Ep.2-5 推測と観察(1)
火呈園から戻り、休息や換金を済ませて一日。次回の攻略に向けて四人で集まった。
「順調とはいえ、もう少し稼ぎたいよね」
一日かけて火呈園の山を登り、僅かな時間第二層に侵入し、また引き返す。それなりに稼げているとはいえ、この流れでは無駄な時間が多過ぎる。
エコは続けた。
「選択肢は二つかな。半人型を多く倒して回収する魔鉱の量を増やすか、第二層の奥に進んで粒の大きい魔鉱を狙うか」
つまり、量か質かという問題だ。
すぐにベルが疑問を口にした。
「稼ぎはどれくらい違うのかな」
「魔鉱はひとまわり大きくなると値段が何倍かに跳ね上がるらしいから、奥に進んだ方が稼げるだろうね」
「なるほど」
「運べる重量の限界もあるな」
「リッカの言う通り。魔鉱を持った状態で第一層と第二層の間の段差を超えないといけない。半人型が落とすような小石大なら問題ないだろうけど」
「比較しづらいな。攻略方法から考えてみるってのはどうだ?」
「うーん。半人型を倒す方なら、巡回している眷属を片っ端から倒すか、釣り出してあたしの魔術で一掃するか。で、前回みたいに走狗型が群れで来たら、二人で抑えきれる?」
「私は三体までかな。私一人ならもう少し増えても耐えられるかもしれないけど、四体目以降はすり抜けられそう」
前衛であるベルの守りをすり抜けて、エコやハナが狙われる。そこまで陣形が崩れれば、立て直しは容易ではなくなる。
最終的には全滅しかねない。
「俺も同じく。ただ、走狗型の連携は手強いから、こっち二人に対して走狗型五体が目安だな」
「前回みたいな増援を相手するのは無理ってことね。半人型を多く倒すとしたら、やっぱり、さっさと倒すが一番かな」
「最初から『示凍源』を使った方が良いんじゃないか? 何回使える?」
「……一日六回ってとこかな」
エコが示凍源を習得した後、休みの日にこっそり試したのが六回までだった。回数を重ねる毎に虚脱感が重くなっていったので、このあたりが限界だろう。
魔術の使いすぎによる疲労や虚脱は一般的であるものの、エコはその症状が強く出る。一日の限界とは別に、大きな魔術を使ったり、魔術を何度も使うだけで体調が悪くなることもある。
エコには心当たりがあるものの、仲間たちに全てを明らかにしているわけではない。
エコはずっと、仲間たちに対して秘密を抱えている。
「――あの」
それまで議論にじっと耳を傾けていたハナが口を開く。
普段は蝶でも追いかけていそうなハナだが、冒険となると視野が広く注意深い。皆が注目した。
「考えがあるの」
再び火呈園の山を登り、一日かけて第二層への段差に辿り着く。順番に段差を降り、慎重に急勾配を下った。
段差にはロープや縄梯子をかけておく案も出たものの、前回と同様に何も使わなかった。
ロープを掛けたとして、万が一、半人型が段差の上に登ってしまえば後で困る。そもそも、これまで冒険者が訪れているのに、そういった登り降りの手段が残されていない。無いからにはそれなりの理由があるはずだ。
半人型が理由かどうか、そこまで正確に把握する筆意用もない。あえて前例を踏み外す必要はないのだ。
前回、半人型や走狗型と戦闘になったであろう場所まで来た。死骸はおろか、戦いの痕跡さえ消えている。
これは魔物が多い場所ではよくあることだ。多くの魔物は住処を一定に保ちたがる。魔物が人間に積極的に遅いかかるのは、その習性が原因という説もあるほどだ。
「エコ、あの岩の陰がいいと思う」
周囲の地形を観察していたハナが、エコの傍らで指を差す。
そこは崖と鋭く切り立った岩の間の僅かな空間で、第二層の中心部に
下っていく道からは少し逸れている。下から登ってくる場合には死角になっていて、眷属から身を隠すには好都合だ。
「分かった。行こう、みんな」
今後の探索では、初回よりも奥へ進んで魔鉱を探す。量か質かで言うと、質を取った形だ。
そのために重要になるのは、ハナの推測と、それを証明するための裏付け。
事前に立ててきた作戦の通り、追加で購入した二つ目の防護灯を見通しの良い場所に置き、四人はハナが見つけた岩陰に隠れた。
四人が身を隠すには少し心許ない窪みに身を寄せ、運んできた布を広げて被った。布は火呈園の地面に合わせて黒く染めている。
「ちょっとリッカ、引っ張りすぎ」
「んな事言っても、足が出てるんだ」
「待って、私なんて右半身がはみ出てる」
「ベルの鎧、冷たくて気持ちいい」
布の大きさの見立てを誤ったのか、身体が端からはみ出てしまう。更に身を寄せ合って布の位置を何度か修正し、ようやく全員が布の偽装の中に収まった。
防護灯によって環境からの熱は軽減されているとはいえ、被った布で熱がこもる。更に、お互いの体温が伝わってとにかく暑い。
汗が滲む中、エコとハナだけが布に開けた穴越しに防護灯の監視を続けた。
やがて、坂道の下の方から、走狗型三体がゆっくりと登ってきた。まだこちらに気付いた様子はない。
もし気付いて向かってくるようなら、すぐに迎撃しなくてはいけない。
走狗型が更に近づく。まだ反応はない――いや――走狗型が突然走り出した。
エコは急いで立ち上がろうとした。
(待って)
ハナがエコの腕を押さえた。布が揺れ、片端をベルが押さえる。
(少しだけ待って。あと、少し)
斜面を駆け上がる走狗型が防護灯まで近づく。一歩、二歩。防護灯の影響範囲内に入った。
エコは息を殺して見守る。
走狗型は防護灯の前で止まった。そして、誰もいないことに苛立ったのか、防護灯を前足で蹴って倒した。
そうして防護灯を弄んだのも束の間、走狗型は元通りゆっくりと歩き始めた。岩陰にいるエコ達に気付く事なく巡回に戻っていく。
(――ハナの予想通りだ)
ハナの推測は二つ。一つ目は、走狗型はごく至近距離しか感知できないのではというもの。ハナの見立てでは、走狗型は見かけ上動物的ではあるものの、仕草が動物とは違うらしい。特に匂いを嗅ぐ仕草に違和感があったのだとか。
一つ目の推測はほぼ確定だ。。二十歩と離れていないにも関わらず、近くに隠れていることを感知されることがなかった。恐らく、嗅覚も視覚も大したことがない。代わりに、近くにあるものには反応する。
無人の防護灯で注意を引いておけば、隠れ果せることができる。これは大きな発見だ。
二つ目は走狗型同士の連絡手段について。前回の挑戦で増援に来た走狗型の群れは、何を合図に集まったのか。視覚も嗅覚もあてにならない上、遠吠えのような行動もなかった。
であれば、走狗型の群れは何を感知して駆けつけたのか。ハナは、半人型が関係していると推測した。
それを確かめるため、四人は尚も身を潜め続けた。




