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keepAlive  作者: かけ座布団


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Ep.1-8 対話

部屋の扉をノックする。

「ハナ? 入っていい?」

「……うん」

小さい声だけれど、確かに返事があった。

部屋に入ると、ハナは両足を抱えて椅子に座っていた。

顔は伏せていて表情は見えない。

「ハナは家出中だったんだね」

「うん……隠していてごめんなさい」

「別に気にしてないよ。言いたくない事だってあるだろうし」

「ごめんなさい。素敵なパーティなのに。私、迷惑をかけてしまって」

「そんなことないよ。何かあってもお互い様。それが仲間だもん」

「お互い様……?」

「そ。まあ、ハナもあたし達のことを仲間だと思ってくれてたらだけど」

「そんなの、もちろんだわ!」

ハナは顔を上げた。

「エコのパーティに入れてもらって、仲間になれて、本当に嬉しかった」

「あたしも嬉しかったよ、ハナが来てくれて」

「ずっと夢見ていた冒険が出来て、こんな日が続けばいいのにって思った」

「うん」

「……キョウやキリの言うことも分かるの。お役目を果たさないといけないって。分かってたわ。でも、里は窮屈で、みんなあんまりにもお役目お役目ってうるさいから、飛び出してきちゃったの」

「そっか」

「キョウやキリや、里のみんなが困るのも、分かってる、けど……」

「ハナ。あたしはさ、ハナの事情を知らないけど、ハナがどれくらい冒険を楽しみにしているかは、ちょっとだけ分かるつもりだよ」

「エコ……」

「ね、もっと話そうよ。それから、どうするか考えよ。ハナがどんな選択をしたって、あたし達は協力するから」


部屋から出る。

「……待ってたんだ」

「おう」

部屋から離れたところに、リッカが立っていた。

ハナとは随分長く話し込んでいたけれど、ずっと待っていたらしい。

「ハナのこと、随分気にかけるじゃん」

「ああ」

リッカの調子はいつもと変わらない。

結果的に突っ走ろうが、暴走しようが、やるべきと思ったらやる。やるべきでないと思えばやらない。

そういう奴だ。

「ハナの奴、冒険者になるために何年も弓の訓練を積み重ねてきたように見えた。だから、努力が報われればいいと思っただけだ」

「なにそれ。もしかして勘?」

「勘だな」

「……なにそれ」

「別におかしくないだろ。――って、どこ行くんだ」

「……あたし、出かけてくるから」

リッカはお人好しだ。

自分自身の努力は報われようと報われまいと気にしていない。何があろうと、馬鹿正直に努力を続けている。

一方で、自分以外の身近な人間が努力する姿には甘い。努力が実ることを願っているし、求められれば簡単に手を貸す。


「ハナは一人にして欲しいって言ってたから。ベルとでも夕食を食べればいいんじゃない」


あたしは足早に町を歩く。

ハナと話しているうち、とっくに日が落ちていたらしい。

まだ夜が更けるまで時間があるけれど、早く宿に戻るに越したことはない。

一つ、二つ、建物の数を数えながら進む。

「……ここかな」

両開きの扉に備え付けられている呼び鈴を鳴らす。しばらくするとお婆さんが現れた。

用件を伝える。たどたどしい足取りで、建物の中の一つの部屋の前に案内された。

深呼吸して、扉をノックする。

すぐに返事があり、部屋の中の人物が顔を出した。

「どうぞ」

部屋の中に招かれる。部屋には家具が二組づつある。二つの椅子は空いており、片方に座るよう促された。

「ああ、キリはいませんよ」

確かに、部屋の中に彼女以外の姿はない。

彼女自身も腰掛けながら、彼女は、キョウは言った。

「あれは今、外に出ています。――それで、用件は?」

あたしはできるだけ真っ直ぐキョウの目を見据える。

「ハナの事、本人から聞きました。()()()の話も含めて」

「……そうですか」

どこか意外そうな声。

「……その上で、お願いに来ました。ハナは冒険者を続けることを望んでる。だから――」

「――だから、お役目を放棄するのを認めろと?」

「いいえ。ハナには冒険者を続けながら、お役目も続けてもらいます」

「……」

「可能ですよね? なぜ隠しているのか、あたしには分からないけれど」

「……鎌をかけているわけではなさそうですね。そう。……本当に、あの子が、そこまで話したんですね」

少し驚いたようなキョウの声色は、これまでと随分違う。

ハナが目の前にいた時のような厳しさが和らいでいる。

「答えは、確かに可能です。……見かけより人見知りなあの子が打ち解けたのであれば、貴女には共有しておいてもいいのかもしれない」

少し長くなりますが、とキョウは前置きをした。

構わない。沈黙が答えになったようだ。


「――ハナ様は風読みの里で、里長の次女として生まれました。これはつまり、将来里長を継ぐ可能性があることを意味します。実際、当時幼かった我々姉弟があの子の世話係としてあてがわれました。あの子にとっての姉、兄となり、護衛となり、両腕となるために」

「あの子は奔放で手を焼きましたが、全く苦には思いませんでした。キリも同じ。我々は双子ですが、他に兄弟はいなかった。何か学んでは、可愛い妹であるあの子にも教えたものです」

「時が流れ、あの子の姉君が里長を継ぐことが決まりました。その時点であの子が長に向いていないことは分かっていましたし、本人も望んでもいなかったので、里長が決まったことでむしろ我々も喜んだものです」

「しかし、誤算が起きました。あの子の姉君は個としても長としても才に恵まれていたものの、長という役職以外のもう一つの()()()を果たせないことが分かったのです」

「それからというもの、里の上役達は揉めました。姉君も巻き込んで。半年以上かけてようやく出た結論は、あの子にお役目を押し付けるというものでした」

「その後、あの子には護衛の増員という名目で我々以外の監視がつきました。……まあ、姉君の反対によりすぐに役目を外れましたが」

「里は息苦しかったんでしょうね。あの子はついに、里を飛び出しました。半月ほど前のことです。上役達はあの子を連れ戻すために手段を選ばないような状況でしたが、姉君の手回しによって、その役目は我々のものになりました。我々も個人として思うところはあるものの、お役目自体は欠かせないことは理解しています。時代錯誤ですが、それでも個人を優先できるほど余裕のある集団ではないのです」


以上が顛末です、と、キョウは長い独白を締めくくった。

「……ハナを冒険者にしたくないのは、危険に晒したくないから?」

「その通り。気に障る言い方になるかもしれませんが、冒険者のような危険な環境に身を落とすくらいであれば、里の中に囲っておいた方が良い。私もキリも概ね方針に賛同していました」

「ハナがそれを望んでいなくても?」

「ええ。仕方ないことだと思っていました」

キョウは不意に立ち上がり、窓に近寄り、外を見る。

「――しかし、我々が里を出る時、あの子の姉君から話がありました」

キョウの視線が部屋の外を捉える。

「そろそろキリが戻ってきます。結論を伝えましょう。貴女達の実力を見せてほしい。貴女達はあの子を託すに足ると、我々が納得できるように」

「実力を?」

「ええ。方法は何でも構いませんよ。もしもキリを納得させることができたなら、あの子が冒険者になることを認めましょう。そのための権限を、私は姉君からもらっています」


それはキョウなりに葛藤し、譲歩した結果だったんだろうか。

帰って来たキリと入れ替わるように部屋を出て、あたしは考えを巡らせる。

ハナと一緒に冒険者を続けるための道が、一つだけ生まれた。

あたしたちのパーティをキリに認めさせる。手はある。託せばいいだけだ。

宿に戻り、リッカとベルに簡単に状況を伝える。


翌日、あたしはもう一度キョウを訪ねた。

「……そうきましたか。愚直ですが、良いでしょう」


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