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冒険者ギルドに転移したら、何度も死に続ける王女殿下に出会った件、知らぬ間に彼女と死の運命を共にする契約が結ばれていた  作者: ぼうせん ゆきりん
第一章 『死に寄り添う海月』

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第一章24 『開かれた空間』

「うわあああああ――!」


  奏は猛然と双眸を見開いたが、喉の奥から出かかった破れた慘叫は、完全に拡散する前に自らの手で強引に腹の中へと飲み込まれた。


  視界にあるのは、相変わらずあの見慣れた、湿って冷たくて粘調な暗黒だった。

  巨大な鎌はない。噴き散る鮮血もない。大堂を支配していたあの死寂たる灰白色もない。


  彼は大きく、幾度も荒い呼吸を繰り返した。冷たい空気が無数の小さな剃刀のように気管を割き、涙が出そうになるほどの本物の痛覚をもたらす。彼はほとんど痙攣せんばかりに両手を伸ばし、自らの首筋を死に物狂いで掻きむしるように押さえた。そこには前の周回で死神の鎌によって完全に斬り断たれたあの幻痛が未だにこびりついており、筋肉は制御を失って痙攣し、皮膚の表面にはびっしりと鳥肌が立っていた。


  しかし触れてみれば、やはり無傷のままだった。あるのは粗糙な皮膚、狂ったように脈打つ頸動脈、そして冷や汗によって完全に濡れそべった黒い露臍の短衫だけだ。


  地底の実験室で、あの冷たい鉄刺によって生きたまま肉体を突き穿たれ、終わりなき折檻と清醒の中で最後の一滴まで血を流し尽くしたあの時に比べれば、死神のあの巨大な鎌によって一瞬で呼吸を奪われることは、むしろこれ以上ない慈悲のようにすら思えた。迅速なる死亡は、すでに奏にとって最大の恩寵だった。


  その氷冷な幻痛が、本物の空気の中で次第に淡く消えていく。奏は青苔の生い茂る壁を支えに、強引に両脚の震えをねじ伏せた。彼の目線は暗黒の中で一寸ずつ焦点を結んでいき、前の周回のような驚惶は消え失せ、そこには深淵へと沈み込んだかのような冷静さだけが残されていた。

  慌てるな。因果はすでに一度錯位している。絶対に、もう一歩も踏み外すわけにはいかない。


  ――ささ


  微かな、ほとんど夜風と完全に融け合うような衣類の摩擦音が、暗巷の角から響いた。

  壁を支える奏の指先がわずかに強張り、指爪がレンガの隙間の土へと食い込む。彼は振り返ることなく、ただその音が伝わってきた方向へと、静かに首を巡らせた。


  角から歩み入ってくるうづき・かすみの姿を見つめながら、奏は極めて冷静だった。

  湿った土を踏みしめる靴音は非常に軽く、その高大な影が陰影の中からゆっくりと輪郭を現してくる。前の周回のように驟然と降臨したあの聖潔な白光もなく、空間を引き裂かんばかりの狂暴な気流もない。


  今回の霞は黒袍を纏っており、白袍ではなかった。

  大面積の黒い織物が彼の足首のあたりまで垂れ下がり、フードは極めて低く引き下げられ、顔のすべてを陰影の中へと隠匿している。ただ、下顎のラインだけが微弱な月光の下でいくらか硬質に浮かび上がっていた。魔力の湧き上がる波動もなく、氷冷な剣鋒もない。彼はまるでただの幽霊のように、散漫に、何の防備もなく歩み寄ってきた。


  奏の目線が相手のあの漆黒の布地の上に半秒ほど留まり、脳裏の思索が電光石火のごとく閃き去った。

  奏のなかで、一つの规律のようなものが形を成しつつあった。


  第一回の遭遇時、霞は黒袍の姿であり、態度は慵懶で戯言を帯びていた。しかし一つ前の周回では、自身が極度の恐怖と死意によって空間の波動を引き起こしたため、相手は出現した瞬間に全身から白光を放っていた。


  白袍の形態をした霞は、おそらく彼の本気モードを意味しており、平時はこの黒袍の形態なのだろう。


  そのトリガーとなる原理が何であるかは分からないが、おそらくこの時間軸の霞にとっては、現在の奏が十分に冷静さを保ってさえいれば、過剰に警戒されることはない。高階の強者による気配の捕捉は本能に近いほどに鋭敏だ。前の周回の自分は瀕死の野獣であったが、今回の自分は、ただの何の脅威もない石ころに過ぎない。


  案の定、霞には少しも白袍へと変化する兆候は見られなかった。

  彼は奏からおよそ五歩ほど離れた位置で足を止め、両手を幅広な袖口の中へと突っ込み、フードを微かに上へと傾けた。陰影の中に隠されたその双眸が、暗黒の中で直立しているこの少年をじっとねめ回しているようだった。


  なぜなら、目の前の奏があまりにも正常であり、その正常さはまるで霞のすべてを見透かしているかのようだったからだ。

  奏はただ静かに彼を見つめ返し、両手を挙げて降伏の姿勢をとることも、相手の接近によって下意識に後退することもしなかった。その墨色の瞳孔は波紋一つないほどに平穏で、それどころか、これから発せられるであろう台詞に対する冷淡な予知さえもが仄見えていた。


  この詭異に近いほどの松懈感が、逆に、本来なら主導権を握っているはずの将军の動きを微かに止めさせた。

  空気が半秒ほど凝固したかのようだった。


「お前は誰だ?」

  本来の黒袍状態におけるあの悠閑で、試探の味を帯びた腔調は現れなかった。その三文字を吐き出した瞬間、霞の声は驟然と低く沈み込んだ。


  ――轟!


  何の前触れもなく、あの漆黒の衣類の縁から刺すような銀白色の光芒が突如として爆発した。魔力が潮水のごとく彼の足元から炸裂し、黒い布地は刹那の間に熾熱な白光へと同化され、重組されていく。純白のケープが夜風の中で激しくはためき、実体化した威圧が巨大な大山のごとく、何の保留もなくこの狭隘な暗巷の中へと叩きつけられた。


  霞は、なんとダイレクトに白袍の形態へと変化したのだ。

  王子の託しを受けている霞は、やはり奏に対して極めて警戒が深かった。奏のあの「すべてを見透かしたような」冷静さは、この将军を松懈させるどころか、逆に高位の者が最も敏感とする神経を正確に踏み抜いてしまったのだ――境界の地帯に現れるはずの浮浪の少年が、これほどまでに大局を俯瞰するような目線を持っているはずがない。


  氷冷な殺意が純白の光芒と混ざり合い、無形の風刃と化して奏の頬を激しく割き、鋭い痛みが走る。


  しかし、奏はすでに二度ならず回答を終えていた。

  突如として押し寄せた、常人であれば恐怖のあまり地面に頽れ伏すほどの恐怖の威圧を前にしても、奏は睫毛一つすら震わせなかった。彼は白光の中で微かに凝結していく魔力の長剣を見つめ、口元に極めて微小な、自嘲に近い歪みを作った。


  あれほど何度も死を経験し、死神の鎌すら目撃してきたのだ。この人間に過ぎぬ将军の殺気などが、一体何の恐怖になろうか。


「俺の名前は九世奏です」

  彼は平穏に口を開いた。声は高くなかったが、狂暴な魔力の風流を明晰に貫いて響いた。


  霞は奏の唇が微かに動き、まだ言葉を続けようとしているのを看取し、本来ならすでに掲げられていた片手を半空で強引に静止させた。白光に映し出されて格別に冷酷に見えるその双眸の奥に、極めて珍しい錯愕が閃いた。


  この少年には、恐怖がない。

  そして奏は、真摯に、厳粛に言葉を続けた。


「そして、俺はルフィアを奪い返さなきゃいけない! 彼女は今夜、必ず事件に巻き込まれる。何が何でも、俺は彼女の側に駆けつけなきゃいけないんだ」

  言葉が落ちた瞬間、暗巷の中の風が不意に止んだ。


  純白の光芒の中にいる高大な影は、まるで一尊の彫像と化したかのようだった。この由来の知れぬ少年の口から「ルフィア」という名前が崩れ出たのを聞き、霞の周身の魔力に極めて明白な紊乱が生じた。彼女は王国の長公主であり、今夜は王宮の深奥で安らかに眠っているはずの貴人だ。


  空気は水が滴り落ちんばかりに粘調さを増していく。

  その回答を聞き、霞は好奇心を孕んで一言問いかけた。


「たとえ、私が今ここでお前を斬り殺すとしてもか?」

  その声には一切の感情が含まれておらず、純白色のフードが前方へと傾き、あの幽藍色の魔力長剣はすでに空気中で実体へと凝結し、剣尖が真っ直ぐに奏の眉心を指し示していた。距離はわずか三寸に満たない。霞の手首が微かに送られれば、この世界から九世奏という人間は完全に消失する。


  奏は一瞬の詫異を覚えたものの、その真摯さが衰えることは微塵もなかった。

  彼の瞳孔にはあの鋭利な藍色の光点が倒映され、胸口が激しく一度上下した。その後、彼は一歩、前へと踏み出した。

  自らの魂をも凍結させかねないあの魔法剣に向かって、自らの額を能動的に貼り付けにいったのだ。


「死んでも構わない。俺は必ずルフィアを救わなきゃいけないんだ! 俺の他に、ルフィアを救える奴はもういない! だから、俺は必ずやり遂げる!」

  声は沙啞だったが、一言一言が地面を穿つ重みを持っていた。その墨色の瞳の奥には、無数の死亡によって淬錬された、ある種の病的なまでの狂気が燃え盛っている。


  今夜、あの白髪の水母編みの馬鹿を救えなければ、回帰しようが殺されようが、結末に何の違いもない。どうせどちらにせよ死ぬのであれば、死神が到来するまでの間、彼は一秒たりとも無意味な退縮に浪費したくはなかった。


  長剣の鋒芒は、彼の皮膚からわずか一ミリの位置で死に物狂いに静止した。

  時間が一分、一秒と流れていき、暗巷には奏の重苦しい呼吸音だけが響いていた。


  それらのすべてを聞き届け、霞は笑みを浮かべ、再び黒袍の形態へと戻った。

  視界を満たしていたあの銀白色の光芒は、引き潮の潮水のごとく急速に収束していき、純白の布地は再び深邃な漆黒によって覆い隠された。凝固していた空気が再び流れ始め、夜特有の湿った冷たさを運んでくる。


「思い上がった物言いだな……私がその場で阻止するとしても、お前は恐れないと? お前はまさか、将军という言葉の意味を知らないわけではあるまい?」

  低沈な笑い声がフードの下から伝わり、そこには居高臨下な、上位の強者特有の戯言と審視が宿っていた。彼は両手を再び袖の中へと突っ込み、身体を微かに後方へと傾け、目の前の大言を吐く少年の反応を待つかのような姿勢をとった。


  それを聞いた奏は、王子が霞の指揮に従わない姿勢を耳にした時の恐怖を思い返していた。

  あの金碧輝煌でありながら極限まで腐敗した王宮の中で、あの高々とした大皇子が「霞」という名前を口にした際、目元に浮かんだ隠しきれない忌憚と戦慄は、今なお鮮明に奏の脳裏へと焼き付いている。一国の儲君にそこまでの恐怖を抱かせる男だ。その実力はこの異世界において、間違いなく金字塔の頂点に君臨する存在だった。


  目の前の霞が絶対にこの異世界の強者であることを理解しながらも、それゆえに奏は微塵も恐れなかった。


「それがどうした!」

  彼は口元を歪め、それどころか少し挑発的な笑みすら浮かべてみせた。

  死神にすら感謝を述べられる人間が、生きて動いている将军ごときを恐れる必要があるだろうか。


  霞は、おそらく生まれて初めてこれほどまでに真っ直ぐ対面されたのだろう。このドルイラ王国においては、諂う貴族であれ恐怖する平民であれ、彼を目にすれば誰もが無一に戦々恐々としていた。あの王子ですら、彼の前では虚偽の礼節を維持せねばならなかった。


  それなのに、目の前の、一筋の魔力すら持たない凡人の少年が、まるで暗黒をも焼き尽くさんばかりの眼線で、真っ直ぐに自分を見据えながら「それがどうした」と吼えかけている。


  ついに、本物の微笑みが彼の顔に浮かんだ。

  それは先ほどまでのあの氷冷な、嘲弄を孕んだ偽物の笑みではなく、久しく忘れていた、何か面白い獲物を見つけ出したかのような心からの欣喜だった。


  彼はこの時、由衷に目の前のこの少年を見込んでいた。


「私の父がかつて言っていた。負けを認めず、死を認めず、強さを認めない者だけが、強者になれると……今この瞬間、私は非常にお前を見込んでいる……」

  霞はゆっくりと片手を伸ばし、頭の上の黒いフードを後ろへと押しやり、あの利口な短髪と深淵のごとき深邃な双眸を露出させた。彼の語気には隠そうともしない賛辞が混じっており、それは高山が頑石を注視するかのようだった。


  霞の誇りを聞き、奏はそこでようやく一筋の詫異を露わにした。

  これは一体どういうことだ?


  前の周回では自分の生硬さと決絶さのせいで、相手はそのまま身を翻して去ってしまい、半個の余分な言葉すら残さなかった。しかし今回の周回では、自分がその狂気と執拗さをさらに徹底して貫いただけなのに、ストーリーの展開は完全に未知の方向へと走り出したというのか。


  奏がその詫異からまだ立ち直れずにいるうちに、霞の指先が虚空の中で軽やかに一ねじりした。

  一枚の古旧たる色澤を放ち、繁復な鳥類の紋路が彫刻された白い骨哨が、半空から彼の指先へと出現した。


  そして霞は、その骨哨を奏へと手渡した。

「私の名前はうづき・かすみ。これはお前への贈り物だ。日後、お前がこれを吹くことがあれば、私はいつでも現れてお前のいかなる問題をも解決してやろう。ただし、使用できるのは一度きりだ。これを、私とお前が交誼を結んだ証明とする」


  氷冷で、ずっしりとした触感が手のひらへと落ちた。奏は下意識にその小さな骨哨を握り締め、その上に残留している、この王国の将军のものと思わしき微かな魔力の波動を確かに感じ取っていた。


  交誼の証明——


  今回は、あの試探の味を帯びた世間話もなく、繁雑な駆け引きもなかった。彼は一種の自殺式とも言える率直さをもって、この分量が恐ろしいほどに重い切り札をダイレクトに手に入れたのだ。


「行くぞ。今夜が過ぎた後も、またお前に会えることを願っている」

  言い終えると、霞は身を翻してその場を去っていった。


  その漆黒の影は何の停留もなく、衣の裾が夜風の中で優美な弧度を描き、わずか一歩を跨ぎ出しただけで、まるで泡沫のごとく暗巷の最も深き陰影の中へと融け込んでいった。空気に残留していた威圧は一瞬の間に綺麗さっぱりと霧散し、まるでその男が最初から存在していなかったかのようだった。


  後に残されたのは、骨哨を握り締めた奏だけだった。

  粗糙な骨質の紋路が手のひらの肉に死に物狂いで食い込み、陣々の刺痛をもたらす。奏は目を閉じ、苔の生臭さを帯びた空気を深く吸い込み、すぐさま骨哨を慎重に肌身離さぬポケットの中へと仕舞い込んだ。


  因果の修正は、この瞬間においてようやく正軌へと回帰した。


「次は、ノンノンを探さなきゃな!」

  彼は低く呟き、目線は再び凌厲さを取り戻した。感慨に浸っている時間はない。長街の規則正しい巡邏の靴撃音は確実に近づいてきており、彼は衛兵に発見される前に、あの竜人の少女との集結を完了せねばならなかった。


  奏は身を翻し、軽車熟路のごとく二本の錯綜した陰暗な小巷を通り抜け、足音を極めて軽く忍ばせながら。

  あの見慣れた王宮の高牆の前へと到達した。


  惨白色の月光が数十メートルの高さを誇る白い巨石の牆面に降り注ぎ、窒息せんばかりの氷冷な質感を反射させている。巍峨たる建築はまるで一頭の眠れる巨獣のようであり、内部の秘密と罪悪を強固にロックしていた。


  ――さ。

  一側の廃木桶の陰影から、極めて微小な、尾が地面を掃くささやき音が響いた。


  ノンノンは案の定、暗巷から歩み出てきた。

  あの利口な黒い短髪は月色の下で健康的な微光を放ち、洗濯されていくらか色褪せた露臍の冒険装が、彼女の引き締まった身体のラインを漏らすことなく勾勒している。あの竜人族に属する尖った耳が空気の中で霊敏に震え、背後のあの太く長い黒い尾はいくらか退屈そうに半空で揺れていた。


「よっ!」

  彼女は腕を組み、笑いながら壁の根元に寄りかかっており、口にはどこから拾ってきたかも分からぬ一本の乾草を咥えていた。その何の屈託もない様子は、相変わらずこの粛殺たる夜色とは不釣り合いな生気を漂わせている。


  この、まだ冷たい皮靴に変化していない、生きて動いている少女を見つめながら、奏は呆然とした。

  前の周回で彼女が委屈そうに耳をだらりと垂れ下げ、尾を無力に落としながら身を翻して去っていったあの後ろ姿と、今この瞬間の彼女の明媚な笑顔が脳裏で狂おしく重なり合い、彼の心臓を激しく突き刺した。


  そして彼は笑みを浮かべ、自然に挨拶を返した。


「なんでここにいるんだ?」

  自分の感情があまりに空虚に見えぬよう、彼は心底の酸楚を強引に圧し込め、語気をできる限り普通の、偶然知人に遭遇した少年のような響きに整えた。

  ノンノンは、最初と同じ回答を返してきた。


「お前がここにいるって、アタシが当てたからだよ!」

  彼女は得意げに顎を突き出し、その亮々とした瞳には篤定の光が満ちていた。

  ノンノンはこの回答に対する考えが完全に理の当然であるかのように振る舞っており、まるでこの冷酷な異世界において、彼女は天生からこの時間、この場所で、この九世奏という名の不運な男を正確にキャッチする運命にあると信じているかのようだった。


  しかし、奏もまたノンノンの目的を完全に理解していた。

  彼女は帰るべき場所を求めており、お腹いっぱいのご飯となる面包を求めており、共に戦える冒険団への加入を求めているのだ。


「俺は目の前にあるこの壁を登ることができない。今夜、ルフィアに必ず事件が起きる。俺は必ず駆けつけなきゃいけないんだ……」

  奏は前の周回のように粗暴に拒絶することはせず、ダイレクトに自身の困境と切り札をオープンにした。彼の声には疑う余地のない迫切さが宿っており、目線は死に物狂いに高牆の上方を見据えていた。


  奏のその訴えを聞き、ノンノンは高傲に腰に手を当て、耳と竜の尾を上へと跳ね上げた。


「ふんふん、アタシのスキルがお前を助けてあげられるよ!」

  彼女はいくらか誇らしげに胸を張り、あの太く長い尾が背後で楽しげに一巻きの円を描き、尖った耳も精神をみなぎらせて直立した。


  「お前がアタシを冒険団に入れるって約束してくれるなら、この壁どころか、もっと崇山峻嶺な場所だって、アタシが飛ばせて連れていってあげるよ!」

  ノンノンの尾を見つめながら、奏は突然、あることを思い出した。


  前の周回が終了した際、彼は長椅子の上で驚醒し、本来なら持ち出しているはずの魔導具の鍵が虚空へと消失していることに気づいた。当時はそれを跨周目の因果汚染か、あるいはあの狂人薬師の法則の仕業だと思い込んでいたが、今、ノンノンが目の前にいる。もしあの鍵が、初期状態へとリセットされているのだとしたら……。


  彼は慌てて腰のあたりを翻した。

  彼の指先はいくらか震えながらあの皮製の細腰帯へと触れ、赤色の回復薬水が入った二つのガラスボトルの間で何度も摩索した。触感は滑らかなガラスであり、堅硬な皮革だった。しかし……。


  そこで彼は気づいた。

「俺の魔導具の鍵が……なんでないんだ!?」


  空っぽだった。

  あの幽藍色の銅質の光沢を放ち、空間のルーンが刻み込まれた繁復な鍵は、それが収まるべき位置に根本から存在していなかった。奏の顔色は一瞬の間に惨白へと変わり、彼はほとんど両手をポケットの中へと突っ込み、狂ったように布地を揉みほぐし、内側の裏地までをも引きずり出した。


  ない。どこにもなかった。

  これは非常におかしい。

  もし前回が、ノンノンが持ち去ったから(事実ではない)と言い訳できたとしても、今回はどうだ?


  今回の彼は暗巷で目を覚ましてから今まで、霞を除いて根本から誰一人とも接触していない。そして霞は彼に触れてすらいないのだ。

  まさか最初から、奏はすでに魔導具の鍵を失っていたというのか?


  あるいは、彼が前々回の地下実験室において、あの狂った薬師によって鍵を胸の血肉の鍵穴へと生きたまま押し込まれ、空間を引爆させたあの瞬間の時点から、すでにあの鍵は消失していたのだろうか。


  ノンノンは奏が非常に焦り狂っているのを目にし、同様に憂慮を抱いて地面を捜索し始めた。


「おい、奏、どうしたんだよ? 何か大事なものを失くしたの?」

  少年がまるで絶望した野獣のように地面にうずくまり、四处を乱雑に翻弄しているのを見つめながら、竜人の少女の顔から高傲さは一瞬にして退色した。彼女も同じようにうずくまり、尖った耳をいくらか困惑気味に揺らしながら、両手を青苔の生い茂るレンガの隙間へと入れて胡乱に摩索し始めた。


  しかし奏は焦りのあまり奥歯をきつく噛み締め、額からは細かな汗の粒がびっしりと滲み出ていた。


「もしあの魔導具の鍵がなければ……王室の寝宮へ入ることができないんだ……」

  あの鍵は空間を穿梭するための媒介だ。それがなければ、たとえノンノンが彼をこの物理的な意味での高牆の向こうへと連れていくことができたとしても、彼は寝宮の外側にあるあの高階の魔法師たちが連手して構築した空間結界を絶対に開くことができない。彼は門外へと強固に拒絶され、そのまま時間が尽き果てていくのを、死神が再び降臨するのをただ指をくわえて見つめるしかなくなる。


  糞食らえ!糞食らえ!糞食らえ!


  ――だっ、だっ、だっ。

  突然、一つの火光が出現した。衛兵の巡邏だ!


  重悶たる金属靴の打撃音が何の前触れもなく高牆の角から炸裂した。橘紅色の松明の光芒が牆面の上に歪んだ長い影を引きずり出すのと同時に、完全武装を施した王宮の守衛の一個小隊が、まさにこの暗巷へと向かって歩みを進めてきている。甲片の衝突するジャラジャラという音が、寂静たる夜の中で人々の心を格別に驚心動魄に震わせた。


  奏とノンノンは即座に何か物陰を探して身を隠そうとした。


「こっち!」

ノンノンは奏の衣の角を掴み、反対側の陰影の中へと引きずり込もうとした。

  しかし、前方からも後方からも足音が響いてくる。


  もう一端の巷口からもなんと火光が浮かび上がってきた。急促な足音が交織し合い、二つの巡邏隊は明らかに交接を行っている最中であり、何の死角もない完全な挟撃の構えを形成しつつあった。


  彼らには行く場所がなかった。

  松明の光芒はすでに暗巷の内部へと蔓延し始めており、あと最多でも五秒が過ぎれば、揺らめく光の輪がこの壁の根元にうずくまる二つの後ろ姿を完全に暴露させてしまうだろう。


  暗巷のなかには、ただ家屋の裏門だけが通行可能な状態で存在していた。

  数枚の、幾多の風霜を経て陳腐な木頭の臭いを放っている古い木門が固く閉じられていた。それらは貧民窟、あるいは廃棄された倉庫の裏門であり、宵禁が極めて厳格なドルイラ王国においては、この種の門は夜に入れば無一に内側から強固に反鎖されているのが常だった。


  奏にはそこまで考慮している余裕などなかった。

  どうせどちらにせよ死ぬのだ。衛兵に捕まってその場で格殺されるのも、任務失敗となるのも何の違いもない。


  彼は猛然と最も近くにある一枚の黒褐色の木門へと飛びかかり、手を伸ばしてそのうちの一枚の門を必死に押し込んだ。全身の重量のすべてがそこへと圧し掛けられ、手のひらは粗糙な木質の紋路へと死に物狂いに押し当てられた。


  ただ、鍵が掛かっていないことだけを祈求する。

  彼は心底で狂ったように吶喊し、指の関節は過度な力道によって微かに白くなっていた。


  しかし、予想に反して。


  ――おん

  一声の極めて微弱な、奏にしか聞こえない空間の共鳴音が不意に耳元で響いた。


  彼は本来、堅硬な木板によって激しく反震される心理準備を整えていたのだが、触れた瞬間、掌の下にある木質の紋路は、なんと粘調な水面へと変化したかのように感じられた。


  その門に、突然一条の裂け目が出現した。

  いや、それは物理的な意味での裂け目ではなかった。それは幽藍色の微光を放ち、縁において絶えず重なり合う陰影が揺らめいている空間の罅隙だった。それは何の前触れもなく門板の中央から引き裂かれ、一人分の高さを超える扭曲した渦巻へと変化した。


  一つの巨大な吸引力が渦巻の中心から爆発し、ダイレクトに奏とノンノンを家屋の内部へと進入させた。


  ――ぽん。

  重物が地面へと落ちる音は非常に軽かった。


  次の秒、空間の裂け目は彼らの背後で驟然と合流し、幽藍色の微光は跡形もなく消散した。外側の松明の光芒、喧騒たる金属靴の打撃音、そして夜風の呼気は、一瞬の間に一枚の厚重な壁によってもう一つの世界へと隔絶された。


  部屋の中には廃棄されて久しい塵土の臭いが充満していた。微弱な月光が高所にある手のひらほどの大天窓を透過して降り注ぎ、周囲に積み上げられた破れた紡織品を照らし出している。


  安全になったのだ。


「これは一体どういうこと?」

  ノンノンは全身を大の字にしてボロ布の山の中に突っ伏していたが、灰まみれの顔を上げて這い上がってきた。あの竜人族の尖った耳は極めて大きな驚嚇を受けたかのように、頭の両側で狂ったように撲稜と羽ばたいており、背後の黒い大尾は筆直に強張っていた。


  彼女は首を巡らせ、一双の亮々とした瞳に駭然と無法置信の光を満たしながら、同じように地面へとひっくり返っている少年を死に物狂いで見つめていた。

「奏、まさかこれってお前のスキルなの!?」


  先ほどの一瞬の感覚を、彼女はあまりにも熟知していた。それは純粋な空間の跨越であり、いかなる物理的な軌跡も持たず、施錠された部屋の門や物質の阻隔を完全に無視してみせた。彼女の認知においては、極めて少数の高階の魔導具を保持する怪物か、あるいは希少な空間の天賦を覚醒させた強者だけがこれを成し遂げられるはずだった。


  しかし予想だにせぬことに、奏本人もまた非常に震撼していた。

  彼は冷たい床の上に座り込み、いくらか呆滞した様子で自らの両手を見つめていた。手のひらには先ほど門板へと触れた際のあの粘調で、温熱を帯びた触感が未だに残留しており、隠隠約約として、彼は自らの皮膚の下にある血管の中に、今やある種の奇妙な、氷冷なエネルギーが大動脈の中で緩慢に流動しているのを確かに感じ取ることができた。


  彼は確かに魔導具の鍵を失っていた。それなのに、空間を穿梭する能力を使用することができたのだ。

  黄銅の鍵はなく、繁復な起動のルーンもない。ただ単に、彼が先ほど抱いた「中に入りたい」という強烈な渇望に憑依されることで、空間は彼に向かって大門を開いてみせたのだ。


  脳裏に、前々回の死亡前の画面が猛然と爆発した――あの狂った薬師が彼の胸を剖き、あの空間の鍵を彼の血肉が曖昧になった鍵穴の中へと生きたまま押し込んだ。

  奏の呼吸が突如として停滞した。彼は震えながら手を自らの無傷の胸へと押し当て、皮膚の下で狂ったように脈打つ心臓を感じ取っていた。


  まさか……。

  魔導具の鍵は、奏のお腹の中に飲み込まれてしまっていたのか?!


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