第一章18 『將軍』
重く、ねっとりとした夜の色は、まるで墨汁をたっぷりと吸わせた巨大な幕のようだった。地平線へと最後の残光が完全に呑み込まれた後、それは極めて冷酷に白亜の王宮全体を包み込んでいった。
聳え立つ大理石の廊柱は月光に引き伸ばされ、まるで長槍のように鋭く交差する陰影を投げかけている。この死の静寂に満ちたうつろな廊下において、ただ少し急ぎ足な靴底の叩撃音だけが、極めて規則正しく周囲の重苦しさを打ち破っていた。
ルフィアは夜の王宮を一人で歩いていた。彼女の身に纏う象徴的な、引き締まった革鎧は、淡い月光の下で冷たい光沢を放っている。その後頭部で小気味よく編み込まれた特徴的な白髪の水母編みは、やや速すぎるその歩調に合わせて、彼女の肩口で小気味よく、しかしどこか不安げに弾んでいた。
だが、その鋭い足取りとは極めて不調和なことに、彼女の頭は何度もわずかに側方へと向けられていた。
角を曲がるたびに、あるいは廊柱の織り成す陰影を通り抜けるたびに、彼女の視線は無意識に後方へと走った。琉璃のように清らかでありながら、同時に鷹のようにも鋭いその瞳は暗闇を素早く掃射し、耳尖を極めて微細に動かしていた。まるで虚空の中に潜む、何者かの覗き見を極めて警戒しているかのようだった。
周囲には彼女自身の呼吸音の他に、異変は何もなかった。
呼――
ルフィアは小さく息を吐き出し、胸をわずかに上下させた。しかし、その眉宇の間に固く張り詰めた凛烈な気配は、この束の間の平穏によって消え去ることはなかった。
ただ、その瞳が再び夜幕の中で黒い影へと霞んでいく王宮外周の平民区へともたらされたとき、彼女の心の底の最も隠された片隅に、自分でも少し場違いだと感じるほどの、淡い安堵が静かに持ち上がった。
「もしかしたら……奏はもう、王国を去ったのかもしれないな……」
その念頭が浮かんだ瞬間、それは彼女の脳裏でせきを切ったように広がっていった。
いつもあの奇妙な衣服を身に纏い、衛兵の一撃すら受け止められないほど脆弱な少年。彼はあんなにも臆病で、あのアイスブルーの刃を前にしたときには指の関節を止めどなく震わせていたというのに、なぜか毎回、あの神経質で、頑ななほどに澄んだ瞳で彼女を死に物狂いで見つめていた。
昨夜の牢獄の中で、ルフィアはわざとあの高慢で、吐き気のするほど傲慢な態度を取った。最も刻薄で、嫌悪に満ちた言葉を使って彼の尊厳を踏みにじり、彼を何の関わりもない虫の側に追いやった。
ルフィアは当然、その瞬間に奏の瞳孔が完全に焦点を失った様を見ていたし、彼の自尊心が地面に投げ捨てられて踏み砕かれたときの狼狽と痛痛しさも見ていた。
「けれど、そうするしか、彼を救う方法はなかった」
今朝彼が解放された後、彼女への怨恨と恐怖を抱いたまま、すでに嵐の中心と化しているこの街を完全に逃れ、最も平凡な平民になるか、あるいは普通の冒険者としての生活を送ってくれさえすれば……王室の頭上に懸かっている、触れれば粉々に砕け散るような毒刃が、彼の喉を切り裂くことは二度とない。
「明日からは、二度目の人生をまっとうに大切にするんだな、馬鹿な一般人……」
ルフィアは心の底で低く呟いた。しかし、彼女の脳裏から奏の輪郭が完全に消え去るよりも早く、生理的なものに近い、極めて危険な寒気が、突如として彼女の脊椎の最下端から狂ったように這い上がってきた。
靴底が地面を叩く音は、この瞬間に、虚空から現れた一足の黒い靴によって唐突に生々しく踏みちぎられた。
どこか端正でありながら、しかし人を極めて不快にさせるねっとりとした気配を放つ人影が、いつの間にか、まるで幽鬼のように何の予兆もなくルフィアの真ん前に立ちはだかっていた。
それは極めて入念に仕立てられた皇室の長袍だった。長袍は夜風に翻り、月光の下でいくぶん過剰なほどに青白く、弄ぶような笑みを浮かべた若い顔を覗かせた。
「妹よ、何をそんなに急いでいる?」
軽々しい声がうつろな廊下に響き渡ったが、それはまるで毒蛇が信子を這わせるかのように、ルフィアの耳膜を的確にかすっていった。
ルフィアの前進する足取りは一瞬にして生々しく止められた。慣性によって、彼女のふくらはぎの筋肉は瞬間的に強張り、靴底は粗い大理石の地面の上で極めて耳障りな、摩擦の音を引いた。
先ほどまでいくぶんの優しさと安堵を帯びていたその顔は、来訪者の姿を捉えた刹那、瞬時に万年解けることのない玄氷に覆われたかのように一変した。
彼女は王室の人間同士が維持すべき虚偽の礼節すら半点も繕おうとせず、その細長い眉を激しく押し下げ、顔全体に極めて陰沈な態度を剥き出しにした。
「あなたには関係のないことでしょう?」
一つ一つの言葉が、まるで氷の割れ目から一言ずつ抉り出されたかのように、隠しきれない嫌悪を帯びていた。
対面する王子は、このほとんど挑発に等しい氷の態度に対しても、ただ無頓着に眉を上げてみせただけだった。陰影に隠れたその瞳はわずかに細められ、病的なまでに居高臨下の審視を湛えて、ルフィアの青白い水母編みを死に物狂いでロックしていた。
ルフィアは彼のことを万分の一秒たりとも多く見たくはなかった。
言葉が落ちたその刹那、彼女のふくらはぎが突如として発力し、澎湃たる勁道が足底から弾けた。彼女は身を翻すと、自身を一条の極めて凌厲な白い影へと変え、王子の肩をかすめ、ほとんど鬱憤を晴らすかのように加速して、月光にズタズタに切り裂かれた廊下を去っていった。
狂風が王子の長袍の衣角を巻き上げ、パタパタと乾いた音を立てた。
ルフィアは丸々二つの長廊を走り抜け、中央庭園を見下ろすことのできる見晴らしの良いテラスに達してようやく、緩やかに足取りを緩めた。
はあ、はあ――
彼女はいくぶん冷たい空気を大きく吸い込み、胸を激しく上下させ、手掌を冷たい大理石の欄干に死に物狂いで押し当てた。爪は力のためにいくばくか青白くなり、それに伴ってあの象徴的な白髪も少し乱れていた。
彼女が先ほどの、骨に絡みつくような声を思い返すと、心頭の陰霾はますます重苦しくなっていった。
実際のところ……現在の王宮内の局勢は、その複雑さと残酷さにおいて、すでに彼女が最初に小街にいた頃の予想を遥かに超えていた。
この二日、あの不審な点だらけの傷を負ったまま、この白亜の宮殿に戻らざるを得なくなったその瞬間から、彼女は長年一線の死生観で磨き上げてきた直感によって、この一見すれば風平浪静な王宮の中から、陸続と毛骨悚然とするような気配を嗅ぎ取っていた。
例えば、父王の身体。
老薬師が父王に与えていたものは、明らかに用量を調合された、ある種の慢性的な旧疾を遅延させるための補助的な温和な薬物だった。しかし、王宮の内部で暗中に流転している薬渣の中から、ルフィアは自身の独特なルートを通じて、そのの中にあろうことか、長年のうちに人体の気血を完全に侵蝕する極めて隠蔽された毒薬が混入していることを見分けた。
それらの毒薬は、宮外のものではなかった。
これが意味するところは、あまりにも明白だった――老薬師の薬には何の落ち度もない。問題は、この白亜 of 王宮の内部において、層層と厳重に管理され、無数の検分を必要とするプロセスのどこかで、誰かが神の目をも欺くようにして、薬物を致命的な慢性毒薬へとすり替えたことにある。
宮内に間諜がいる。
そしてその間諜の権力と地位は、片手で天を覆い隠せるほどに大きく、王医のチーム全体を巻き込んで集団で聾唖のふりをさせられるほどに巨大なのだ。
もしそれだけのことであるならば、ルフィアは王国の実力ある王女として、まだここまで草木に対しても兵を見るような警戒を抱くことはなかったかもしれない。彼女の技能と武力をもってすれば、最も鉄血な手段を用いて清査を行うことも大いに可能だった。
しかし、ルフィアを本当に通体凍りつかせるような異常は、彼女の父王にあった。
あの、かつて重病であっても威厳を失わず、彼女を寵愛してくれた父王が、数日前、突如として極めて冷酷な『禁門令』を下したのだ。
それどころか……二日前に彼女が解放され、強行軍で寝宮へと父王の拝謁を試みたとき、普段であれば彼女の姿を見るや否や身を屈めて礼を行うはずの銀甲の衛兵たちが、あろうことか面無表情に一斉に腰の佩剣を抜き放ち、ほとんど刺客に対するかのような氷の姿勢で、王女である彼女を寝宮の門外へと死に物狂いで阻んだのだ。
これが父王の本意であるはずがない。
これは明らかに、さらに高い勢力を持つ者が背後で糸を引いており、玉座全体を、ひいては王宮全体のボトムのメカニズムを完全に改竄してしまった、ある種の巨大すぎて息もできないほどの陰謀によるものだ。
便、その陰謀家たちの目には、兵権を握り、性格が剛烈であり、かつ一貫して解毒薬を探し求めている王女ルフィアという存在は、おそらく知らぬ間に、この政治的清算と暗殺の嵐の中で、最も最初にターゲットにされ、最も最初に抹殺されるべき『中性点』とみなされているのだろう。
「だから……どうして奏を自分の側に留めておけるだろうか?」
もし、一着の基礎的な防具すら持たず、思考すらも低血糖によって停止してしまうような日本の男子高校生が未だに彼女の周囲に彷徨っていたならば、あの暗所に隠れた目線にほんのわずかでも関わりを捉えられただけで、彼は必ず、巨型の歯車に巻き込まれた一粒の砂塵のように無情に圧し潰され、さらには再びあの死神に喉を割られる危険を迎えることになる。
「去ってくれたならそれが一番いい……二度と戻ってくるな……」
ルフィアは歯を食いしばり、無意識に、そして警戒を込めて、先ほど王子が立っていた方向を再び振り返った。
しかし、廊柱の陰影に覆われたその空地には、今は何もなかった。
長袍が翻る痕跡もなく、歩調を動かす物音もない。先ほどまであの悪劣な笑みを浮かべてそこに立っていた王子は、この一瞬の間に、まるで空気の中に消え失せたかのように、完全にその姿を消していた。
ルフィアの心臓が一つ音を跳ね上げ、眉根は瞬間的に死結のように捩じ切られた。彼女は疑念を抱いて瞳を瞬かせた。その琉璃のような瞳には、隠しようのない氷と懐疑が満ちていた。
「あの男……絶対に怪しい」
この死に絶えた王宮の中で、彼女に完全に察知されることなく無音無息に接近し、また無音無息に去っていく。これはもはや尋常の刺客にできることではない。あのねっとりとした、まるで四六時中監視されているかのような感覚。
それと同一の時刻。
王宮の外周、平民区と富人区が交差するエッジの暗巷。
呼――吸――
奏は、年久にわたる修繕の不届きから大きく灰泥の剥げ落ちたレンガ壁の陰影の中に身を縮め、人間として極めて規則正しく、かつ意識的に低く抑えた呼吸を調整していた。
夜の街並みは、白昼の喧騒とは完全に異なる二つの世界だった。
長街の上は空っぽで、パンを売り歩く商人もいなければ、粗野に大笑いする冒険者もいなかった。ただ、銀色の鎧を身に纏い、重型の長槍を握った衛兵の隊列だけが、重苦しく耳障りな歩調を刻みながら、この街の最も核心となる数本の主幹道路を交差して巡邏していた。
あの銀色の胸甲の数々は、清冷な月光の下で、まるで移動する、光を反射する鏡のようだった。
奏は身を死に物狂いで冷たい壁へと貼り付けていた。
彼は今、貧民区の老婦人から譲り受けた新しい衣服に着替えていた――深黒色の露臍の短衣が、やや単薄な少年の躯幹をきつく包み込み、暗褐色の綿質の長ズボンは足首のところで太縄によって死に物狂いで縛られていた。ルフィアやノンノンの冒険者衣装を模したこの服装は、十分に軽便で、十分に隠蔽性が高く、靴面の最も目立つ部分すらズボンの裾によって妥当に覆われていた。
だが、それでも奏にとっては寸歩も進み難かった。
夜色によって墨色に染まった彼の瞳は、レンガの隙間を通して、王宮の階段へと通じるそう遠くない唯一の必経の路を死に物狂いで見つめていた。
密不透風――衛兵たちが交替する隙間は、絶対に十五秒を超えることはない。
もし彼が今、このまま大揺大振に王宮の内部へと進入しようとすれば、その難度は、地球において三百六十度死角のない監視カメラの底から半点の手がかりも残さずに通り抜けることを要求されるに等しい。
鍵の魔導具を握りしめている彼の右手は、過度の力のためにいくらか痙攣しており、掌はべたついた、冷たい汗で満ちていた。
老薬師は言っていた。空間を短時間穿閳できるこの鍵は、使用するプロセスにおいて、彼が持つ唯一の技能【他人に口外できない契約】を完全に失效の状態へと陥らせる。それはつまり、彼が真に王宮の外壁に接触し、最も隠蔽された片隅でこの鍵を押し当てた刹那にしか、発動させてはならないということを意味していた。
そしてそれまでの間、もし彼が街頭でこれらの衛兵に不審分子として捉えられ、一槍で喉を貫かれでもすれば、彼は本当に死ぬ。回档はなく、もう一度やり直す可能性もない。彼は一条の死犬のように、この陰暗な泥水溝の中で腐り果てることになる。
「冷静になれ……あの隊列が通り過ぎるのを待つんだ……」
奏は心の底で狂ったように自分に告解していた。額の角からは一滴の冷汗が、彼の乾いた頬に沿って、緩やかに、そしていくぶん痒みを伴う痕跡を引きながら滑り落ちていった。
その時だった。
精神が極限まで緊張していたため、彼の眼角の余光が、突如として左側の暗巷の深部において、夜色に属さない極めて微弱な気流がどこか奇妙に歪んだのを捉えた。
生理的な恐怖により、奏に躊躇の暇はなかった。
彼は猛然と身を側方へとよじったが、動作が大きすぎたために、足底が少し湿った青苔の上で激しくもたついた。そのまま背後の、より深沈たる暗巷の陰影の中へと、近乎慌乱して退いていった。
砰――
決して重々しくはないが、しかし沈悶で、確かな衝突音が、暗闇の中で何の予兆もなく炸裂した。
奏の背中は、生々しく、そして結実として、どこか冷たい、しかし異常に堅固な広い胸の中に衝突していた。
っ……!
氷窟に落ちたかのような寒気が、衝突の部位に沿って瞬間的に奏の全身を席巻した。
「伏兵か?刺客か?それとも衛兵か!?」
彼の頭皮を痺れさせるに十分な無数の念頭が、千分の一秒の間に炸裂した。奏は振り返ることすらできず、両手を極めて狼狽しながら虚空の中で胡乱に掻きむしり、足元に力を込め、反発の勁道を出拠にして、連転がって這うように前方へと丸々三歩飛び出した。その後、極めて驚恐して身を翻し、両手を胸の前で死に物狂いでガードして、何の型もない、滑稽至極な防御の姿勢を取った。
彼は大口大口で荒い呼吸を吐き出し、瞳を死に物狂いで見開き、暗巷の最も深部に立つその存在を凝視した。
「だ……誰だ!?」
奏の声はこの瞬間、極度の恐怖のためにいくらか変調しており、引き裂かれた廃紙のように沙啞だった。
それは……全身を完全に漆黒の兜帽長袍の中に隠した男の影だった。
この手を伸ばしても指が見えない暗巷の深部において、この漆黒の衣装は、周囲の雑物が積み上がった死角とほとんど完璧に一体化していた。もし先ほどの確かな一撞がなければ、奏はそこにあるのがただの蠢く空気であるとすら思っただろう。
刺客だ。彼は絶対に誰かを刺殺しに行く、あるいは彼を処理しに来た高階の刺客だ!
奏の喉からは曖昧な呻きが漏れ、大腿の筋肉は狂ったように酸麻を叫んでいた。彼の右手は無意識に腰側へと探りを入れた。そこには老薬師から贈られた気血を補充するための二缶の赤色薬水が掛けられていたが、その忌々しい薬瓶は、目の前の絶境において白刃戦の助けには半点もなりはしない!
彼は極めて狼狽しながら再び後方へと半歩退くしかなかった。皮質の腰帯にある小さな金属のバックルが、動作の間に極めて微細な、パタッという悶音を立てた。
しかし、奏の予想に反して、彼に激しく衝突されたその漆黒の男は、最初の時間においていかなる短刃も抜こうとはせず、いかなる実質的な殺意も爆発させなかった。
彼はただ黙ってその場に立っていた。
その厚手の黒い面紗と兜帽を隔てて、奏は相手がどこか極めて無辜であり、かつどこか奇妙に、彼に対して緩やかに瞳を瞬かせたのを隠微に感じ取った。
次の瞬間。
奏のすべての視覚的常識を裏切るような、近乎奇怪な光景が、何の予兆もなく目の前で上演された。
その男が、わずかに肩を震わせたのが見えた。
本来であれば光線すらも完全に吸収するはずのあの漆黒の衣服が、その領口と袖口の位置において、突如として水紋のように流動する、刺目の金色シルクの線を揺らめかせたのだ。それらのシルクの線は、極めて恐怖を感じるほどの速度で布地の上を狂ったように蔓延し、交織していった。ほんの一瞬の瞬きの間に、整然たる漆黒の夜行衣は、あろうことか奏の拡大した瞳孔の注視の下で、生々しく純白の聖潔な光沢を放り、縁に暗金色の辺飾を巡らせた華貴な白袍へと蛻変を遂げたのだ!
そしてさらに触目驚心だったのは、相手がわずかに持ち上げたその腕、純金のシルクの線によって幾重にも勾勒された広い護袖の上に、赫然として極めて蒼勁で、覇道に満ちたフォントによって、大々的に二つの文字が書かれていたことだった――【将軍】。
この二つの文字の上には、ある種の極めて微弱な魔法の微光が附着しているかのようで、薄暗い暗巷の中で、人に直視を許さないほどの威厳と圧迫感を透かしていた。
咯噔――
奏の心臓はこの瞬間、一気に十数センチメートルも下方へと沈み込んだ。
終わった。
彼、九世奏は、この十四号異世界にやってきてからわずか数日、最も基礎的な勢力の等階すら未だに掴みきれていない普通の日本の男子高校生に過ぎない。彼はこの国家において、腕に【将軍】というこの二つの文字を刻んでいることが、一体どれほどの滔天の権柄と恐怖の武力を有しているかを意味するのかを知らなかった。
しかし……膝で考えたとしても明白だった。
このような、白黒の二色の服飾の間を自在に切り替え、さらには軍団の最高首脳を代表する称謂をこれほど大々的に腕に刺繍してのけるような奴の、その棘手さと危険の程度は、先ほどの長街の上で規則通りに巡邏するだけしか脳のない銀甲の衛兵たちよりも、絶対に数百倍、数千倍も恐怖に満ちているに違いない!
彼はあろうことか……無意識のうちにこのような怪物のような存在に、この陰暗な泥水溝の中で生々しく目を付けられてしまったのだ。
空気は一時、死のような静寂の陥穽へと落ち込んだ。
金辺の白袍に包まれた男は緩やかに腕を下ろし、兜帽の下の視線を、奏のあの黒い平民の冒険装の上に約二秒ほど留めた。その後、極めて低沈でありながら、しかしどこか久しく上位にある者特有の、容赦を許さない磁性のある声音が、悠悠と響き渡った。
「お前は……我が国の人民か?」
一語が問われるや、その近乎実質化した精神の威圧は、奏の頭皮を一層痺れさせた。
このような奴を欺くことの代償は、彼には到底承受できるものではなかった。
奏はどこか乾いた下唇を死に物狂いで噛み締め、極めて誠実に、 な揺らぎを見せず硬直しながら首を横に振った。
「い……いえ、違います」
男はこの回答に対して何の意外さも抱いていないかのようだった。その高大なる身躯をわずかに半分ほど前傾させ、白袍の暗金色の辺飾が夜風の中で微細なササという音を立てた。その声は再び数分ほど低く抑えられ、的確な探問の意を帯びていた。
「ならば、なぜここにいる?」
ここに。深夜に。王宮外周の最も敏感な防線の暗巷の中に。
奏の額の上には細汗がいよいよ密に滲み出し、彼の思考は極度の緊張のために狂ったように回転していた。ほぼ低血糖のエッジにおいて、死に物狂いで自身の最後の演技を搾り出していた。彼は極めて狼狽しながら、自身の腰にあるあの少し古びた皮質の細腰帯を引っ張り、また自身のズボンの裾に半分ほど遮られた古びたランニングシューズを指差した。わざと自身の声を、社会の底辺にある凡人特有の無助と沙啞さで満たそうとした。
「僕……僕は、外地から流れ着いた流浪者なんです。今日、解放されたばかりで……身の回りには晶球一つ持っていません。だから夜を明かすお金もなくて……お金のかからないこの暗巷で、風寒を凌ぐしかなくて……」
言い終えると、奏は極めて配合よく、その単薄な身躯を激しく一縮させ、肩をわずかに落とした。自身を泥沼の中で転がる、何の脅威も持ち合わせない癩蛤蟆のように見せようとしたのだ。
その【将軍】の男は静かに聞き終えた。
彼の視線は再び、奏のあの、老婦人のために麻袋を運んだことで少なからぬ灰塵を付着させ、スタイルはゆったりとしているが明らかに尋常の古着である暗褐色の長ズボンの上を走った。どうやらこのロジックに破綻はないと判断したのか、彼の兜帽に隠された頭が、極めて緩やかに、理解を示すように頷いた。
「お前の名前は?」
この詢問は急ぐ風もなく、緩やかであり、酒館の中で随口に酒を運ぶ侍従に尋ねるかのように平静だった。
奏にはいかなる隠蔽の資本もなかった。彼は混濁した唾液を一口飲み込み、一字一頓で回答した。
「九世奏」
言葉が落ちたその刹那、その将軍の男はそれ以上いかなる声も発しなかった。
彼はただ定々と奏を最後に一瞥し、その後、人全体が身を翻した。その華貴な金辺の白袍は夜色の中で極めて優雅であり、かつ利落な弧度を描いた。いかなる拖泥帯水もなく、いかなる多余な盤問もなく、彼の歩調は極めて軽盈に湿った石板路を踏み、わずか二、三歩の距離の間に、彼の姿は極めて突兀に、再び巷弄の曲がり角のあの最も深沈たる暗闇の中へと融けていった。
完全に、去ったのだ。
呼――
彼を窒息させんばかりに圧し潰していたあの威圧が完全に消散するまで、奏はようやく如釈重負といった風に、胸腔の中に溜まっていた濁気を大きく一吐きした。彼の人全体がどこか脱水したかのようにレンガ壁に沿って緩やかに滑り座り、カビの臭いを帯びた空気を大口大口で呼吸した。
その蒼白な顔の上には、この時、濃い困惑が書き込まれていた。
行った?
このまま行ったのか?
この男……わざわざここで彼を遮り、さらにはあの近乎神跡のような服飾の蛻変を見せつけておきながら、あろうことかこの三つの最も簡単で、最も基礎的な質問をするためだけだったのか?
彼は可疑な人員のリストを記録するための羊皮紙を取り出すこともなければ、犯人を拘禁するための魔法の縄索を召喚することもせず、警告の一言すら残さなかった。この単純な一問の敷衍感は、奏の心の底に極めて荒誕な『無意味感』すら持ち上がらせた。
「なんなんだよ……あいつは一体誰なんだ……」
奏はどこか機械的に膝を支え、自身の少し力の下りた両足を再び真っ直ぐに立たせようとした。
しかし。
彼の膝がようやく半分ほどに真っ直ぐになったかどうかの刹那――
咚!咚!咚!
前所未有の、極めて合理的な驚愕感が、まるで一記の重錘のように、彼の耳膜の深部へと激しく叩きつけられた!彼の心臓はこの瞬間、極めて不自然に狂ったように跳ね踊り始めた。それは絶対に低血糖によって生じる虚汗などではなく、彼のすべての細胞、すべての神経が、この時において狂ったように死亡の警報を鳴らし響かせいるのだ!
彼の全身が、異常に、自控を失って激しく戦慄し始めた。
それは近乎本能の直感だった――彼の見えない死角において、あの今しがた明らかに完全に去ったはずの怪物は、最初から遠くへなど行っていなかったのだ!
みちっ。
奏はガタガタと震えながら、極めて硬直したまま自身の首を、一寸ずつ、後方へと巡らせていった。
しかし、彼の視線が完全に角度を調整し終えるよりも早く――
轟!
純白の兜帽の下に隠された、無限に拡大された青白く巨大な顔面が、いかなる破風の音もなく、いかなる移動の動静もないまま、あろうことか既に貼面舞のように、死に物狂いで、何の距離もなく彼の眼皮の底へと突き付けられていた!
あのいかなる温度もなく、まるで死魚の目のようでもある漆黒の眼眸は、この時、奏の瞳孔との距離において、絶対に最後の三センチメートルを超えてはいなかった!
「あ……あああああ!?」
極度の驚嚇により、奏の喉からは生々しく変調した惨叫が炸裂した。彼の人全体がまるで尾を踏まれた野良猫のように、二本の足を地面の上で狂ったように乱し、背中は背後のレンガ壁に激しく衝突した。大片大片の干涸した灰泥を粉々に叩き落とし、人全体が一連して丸々五、六歩も後方に退いた。危うくそのまま傍らの廃木桶の中に身を突っ込みそうになるほどだった。
二人の間にようやく約二メートルほどの安全な距離が再び引き戻されて初めて、その【将軍】の男はどこかつまらなさそうに自身の白袍の上の存在しない灰塵を払い、身をわずかに真っ直ぐに立てた。
その低沈な声が、ある種の勝券を握った、嘲弄に満ちた篤定を帯びて、一字一頓で叩き落とされた。
「お前という奴は……先ほど歩んでいた方向は、明らかに王宮へ向いていたな」
男はそう言いながら、極めて微細な金色の流光を纏わせた一本の指を伸ばし、どこか戯言めいて暗巷の出口の方向を指し示した。
「しかもお前は先ほど路口のところで、視線を足し算して衛兵の巡邏の交替の空隙の上に丸々三回も留めていた。夜を明かす金がないために暗巷の中で死を待つばかりの無用な流浪漢が、もしや……お前には何か極めて不可告訴な企みでもあるのか?」
一語が問われ下る。
暗巷の中の温度は、瞬間的に氷点へと降下した。
その、すべての偽装を見透かされた恐怖は、奏の人全体を雷に打たれたかのように硬直させた。彼の掌の中はすべて冷たい汗であり、あの銅質的空间の鍵を浸していた。背中のあの新しく着替えた深黒色の露臍の上衣は、さらに一瞬の間に涔涔と滲み出た虚汗によって完全に打ち湿らされていた。
奏は汗流浃背となり、乾いた唇をどこか機械的に張合させながら、最後の自尊をもってその揺らぎ落ちんとする嘘を維持しようとした。
「僕……僕はただ初来乍到で、ここの地形をよく知らないんです。あの銀甲を着た衛兵たちを見ると怖くなって、ただ彼らがいつこちらに歩いてくるかを確認していただけなんです。僕を可疑な分子として再び大牢の中に捕らえ、飢えに合わせられるのを避けるために……」
奏の声は抑制の効かない震えを帯びており、眼神は狂ったように両側へと飄忽していた。
対面する【将軍】の男は、この敷衍至極な言い訳を聞きながら、兜帽の下の口元を、しかし極めて残忍に、わずかに上方へと引き上げて嘲笑の弧度を描いた。
彼は半秒 思考すら施すのすら億劫がっているようだった。
「嘘だな」
綺麗で利落な三つの文字が、直接に奏のすべての僥幸を寸寸に踏み砕いた。
男は前方へと半歩踏み出し、あの【将軍】の字様を刺繍した金辺の護袖が月光の下で人の心を驚かせ胆を冷やさせるような鋒芒を透かした。彼は瞳をわずかに細め、極めて軽く、しかし奏の耳には九天の驚雷に劣らぬ声音をもって、悠悠と最後の爆弾を投げ放った。
「お前があの手この手で潜行し王宮内へと向かおうとしているのは、……ルフィア大人に、会うためだろう?」
ドカン!
奏の瞳孔は一瞬の間に縮み、二つの針の尖よりも細小な黒点となった。
彼の頭脳はこの瞬間に完全に空白の一片へと陥り、極度の震撼によって生じた幻聴が、彼の耳膜の中に狂ったように重苦しい心拍音を回宕させていた。
「ルフィア……」
この男は……なぜ僕の目的を知っているんだ?なぜこの忌々しい、冷たい異世界の中では、まるで全ての人間が、老薬師も、牢房の中に座って喋り続けていた龍人族の少女のノンノンも、そして目の前のこの神秘莫測な将軍も、出会った最初の一眼において、これほど的確に奏の心理の軌跡を知り得るのだ?
あの無形の存在に暗中において死に物狂いで覗き見られ、套を嵌められているかのような窒息感は、奏をどこか崩壊の危機に直面させながら再び一歩後退させた。靴底が朽ち果てた一枚の木片を踏み砕き、カタッという鋭い音を立てた。
目の前の、既に肝を冷やしきっていながら、しかし未だに歯を食いしばって跪こうとはしない異界の少年を見つめながら、その将軍 of 男はついに獲物を弄び続ける興を失ったかのようだった。
彼はどこかつまらなそうに口元を歪め、袖口をわずかに一振りして、解説を加えた。
「そのような、怪物を見るかのような目線で私を睨む必要はない。これらはすべて……王子殿下が直々に私に告げられたことだ」
「王子?」
奏はどこか乾からびた声で一言を繰り返し、脳裏には瞬間的にルフィアのあの玄氷を掛け渡したような陰沈な顔が浮現した。
男は淡々と頷き、金辺の白袍が夜風の中で舒展した。
「その通りだ。なぜなら……少し前、ルフィア大人が偏殿に軟禁されていた際、彼女を監視する任を負っていた眼線たちの前で、一度ならず、お前のその少なからぬ姓名を密かに口にしていたからだ」
「九世奏。技能もなく、背景もない、しかし偏偏として毎回最も奇怪なノードの上に出現する、いわゆる『新しい仲間』」
男がここまで言ったとき、その漆黒の眼眸の中に、高位の存在が凡人を見つめるときの審視に関する極めて純粋な光が一閃した。
「王子殿下はお前に大変興味を持たれている。だから、特にお前を捜索するよう私に嘱託されたのだ。今見てみれば、お前のその脆弱さ……いや、お前は確かに王子の興味に値するな」
奏の眼皮が思わず一瞬瞬いたが、男は突如として一言を放った。
「五分後、私はすべての衛兵を召集する。わずか五分の時間だ、よく把握するがいい」
言い終えると、男は健歩如飛の勢いで去っていき、奏が反問するのを半点も待たなかった。
しかしこの一連の言葉を聞き終えた奏の、あの喉元まで吊り上がっていた心臓は、完全に落下することができなくなっていた。
だが奏は大喜していた。それは純粋に……あの最も悪劣な姿勢を剥き出しにしていた白髪の水母編みの少女が、少し前のあの最も暗く、最も孤立無援だった軟禁の歳月の中で、彼の名を口にしていたからだ。彼女は未だに、あの『一緒に冒険者になる』という無聊な約束を覚えていたのだ。
奏は頭を下げ、自身の過度の緊張のためにいくらか青白くなり、細かな擦り傷の散らばる指の関節を見つめた。本来であれば恐怖、寒冷、そして飢餓によって生じていた退縮の意は、ルフィアが確かに彼女の不器用な方式でお前を保護しているのだと確認された後、あろうことか一瞬の間に、まるで一場の暴雨によって洗い流されたかのように、寸寸に沈殿していった。
それに取って代わったのは、ある種のどこか自嘲めいていながら、しかし同時に極めて清醒な釈然だった。
彼はどこか気恥ずかしそうに口元を歪め、どこか機械的に、黙って自身の後頭部を撫で、低い声でブツブツと呟いた。
「そうか……五分、か……」
奏の声は極めて低く、いくばくかの市儈な滑頭さを帯びていたが、その最も外表の層に偽装された気恥ずかしい笑みの下で、彼が再び持ち上げたその瞳が透かしていたのは、確固たる意志だった。
どういうわけか、あの将軍が既に彼のために道路を敷いてくれたというのなら、奏として試してみない手はないではないか。
ならば今夜……この凡人と王室に関する狂妄なる博弈において、彼、九世奏には、いよいよ手を引く理由などどこにもなくなったのだ。
夜色が、一寸ずつ、落ちてきた。




