Ep.1-10 これから
決着の後の展開は早かった。
キョウとキリはこの町を引き上げることを決め、すぐに旅支度を済ませた。
あたしたちは一度宿に戻ったものの、見送りをするハナの付き添いのため、息つく暇もなく町外れまで取って返すことになった。
街道の端、人通りの邪魔にならない場所でキョウとハナが話し込んでいる。
「ハナ様が元気でやっていると、姉君にも伝えておきますね」
「……うん。ありがとう」
「いずれまた様子を見にきます。それまでは、時々でいいので手紙を出してくださいね」
「うん」
あたしとベルは手持ち無沙汰だ。で、リッカはというと――
「くれぐれもハナ様を頼むぞ」
「おう」
「いいか、ハナ様は目を離した瞬間に見失いかねん。常に注意を払え」
「お、おう」
「あとは――」
なぜかキリと言葉を交わしている。
さっきまでの戦いはなんだったのか。あれだけやり合って何の確執もないらしい。
なんて単純な奴らだろ。
会話の時間は長く続かなかった。特にハナにとっては、あっという間の時間だっただろう。
家出中の身であっても、家族同然の人間と会って、また別れるのは、きっと軽い出来事ではない。
「では、またしばらくの間お別れです」
「元気でね。キョウ、キリ」
「ええ。ハナ様も」
キョウとキリが背を向ける。
と、キョウだけが足を止め、ハナに何かを囁いた。
(ハナ)
(……キョウ?)
(ハナにとって良い相手が見つかったら教えてくださいね)
(キョウ!)
……。
囁き声でも聞き取れてしまったのは、あたしがハナの事情を知っているからだろうか。
リッカとベルはまだ、ハナが家出していること、それを認めさせるために戦ったことしか知らない。
詳しいことは、ハナと相談して、いずれベルにも伝えよう。
リッカは……うん。まあ、当面先でいいかな。
二人の姿が完全に消えるまで見送るハナの後ろ姿を、みんなで待っていた。
沈黙がなんとなくむず痒い。
「ま。これで一件落着だね」
わざとらしいかもしれないけれど、あえて口に出してみる。
じっと彼方を見ていたハナが、突然振り返った。
「みんな――」
振り返ったハナが、その勢いのまま飛びついてきた。リッカとベルも巻き込んで。
「ちょ――」「おわっ」「にゃっ」
泣きそうな顔のハナが、ぎゅっとみんなを抱きしめる。
「みんな、本当にありがとう!」
街道を歩く人の目が少し恥ずかしくて居心地が悪かったけれど、あたしたちはハナが満足するまでそうしていた。
……本当に良かったと思う。
ハナと出会えて、また冒険を続けられて、良かった。
で。リッカ
不可抗力とはいえ、どこを触ってる。
ハナがみんなを放した後、リッカには蹴りを入れてやった。
――いつもの食堂。いつものように、夕食より少し早い時間から駄弁っている。
ただし、これからは四人だ。
話題の中心は、一度中断していた、次の冒険の行き先についてだ。
いや、それについて話していたはずだったけれど、素材系の資源を狙うのはどうかというところから話が逸れて、今はベルとリッカが防具について熱く語っている。ハナはもっぱら聞き手……というか、驚き手?に回っている。
これはこれで楽しそうだからいいけれど。
あたしはそっとテーブルを離れ、カウンターにいた給仕のところへ。
「リーナ」
「あら、エコ。どう、調子は?」
「悪くはないよ」
「なら良かった。スープしか注文しなかった時は心配してたのよ」
彼女、リーナはテキパキと手を動かしながらも、よく話を聞いてくれる。
パーティの愚痴が話せる数少ない相手だ。
「今は大丈夫だけど……でも、もう大変だよ。リッカはよく暴走するし、お金はすぐなくなるし……色々決めなきゃいけないし……」
「あら、リーダーしてるじゃない」
リーナは店に入ってきた客に手を振った後、いたずらっぽく笑った。
「たった三人や四人のパーティのリーダーでも、こんなに大変だなんて思わなかったよ……」
「そんなこと言わないの。ほら。これサービスだから☆」
リーナはウインクをして、さっきまで用意をしていた飲み物を置いてどこかのテーブルへ去っていった。
「……お客さんに出す分じゃなかったんだ」
リーナは本当に気が回る。活力に溢れていて、明るくて小さくて可愛い。まるで星みたいだ。
あんな子になりたい。なれないけど。
ため息が出る。けれど、ないものは仕方ない。みんなのところに戻ろう。
席を離れている間に、話題は装備の話からまた素材の話になり、ようやく冒険の行き先の話に戻ってきたらしい。
「火山の方とかどうかなって。鉱石がよく取れるらしいし」「火山!」
「素材集めには良いって言うよな。他は、……骨とか?」「骨!」
「防具には骨もいいって聞くね。どっちがいいんだろう」
「火山じゃないか? 鉱石を売れば骨より稼げるだろ。……お、エコ。どこ行ってたんだ」
「……ちょっとね。飲み物もらってきたよ」
リーナにもらった飲み物をみんなに渡す。
「あ、ありがとう」
「ねえエコ、聞いて聞いて。骨だけなのに動く生き物がいるんだって」
ハナは腕をぶんぶんと振って驚きを表現している。
「……動く骨もいるし、逆に肉だけで動くのもいるよ。……まあ生きてないから生き物じゃないんだけど」
「不思議!」
もう落ち込んでいた時の面影はない。最初に会った時のハナだ。
食事をとり、他愛ない話題を挟みながら、目的地を絞り込んでいった。
有力な候補は、火山帯のどこかかと、骨が出没するエリア。どちらにするか、具体的にどこに行くかは、ギルドにある依頼次第で決める。
そこまで決めた時だった。
ふと、思いついた。
「そうだ。ちょっと他に決めたいことを思いついて」
みんなが注目する。
「あたしたちの、パーティの名前を決めよ」
この話し合いは冒険の行き先以上に結論が遠く、何日にも渡って話題の中心になった。
けれど、そうして決まった名前で、あたしたちは四人組のパーティとして名を揚げていくことになる。
それはもう少しだけ先の話だ。




