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冒険者ギルドに転移したら、何度も死に続ける王女殿下に出会った件、知らぬ間に彼女と死の運命を共にする契約が結ばれていた  作者: ぼうせん ゆきりん
第一章 『死に寄り添う海月』

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第一章23 『ありがとう死神』

「うわあああああ――!」


  奏は猛然と双眸を見開き、喉の奥から引き裂かれるような惨叫を迸らせた。その声はあまりに尖鋭で、自分自身ですら見知らぬものに感じられた。両手は空気中で狂ったように泳ぎ、指爪は手のひらへ深く食い込み、瞳孔は極限の恐怖によって驟然と二つの針の先ほどの黒点へと収縮した。


  彼は両手で自身の胸元を死に物狂いで押さえた。

  血の穴はない。暴力的に穿たれ、縁が不気味な微光を放っていたあの鍵穴もない。掌から滲み出る粘調で滾る血液も、空間によって血肉と骨格が生々しく引き裂かれるあの吐き気を催す触感も、どこにもなかった。


  胸は平らで、皮膚は完全に無傷。ただ、見慣れた黒い露臍の短衫だけが、冷や汗に濡れて肌にぴったりと張り付いていた。


「俺……生きてる、のか?」

  奏は荒い呼吸を繰り返しながら、茫然とした視線で周囲を掃射した――湿って冷たい青苔の壁、廃木桶が積み上げられた死角、遠くの長街から響いてくる規則正しい金属靴の打撃音。


  ここは、まだあの暗巷だった。

  彼は回帰したのだ。王宮へ潜入する前の、まさにこの瞬間へと。

  奏がその九死に一生を得たかのような慶幸からまだ立ち直れずにいた時、ただ茫然と瞬きをした――。


  次の刹那。

  全身から聖潔な白い光を放つ一神の影が、何の前触れもなく、彼の真ん前に出現した。


  足音はなく、空気の流動すら一切感知させない。まるでその人影は最初からずっとそこに立っており、今この瞬間にようやく奏の視界に捕捉されたかのような不条理さだった。


  氷冷な触感が、奏の首筋へと押し当てられた。

  純粋な魔力によって凝縮され、幽藍たる寒光を放つ長剣が、今まさに彼の咽喉にぴったりと密着している。刃の鋭利さは、あと半分でも前に進めば、容易く皮肉を割いてみせるだろうと思わせるほどだった。


  これらすべてが、一秒に満たない時間のなかで起きた。


「お前は誰だ!」

  うづき・かすみの声には、かつてない、実体化せんばかりの鋒鋭が宿っていた。純白のフードの奥に隠されたその双眸は死に物狂いで奏をロックしており、前の周回で見せたあの余裕のある、居高臨下な戯言の気配など微塵もなかった。


  奏は全身を硬直させ、背中は一瞬にして冷や汗に塗り潰された。


  おかしい。

  今回の霞(かすみ)は、なぜこれほどまでに激進的なんだ? なぜ一言の挨拶も、試探的な世間話すらなく、ダイレクトに殺意を剥き出しにして迫ってきたというのか。


  しかし、彼にはこの詭異な落差を細かく思考する時間などなかった。首筋にある魔法剣から伝わる氷冷な圧迫感が、胸中に渦巻く困惑を喉の奥へと強引に押し戻すことを強いていた。


「通りすがりの者です……絶対に、悪意はありません!」

  奏の声は形をなさぬほどに震え、両手は硬直したまま半空へと掲げられ、何の脅威もないという姿勢を示した。

  だが、霞の警戒は少しも衰えることなく、むしろさらに濃厚さを増し、魔法長剣が咽喉へと押し当てられる力道が、再びわずかに強まった。


「お前は、一体何者だ!」

  その詰問には、遅延を許さぬ迫切さが孕まれており、まるで次の瞬間に納得のいく回答が得られなければ、その剣が躊躇なく振り下ろされるかのようだった。


  奏は刃がすでに皮肉へと密着し、極めて微小な刺痛が首筋から伝わってくるのを感じた。彼にはもう躊躇する余地など一片もなく、ほぼ全身の力を振り絞って、その名前を嘶吼した。


「俺の名前は、九世奏です!」

  言葉が落ちた瞬間、空気はまるで驟然と凝滞したかのようだった。

  霞のあの極限まで鋭利だった目線が、その刹那、極めて明白に弛緩していった。


「九世奏……なるほど……」

  彼は低くその名前を繰り返し、語気に含まれていたあの張り詰めた殺意を、一寸ずつ霧散させていった。


「お前が、王子から監視を託されている危険人物か……」

  言葉が終わるや否や、半空に凝縮されていた魔力の長剣は、まるで雪花が消融するように、静かに数筋の淡藍色の光霧へと霧散し、完全に夜色の中へと溶けていった。

  霞は手を引き、その高大な身体を半歩ほど後退させ、改めて目の前の冷や汗に塗れた狼狽極まる少年をねめ回した。


「なぜここにいる?」

  この詢問は、前の周回におけるあの試探の味を帯びた悠閑さとは、完全に一線を画していた。現在の語気には、隠そうともしない審慎が透けて見えている。

  奏の心拍はまだ平息していなかったが、今この瞬間に少しの躊躇も許されないことだけは理解していた。


「ルフィアを見つけ出さなきゃいけないんだ!」

  フードの奥にあるその双眸は、その言葉を聞いた瞬間、驟然と沈み込んだ。


「だが、もし私がそれを許さないと言ったら?」

  この反問は何の前触れもなく訪れ、語気には疑う余地のない、居高臨下な圧迫感が宿っていた。


  奏はその突如たる回答に肝を冷やし、身体が本能的に後方へと縮こまった。しかし、彼は奥歯をきつく噛み締めた。連日、無数の死亡の中で磨き上げられてきた、あの病的なまでの執拗さが今、彼を突き動かし、崩壊寸前だった身体を強引に直立させた。


「あんたの許可なんて必要ない」

  彼の声は依然として震えを孕んでいたが、その決絶さは、疑う余地のないほどに明晰だった。

「ルフィアを見つけ出したいという俺の決意は、変わらない!」


  空気の中に、短い寂静が広がった。


  霞は目の前の、拳一つすら受け止められそうにないほどに痩せ細り、脆弱な少年をじっと凝視していた。その深邃な双眸の奥に、極めて一瞬の、驚訝に近い動揺が閃いた。


  その後、彼は笑った。

  その低沈な笑い声が暗巷の中に広がり、そこには隠そうともしない興味がいくらか混じっていた。


「面白い、先ほどは失礼した」

  彼は微かに頷き、語気にあったあの審視の鋒鋭は、完全に退色していった。

「私の名前はうづき・かすみ。この王国の将军だ」


  奏は茫然と頷き、極限まで張り詰めていた神経が、ようやくいくらか松懈した――すべてが、彼の知る馴染み深い方向へと再び戻っていくかのように思えた。


  しかし次の瞬間、霞はそれ以上何も語らず、前の周回のようにあの約束を象徴する骨哨を差し出すこともなかった。ただ身を翻すと、その漆黒の影は音もなく暗巷の奥深き陰影の中へと溶け込み、完全にその足跡を消失させた。


  奏は怔々とその場に立ち尽くし、あの何一神の気配も残されていない空虚な暗黒を見つめていた。一時間、脳の反応が追いつかなかった。


「俺と……友達になってくれなかった、のか?」

  彼は呟いた。その茫然とした思いが、心底に静かに沈殿していった。

  だが、彼にはこの落差を細かく思考する時間は多く残されていなかった。


  王宮の高牆は、依然として夜色の深奥に静かに聳え立っており、彼の二度目の挑戦を待っている。

  奏は深呼吸をし、心頭にまとわりつく疑惑を強引に圧し込め、足を染めて、再びあの見慣れた白い高牆へと向かって歩き出した。


  案の定、間もなくして、あの聞き覚えのある、どこか慵懶な挨拶が再び背後から響いた。


「よっ!」

  奏は猛然と振り返った。ノンノンが暗巷の反対側に立っており、腕を組んで、利口な黒い短髪を月色の中で微かに光らせていた。あの竜人族の尖った耳と背後の太く長い尾は、相変わらずこの粛殺たる夜色とは不釣り合いな生気を漂わせている。


  やはり、彼女は確実にこの巷で張り込みをし、彼の出現を待っていたのだ。

  ノンノンを目にしたその瞬間、奏の心底には言葉に尽くしがたい慰めが湧き上がった――連日積み重なっていた孤独と恐怖が、この馴染み深い姿によって、いくらか消散していくかのようだった。


  しかし直後、ある画面が猛烈に彼の脳裏へと衝突した。

  あの棚の上に静かに置かれていた、奇妙な造形をした一足の皮靴。


  あの狂った薬師の、笑みを浮かべた、誇らしげな声――『この一足の魔導具……すなわち靴へと仕立て上げたのだよ、ハハ……』


  奏の呼吸が一瞬にして凝滞した。

  それはノンノンのスキルが生きたまま奪い去られた証明であり、彼女のあの鮮活な肉体が、完全に粉砕されて冷たい器物へと成り果てた結末だった。


  たとえそれが、すでに抹消された一つ前の周回に過ぎないとしても、あの記憶は今、まるでつい先ほど起きたことであるかのように鮮明に、彼の心口へと深く突き刺さっていた。


  奏は拳を死に物狂いで握り締め、指爪が手のひらへ深く食い込んだ。しかし、彼は何も言葉にすることができず、ただ目の前の、何の防備もなく笑みを浮かべている少女をじっと見つめることしかできなかった。全身から生理的な寒気が這い上がってくる。


  ノンノンは彼のこの異様な沈黙を察知したのか、首を少し傾げ、背後の尾を優しく一振りした。


「ねえねえ、ちょっとは相手してよ!」

  彼女は笑いながら少し距離を詰めてきた。語気にはいつもの随性が混じっている。

「お前、この壁を越えたいんでしょ? アタシが手伝ってあげられるよ! でも条件があるの。アタシをお前の冒険団に入れなさい!」


  その言葉は、まるで重槌のように、奏の心口へと容赦なく叩きつけられた。

  脳内にあるあの冷たい皮靴の画面と、目の前にあるこの鮮活で、笑みを浮かべた姿が、猛然と重なり合った。骨髄に深く刻まれた恐怖が、彼にほぼ本能的に、何の躊躇もなく言葉を吐き出させた。


「ごめん! お前を加入させるわけにはいかない!」


  言葉が落ちた瞬間、ノンノンの顔から笑みが驟然と凍りついた。

  あの竜人族の尖った耳が、肉眼でわかるほどの速度で、ゆっくりとだらりと垂れ下がっていった。背後のあの太く長い黒い尾も、先ほどまでの生気を失い、無力に地面へと垂れ下がった。


「アタシのこと……そんなに嫌いなの……?」

  彼女の声は非常に軽く、彼女自身すら気づいていないような、本物の委屈が混じっていた。


  奏の心臓が猛然と沈み込み、彼は慌てて手を振り、必死に弁解しようとした。

「違うんだ! 王宮の中は本当に危険で――」


  しかし、彼の言葉が終わる前に、ノンノンはすでに身を翻していた。その繊細な後ろ姿には何の未練もなく、ほぼ一瞬の間に黒い流光へと化し、あの高聳する宮牆の上へと軽やかに躍り出ると、二度と振り返ることなく、夜色の向こう側へと完全に消失していった。


  後に残されたのは、奏ただ一人。彼は茫然とその場に立ち尽くしていた。

  長街の靴撃音は依然として規則正しく回響していたが、今の彼の耳には、それが格別に刺々しく、格別に空虚に響いていた。


  彼は霞を怒らせ、ノンノンをも怒らせてしまったのだ。

  本来なら構築できたはずの、あの構築されるべきだった大切な紐付けが今、彼のあの何の緩衝もない、粗暴に近い拒絶によって、完全に粉砕されてしまった。


  彼は背中を預けて戦えたはずの仲間を一人失い、この冷酷な異世界において、彼をいくらか慰めてくれたはずの二つの友情をも同時に失ったのだ。


「俺、彼女にあんなに約束したのに……」

  奏は呟いた。その自責と困惑が、潮水のように狂おしく湧き上がってきた。


「なんで俺はこんなに不条理なんだ……でも、でも……あそこは危険なんだ……彼女が傷ついてしまう……」

  彼はノンノンを保護したかった。あの狂った薬師の手の中で再び祭品にされるのを見たくなかった。しかし、彼が選択したその方式は、皮肉にも彼女を最も遠くへと突き放す結果を招いてしまった。


  自分の拒絶があまりにも果断すぎたのだろうか。弁解があまりにも怠慢すぎたのだろうか。それとも、自身の語気のなかに、自分すら気づいていないような冷漠が隠されていたのだろうか。

  彼には分からなかった。保護のつもりだったその心意気が、なぜ最終的にこのような、両方を失う結末へと演変してしまったのかすら理解できなかった。


  奏は茫然とその場に立ち尽くし、現実と可能性によって同時に刺し貫かれたその鈍痛は、今にも彼を完全に押し潰そうとしていた。


  しかし直後、さらに致命的な問題が、猛然と彼の脳裏に浮上した。

  ノンノンの協助を失った今、彼は一体どうやってあの高牆を越えればいいというのか。


「あの魔導具の鍵があっても、大門が必要なのに……」

  奏は呟き、下意識に手を伸ばして、腰にあるあの皮製の細腰帯へと触れた。


  彼の指先は赤色の薬水が入った二つの円潤なボトルの表面を何度も摩索したが、本来ならその腰側にずっしりと存在しているはずの、あの繁複な金属の触感は、いくら探しても見つからなかった。


「あれ……魔導具の鍵は!? なんでないんだ!」

  奏は猛然と頭を下げ、両手で慌てしく腰のあたりとポケットの中を狂ったように手探りした。しかし、彼がどれほど翻弄して探そうとも、あの幽光を放つ黄銅の鍵は、完全にその痕跡を失っていた。


  彼の心拍は突如として激しくなり、冷や汗が頬を伝って大粒になって流れ落ちた。


  そんなはずはない。

  こんなことが起きるはずがない。


  彼は確実に回帰したのだ。すべては最初の起点へと戻っているはずであり、あの鍵は、理詰めで言えば彼の懐に静かに収まっているべきだった。それなのに、なぜ今、それは虚空へと消失しているのか。


「まさか、まだあの狂人の手に……」

  彼を全身硬直させるような一つの念頭が、脳裏の深奥から驟然と弾け飛んだ。

「あり得ない……あり得ない! 俺はもう回帰したんだ……」


  しかし、彼が心底でどれほど繰り返し否認しようとも、そのずっしりとした現実は、依然として冷徹に目の前に横たわっていた――魔導具の鍵は、本当に消えていた。


  奏はまるで喪家之犬のように、先ほど通り過ぎた経路に沿って、一寸ずつ何度も反復して捜索した。しかし、彼がどれほど頭を下げてあらゆる角を細かく見ようとも、あの鍵の半点たる痕跡すら見つからなかった。


  鍵もなく、ノンノンもいない。彼は今夜、王宮へと潜入するすべての可能性を完全に喪失したのだ。


  その重苦しい、窒息せんばかりの挫敗感が、最終的に彼を完全に押し潰した。

  奏は鉛を流し込まれたかのように重い両脚を引きずり、一歩一歩、あの色褪せた木札が掛けられた旅館へと戻り、大堂の角にあるあの冷たい長椅子の上へと頽然と腰を下ろした。


「なぜこんなことに……」

  彼は低く呟き、両手で顔を死に物狂いで覆った。

「計画が完全に狂った……俺は王宮に入るどころか……」


  あまりに長く積み重なってきた疲弊と自責が混ざり合い、彼を完全に呑み込んでいった。

  どれほどの時間が流れたか分からぬ頃、目元のあの滾る涙の感覚が、ついに深重な困意と混ざり合い、同時に彼を一つの濁った暗黒の中へと引きずり込んでいった。


  奏が再び双眸を開いた時、周囲は依然として深沈たる墨紺色の夜色だった。

  しかし、彼を眠りから驟然と驚醒させたのは、決して外部のいかなる音響でもなかった。


  骨の髄まで戦慄させるあの馴染み深い、時間が完全に停止した死寂だった。

  周りのあらゆる色彩がその刹那、驟然と退色し、一面の刺々しく惨烈な灰白へと変化した。


  奏は猛然と長椅子から起き上がり、その墨色の双眸を死に物狂いで見開き、大堂の深奥からゆっくりと浮上してくるあの純黒の輪郭を見つめた。

  今回、彼は誰に対しても自身の契約を漏らしていない。


  ということは、唯一の可能性――。

  ルフィアが、すでに死んだのだ。


  あの巨大な黒い鎌を引きずった死神が、一歩、また一歩と、彼に向かって緩歩で近づいてくる。足音はこの死寂たる世界の中で、格別に鮮明に響いていた。


  奏は怔々とその近づいてくる人影を見つめていたが、自分自身すら驚訝を覚えるような一つの感情が、心底から静かに浮上してきた――それは恐怖ではなく、絶望でもない。むしろ一種の解脱に近い、詭異な平穏だった。


「やっぱり今日が過ぎたら、ルフィアは危険な目に遭うんだな……」

  彼は呟いた。その双眸は死神の近づいてくる輪郭を死に物狂いで見つめており、長く積み重なっていた『俺は一体何を間違えたんだ』というあの自責と迷茫が今、この確実たる死亡によって、皮肉にもいくらか弛緩していった。


  少なくとも、彼は知ることができた。

  少なくとも、次の周回において、彼は事前にこの狂った結末を回避することができる。


  死神は彼の目の前で足を止め、あの巨大な鎌が、灰白の世界の中でゆっくりと掲げられた。

  奏は逃げず、二度と身悶えもせず、ただ静かにその純黒の輪郭を、その今にも振り下ろされんとする氷冷な刃鋒を見つめていた。


  鎌が、鮮やかに振り下ろされる。

  鮮血が、その場に飛び散った。


「ありがとう……」


  ――死をもって、俺に引き下がる資格などないと教えてくれてありがとう。鮮血をもって、俺の向こう見ずな挑戦が、あの白髪の水母編みの馬鹿にとって決して一目的な自己満足なんかじゃなく、彼女がこの世界で生き残るための唯一の生路なんだと証明してくれて、ありがとう。


  奏は、死んだ。


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