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keepAlive  作者: かけ座布団


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Ep.1-Ex.3 騎士の少女と冒険者の町(1)

騎士の少女は路頭に迷いかけていた。


最初は順調だった。

故郷を出て冒険者になり一ヶ月。持ち出した装備一式と、やけに伸びてしまった背と、あとは曲がりなりにも騎士として鍛えてきた故の立ち振る舞いのおかげだろうか。

冒険者としての経験不足があっても、パーティーを組むのに苦労はなかった。

臨時メンバーとしてパーティに入って何度か依頼(クエスト)をこなし、生活費と路銀を稼いでは次の町へと移動する。その繰り返し。パーティーに困ったことはなかった。

しかし、冒険者の町として知られるここに来てから勝手が変わった。

ギルドに通い、盾役(タンク)を募集しているパーティーを探しても、一向に声がかからない。

けれど、決して役割としての盾役が不要というわけではない。

この町には多くの冒険者が集まっていて、盾役も例に漏れない。ここにいるのは、彼女よりも更に体格が良い力自慢や、魔術と武術の両方を練り上げた歴戦の戦士達。

そういった猛者が立ち並ぶ中で、武術一辺倒の彼女は下から数えた方が早い。実際のところは分からずとも、そう判断されてしまう。

彼女がパーティを組めないまま、日数だけが経過していた。


「あの、なんとかなりませんか?」

ギルドの窓口の一つ、パーティの募集を担当する一角に今日も彼女は訪れた。

比喩ではなく毎朝のように窓口を訪ねる少女にも、職員の女性は嫌な顔ひとつせず対応する。ただ、結果が変わったことはなかった。

「昨日も募集はありませんね。私共は募集を仲介するだけですので、なんとも」

最初の数日のうち、その職員は都度帳簿を取り出していたが、昨日からはそらで返答するようになった。少女に当てはまるような募集が追加されていないのだ。

「勿論、急に募集がかかることもあります。新しいパーティが発足する場合、空きが出た場合……。いずれにしてもタイミングを予想できるものではありません」

肩を落とす少女を見かねたのか、職員が別の帳簿を取り出した。

「しかし、選択肢がないわけではありません。あまりお勧め出来ませんが、聞きますか?」


お勧めできないと言われても、いつ来るか分からない募集を待ち続けることはできない。

話を聞いた結果、少女はとある()()()へ赴いた。

依頼となると、多くの冒険者がギルドへ行く。ただし、それは唯一の道ではない。中にはギルドに依存せず、独自に依頼をこなす者達もいる。例えば、クランを名乗っている集団だ。

そして、この町にもクランはいくつかある。そのうちの一つが、彼女が向かう『大いなる展望(ザ・ヴィジョン)』だ。


「我がクランへようこそ」

ギルドでは情報を得ただけで、紹介があったわけではない。それでも、そのクランの代表は彼女を快く迎え入れてくれた。

中肉中背の中年の男性。目を引くほどの顔つきではないものの、彫りの深い顔立ちをしている。

「我がクランへ来るとは見る目がある。君のような冒険者を待ちわびていたのだよ」

「あ、はい」

芝居がかった仕草が目につくその代表は、彼女にとって会ったことのない種類の人間で、少女はどう反応して良いか分からなかった。


平均的な家庭より一回り大きい家、その内部を改装したらしき建物が、『大いなる展望』の拠点だった。

入口近くにテーブルと椅子が備えてあって、そこに二人は腰掛けている。同じ階で女性が一人、机で何か作業をしている。

「さて。クランとギルドの違いを知っているかね?」

「いえ……」

彼女は騎士向けの教育を受けていたものの、冒険者についてはよく知らない。

「なに、古い話だ。恥じることはない。なにせ私も生まれていない頃の話。ギルド……そう、今でこそ単にギルドと呼ばれているが、かつては冒険者ギルドと呼ばれたギルドは、冒険者同士の互助団体に過ぎなかった。一方、クランとは単に血族を指していた。血族が集まって何かを為すことがあっても、単なる家業の域を出ることはなかった。状況を変えたのは、魔物が生み出す資源(リソース)だ。資源を巡る冒険者稼業が盛んになるにつれ、ギルドとクラン、それぞれの形は変わっていった……」

男は板のようなものを取り出し、時々文字や絵を加えながら解説している。

「……時は流れ、冒険者ギルドの運営は冒険者達の手を離れていった。冒険者ギルドの役割は互助よりもむしろ共助に重きが置かれるようになり、冒険家業の勢いに乗り、国境を超えて拡大していった。そうして、ギルドといえば冒険者ギルドを指すほどの一大組織になっていったのだ……」

そういえば、彼女は座学が得意ではない。それを思い出したのと眠気を覚えたのは同時だった。

「……さて、時を同じくして、クランもまた変革の時を迎えていた。苛烈なる資源競争に打ち勝つため、血族という枠に囚われず、広く人を集めるようになっていった。この方針転換は間違っていなかったものの、後の世から見れば失敗ともいえる。血族だけでは戦力が足りないという点では正しかったものの、ギルドが生み出した依頼と掲示板(ボード)のシステムに太刀打ちできなかったのだ。結果、クランは緩やかに衰退し、次第にギルドの敷く制度をはみ出した者たちを受け入れるようになったのだ。大多数に利するシステムとしてギルドが優秀であることは一定程度評価でき、疑うべくもないことなのだが、我々はそこを溢れてしまった者達にも目を向けているというわけなのだよ……」

男による独壇場が続いていたせいか、船を漕ぎかけていた彼女は油断していた。

「ときに君」

「は、はい!」

急に声をかけられ、身体がビクッと震える。

彼女は慌てたものの、男は特に気にしていないようだった。

「『心血剣会』なんて奴らに声をかけられてはいないだろうね?」

もしかしたら今の話のどこかに出てきていたのだろうかもしれないが、聞き覚えがない。とりあえず彼女は首を振った。

「ふむ。知らないならばその方が幸運だろう。なに、彼奴らもクランではあるのだがね。我々の主義を真っ向から否定するばかりか、根も葉もない噂を流すような連中だ。彼奴らのモットーを知っているかね? 『単純であれ』だと。……まったく、人間の進化や進歩を否定するような連中だよ。彼奴らがこの町にいるだけで冒険者全体の品性が疑われるというものだ。全くもって嘆かわしい限りだよ」

また長い話が始まった。彼女は気付いたのだが、彼女がほとんど話を聞いていないように、この代表もほとんど話を聞く側を見ていない。

「だが心配することなかれ。君は奴らのようにはならない。なぜって? 我々が付いているからさ」

「は、はあ」

彼女の困惑は伝わったのだろうか。伝わっていないかもしれない。伝わっていることを祈りたい。

「なぁに、不安になることはない」

彼女の祈りは通じなかったようだ。

「君も線なし(リミテッド)から初めて、一月もすれば一本線(スタンダード)さ。そして、我がクランが誇るカリキュラムに従っていけば、いずれは二本線(アドバンスト)も見えてくる。そして、ここからが重要だが、経験を積めば私のような三本線(リード)にもなれるのだ。……今は私しかいないが。いやともかく、重要なのは、我々はサポートを惜しまないということだ。道は君の前に開かれている」

怒涛のように語る男の言葉が、彼女の耳を通り抜けていく。

男が指を鳴らす。しばらくして、机に向かっていた女性がとびきり分厚い冊子を持って現れた。驚くべきことに、握り拳を縦にして釣り合う程の厚みがある。

「これは我々のカリキュラムを一冊にまとめたものだ。我々の信念と展望を丹念に書き出し、20項目からなる目標を5段階に分け実践的な146の例を添えて記してある。明日はこれを読み込むところから始めよう。いや、今日からでもいいな。いや、善は急げだ。今からにしよう」

騎士の少女の眠気は覚め、代わりに猛烈に帰りたくなってきた。

「ときに君、名前はなんだったかね?」

「わ、私は……」

もう帰りますと切り出そうか、彼女は迷った。

「『指導者(リード)』」

奥にいた女性が二人の元へ歩み寄る。

「む、なんだね?」

「急ぎのお話が。お手数かけますが奥で」

「分かった、今行こう」

代表は向かった先で、何やら書類を相手ににらめっこしている。

騎士の少女が見ていると、女性と目が合った。彼女は代表の死角になる位置で入口の扉を指差した。続いて代表の男を、最後に彼女自身を。

そのジェスチャーがもう一巡した時、察しがついた。自分が代表の気を引いているうちに帰れと言っている。なぜ彼女がそんなことをするのか、理由は分からないが。

騎士の彼女は音を立てないようにドアまで忍び寄ると、そっとドアを開ける。扉が閉まってからは全力で逃げ出した。


()()()()()()()()()()。今になってその理由が分かった気がした。

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