第一章9 『毒の侵食』
暗殺者が夜の闇へと姿を消した後、部屋には砕け散ったガラスの破片だけが、月光を浴びて冷たく散らばっていた。
「くそ……もう少しだったのに……」
ルフィアはまだ割れた窓辺に立ち、何もない暗闇をじっと見つめていた。華奢な指は剣の柄を握り締めたまま、関節が白くなるほど力が入っている。彼女は長く息を吐いた。その息には悔しさと、死線を生き延びた安堵が入り混じっていた。
「もういいわ、あいつは逃げた。今追っても無駄ね……」
ルフィアが振り返り、指の力を緩めた瞬間、手の中の氷の長剣は雪のように溶けていき、幾筋かの白い霧となって薄暗い部屋の空気の中に消えていった。彼女はふらつきながら後ろに下がり、木のテーブルの縁に寄りかかった。先ほどまでの鋭い闘志をようやく解き、再びどこか疲れ切った様子の少女に戻っていた。
しかし奏は、まだ少しも気を緩めてはいなかった。
彼の視線は、ルフィアの腕に釘付けになっていた――先ほどの戦いで、あの小刀によって切り裂かれた傷口だ。傷自体は小さく、ただの擦り傷と呼べる程度だったが、赤い鮮血が彼女の白い肌を伝ってゆっくりと滲み出し、木の床にぽたりと、微かながらはっきりとした音を立てて落ちた。
「ルフィア……お前の腕、それ――」
奏の声は急に裏返り、ほとんど転がるようにして駆け寄ると、ルフィアの手首をひったくるように掴んだ。視線はその傷口に固定され、瞳孔は極度の恐怖で一瞬にして収縮した。
「え?これのこと?かすり傷よ、大したこと――」
「だめだ!」
奏はほとんど叫ぶようにこの言葉を吐き捨てた。その声には狂気にも近い焦燥が込められていて、ルフィアは思わず身を固まらせた。
あの小刀に残っていた銀色の毒液は、彼が二度この目で見て、一度は身をもって経験したものだ。全身を麻痺させ、声を出すことさえ奪うあの猛毒。今、それが軽々と、ルフィアの傷口に付着してしまったのだ。
たとえ傷が小さくても、たとえほんの掠り傷であったとしても、その毒液が血液に染み込んでしまえば――。
奏の脳裏に、第三の周回の光景が一瞬でフラッシュバックした。全身血まみれのルフィアが、死に瀕した体を引きずりながらギルドの門の前まで這ってきて、最後の力を振り絞って「逃げて」と告げたあの絶望的な光景。
あの時、彼女は全身の自由を奪われ、立つことすらできなかった。あれは間違いなく、この毒による麻痹の症状だったのだ。
そして今、同じ毒液が、少しずつ彼女の血管に染み込もうとしている。
「動かないで、ルフィア!座って、ベッドに座るんだ!」
奏はほとんど引きずるような強引さで、ルフィアを古びた木のベッドの縁に座らせた。その動作には、荒っぽいとも言えるほどの焦りが滲み出ており、ルフィアの戸惑いや、わずかな抵抗を示す表情を気にする余裕など一切なかった。
「奏、少し落ち着いて。本当にかすり傷なんだから――」
「かすり傷からでも毒は回るんだ!」
奏の声には抑えきれない震えが混じっていた。彼は素早く振り返って部屋の中を見回し、最終的に、彼が無造作にドアの脇に置いていた酒壷に視線を定めた。武器屋で、最後のわずかな財産と引き換えに手に入れた、あの安物の強い酒だ。元々は武器の手入れに使う予定だったが、今はそれが唯一頼れる消毒の手段だった。
彼は全身の力を込めて、酒壷の蓋を引き抜いた。刺すようなアルコールの匂いが一気に広がり、思わず喉が咽せた。
「我慢してくれ、俺もあまり詳しくないんだけど……」
奏はベッドの脇に膝をついた。両手は抑えきれずに微かに震えており、視線はルフィアの傷口と酒壷の間を何度も往復した。丸二秒ほど躊躇った後、ようやく歯を食いしばって、ゆっくりと強い酒を傷口に注いだ。
刺すような激痛が瞬時にルフィアの腕を襲った。
「うっ――!」
ルフィアは思わず下唇を強く噛み、全身が無意識に強張った。あの澄んだ瑠璃のような瞳には一瞬で涙の膜がかかり、細い指がシーツの端を強く握り締め、関節が白くなるほどの力が入った。
奏はすぐに、彼女のその急に張り詰めた表情に気づいた。痛みによって歪み、それでも必死に堪えているその表情は、先ほど旅館のカウンターの前で見せた姿や、噴水のほとりで悩みを語っていた時の彼女とは、まったく違っていた。
彼の心臓はずきりと重く沈み、手の動きが急に緩やかになった。先ほどまで焦りで荒っぽくなっていた力加減は、今では小さく慎重に、ほとんど敬虔と言えるほどの注意深さへと変わっていた。酒を傷口に直接流し込むのではなく、傷の縁に少しずつ、ゆっくりと垂らすように変えていく。
「すまない……できるだけ、できるだけ優しくするから……」
奏の声は低くなり、ほとんど聞き取れないほどの申し訳なさが混じっていた。彼は無意識にもう一方の手を伸ばし、彼女の苦痛を少しでも和らげようとしたが、その手は空中で止まり、どうすればいいのか分からないまま、ただぎこちなくその姿勢を保ち続けた。強い酒が少しずつ、その浅い傷に染み込んでいくのを見守りながら。
ルフィアはその慎重な躊躇いを感じ取り、強張っていた肩の力が次第に緩んでいった。彼女は顔を上げ、自責と緊張に満ちた奏の顔を見つめると、唇の端を微かに上げ、まだ涙の光を浮かべながらも、どこか愛おしそうな優しい笑みを浮かべた。
彼女は小さく頷いた。何も言わず、ただその簡単な動作だけで、彼への信頼と感謝を伝えていた。
しかし奏は、それでも本当に安心することはできなかった。
消毒はあくまで表面的な応急処置に過ぎない。血液に染み込んでしまった毒液そのものこそが、本当の脅威だった。今朝、市場の薬草屋で得た答えが、まだ耳にこびりついている。あの珍しい薬材は、街の大きな薬屋でなければ手に入らない。だが、あの時の二人は、残っていた晶玉をすべて護頸具と強い酒に使い果たしてしまい、一粒も残っていなかった。それに、今はもう深夜だ。誰がこんな見知らぬ二人のために、わざわざ店を開けてくれるだろうか。
「くそ……!」
奏は低く舌打ちした。後悔が潮のように押し寄せ、彼を呑み込みそうになっていた。
もし今朝、自分が先に解毒草を探していれば。武器屋で護頸具や強い酒を買う前に、もっと別の選択をしていれば。もし、もっと早くルフィアが隙を見せていたことに気づいて、彼女が自分の身の安全に気を取られすぎないように注意を促していれば。もし、もしも……。
しかし、すべての仮定は、今となってはもう何の意味も持たない。
彼は顔を上げ、まだ微かに血が滲んでいるルフィアの傷口を見つめ、そして疲労と失血でやや青白くなった彼女の顔を見つめると、ついに歯を食いしばり、決意を固めた。
「ルフィア、お前は先に横になって休んでくれ。俺は解毒薬を探してくる」
「え?」
ルフィアはそれを聞いて一瞬呆然とした。先ほどようやく落ち着いていた表情に、再び動揺の色が浮かぶ。彼女は手を伸ばし、奏の袖をきゅっと引いた。
「もう深夜よ、街の薬屋はとっくに閉まっているし、それに、あの暗殺者もまだ外に潜んでいるかもしれないのに――」
「分かってる」
奏の声は静かだったが、そこには揺るぎない決意が込められていた。彼は優しく、しかし断固として、ルフィアの手をベッドの上に押し戻した。
「でも、毒はだんだん血液の奥深くへと入り込んでいく。もう待っていられないんだ」
ルフィアの唇が微かに震え、まだ何か言いたげな様子だったが、奏のあの恐怖に満ちながらも、異様なほど強い意志を秘めた瞳を見て、結局その言葉をすべて飲み込んだ。
「……それなら、気をつけて……」
「うん、お前は先に目を閉じて、ゆっくり休んで」
奏は手を伸ばし、ルフィアにかかった薄手の毛布をそっと整えてあげ、ベッドの上に落ち着かせた。その動作には、ぎこちないながらも確かな優しさが込められていた。だが、彼が振り返り、部屋のドアを開けようと手を伸ばした瞬間、その足が突然凍りついたように止まった。
寒気が、何の前触れもなく、彼の背筋の奥底からゆっくりと這い上がってきたのだ。
奏の瞳孔が、瞬時に収縮した。
一回目の死――奏は一人きりで、ルフィアの死を象徴するあの花の前に膝をつき、その直後、時間が停止して死神が降りてきた。
二回目の死――奏が何かのきっかけに触れた瞬間、時間が停止して死神が降りてきた。
三回目の死――奏が一人でルフィアを探し回り、小刀で刺され、全身が麻痺した何の備えもないその瞬間に、死神が降りてきた。
毎回、毎回の死は、すべてルフィアが死んだ直後、あるいは自分が何の備えもない無防備な瞬間に起こっている。そして今、彼はこれから一人でこの部屋の扉を出て、危険に満ちた、漆黒の夜の中へと足を踏み入れようとしている。
もしも――もし死神の降臨が、まだ彼が気づいていない何らかの法則と関係しているのなら。もし彼が今この扉を一歩でも踏み出した瞬間、再びあの黒い大鎌と対峙することになるのなら――。
そうなれば、彼は再び、永遠に、たった今肩を並べて戦い、たった今感激の涙を流してくれたこのルフィアを失うことになる。
「今俺がここを離れたら……これが最後に見る顔になるかもしれないのか……?」
第四周目で積み上げてきたすべて。ようやく解き明かした黒幕の手がかり、苦労して築き上げてきた信頼、あの毒刃をかろうじて防いでくれた護頸具。それらすべてが、死神が降臨した瞬間、跡形もなく無に帰されてしまう。
奏の呼吸が急に荒くなった。彼はドアの取っ手を強く握り締め、関節が白くなるほど力が入り、冷たい汗が額をゆっくりと滑り落ちていった。
しかし、退くわけにはいかない。
もし解毒薬を探しに行かなければ、ルフィアの体内の毒は最終的に全身へ広がり、彼女の四肢を呑み込み、手足を失って暗い路地裏で無残に死ぬという、あの破滅の結末を再び招くことになる。それは死神の大鎌よりも、確実な死だった。
奏は深く息を吸い込み、自分を引き裂きそうなほどの恐怖を、無理やり心の奥底へと押し殺した。
彼は振り返り、ベッドの上のルフィアを見つめた。彼女は横たわりながら、その澄んだ瞳でじっと彼を見つめていた。その瞳には心配の色が満ちていたが、止めようとする気配は少しもなかった。彼女には分かっていたのだ。いつも命を懸けて自分を守ろうとするこの少年が、今その心に抱えているのは、単に薬を探すという決意だけではないということを。
奏の表情は不安に満ちていたが、それでも異様なほど深い感情が込められていた。彼はルフィアの瞳を見つめ、まるで今の彼女の姿を、二度と会えなくなる可能性に備えて、脳裏に深く刻み込もうとするかのようだった。
「ちゃんと休んで、警戒を解かないで。俺……俺はすぐに戻ってくるから!」
言い終わるが早いか、奏は勢いよく振り返り、ほとんど全身の力を込めてその重い木の扉を開け放ち、外に広がる漆黒の、未知の夜の中へと足を踏み入れた。
――バタン。
扉が彼の背後で、ゆっくりと閉まった。




