Ep.1-4 弓使いハナ
その女の子の名前はハナ。
ギルドに訪れようとしていたところらしい。ちょうどギルドから出てきたあたしの姿が見えて、意を決して話しかけてきたのだとか。
どこから見られていたのか、聞かれていたのか。ちょっと恥ずかしい。
――とにかく、邪険にするのも躊躇われたのでギルドを案内した。
案内がてら話してみると、ハナはギルドでパーティを探すつもりだと分かった。
偶然に驚きながら、あたしがメンバーを探していることと、ギルドの窓口でパーティを募集する手もあることを伝えた。
ハナはせっかくだからと、あたしたちのパーティの話を聞きたいと言ってくれた。
断る理由はなかった。
ダメ? だなんて上目遣いで言われたらじゃない。決して。
「――というわけで、こっちはリッカと、ベル」
「紹介ありがとう。私はハナ。弓使いなの」
「リッカだ、よろしく」
「私はベル。よろしく」
ハナを連れて宿に戻り、パーティメンバーの候補としてみんなに紹介した。
「これから裏山にいこうかと思うんだけど……」
裏山というのはそのままの意味で、町の裏にある山だ。
街道が通っていない側だから裏。ほとんど遭遇がない初心者向けのエリアだ。危険な生物もいるにはいるけれど、あたしたちのパーティなら楽に対処できる。
裏山に行くのは、ハナの実力を低く見積もっているからではない。全員でパーティとして基本的な動きを確かめるのが目的だ。
「私はいつでも大丈夫だよ」
「いいね。リッカもいける?」
「おう。あの剣は調整中だから、今は代わりだけどな」
リッカは剣の代わりらしきものを振ってみせた。
「そっか。後で聞かせて」
……リッカが持っているのが剣ではなく棒に見えたけれど、まあ棒だとしても特に問題はないだろう。
「じゃハナ。さっそくだけど裏山に行くよ」
「さっそく冒険ね……!」
町中を裏山へ移動する。
「この町に来たばっかりだったんだな」
「そうなの。とっても大きな町で驚いたわ」
「この辺りで一番の町だもんね。ギルドも特に大きいし。そういえば、エコとはギルドで会ったんだよね」
「そうそう、ちょうどギルドの前でね」
「ええ。エコに会えて本当に良かった」
「ごめんね、疲れてたでしょ」
「いいえ。着いたのは昨日だから。それに、冒険が待ちきれなくて」
よほど楽しみにしていたのか、ハナは少し興奮している様子だ。好奇心が強いのか、すれ違う冒険者の装備に見入ったり、なんでもない店の商品に目を丸くしたりしては怪訝な顔をされている。
ハナ自身はくるくると表情が変わる。
なんだろう……まるで小動物のような……?
庇護欲が掻き立てられる……。
町を出てすぐに道幅が狭くなってきた。勾配がつき、はっきりと登りになる。
まばらな木々の間、人が踏み固めただけの道を歩いていく。
「……そういや、ハナの弓の腕はどれくらいなんだ?」
リッカはまた急に。でも気にならないといえば嘘になる。
メンバーの情報としても必要だ。
「ええと……」
ハナはゆっくりと周囲を見回した後、近くの木を指差した。
「「「?」」」
ハナが指しているのはクルミの木だろうか。目線よりもずっと高い位置を指差しているけれど。
「こ、これっ」
ハナはどこかを指差し続けたまま、飛び跳ねる。何度も。
「――あっ」
よく見ると、指の先には実が生っている。その実だけ一回り大きい。
「それに矢を当てるってこと……?」
頷くハナ。弓を背中から下ろすと、いきなりどこかへ駆け出した。
「「「?」」」
また、意図が読めずに固まってしまった。一拍遅れてベルが反応する。
「――私、ハナを追いかけてくるね」
ハナと、ハナを追うベルの後ろ姿が遠ざかっていく。装備の重さが違いすぎるせいかベルがどんどん遅れている。
それにしてもどこまで行くつもりだろう。ハナはまだ走る。
木はまばらとはいえ、ハナの姿を隠しつつある。
クルミの実に当てるとはいうけれど、既に相当な距離を取っている。しかも木の枝葉で視界と射線が遮られている。狙えるものなんだろうか。
「あ、止まった」
ハナが手を振った。続けて弓を構えたのが辛うじて見える。
かなり角度をつけている。空を射るかのようだ。
「お、射ったな」
リッカの言葉通りなのか、ハナが構えを解いてこちらに引き返してくるのが見える。
「エコ、上」
「え?」
――風を切る音がした。
「わっ」
その瞬間。あたしの目の前に何かが飛んできた気がして、思わず目を瞑ってしまった。
「……あれ。なんともない」
恐る恐る目を開けると、リッカが随分近くにいる。
ハナの矢は地面が落ちている。
リッカが握り込んだ拳を開く。そこにはクルミの実がある。
ハナの矢が弾き飛ばしたクルミがあたしの方に飛んできて、リッカが守ってくれたらしい。
「的に近づいたら危ないだろ」
「……そうだね。ありがと」
少しして、ハナが戻ってきた。
「ごめんなさいエコ! 怪我はない?」
「大丈夫。そんなことより、すごいよハナ! あんなに遠くから」
「えへへ。風は私の味方なの」
あたしやリッカがハナを称賛していると、遅れてベルも戻ってきた。完全に息が切れている。
「ハァ……ハァ……早すぎるよハナ……」
ベルの回復を待ちつつ、ハナの立ち位置について話した。
ハナはすばしこくて射程と精度が凄まじい一方、矢の威力は低い。
「まあ遊撃役だよな」
「私もそう思う」
「遊撃?」
「そう。状況に応じて攻撃や援護をしてほしい。ある程度あたしも指示を出すけど、魔術の詠唱中はそうもいかないから、任せっきりになることもあるかも。ただ、自分の身を守るの優先で」
「分かったわ」
こうしてパーティの役回りが決まった。
ベルが敵を押さえ、リッカが削り、ハナが援護して、あたしの魔術で決める。
これまでの立ち回りは大きく変えず、援護をしてくれるハナが純粋に増えた形だ。
その後、四人で裏山としては危険種にあたるパッシブ・ベアーを倒した。
ハナは大活躍だった。
ふわふわしているように見えて視野が広い。要所要所で意図を汲んでくれて、得意の弓矢での援護は位置もタイミングも的確だった。
あと、パッシブ・ベアーを感知圏外から発見したのもハナだった。
どうしよう。めちゃくちゃやりやすい。
「今日はありがとう。明日もよろしくね」
ハナはあたしたちが使っているのとは別の宿を確保しているらしい。
町に戻り翌日の約束をして、夕食の前には分かれることにした。
「うん、また明日」
――明日は雲羊にリベンジだ。
前回の失敗から、対策は色々考えている。
ハナもいる。きっとやれる。




