第一章25 『仲間と友達』
王宮外囲にあるこの廃棄された紡織品倉庫の内部は、空気の中に沈殿した塵土の臭いとカビの臭いが極めて濃重だった。微弱な月光が、高所にあるわずか手のひらほどの大天窗を透過し、うず高く積み上げられたボロ布の山の上へと斜めに降り注ぎ、それらの陳旧な麻布やシルクの織物を、うっすらとした死白の色に照らし出している。
この倉庫の主が宵禁の前にとっくに立ち去り、周遭に何の活人の呼吸音も魔力の波動もないことを確認して、ようやく奏の極限まで張り詰めていた神経が、わずかに一分ほど松懈した。彼は少し脱力した様子で粗糙な綿糸の塊に寄りかかり、冷たいコンクリートの床に沿ってゆっくりと滑り座り込んだ。
一側に立っていたノンノンも、同じように大雑把に木の床の上へと一端腰を下ろした。あの黒く太く長い竜の尾が地面の上でいくらか煩わしげに一振りされ、細かな浮塵の小さな一幕を巻き上げる。彼女は自身が纏う黒い冒険短衫に擦りついた灰を手で叩き落としながら、その亮々とした縦長の瞳で、いくらか狐疑混じりに目の前の少年をじっとねめ回した。
「さっきのは一体どういうことだよ? お前、一体どれだけの秘密を隠してんだ?」
ノンノンの少しぶつぶつとした不満を聞きながら、奏はいくらか呆滞した様子で自らの右手の掌を見つめていた。あの温熱で、粘調で、まるで何らかの活物の内臓の中に手を突っ込んだかのような空間法則の残留感が、今なお大動脈の拍動の中で隠々約約と回響している。
彼は深く一度呼吸をし、上々個の周回において解剖台の上で鍵によって生きたまま絞り砕かれたあの惨烈な幻痛を強引に心底へと圧し込め、その後、頭を上げてノンノンの視線を受け止めた。その顔色は、かつてないほどに厳粛だった。
「ノンノン、さっきの門について説明している時間はないんだ。聞いてくれ、ルフィアは今夜、危険な目に遭う。俺は今夜中に、彼女を救い出さなきゃいけないんだ!」
彼の声は低血糖のために一筋の沙啞さを孕んでいたが、語気の中の一文字一文字はまるで鉄の釘で地面へと強固に打ち付けられたかのように重く、人々に無視を許さぬ響きを持っていた。
その回答を聞いた瞬間、それまで耳を揉んでいたノンノンの動作が猛然と一神止まった。あの本来なら精神をみなぎらせて直立していた尖った耳が、ある特定の言葉を耳にした途端、極めて明白に両側へとだらりと垂れ下がっていった。
彼女のあの綺麗な顔は一瞬にして崩れ、いくらか不機嫌そうに頬を膨らませ、背後の竜の尾までもが無力に地面へと垂れ下がり、床の上でいくらか当てこ擦るようにトントンと叩きつけられた。
「そういえば、お前はまだアタシに返事をしてくれてないじゃん! アタシ、お前の冒険団に入っていいの?」
目の前で突如として不貞腐れ始めたノンノンを見つめながら、奏の全体は思わず小さな一時間ほど呆滞してしまった。
奏の目線は、ノンノンのあの委屈をこれでもかと書き連ねながらも、どこか困窮のどん底にあるような貧酸な気配を漂わせている顔の上に二秒ほど留まり、脳裏には突兀として、前の周回であの木棚の上に並べられていた、何の生気もない氷冷な皮靴の画面が閃いた。
前の周回において、奏の粗暴な拒絶はノンノンを保護したものの、結果としてノンノンを傷つけることになり、さらには奏が王宮へと潜入する道を閉ざすことになってしまった。
だが今回は、違う。
彼は骨哨を失っておらず、大雑把に自分へと面包をねだってきたこの少女を突き放すこともしなかった。その上、彼の身体の中には、なぜか今、空間魔導具に属する能力が確かに流動している。
奏は成功裏に、因果をあの死局から偏離させることに成功したのだ。彼はついに、再び霞やノンノンと交誼を結ぶことができた。
そこまで思い至った時、無数の死亡によって淬錬され、一時は冷酷にすら見えた奏の墨色の眸の奥に、ようやく抑制しきれぬほどの極めて優しい波紋が微かに浮かび上がった。彼はこの時、由衷から笑みを漏らした。そのいくらか干からびた清秀な顔の上に浮かんだ笑顔は、前未有のほどに軽快で、そして篤定のものだった。
「当然いいよ。そして、俺たちは今夜、必ずルフィアを救い出すんだ!」
「当然いいよ」というその四文字を耳にした瞬間、ノンノンのだらりと垂れ下がっていた尖った耳が撲稜と音を立て、刹那の間に再び直立した。その明晰な大眸の中にあった不機嫌な陰霾は綺麗さっぱりと一掃され、代わりに、ついに長期の飯票を見つけ出したかのような雀躍が取って代わった。しかし直後、彼女はまたいくらか好奇心を孕んで、その利口な黒い短髪を少し傾け、黒い大尾が半空でいくらか困惑の弧度を描いた。
「でも、なんでお前はルフィアが危険だって知ってんの? それっておかしくない? 考えてもみなよ、だってお前とルフィアはそもそも会う機会すら一度もなかったはずだし……お前はただの魔力すら持たない普通の人間なのに、どうして王宮の深奥の秘密を知ることができるんだよ?」
ノンノンの発問は、ダイレクトに事象の核心を突き刺していた。
奏の双眸が微かに細められた。死亡回帰の契約による絶対的な制限のせいで、彼は自分が時間を重置できること、そしてすでにあの白い王宮の中で何度も死を経験しているという秘密を、誰に対しても吐露することが根本から不可能だった。
ひとたび吐露してしまえば、あのボロボロの黒袍を身に纏い、惨血色の巨鎌を握った死神が千分の一秒の間に降臨し、二人の性命を一度に收割していくだろう。
このような絶対的な禁忌を前にして、彼は半ば騙し、半ば真実を語るという方式で応対するしかなかった。
奏は頭を下げ、黒い短衫の肌身離さぬポケットの中から、あの幽暗な微光を放ち、繁復な飛鳥の紋路が彫刻された白い骨哨をゆっくりと取り出した。粗糙な骨質の表面は微弱な月光の下で極めて沈着な質感を折射させており、その上には未だにあの王国の将军特有の氷冷な魔力が隠々約約と残留していた。
彼は骨哨をノンノンの前へと差し出し、自らの声をできる限り真実を語る人間の響きに整えた。たとえ、これがその通りの事実であったとしても。
「俺はさっき、うづき・かすみと友達になったんだ。これは彼が俺にくれた友達の象徴で、彼を一度だけ命令することができる」
その小さな白い骨哨を見つめながら、当初ノンノンは何かの普通の破烂だと思い込んでいた。しかし、彼女のあの竜人族に属する敏锐な直感が、骨哨の表面にあるあの至高の強者に属する、ほとんど凝固したかのような魔力の残余を捕捉した瞬間、彼女の顔全体が極めて突兀に硬直した。
たとえノンノンがどれほど不学無術であり、この特製の哨子が一体どのような意味を代表しているのかを詳しく識らぬとしても、彼女はこの異世界とこの王国の住民として、ドルイラ王国の軍権の頂点、あの恐怖の怪物――うづき・かすみの名を知らぬはずがなかった。
「な、大した度胸じゃん!」
ノンノンは猛然と床の上から跳ね上がり、あの竜人族の尖った耳は極限の震撼によって狂ったように抖動し、白皙の顔の上には無法置信の駭然がこれでもかと書き連ねられていた。彼女は奏の手にあるあの目立たない骨哨を死に物狂いで見つめ、話す声すらもがいくらか調子を変えていた。
「あの将军はめちゃくちゃ強いんだよ! 知ってんの!? 将军は一つの王国の戦闘力とほぼ等同なんだから、お前の今回の計画、そもそも失敗する可能性なんてないじゃん! いや、待てよ、お前アタシを騙してんじゃないよね? お前は確かに深蔵不露に見えるけど、どうやってあんな怪物と友達になれるってんだよ!?」
ノンノンのあの可憐な顔に、これほどまでに震撼しきってほとんど歪んだような神情が浮かび、さらには大雑把に「一つの王国の戦闘力」などという誇張された言葉までをも投げつけられたのを聞いて、奏は思わず困惑気味に手を引き戻し、骨哨を自らの目の前へと近づけて細かく見つめた。
「うづき・かすみって、一体どれくらい強いんだ? なんでみんな、そんなに誇大其辞に言うんだよ?」
奏の語気には不解が満ちていた。第一回の周回で将军に会った際、相手はただ暗巷の中で暇潰しに散歩をし、引き返しざまに自分を驚かせただけの慵懶な怪人に過ぎなかった。前回の周回において、相手の白袍形態の威圧は確かに驚人だったものの、奏の感覚としては、単に実力の強力な高階のNPCという程度に過ぎなかったのだ。
それゆえに、奏にはどうしても理解できなかった。なぜあの城府の極めて深い王子までもが、そして目の前のこの天をも恐れぬノンノンまでもが、この名前を口にする際にこれほどまでに神明に対するかのような敬畏を露わにするのかが。
しかし、奏のその無知に近い発問を耳にして、ノンノンは全体としてさらに無語の様子を深めた。彼女はいくらか腹立たしげに巨大な白眼を剥き、両手を自らの何の贅肉もない、凹んだ露臍の腹部へと死に物狂いに押し当て、まるで救いようのない田舎者を眺めるかのような目線を向けた。
「お前、人違いしてんじゃないの? うづき・かすみはこのドルイラ王国の将军として、かつて最大の壮挙を成し遂げたんだよ。単人で兵となり、一を以て万の兵を敵に回し、最終的に無傷で帰還した……それは一万以上の完全武装を施され、中階法師団を配備された精鋭の正規軍だったんだ! 彼はただ自分の一身の古怪な実力だけを頼りに、生きたまま相手の陣形を穿ち、最後は衣服を汚すことすらなく歩み出てきた。お前、『一以て万を敵とす』の概念が分かってんの、この馬鹿!」
それを耳にした瞬間、奏は全体として完全に震撼した。
脳内にある、現代の戦争や、あるいは異世界の魔法の対抗に関する固有の認知が、この瞬間にノンノンの放った言葉によって粉々に打ち砕かれた。彼の唇はいくらか硬直した様子で開かれ、墨色の瞳孔は死に物狂いに収縮していた。
「あちこちに魔法やスキルが存在する世界で、うづき・かすみは一万以上の兵を単挑し、それでいて毫発の傷すら負わなかったのか!? そんなこと……もう人間の範疇を超えてるだろ?」
「まさにその通りだよ。それに、これは反論の余地のない真相。ドルイラ王国全体において、彼は絶対的な暴力の代名詞なんだから」
ノンノンはいくらか重々しく頷き、附和するように説明を加えた。その瞳の中の神情は前未有のほどに真剣だった。
倉庫内は再び短い死寂へと陥った。ただ高所にある天窗の外から時折吹き抜ける夜風だけが、あの廃棄された紡織品を揺らし、陣々のささやき合うような摩擦音を響かせていた。
許久の間、二人はずっと息を殺して外の動静に耳を澄ませていた。長街の上にあるあの重悶で密集した金属靴の打撃音は次第に稀薄になっていき、最後の一陣の整然とした足音が倉庫の外壁を擦るようにして遠ざかっていくのに伴い、あの二つの交接を行う巡邏隊は明らかに防線の交代を完了し、短い防御の空白を残していった。
彼らは門外の衛兵がすでに立ち去ったことを感知し、それゆえに出門の準備を整えた。
奏は床の上から立ち上がり、ついでにズボンの裾の灰を叩き落とし、目線を漆黒の部屋の中で飛速に巡らせた。前数個の周回における惨絶人寰たる死亡を経験し、あの鋼刺によって絞り砕かれ、生きたまま解剖された記憶はすでに彼の最も貴重な求生の直感へと変化していた。この大門を踏み出す前に、彼はこれらの死によって得た情報に基づき、随意に計画を制定した。
「ノンノン、お前が俺を壁の上へと送ってくれたら、俺たちはすぐに王宮の壁の上で潜伏するんだ。地面は衛兵と眼線だらけだし、それに、絶対にどの部屋の門にも近づいちゃいけない。すべてが危険だ!」
「どの部屋の門」というその数文字を口にした際、奏の嗓音は極めて明白に沙啞となり、それどころか牙関すらもが下意識にきつく噛み締められた。
彼はこの王宮の部屋の門に対して、非常に深い恐怖を抱いていた。
最初の回、彼はただ気儘に一つの髑髏の図柄が描かれた晶球に触れただけで、結果として直接数千万本の鋼刺によって生きたまま蝶の標本のごとく釘付けにされた。そしてもう一つの回、彼は衛兵を回避するために慌てて道を見失い、結果としてあの王室御用の薬師、すなわちあの狂人の地下実験室へと一脚を踏み入れてしまい、ノンノンを皮靴へと変化させただけでなく、自分自身も空間の爆発を招き、死んで死体も残らぬ下場へと陥った。
この金碧輝煌たる白い王宮の中において、ほとんど一枚の門の内部としても正常なものは存在しない。すべての固く閉じられた木門の背後には、皇室の変態が畸形的な欲望を満たすために用いる唯物の死地が隠されている可能性があった。
それゆえに、具体的な地形の路線を喪失し、かつ処々がすべて死局である状況下において、奏はようやくこの下策を出さざるを得ず、ノンノンに頼んで自分を壁の上に潜伏させるという方法をとった。ノンノンのあの重力を無視し、垂直の牆面を行行する逆天のスキルを利用し、高空中を横移することこそが、現時点において唯一、地面のすべての眼线と悪毒な部屋を回避できる万全の策だったのだ。
そしてノンノンはそれを聞き、やはりいくらか懵懂の様子で了然とした。彼女は奏の瞳の中に閃いた一筋の、ほとんど生理的とも言える恐怖を見つめ、この少年が一体それらの部屋の中に何を聯想したのかは理解できなかったものの、新進の冒険団のメンバーとして、彼女は非常に義気強く重々しく一度頷いた。
「なるほどね、よし、分かった! 要するにアタシがずっとスキルを使い続ければいいんだろ! だったらお前、動作を早くしなきゃダメだよ! アタシの体力だって無限じゃないんだから、お腹が減りすぎたら、アタシたち二人とも本当に天から落ちて肉塊になっちゃうんだからね!」
彼女はいくらか無邪気に舌を突き出し、尖った耳を揺らし、その後すぐさま率先してあの陳腐な裏門の隙間の位置へと寄り添った。
そうして、彼らは左を見て右を見、門の隙間と天窗の縁を借りて、外のあの長街の上に確かに半個の銀甲衛兵の影もないことを仔細に確認した後、即座に行動を展開した。
――きぃ
裏門が極めて軽く、一人だけが通過できるほどの隙間に押し開けられた。夜色は特有の湿った冷たさを伴って瞬く間に顔へと吹きつけ、奏の額の前の碎髪を乱した。
ノンノンは何の躊躇もなく、嬌小な身躯を微かに揺らし、すでに門外の陰影の中で馬尾を整えていた。彼女は熟練の様子で下へと一端うずくまり、いくらか不耐感を孕んであの白皙の両腕を後ろへと差し振った。
「早く、乗んな!」
奏は深く一度呼吸をし、歩を進めて前へと向かい、いくらか硬直した様子でノンノンのあの単薄でありながら極めて柔靭な力量感に満ちた背中へと這い上がった。
両手で相手のあの微冷で、いくらか汗の滲む肩を環状に抱え込んだ刹那、ノンノンはすでに軽巧に腰を真っ直ぐに起こしていた。彼女はいくらか詫異を覚えて微かに首を巡らせ、背後の黒い大尾を空気の中で揺らしながら、低い声でぶつぶつと呟いた。
「意外じゃん、お前そんなに重くないね」
その過分に直白な評価を耳にして、奏の頬は夜色の中で極めて突兀に赤く染まり、いくらか恥ずかしそうに首を背け、少女の近在咫尺にある側顔とあの撲稜と羽ばたく尖った耳を見つめる勇気を持てなかった。この気まずさを掩飾するため、彼は強引にすべての注意力を前方の防線へと集中させ、一双の墨色の瞳で、下沿の回廊の尽頭で遊走しているあの微弱な火光を死に物狂いに見据えた。
「もう少し左だ。あそこの高所は注意される」
奏は声を押し殺し、いくらか急切にノンノンの肩を叩いた。彼の眼力はこの瞬間において極限まで発揮されていた。王宮の高牆の上にあるあの暗格の中の弓箭手たちは確かに長弓を満開に引き絞っていたものの、夜盲と角度の問題のせいで、彼らは垂直の大理石牆面の最も上沿にある陰影の部分に対して、数メートルに及ぶ長大な視覚の盲区を存在させていた。
「よっしゃ、しっかり捕まってな!」
ノンノンが低く一喝すると、あの古びた冒険皮靴が白い巨石の牆面に触れた瞬間、重力の法則が再び粗暴に抹消され、重写された。
――ぱた。
彼女は全体として地面に対して垂直の九十度を成し、奏を背負いながら、深夜の蒼白な牆壁の上を飛速に掠め去る一条の黒い流光へと化してみせた。
耳元の狂風は、まるでふいごを引くかのようなウーウーという轟鳴を上げていた。奏は死に物狂いにノンノンの肩を勒り締め、全体として視野の極限の顛倒によって陣々の生理的な眩暈を生じさせていた。彼は頭を下げて下を見やったが、あの重型の長槍を握り、銀色の胸甲を身に纏った衛兵たちは、まさに彼らの真下から四メートルに満たない地面の上を、重苦しい歩調を踏みしめながら緩慢に通り過ぎていた。もしそれらの衛兵がほんの少しでも頭を上げれば、同じ黒い露臍の短衫を纏った少年少女が自分たちの頭上で飛檐走壁を行っているのを目にすることができただろう。
しかし偏偏として、ただの一人もあの絶対垂直の大理石の表面を見上げようとする者はいなかった。
そうして、ノンノンのあの驚異的な重力固化のスキルの下、彼らはついに王宮の外壁を越え、完全に王宮の範囲内へと進入した。そこは潜入計画の全体において最も危険で、最も未知なる核心の部分だった。
足下の大理石の建築はさらに宏偉になり、両側の回廊の中にいる侍従、女僕、および暗衛の密度は、幾何級数的な成長を呈していた。ノンノンは奏を背負いながら、浮彫の生い茂る凸起した大理石の縁を飛速に横移していき、高空の中の風が彼女の黒い短髪をいくらか乱れさせていた。
ある一処の、いくらか平緩な彫花の拱券の上方において、ノンノンは微かに荒い呼吸を一度吐き出し、いくらか好奇心を孕んで首を巡らせて一言問いかけた。
「王女の寝室の位置、分かってんの?」
彼女の背に這い上がっていた奏はそれを聞き、口元を極めて隠蔽に引き攣らせ、いくらか尴尬そうに首を横に振った。
「知らない」
彼は本当に知らなかった。前回の回、彼が魔導具の鍵を使用して空間の穿梭を行ったのは、完全に目隠しの猫が死んだ鼠にぶち当たったようなものであり、直接地下実験室とあの漆黒の刑具室へと触れてしまっただけで、ルフィアが具体的にどの偏殿に軟禁されているのかについて、彼の情報網はこの一塊において未だに一片の空白だった。
その、ほとんど荒唐無稽とも言える回答を耳にして、ノンノンのあの亮々とした縦長の瞳の中には霎時の間に無語の色彩が書き連ねられた。しかし事ここに至っては、すでに退場の可能性など存在しない。無念のあまり、彼らはただ原定の計画に従って事を行うしかなかった――決して地には降りず、決して門には触れず、完全に臨機応変を頼みとして王宮の高処において捜索を進行するのだ。
王宮内部の防御は外囲よりもさらに厳格だった。衛兵は実は三に一、五に一の頻度で王宮の核心たる寝区の周囲を内から外まで搜査して回っていた。甲片の衝突するジャラジャラという音、低沈な口令の交換音は、寂静たる夜の中で人々の心を格別に驚心動魄に震わせた。
これらの密密麻麻とした交叉する視線を回避するため、ノンノンは奏を背負いながら壁の上で辛そうに身を隠していた。
彼女の体力は急速に消耗されつつあり、白皙の腹部は劇烈な呼吸のせいで劇烈に上下していた。時折、彼女は奏を背負いながら二尊の巨大な天使の石彫の死角に死に物狂いに縮こまらねばならず、呼吸すらも手で覆い隠さねばならなかった。また時折、彼女はあの惨白い月光を放つ大理石の牆面の上を急速に数メートルほど墜落させ、全体の身体を排水管の下方の陰影の部分へと融け込ませねばならなかった。
このような、ほとんど綱渡りとも言える極限の潜行の中、少年の心臓は極めて速く跳ね上がっていたが、彼の目線はますます明るさを増していった。
おそらく、前数個の周回においてすべての不運を死に尽くしたのだろう。今回は運気が良く、彼らが一条の狭隘な排水管の経路に沿って一路上へと攀爬していった後、なんと極めて突兀として、建築の主体から突出した一処の広々としたバルコニーの下へと到達した。
そのバルコニーは精美な漢白玉によって彫琢されており、四囲にはいくらか厚重な、防風の淡紫色の紗幔が垂れ掛けられ、内部の灯火はすでに消え失せており、一見したところ極めて人の踏み入る形跡の少ない僻静な所在のように見えた。
奏は牆面に這いつくばっているノンノンを一目見やり、ノンノンもまた耳を傾け、敏锐にバルコニーの上方に何の活人の呼吸音も魔法結界もないことを確認した後、腰を弓状にし、背後のあの太く長い黒い竜尾を牆面へと激しく叩きつけた。この反衝力を借りて、奏を背負いながらいくらか軽巧にバルコニーの内部へと翻り入った。
双脚が堅実な地面へと触れたその一瞬間、あの九十度の視覚の顛倒がもたらした強烈な眩暈感は、ようやく潮水のごとく退色していった。
「着いたぞ――」
奏もまた、ようやくノンノンのあの単薄でありながら結実した背中から下りることができた。彼はいくらか脱力した様子で玉石彫花の護欄を支え、庭園の花香を帯びた清冷な空気を大きく、幾度も呼吸した。
そして一側のノンノンは少年の重量を卸した後、全体として何の形象も維持することなく直接バルコニーの藤椅子の上一へと頽然と座り込んだ。彼女は長時間にわたって重力の反転を維持したために酸痛して止まぬその腰肢を揉みながら、口からは一陣の極めて頽廃的で、いくらか委屈を孕んだふんふんという声を漏らした。
「はぁ……やっと着いた……アタシの腰がもう折れそうだよぉ……これ以上面包が食べられなかったら、アタシ本当にここで死んじゃうからね……任務が成功した後は……お前、この隊長としてアタシに対して責任を取らなきゃダメだからな……」
ノンノンのあの飢えのあまり今にも白眼を剥きそうな昏睡顔を見つめながら、奏の心底には一筋の深重な愧疚と感激が湧き上がった。彼は慌てて一歩前へと跨ぎ、現代の高校生の模倣をして忙しなく腰を折りながら謝罪の言葉を述べた。
「ごめん、本当に迷惑をかけた! ノンノン、今夜が終わったら、俺は必ずこのドルイラ王国で最大で、一番美味しい面包をお前にご馳走するよ。お腹いっぱいにしてあげるから!」
そのいくらか急切な謝罪を耳にして、ノンノンはいくらか無念そうに白眼を剥き、少しの塵土が付着した片手を持ち上げていくらか極めて敷衍の様子でパタパタと振ってみせた。
「いつもそんなにかしこまらないでよ、アタシたち仲間じゃん! お前の冒険団に加入したんだから、はぐれた仲間を連れ戻すのは元からアタシの責任だよ! というか……ここはどこ?」
彼女は首を巡らせ、いくらか困惑気味に四囲を打量した。
奏はそれを聞き、やはりゆっくりと顔の上の謝意を収めた。彼は足を動かし、足音を極めて軽く忍ばせながらそれらの垂れ掛かる淡紫色の紗幔を穿ち、バルコニーが王宮の内部へと接続する唯一の入口の前へと到達した。
しかし、映入してきたのは、ただ固く閉じられた門だけだった。
それは一扇の極めて厚重な黒檀木によって制作された大門であり、門の隙間と縁は厳糸合縫の構えを見せ、その上にはなんと隠々約約として高階の法師団が連手して布置した防御の銘文が、夜色の下で微弱な魔力の藍芒を流転させていた。宵禁が敷かれた後の王宮においては、この種の内部の寝区へと通じるバルコニーの門は無一に内側から強固に反鎖されているのが常であり、物理的に破る可能性など根本から半点も存在しなかった。
もし前数個の周回の九世奏であれば、この固く施錠され、さらには鑰孔すら存在せぬ魔法の大門を前にして、彼はおそらく一籌莫展の態へと陥り、さらには猶予のなかで正面から歩み寄ってきた巡邏隊にその場で撞破されていたかもしれない。
しかし今この瞬間、目の前の黒檀木の門板を見つめながら、奏の脳裏には突兀として、あの廃棄された倉庫の中において、同じようにロックされていたあの裏門が自らの指先の下で粘調な水面へと変化したあの奇妙な景象が閃いた。
彼の心臓は胸腔の中で狂ったように脈打ち始め、皮膚の下方にあるあのあの大動脈の中を遊走する氷冷な空間のエネルギーは、彼の血液の流動に伴って無声の轟鳴を上げていた。
あの地下実験室の狂人によって自らの血肉へと生きたまま押し込まれ、空間と共に爆発を遂げたあの黄銅の鍵……その概念と法則は、本当に徹底して自らの骨血へと融け込んでいたのだ。
奏は躊躇せず、それらの流転する防御の銘文をも顧みなかった。彼はゆっくりと右手を掲げ、深く一度呼吸をし、震える指先を、極めて精准に黒檀木の门板の中央、本来なら鍵穴が装飾されているはずの平整な花紋の上へと配置した。
「入れ……俺を中に入れろ……」
彼は心底において、最も強烈な渇望を発した。
――おん
一声の彼自身にしか聞こえない、極めて微弱な空間の共鳴音が耳元で不意に炸裂した。
何の激烈な魔力の衝突もなく、王宮のいかなる警報結界を引爆させることもなかった。奏の指先が木板と接触した千分の一秒の間に、あの高階の魔法師によって布置された絶対防御の法則は、空間の鍵の上位判定を前にして、まるで沸湯に遭遇した残雪のごとく生きたまま消融した。
一条の幽藍色の微光を放ち、縁において絶えず重なり合う陰影が揺らめいている空間の罅隙が、何の前触れもなく大理石の地面と門板の交界処から引き裂かれた。
ノンノンのあの俄かに極限まで拡大された竜人族の縦長の瞳の注視の下、奏は門を推すことすらなく、あの幽藍色の扭曲した渦巻は直接物質の阻隔を跨越し、大門の内部の入り口へと直接穿梭する传送門を切り開いてみせた。
吸引力は一閃して逝った。
二人の身体が再び平衡を取り戻した時、背後の黒檀木の大门は依然として固く閉じられていたが、彼らは、なんとすでに大雑把に王宮の内部の最も核心たる奢華な走廊の床の上へと直立していた。
「えっ」
この神跡とも言える一幕は、奏を再び、自らのこの凡人の肉身が今や保持している恐怖の能力に対して深く震撼させた。道具の制限を失い、彼自身が、今や歩行する鍵そのものとなっていたのだ。
そして一側のノンノンにいたっては、全体として直接その場に呆然と立ち尽くしていた。彼女のあの竜人族の尖った耳は極めて大きな震撼を受けたかのように、頭の両側で狂ったように撲稜と羽ばたいており、あの太く長い尾は筆直に強張り、全体の人間がまるで怪物を見るかのような目線で死に物狂いに奏をねめ回し、声すらもが極限の圧抑のせいでいくらか鋭利に変調していた。
「奏、お前そのスキル、泥棒にめちゃくちゃ向いてんじゃん! どんな宝物庫や結界だろうと、お前が手を押し当てさえすれば直接中に入れるんだろ!?」
ノンノンのあの大雑把で、極めて職業の特色を孕んだ一連の賛辞を聞きながら、奏の額の角の上には極めて明白に数条の黒い線が垂れ下がった。彼はいくらか無語の様子で首を巡らせ、いくらか腹立たしげに一本の指を直立させて自らの唇の前へと貼り付け、彼女を激しく一瞥した。
「静かにしろ! それに、俺は泥棒なんかやらない!」




