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keepAlive  作者: かけ座布団


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Ep.2-1 火呈園(1)

ブーツが引っ掛けた小石が弾き飛ばされ、切り立った崖を転げ落ちていく。小石は崖の縁を跳ねる度に方向を変え、ついには遥か下の河に落ちた。

真っ赤に燃えるその河はじわりと小石を飲み込み、何事もなく流れてゆく。

「リッカ、離れすぎてる」

魔術士然とした少女が隊列の先頭を行く剣士に声をかける。

少年は返事と同時に足を止め、他の三人が追いつくのを待った。弓使い。魔術士、騎士が順番に合流する。

彼らは改めて、眼下に広がる窪地を眺望する。



火呈園(バーニングガーデン)

一つの火山全域を支配圏とする魔獣、『(ファン)』が棲まう火炎の園。

急峻な地形に加え、火山による熱と蒸気が火呈園を訪れる者を苦しめる。

かつて発見された当初は何もないエリアだと思われていたそこは、しかし、希少な鉱石が発見されたことで冒険者達の注目を集めるようになった。

数多くの冒険者が火呈園に侵入し、目につく場所にある鉱石を悉く回収していった。

何組ものパーティが(ファン)とその眷属の前に全滅した後も、鉱石の採取量が激減するまで冒険者達の熱狂は続いた。



エコ達が足を止めた場所は火呈園を擁する山の尾根だった。そこからは山全体が見渡せる。

左手、山の麓は彼方まで緑の裾野が続く。火呈園に近づくにつれて山の裾野から緑は消え、一定の高度を境に真っ黒な岩場に変わっている。

この境界線から、四人がいる尾根までが火呈園全三層の第一層にあたる。

「随分登ったな」

その火呈園の境界線が、ずっと下にある。何時間も山を登っただけはある。

そして、尾根の反対側は切り立った崖になり、内と外を隔てている。

「大鍋みたい」

「ほんとだ」

ハナの喩えにベルが同調する。

この山が鍋だとすれば、第一層は鍋の外側。これから向かう第二層は尾根に囲まれた窪地で、鍋の内側だ。険しい下り坂の先、鍋底には溶岩が溜まっている場所もある。

「ここからは(ファン)の眷属がいるはずだけど……」

第二層は視界が悪い。岩場の影で死角と陰が多い一方、溶岩の明かりもあって明暗が激しい。更に、時折吹き出す水蒸気が広い範囲を覆い隠してしまう。

「あれじゃないか?」

リッカが剣を突き出す。エコが目を凝らすと、崖の下の岩影で、確かに何かが動いている。

黒い山肌に、獣のような形の黒い影。明かりに照らされてようやく、それが生物と分かる。

「見つけにくい……注意しないと」

進みやすく戻りにくい地形に加えて、獲物を待ち受ける眷属達。大鍋というよりも、むしろ蟻地獄なのかもしれない。

「エコ、あれが第三層?」

「そうだよ」

ハナが窪地の中心を指さす。火呈園特有の黒い岩が積み重なり、巨大な半球状の構造物になっている。

元からそういう地形なのか、それとも(ファン)が巣作りでもしたのか。その岩場の内部は空洞になっていて、(ファン)の住処がある……とされている。

情報が曖昧なのは、誰もそこまで行かないからだ。

火呈園で発見できる鉱石は、奥へ行くほど大きくなる。その法則に従えば第三層も期待できるが、(ファン)遭遇(エンカウント)すれば全滅の危険性がある。そのため、第三層には近寄らないのが鉄則だ。

「よし、進もう。でも今回は様子見。戦闘一回で引き返すからね」


一行は尾根を右回りに進む。

崖の高さが次第に低くなってきた。事前に調べた情報が正しければ、滑落以外で第二層に入れる地点がこの先にある。

途中でもう一度だけ休憩を挟み、遂にその地点に辿り着いた。

「ここだな」

そこは尾根が特に低くなっている場所で、しかも崖下がかなり高い位置にある。

崖というよりも段差で、高低差は建物の一階と二階ほどもない。

ここからなら、装備込みでも昇り降りできる。

「エコ、『防護灯』はどう?」

ベルの言葉に、エコはずっと手に提げてきた角灯を皆に見せた。

内部に固定された棒状の触媒から青白い光が揺らめく。

中身は普通の燃料ではない。この防護灯は、内部に据える触媒次第で、人間には厳しい環境の負荷を

軽減する効果がある。

今回は熱を軽減する触媒を用意している。値は張るものの、第一層でさえ防具などつけていられないほど高温になる火呈園では必須の装備だ。

影響範囲はそれほど広くないものの、一パーティが陣形を組んで戦闘するには十分だ。

環境の魔力を利用する仕組みになっているらしいが、詳しいところはパーティの誰も知らない。

パーティの誰が持つかという話で、動き回るリッカとハナは除外。ベルはそもそも両手が塞がっており、敵との接触が最も多いので防護灯が損傷する可能性がある。

結果、エコが持っている。

「……大丈夫、まだほとんど残ってる」

触媒の効果は普通の燃料と同じく、時間制限付きだ。今回は角灯の中に一本と、予備に二本持ち込んでいる。

短時間だけ第二層に降り、来た道を引き返すだけなら、使用中の触媒一本だけで十分そうだ。


「じゃ、リッカから。気をつけて」

段差の高さは身長より少し高い程度だが、段差の下は厳しい斜面になっている。過去の冒険者によるものなのか、辛うじて道のようなものが続いている。

「おう」

最初のリッカは地面に手をつくと、そのまま跳んだ。事も無げに着地してみせる。

「私ね」

二番目のハナは段差の端に腰掛けて足を投げ出し、そこから飛び降りた。着地後に一歩だけ動き、バランスを取った。

「次はエコね」

エコは防護灯をベルに託し、ハナを真似て崖に座り込んだ。

先の二人は軽々と飛んでいたけれど、そのまま飛ぶには高く感じる。身体を捻って崖にぶら下がった。

「んっ」

目一杯足を伸ばすとつま先が地面に届く。重力に任せて手を離した。

「――わっ」

体重をかけた先が脆かったのか、それとも小石でも踏みつけてしまったのか。

バランスを崩したエコを、リッカが受け止めた。

「あ、アリガト……」

立たせてもらった後でも傾斜がきつい。踏ん張っていないと滑ってしまいそうだ。

「大丈夫……?」

横でハナが首を傾げながら声をかける。

「ごめん、大丈夫」

ハナが周囲の警戒に戻る。

ベルは最初から足が着いたのか、エコと同じ方法で危なげなく段差を降りた。


ここからは第二層。

第二層を徘徊する(ファン)の眷属は、第一層の魔獣と比べて段違いに強い。しかも、倒すのに時間がかかれば新しい群れがやってくるという。

今後相手にするのは確実なので、今回は戦闘をして経験を積んでおく算段だ。

足を滑らせないように注意しながら、道らしきものを下っていく。少し傾斜が緩やかになった代わりに、岩場に死角が増えて来た。

隊列を組み直す。

ベルが先頭、ハナとエコが左右に並び、リッカが最後尾につく。

「ベルは前方、リッカは後方に注意して。ハナは左側を。右はあたしが」

慎重に進む。

「――いた。前方に三体。こっちに気づいてる」

ベルが坂道を徘徊する黒い姿を発見する。

同時に、向こうもこちらに気付いたようだ。


「じゃ、やろう」


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