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メシマズ魔女、美食の魔杖と旅をする。  作者: 紫嶋桜花


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7/7

旅支度は続く

 とりあえずはと、東門前の広場に戻った。


 広場に面して様々な店や建物が並んでいる。特に大きな建物は、店構えからすると宿屋だとヒューが教えてくれた。

「高級宿と、冒険者が世話になるような宿もあるなあ」


 さらに、広場からは何本かの通りが伸びている。

 一番人通りが多いのが、今歩いてきた、ギルドの前を通って中央広場まで続く大通りだ。

 その他には、外壁に沿うようにして北と南にも通りが見えた。

「北が職人街、南が波止場だそうだ。波止場は船の荷を積み下ろしするところな」

「ふんふん。職人街って?」

「俺達が一番用事があるのは、武器や防具を売る店だな。魔法使いが使うものには詳しくないが、とりあえず見に行ってみようか」



 というわけで、そちらに足を向ける。

 門に近いあたりには日用品の金物などを売る店が軒を連ねていたが、少し進むと、確かに武器や鎧を並べる店が増えてきた。


「俺はとりあえず今の装備でいいんだが、ベルさんは防具を探したほうがいいかもしれないな。今の格好は……完全に『服』だし」

「まあ、『服』だねえ」

 なにしろ家で着ていたもののままだ。


 ヒューが目をつけた手頃な防具屋に入る。店頭には革でできた製品が並べられていた。

「いらっしゃいませ、なにかお探しですか?」

 眼鏡を掛けた細身の男性が接客してくれる。

「ああ。ちょっと、彼女に手頃な装備があれば」

 ヒューに手のひらを向けられ、ベルはよろしくお願いします、と一歩前に出る。


「お客様は魔術師でしょうか? どういった流派でいらっしゃいますか?」

「……流派?」

 あんまり耳慣れない言葉が出てきた。

「ええ。肌を見せる面積が決まっていたり、両手で道具を使う必要がおありだったりしましたら、身に付けられるものにも制限がかかってまいりますので」

「ああ、そういう……。えっと、片手に杖は持ちたいけど、それ以外は特には大丈夫かな」

 魔法に必要なわけではないが、ヒューに杖を持たせるわけにもいかないだろう。


「なるほど。でしたら、当店にございます中ではやはり、このあたりとなりますでしょうか」

 案内された棚には、革をなめした胸当てや肩当てが並んでいる。

「魔法使いの方は、戦士などの職業の方の鎧よりも軽量で、動きを阻害しないものがおすすめです」

 ふむふむ。

「あとはこういった腕輪、指輪ですとか」

 ガラス張りのケースに入った宝飾品も見せてくれた。

「回避や防御の恒常魔法がかけられているんですよ」

「へー……」


 値札を見た。

「高っ」

「ええ。冒険を重ねられた折には、こちらもぜひご検討ください」

「はい……」

 なんかこの流れ、さっきもやったような。

「ご試着もできますよ。こちらの姿見もご利用くださいね」

「あ、ありがとうございます」


 いろいろ試してみて、ベルは柔らかい革の胸当て、肩当てのセットを買うことにした。

 色はレモンイエロー。ヒューの意見も取り入れた結果である。

「お買い上げありがとうございます。お気をつけて冒険なさってくださいね」


 


 店外に出たところで、ヒューが尋ねた。

「魔法に必要なものっていうのは、ないのか?」

「えと?」

 ぴんとこないベルの代わりに、杖が答えてくれる。

「ベルの魔法は、大気中の魔素を利用しておるからな。変換効率はなかなかのものだぞ」

「へえ」

「そうなんだ」

 変換効率とか気にしたことなかった。


「いや、本人が初耳なのか?」

「人と比べる機会もなかったからなあ……」

「そんなもんか……」

「ま、そうだな。というわけで、当面そっちの買い物の必要はなかろう。魔力強化の宝飾品も存在するはずだが、どうせまだ買えまいしな」

 またさっきのパターンになりそうなことはベルにもわかる。

作製(クラフト)した魔石を備えとして持っておく、くらいでいいんじゃないか?」

 そう杖は言葉を結んだ。

「わかった、そうしておく」

「了解だ」





「よし。じゃあ、次は宿を取ろうか。……と、その前に」

 広場に戻りながら、ヒューはベルたちを振り返った。

「ふたりは、どこか行きたいとこあるか? 俺はしばらくこの街で、軽めの依頼をこなしてもいいかなと思ってるんだけど」

 ベルは少し考えて口を開く。

「私も、そのほうがいいかなあ……冒険者っていうのに慣れておきたいし」

 杖も同意した。

「そうだな。それに、この街にはまだまだうまいものがありそうな予感がするぞ」

「そう、そうなんだよ」


 ヒューは楽しげに声を弾ませた。

「じゃあ決まりだ。そしたら、少し長めに逗留するつもりで宿を探そうか」


 広場に戻って少し歩いてみると、さっきの大きな宿の裏手にも、何軒か冒険者向けの宿泊施設が固まっている小路があるようだ。

 いくつか比較して、広場からそう離れていない中くらいの宿にすることにした。

 杖とベルで一室、ヒューが一室、隣同士の部屋がちょうど空いていた。

 食事はない宿である。

「いろんな店で食べたいもんな」

「その通り!」

 すっかり意気投合しているヒューと杖だった。


 入館のときに受けた説明によれば、提携の温浴施設、というのが近所にあって割引されるらしい。

「……?」

 首を傾げていたら、旅慣れているヒューが一言。

「ああ、実際に使うときに説明するよ」

「よろしく」

 何から何までお世話になりっぱなしである。





 部屋に入って、ベルは今日買ったものを袋から出し、ベッドの上に並べた。

「……ふふ」

 杖がこころなしか柔らかい声で問いかけてくる。

「買い物は楽しかったか?」

「うん」


 生活必需品以外の自分のものを買ったのは、初めてだ。

 これも旅に必要なものではあるのだけど。

「よろしい。たくさん仕事をして、今日買えなかったものも買えるようになるといいな」

「うん。よさそうなもの、たくさんあったもんね。頑張る」

 ゆっくり時間をかけて案内してくれたヒューに感謝だ。

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