極めて苦しそうに動かし、まるでいつものように大雑把な笑みを見せようとしているかのようだった。


「早く。逃げて。ルフィアを。まだ。連れ戻さなきゃ。いけない。んでしょ。隊長」


  一文字を一文字と吐き出すたびに、大量の血の泡が彼女の唇の間から溢れ出た。最後の一文字を吐き出す時、ノンノンのあの奏の腕の上に置かれていた龍の鱗の掌が、ついにすべての力を失い、少し心残りそうに地面の上へと滑り落ちた。


  言い終えると、完全に呼吸が絶えた。

  あの一対の明るい大きな目は一瞬も動かさずに見開かれ、青くありながらも重苦しい曇り空を映し出していたが、内側の輝きは完全に消え失せ、一面の物言わぬ灰色へと化した。


「嫌だ。嫌だ」

  奏は息が詰まるほど泣き叫んでいた。


  彼はすでに徐々に氷のように冷たく、硬直を始めていたノンノンの身体を必死に抱きしめ、身体全体が極度の悲しみと呼吸困難のために少し痙攣していた。大量の冷たい空気が彼の肺へと注ぎ込まれ、激しい割れるような劇痛をもたらした。彼のすべての計算、すべての確信が、この一瞬の間に一つの大きな笑い話へと変わってしまった。

  彼がせっかく創り上げた『冒険団』、彼がせっかく得た仲間が、わずかこの短い数秒の間に、一体の氷のような死体へと変わってしまったのだ。


  彼は非常に悲痛であり、さらに自身の後ろで自分を護っていた車体が直接一筋の赤い光によって貫通されたことすら、微塵も気づいていなかった。


  ドガッ——


  第三の一筋の破滅的な赤い光が、再び空間を引き裂いた。あの底を天に向けてひっくり返っていた暗灰色の木製車体は、赤い光に接触した一瞬の間に粉々に爆発し、空に舞う無数の木片と炎の波へと化した。

  それが奏の両腕と肋骨を直に突き刺し、貫いた。


  グサッ——

  車体の残骸を突き抜け、あの残存した赤い光はある種の抗うことのできない圧倒的な打撃力を帯び、正確無情に奏の身側から刺入した。凄まじい高熱が一瞬の間に彼の両腕の筋肉、神経をすべて焼き払い、消し去り、連れて彼の左側の胸の肋骨をも激しく粉砕し、前後に通じる一つの血の穴を穿ち開けた。


「うああああ」

  奏は重々しく地面へと倒れた。


  膨大な身体への衝撃が彼をまるで一枚のボロ布のように、岩の生い茂る馬車道の上で連続して十数回も転がらせ、最後に力なく一面の枯死した低木の中に仰向けに横たわらせた。


  大量の鮮血が彼の唇、胸元、そして両腕の切断された場所から泉のように狂ったように湧き出し、彼の中に僅かに残されていた体温と生命力を奪い去っていった。


  ただ怨念を以て遠くの震える影を見つめるしかなかった。

  奏の黒い瞳は少し焦点が定まらなくなり、視界の端は一寸ずつ青白い世界の死の色によって蝕まれ、剥奪されつつあった。彼の両方の手のひらはすでに完全に感覚を失っていたが、それでも彼は強引に首を傾げ、ある種、魂をも燃やし尽くさんとする果てしない怨念と怒りを以て、五十メートル先のあの方向を必死に注視していた。


  それは、一つの。見えない、見るのが間に合わない。

  視界が完全に絶対の暗黒へと陥る前、頭の中の最後のわずかな思考が氷のような時間の流れによって完全に凍結される一瞬の間に、奏は最後の視力を使い果たしても、あの少し不気味な影が依然として激しく震えているのを辛うじて見ることしかできなかった。その激しい動きのたびに、生命に対する最も無情な嘲笑が含まれているかのようだった。


  格魯塞王国の辺境に。なぜ。こんな物が……?


  奏は、死んだ。


【第一章・完】

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