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冒険者ギルドに転移したら、何度も死に続ける王女殿下に出会った件、知らぬ間に彼女と死の運命を共にする契約が結ばれていた  作者: ぼうせん ゆきりん
第一章 『死に寄り添う海月』

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第一章19『晶球の誘惑』

  がらんとした長街に、先ほどまで重槌のように地面を打ち鳴らしていた金属靴の足音は、突如として響き渡った鋭く鋭敏な口笛の音によって、唐突に掻き消されていった。


  月光を反射していた銀色の胸甲の群れは、号令の声に合わせて、飛ぶような速さで街の反対側にある広場へと集結していく。ほんの数十秒の間に、本来であれば水も漏らさぬほど厳重に包囲されていた王宮の外周には、あろうことかあの将軍が告げた通り、死に絶えたかのような完全な空白の領域が生まれ落とされていた。


「五分、か……」


  奏は手のひらの中に握りしめた、あの隠微な光を放つ銅製の空間の鍵を死に物狂いで握りしめていた。額からにじみ出た冷や汗が、乾いた頬を伝って滑り落ち、足元の湿った青石板の上にパタパタと零れていく。彼にはこれがさらなる深い罠であるかどうかを躊躇している時間など、一分一秒たりともなかった。衛兵たちの皮甲の摩擦音が完全に遠ざかったその刹那、彼は一本の黒い雷霆の如く、猛然と暗巷の陰影の中から飛び出した。


  大理石の聳え立つ階段が、月光の下で惨白な光を放っている。


  奏はできる限り身を低く屈め、足元のあの古びたランニングシューズで、この瞬間における極限の速度を叩き出していた。あの貧民区の老婦人から譲り受けた暗褐色のズボンと黒いヘソ出しの短衣に着替えてからというもの、彼の動作は極めて軽快になっていた。風が腰を通り抜け、骨を刺すような寒気をもたらしたが、それは同時に、低血糖によって停止しかけていた彼の頭脳に、ある種の自虐に近い清醒を維持させていた。


  本来であれば重兵によって厳重に警護されていたはずの、あの白い円拱形の宮門を跨ぎ越えた刹那、彼の視線は飛ぶような速さで両側へと掃射された。


  整然とした広大で、聳え立つ王宮の前廊は静まり返っており、ただ数盞の壁灯が夜風の中で激しく揺れ動いて、彼のその頼りない影を、壁面の上で歪に、そして細長く引き伸ばしているだけだった。


「本当に……衛兵が一人もいないなんて……」


  奏は心の底で低く息を吐き出し、いかなる躊躇もなく、直接王宮の内部へと通じる、あの暗紅色の絨毯が敷き詰められた深邃なる長廊へと突入していった。


  足取りが厚手の羊毛絨毯を踏み締めても、いかなる物音も生じることはなかった。しかし、周囲が静まり返れば返るほど、彼の胸腔の中にある心臓はますます狂ったように跳ね踊り、鼓膜を痛いほどに震わせていた。


  彼はポケットの中から、あの複雑な魔導具の鍵を模索し、取り出した。

  老薬師は彼を欺いてはいなかった。この鍵を手のひらに握りしめたその刹那、彼の神魂の最底層に属していた、あの【無法被告訴の契約】との繋がりは、まるで一振りの無形の鈍刀によって生々しく切断されたかのように、一瞬の間に死に絶えた虚無へと化し、強烈な空虚感が胸を襲った。


  技能が……本当に失效している。

  現在の彼は、あの死亡回档という保険を持ち合わせておらず、もう一度やり直すための資本もない。この五分の間にほんの一歩でも踏み外すか、あるいは戻ってきたどこかの一人の衛兵によって一槍で喉を貫かれでもすれば、彼、九世奏という存在は、この冷酷極まる十四号異世界の中から完全に消滅することになる。


  このような、深淵の淵に懸かっている巨大な恐怖は、密な鳥肌へと化し、彼の背中から爆発的に広がっていった。


  しかし、彼は足を止めなかった。

  前方にある長廊の行き止まりには、一枚の固く閉ざされた黒檀の双開大門があった。奏は滑り込むように門前へと突進し、鍵穴を弄ぶ動作など一切せず、ただ極めて粗暴に、かつ的確に、あの複雑な金属の鍵を直接門の隙間へと突き刺した。


  嗡——

  一種の極めて微弱な、肉眼ではほとんど捕捉することのできない空間の漣が、門の隙間から蕩然と広がった。


  この鍵の本質は、決して空間を隔てて物品を移動させるような高階の空間魔法などではなく、それはある種の法則を付与された万能の鍵に近かった。門の隙間に接触したその刹那、壁を穿つための出入口を一時的に開くことができるのだ。


  然而、その副作用は決して小さくはなかった。短時間だけ技能を剥奪されることの他に、一回のすり抜けを行うたびに、奏は手のひらから火に焼かれるような灼痛が伝わってくるのを感じていた。まるでその鍵が、彼のもともと枯渇していた気血を狂ったように吸い上げているかのようだった。


  奏は歯を食いしばり、一言の呻き声を発する余裕すらなく、その細い身躯を、空间が歪んだその刹那に、生々しく中へと押し込んだ。


  眼前で白黒の視界が交錯し、視線が回復したその刹那、彼はすでに一箇所の広々とした物置部屋の内部へと置かれていた。


  休息のための時間などあるはずもなく、彼は転がるように物置部屋のもう一側の後門へと突進し、再びその鍵を門の隙間へと突き刺した。


  彼は盲目的に、一直線の上を狂奔するような真似は決してできなかった。あの将軍が引き揚げさせたという路線が、いついかなるノードにおいて、再び殺機によって満たされるかは誰にも分からないのだ。


  奏はいかなる鍵穴をも無視し、不断に連なる個々の空間の中をすり抜け続け、時には自身の身を強引に止め、極めて神経質に耳を門板へと貼り付けて、次の空間の内部に何者かの気配が潜んでいないかを死に物狂いで確認していた。


  彼は恐れていた。深夜において交代勤務しているそれらの宮廷の召使いたちを驚かせることを恐れ、さらには自分自身が不用意にどこかの一人の高階魔法師の瞑想室の中へと衝突してしまうことを何よりも恐れていた。


「呼……呼……」

  彼の毎回の呼吸には、すべてある種のふいごのような沙啞さが帯びていた。革製の細い腰帯の上に掛けられていた二缶の赤色薬瓶が、激しい動作の間に絶えず衝突し、微細な、清脆な響きを立てていた。


  連続して四つの空間をすり抜けた後、奏は一枚の複雑なチューリップの紋様が彫刻された大門の前で、生々しくその足取りを止めた。


  彼は額の上の、もう少しで目を塞いでしまいそうになっていた冷や汗をひと拭きし、震えながらその鍵を中へと突き刺した。

  大門は無音のうちに、空間が重なり合う中で跨ぎ越えられた。


  彼の両脚が再び実地を踏み締めたその刹那、周囲の空気はにわかに極めて圧迫され、かつある種の死気沈沈とした絢爛さを透かしていた。

  頭上には巨大な、無数の水晶流蘇が垂れ下がったシャンデリアがあり、四方の壁面の上には歴代の王室成員の巨大な油絵が所狭しと掛けられていた。ここには雑物間や走廊のような狭苦しさはなく、広大として近乎空っぽだった。


  ここは、あの最高禁令が下され、完全に封鎖されたはずの王室寝区である理屈だった。

  奏の心臓が猛然と一つ音を跳ね上げた。成功した。彼はあろうことか本当に、この五分の空白の時間と老薬師の鍵を頼りにして、この王国の最も核心たる地帯へと強引に潜り込んでみせたのだ。


  しかし、彼が頭を上げて、ルフィアが軟禁されている可能性のある偏殿の方向を捜索するよりも早く、彼が前方へと一、二歩踏み出したその足底は、まるで何らかの無形の尖刺を踏み付けたかのように、生々しく宙の中で硬直した。


  大殿の中央、一箇所の巨大な金色の帳の傍ら。

  一筋の修長で、尊貴でありながら、しかし同時に極度に人に不快感を抱かせるねっとりとした気配を放つ人影が、現時点において、直立してそこに立っていたのだ。


  相手の身には、極めて洗練された華貴なる皇室の長袍が纏われており、襟元には紫金色のシルクの線が描かれていた。月光と壁灯が交錯する下にあるその若い顔面は、いささか過剰なほどに蒼白に見えた。


  彼は本来であれば、何事かを沈思していたようだった。しかし、この極めて細微な動静を聞きつけた後、その細長い瞳がわずかに斜めへと向けられ、ある種の居高臨下の、陰冷なる審視を湛えて、的確に奏の身の上へと突き刺さった。


「衛兵はどこへ行った? そして、お前は誰だ?」

  その声は極めて軽薄であったが、長年高位に居る者特有の、不容置疑の傲慢さを透かしており、空っぽな王室寝区の内部において、一陣の細かな残響を激起させていた。


  この男の全身の身なりを見れば、おそらくは王子だろう。

  奏の瞳孔は一瞬の間に縮み、針の尖ほどの大きさとなった。


  なぜこのような大人物にここで遭遇してしまうのか!


  生理的な恐怖により、奏にはいかなる躊躇の暇もなかった。彼の身体は頭脳よりも早く反応を示し、足元が一滑りすると、彼は極めて狼狽しながら連続して後方へと丸々三歩退いた。彼の右手は無意識のうちに腰側へと探りを入れようとしたが、そこには解毒と気血を補充するための薬瓶があるだけで、白刃戦を行うための武器など根底から何一つとして存在しなかった。


  退く。必ず退く。

  しかし、彼の背中が身後のあの冷たい石壁へと結実として衝突したその刹那、まるで氷窟に落ちたかのような絶境の感が、瞬間的に彼の全身を席巻した。


  彼が今しがた通り抜けてきたあの門は、現時点における物理的な層面において固く閉ざされており、彼に鍵を再び発動させるための時間など残されてはいなかった。


  彼は逃げ場を失ったのだ。

  奏はただ、どこか乾いた下唇を死に物狂いで噛み締め、両手をいくばくか神経質に胸の前でガードして、何の型もない、滑稽至極な防御の姿勢を取るしかなかった。視線は狂ったように四方を打量し、人を殴りつけるために使用できそうな花瓶がどこかにないかを死に物狂いで捜索していた。


  対面する王子は、奏のその驚恐し、極限まで警戒している姿を冷徹に見つめていた。

  彼の視線は、奏のそのやや薄手のヘソ出しの黒い短衣、およびどう見ても奇妙さを透かしているあの古びたランニングシューズの上に、約二秒ほど留まった。


  突如として、王子は何か極めて面白い事柄でも思い出したかのように、陰影の中に隠れたその細長い瞳をわずかに細め、口元を極めて悪劣に、玩味の弧度へと歪ませた。


  彼はどこか沙啞な低笑を漏らした。

「お前が、九世奏か?」


  自身の姓名がこの見知らぬ王子の口から吐き出されるのを聞いたその刹那、奏の瞼は劇烈に震え、全身の筋肉はまるで一本の今にも断裂しそうな弓弦の如く強張った。


  王子は前方へと半歩踏み出し、華貴な長袍が空気の中を払って、ある種のいささか鼻を刺す薫香の匂いを巻き上げた。

「私はこのデルイラ王国の王子だ」


  彼はわずかに下顎を上げ、精美な玩具を見つめるかのような目線をもって、奏のそのやや怯えを帯びた黒眸を死に物狂いでロックした。

「私はかつて、将軍を派遣してお前を捜索させた。しかしお前という奴は……依然として将軍の捜捕を無視し、かつ毫髪も傷つくことなくここへと至ってみせたな……」


  王子の声の中には、一筋の純粋な好奇と探究が混じり合っており、彼はどこか懐疑を抱いて頭をわずかに傾げた。

「実に奇妙だ……お前は明らかに、一糸一毫の魔力の波動すら持ち合わせておらず、技能も見当たらん。ただの脆弱な凡人に過ぎんというのに」


  この王子の嘲弄を帯びた確信を聞きながら、奏のあの喉元まで懸かっていた心臓は、しかし極めて怪異に、一瞬だけ停止した。


  将軍の捜捕を無視した? 将軍を派遣して捜索させた?


  数分前、あの陰暗な、廃木桶が積み上がった暗巷の深部において、あの黒白の切り替えの服飾を現してみせた高大なる男子。あの純白のフードの下において、彼の瞳孔との距離がわずか三センチしかなかったあの審視の双眸——『五分後、私はすべての衛兵を召集する。わずか五分の時間だ、よく把握するがいい』


  その一言が、まるで休むことを知らない振り子の如く、奏の脳裏の深部において狂ったように衝突し始めた。


  奏は隠微に、何らかの極めて不合理なロジックの断層を捕捉していた。

  夜色によって浸透された彼の瞳が死に物狂いで見開かれ、目の前の王子を凝視した。ある種の極度の困惑と本能的な試探を携え、乾いた声で反問した。


「衛兵……衛兵は全員あの将軍が呼び出したんだ。これはあなたたちが設計した計略ではないのか?」


  言葉が落ちたその刹那。

  本来であれば高高に位置する玩味の笑みを浮かべ、余裕たっぷりに獲物を打量していた王子は、全身がにわかの間にその場に硬直した。


  彼の瞳孔はこの一瞬の間に極めて劇烈に縮み、そのもともと蒼白だった顔面は、一瞬の間にすべての血色を失って、まるで一枚の死人の紙の如く惨白へと化した。


  空気は、この一秒において絶対の死寂へと陥った。


「お前は……何を言っている……?」

  王子のあの本来であれば軽薄で、磁性を帯びていた声は、現時点における極度の震驚と、ある種の押し殺すことのできない恐怖により、あろうことかいくばくかヒステリックに変調していた。


  彼は奏を死に物狂いで凝視し、その双瞳の中には無法置信の驚駭が満ち満ちていた。

「将軍が……将軍が衛兵を調達して立ち去っただと? 主動的にお前を中へと放したというのか!?」


  奏は彼のこの突如とした劇烈な反応に一驚させられ、背中をさらに死に物狂いで石壁へと貼り付け、どこか機械的に、どこか懵懂として首を縦に振った。


  王子の額の上には、一本の青筋が突兀として暴起し、彼は自身の皇室の長袍の衣角を死に物狂いで攥りしめていた。その力道の強さゆえに、指の関節が一連の干からびた、咔咔という脆響を立てていた。

「クソが……クソが!!」


  彼はまるで何らかの極めて恐怖に満ちた精神の重創を被ったかのようであり、どこか神経質にその場で半周ほど回り、口の中で低く呪詛を吐き散らしていた。彼の先ほどまでの優雅さと自負は一瞬の間に蕩然無存へと化していた。

「あの男……あいつはあろうことか、私の指令以外の決定を下しおった……」


  彼は頭を上げ、その細長い瞳の中に閃いたものは、もはや凡人を見つめるときの傲慢などではなく、ある種の大難が臨頭したかのような驚恐だった。彼はもはや奏を一目見ることすら億劫がり、猛然と長袍を一振りすると、身を翻して大殿の内側にある一条の隠蔽された小道へと向かって飛ぶような速度で去っていった。


  彼の歩調は極めて速く、いかなる掩飾もない狼狽と倉皇を透かしており、大理石の地床を跨ぎ越える際、危うく自身の長袍の衣角に躓きそうになるほどだった。

  このドラマチックな一幕を見つめながら、奏は完全にその場に呆然と立ち尽くした。


  一体全体どういうことなんだ?

  この、先ほどまで不可一世として自らをこのデルイラ王国の主宰者の一人であると称していた王子が、どうしてあの将軍の名前を聞いた途端に、まるで幽霊にでも遭遇したかのような、これほどまでに無様な姿を曝け出すというのか?


  心の底にあるその不条理さと、情報に対する極度の欠乏は、奏にどこからともなく湧き上がってきた無謀なる勇気を抱かせた。彼はこの機に乗じて逃走するどころか、逆に足を前に進め、どこか困惑し、どこか急切として数歩追いかけ、あの倉皇として逃げ去る華貴な背中へと向かって大声で追問を投げかけた。

「おい! なんで逃げるんだ?! あなたは王子なんだろう?!」


  身後からの高喊を聞き、王子の身体は小道の入口の位置で生々しく一拍の静止を見せた。

  彼はどこか気急敗壞として頭をねじり、そのもともと英俊だった顔面は、現時点における歪みのためにいささか滑稽にすら見えた。彼は歯を死に物狂いで食いしばり、一字一字がまるで牙の隙間から生々しく噛み砕かれて吐き出されたかのようだった。

「黙れ! お前のような何も知らん白痴の凡人が!!」


  彼はヒステリックに低吼し、その瞳の中にはある種の狂気一歩手前の狠烈と戦慄が明滅していた。

「誰と対抗しようとも……宮外のあの老い先短い奴らであれ、あの自画自賛している権貴どもであれ、この本王子が畏怖することなど断じてない! 私の手段はいくらでもある!!」


  ここまで言ったとき、彼の喉の奥からは一種の極めて恐怖に満ちた生唾を飲み込む音が溢れ、視線はどこか神経質に王宮の高処にある穹頂の上を一瞥した。

「だが、もしそれが偏にあの将軍であるならば……あいつがすでに王座の調遣にすら従わなくなっているのだとすれば……私は必ずその矛先を避けねばならん!! 死にたくば勝手にしろ!!」


  この、無尽の驚恐と警告を包含した捨て台詞を投げ放った後、王子はもはや半点の躊躇も見せず、全身がまるで厲鬼に追殺されているかの如く、一頭でその陰暗な小道の深部へと突っ込んでいった。華貴な衣角が暗闇の中で一閃して消え去り、完全に走り去っていった。


  大殿の内部には、再び清冷なる死寂が回復した。

  ただ、長街の上から吹き込んできた夜風だけが、空っぽな廊柱の間で一連の低沈な、嗚嗚という哀鳴を立てていた。


  奏はどこか呆然としてその場に立ち尽くし、乾いた唇をわずかに開き、その瞳の中には隠しきれない震撼と不理解が満ちていた。

  矛先を避ける?

  あの、大々的に【将軍】の二文字を護袖の上に刺繍していた黒白切り替えの男子は、一体全体この国家の内部において、皇室の成員にすら聞風喪胆させるほどの、いかなる隠密の力を有しているというのだ?


  しかし現在、彼には真相を探求する学者になるための余裕など根底から存在しなかった。


  哐当——

  一記の重々しく、かつ耳を刺す金属の衝突音が、突如として極めて遠方の王宮外周の回廊の深部から炸裂した!


  それに緊接し、一陣の、まるで豪雨が突襲してきたかの如き密集した、重々しくかつ雑乱な金属靴の足音が、一種の極めて恐怖を感じるほどの速度をもって、それらの大理石の走廊に沿い、排山倒海のごとき勢いでこの主空間へと逼近してきた。


  まずい。

  五分が経過した。


  あの将軍が承諾した空白の時間は、この一刻において、完全に帰零を宣告されたのだ。それらの王宮を駐守する核心の衛兵たちは、最も厳苛で、最も迅速な姿を以て、彼ら各自の防線と配置へと戻ろうとしていた。

  あの四面八方から狂ったように湧き上がる足音を聞きながら、奏の頭皮は一瞬の間に完全に炸裂した。


  彼は未だにルフィアの部屋を発見していなかった。

  あの白髪のクラゲ編みの少女が、一体全体どこの一つの偏殿、どこの一つの片隅に軟禁されているのか、彼は一糸一毫の手がかりすらも、あの無様な王子から拷問して聞き出す時間を持ち得ていなかった。


  しかし、時間はすでに、彼にこの開けた大殿の中央で一人の生きた標的になることを許してはくれなかった。


「クソが……クソ、クソ、クソが!!」


  奏は心の底で狂ったように呪詛を吐き散らし、大腿の筋肉は極度の緊張のためにいくらか制御を失って微細に戦慄していた。最前列の数面の銀色胸甲が、すでに走廊の角の位置において刺すような月光を反射させているのを目にし、彼は何の躊躇もせず、極めて狼狽しながら身を低くし、大殿の一側にある最も近い一箇所の門の隙間に沿って、近乎自傷の如く手中の空間の鍵を激しく突き刺した。


  嗡。

  空間は再び、あのねっとりとした、灼熱の引き裂き感を生じさせた。


  奏には門の後方の景色を確かめる機会すら与えられず、前方に衝突した慣性により、極めて狼狽しながら一頭で中へと転がり込んだ。


‘砰。’


  身後の木門は空間が閉じたその刹那、一記の極めて沈悶で乾いた呻きを発し、死に物狂いで錠を噛み合わせた。


  世界は一瞬の間に暗転した。

  ここは……灯りの点いていない、絶対の暗黒の部屋だった。


  カーテンは固く引き絞られており、一筋の月光すらも中に浸透することは叶わず、空気の中にはある種の古びた木材の匂いが弥漫し、そこに何とも言葉では言い表し難い、鉄錆や乾いた薬草に類似した奇妙な気配が混じり合っていた。


  奏は氷冷で、粗い床の上に這いつくばり、大口で呼吸を吐き出す権利すらも剥奪されていた。彼は死に物狂いで両手を用いて自身の口鼻を覆い隠し、その激しい喘ぎの音を生々しく喉の奥へと押し戻していた。冷や汗が大量に、身後のあの黒いヘソ出しの短衣を濡らしていた。


  外の回廊の内部においては、混乱が一瞬の間に完全に爆発していた。

「闖入者がいる! この付近だ!! 速やかに行動を起こせ!!」


  それは、先ほど走り去っていったあの王子の声だった。現時点におけるその声の中には、羞恥が怒りへと変わったヒステリックな暴虐が充満しており、門外の高空の位置で狂ったように響き渡っていた。


「すべての小隊は、この本王子のために毎一つの偏殿、毎一箇所の隠し部屋をすべて引っ繰り返せ!! 断じてあいつを逃がすな!!」


「哐哐哐哐!!」


  重型の長槍が大理石の地面を衝突する音、銀色の鎧が激しい奔走のために生じさせる金属の摩擦音、それらが隙間なく交錯し、網の目のような死の罠へと化して、この一枚の薄い木門の外で荒れ狂っていた。


  すでに隣の部屋の内部において響き始めていた、門を叩く音や門を開ける音を聞きながら、奏の瞼は劇烈に震えて止まらなかった。


  彼は明確に察知していた、自分自身が遅かれ早かれ発見されるであろうことを。

  この部屋には、正規の衛兵を迎え撃つために使用できる防線など何一つとして存在しなかった。一旦門が蹴り開かれれば、それらの面無表情な銀甲の衛兵たちは、千分の一秒の間に長槍を以て彼を一つの血の穴へと刺し貫く。


「暗門……ここに暗門はないのか……あるいは外部へと通じる窓は……」


  奏は心の底で近乎狂乱として呟いていた。彼の右手は無力に、氷冷で漆黒の床の上を狂ったように掻きむしり、この絶対の暗黒の中において、生き延びるために使用できる何らかの一つの暗構造や地下通路のリングを模索しようとしていた。


  生理的な枯渇と、極度の精神的高圧は、彼の思考を低血糖のために再び一瞬の短い停滞へと至らせた。額の上の冷や汗は不断に滲み出し、彼の視線を塞いでいた。


  彼の指の関節が、一箇所のやや凹んだ床板の隙間の位置を死に物狂いで探った、その時だった。


  パタッ。

  一記の極めて細微でありながら、しかし寂静かつ暗黒の部屋の内部においては格別に鮮明な衝突音が、突兀として彼の指先の下方から伝わってきた。


  奏の動作は一瞬硬直した。

  門の隙間の外から時折閃く、一筋の極めて微弱な、衛兵の松明の反射光を借り、彼はどこか困惑し、どこか神経質に双眸を細め、自身の指先の方向へと沿って視線を向けた。


  その凹んだ床板の中央。

  そこにはあろうことか……一枚の晶球が静かに横たわっていた。


「晶球?」


  それは一枚、形状の極めて奇妙な晶球だった。材質には何とも言い難い暗淡さと乾いた様子が透けており、その上にはこのデルイラ王国のいかなる紋章も刻印されておらず、逆に一箇所の極めて抽象的な、無数の根の線によって死に物狂いで纏われ尽くした歪な髑髏の図柄が彫刻されていた。


  この生死の境にある絶境の中、このような一間の漆黒で封鎖された密室の中央において、なぜか莫名其妙に一枚の硬貨が置かれているというのか?


「極めて稀有なものか? 何らかの暗門を開くための機関か?」


  門外の足音は、すでに相隔たること五メートルに満たない位置へと逼近しており、重々しい木板が砕け散る音は、奏の精神と恐怖を一瞬の間に最も極限のところまで圧搾し尽くしていた。


  彼にはもはや、推敲を行うための多余な選択肢など残されてはいなかった。


「構うものか……!!」

  奏は心の底で、瀕死の崩壊に直面した怒吼を発した。彼はその寒冷と緊張のためにわずかに蒼白となり、細かな擦り傷の散らばる手のひらを伸ばし、一掴みにその氷冷な晶球を死に物狂いで握りしめ、力任せに上方へと引き抜いた——


  咔哒。


  一種の極めて清脆な、何らかの巨型の歯車が完全に引き放たれたかのような仕掛けの噛み合い音が、何の兆候もなく、整然たる密室の四面の壁面と足元の床板の深部から、狂ったように炸裂した。


  奏の瞳孔は一瞬の間に、死に物狂いで拡大した。


  違う。

  これは暗門の機関ではない。

  これは暗門の機関ではない……

  これは暗門の機関ではない!!

  轟隆隆隆隆——


  いかなる予兆もなく、いかなる魔法の微光の閃きもない千分の一秒の間に、四方のあの本来であれば漆黒で厚実だったレンガ壁、および彼が死に物狂いで這いつくばっていた氷冷な床板。

  それらから突兀として、長さ数メートルに達し、尖鋭にして刺目の寒光を閃かせる巨大な鉄製の尖刺の数々が突出したのだ!


  それらの尖刺の配列方式は隙間なく、交錯縦横し、たとえ万分の一ミリの物理的な空隙すらも残されてはいなかった。整然たる密室はこの一瞬の間に、あろうことか一体の生きた、完全に覚醒した巨型の中世の刑具——鉄処女へと化していた。


  一言の惨叫を発する機会すらも、この脆弱な凡人の少年には与えられなかった。


  噗嗤!噗嗤!噗嗤!

  それは利刃が血肉を刺し貫き、生々しく大腿の骨格をへし折り、全身の五臓六腑を千万分の一の瞬間のうちに尽くし絞り砕く、極めて沈悶にして唯物的な痛感だった。


  一本の太い鋼刺が、奏のあの新しく着替えたばかりの黒いヘソ出しの短衣の中央から、いかなる阻害もなく、生々しく彼の前胸から後背へと貫通し、彼を一匹の乾いた蝶の標本の如く、身後の石壁へと死に物狂いで釘付けにした。


  それに緊接し、第二本、第十本、第一百本。

  大腿、脊椎、喉の奥、頭蓋。

  いかなる死角も存在しなかった。


  生温かく、濃重な鉄錆の匂いが瞬間的にこの絶対の暗黒の中に蔓延していった。奏のあの本来であれば堅定と釈然に満ち溢れていた黒眸は、この一瞬の間に、ルフィアに対する最後の未練を映し出す時間すら得られず、瞳孔の内部の焦点は、すでに終わりのない、骨を揉み砕く幻痛と氷冷なる死感の中で寸寸に散り失せ、完全に一辺の虚無たる死白へと化していた。


  大量の鮮血がそれらの尖鋭な鋼刺に沿って緩やかに滴り落ち、あの新しく着替えた暗褐色のズボンを、再び一辺の惨烈にして深沈たる暗紅へと染め上げていった。


  これこそが、無知なる闖入の末路だった。

  技能を持ち合わせない潜入の途上において、この一辺の騙し合いと氷冷なる罠が満たされた白い王宮の深部において。


  第四周目の潜入。

  あの晶球に触れたその刹那において、最も荒唐無稽で、最も道理の通らない惨烈な姿を以て、完全に失敗を宣告された。


  奏は、死んだ。

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