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メシマズ魔女、美食の魔杖と旅をする。  作者: 紫嶋桜花


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楽しいお買い物

 冒険者ギルドを出ると、日が高くなりはじめていた。

「よし」

 ヒューは肩を回す。こころなしか楽しそうだ。


「ベルさん、疲れてないか?」

「大丈夫。ヒューは?」

「俺もまだまだ平気だ。そしたらこの足で、仕事に必要なものを買いに行かないか?」

「いいね」

 杖も小声で同意する。

「よかろう。調達は物事の基本だ」




 ということで、二人と一本はそのあたりの店を回ることにした。

「ギルドの周りに、冒険者に必要なものを売る店が揃ってんだ。簡単な消耗品ならギルドでも買えるし……うん、やっぱり最初はカバン屋からかな」

「カバン?」

 ベルは家から持ち出してきた、布の肩掛けを見下ろした。

 少しの着替えを入れているが、やはり心もとないだろうか。

「うん。そいつも悪くないが、旅に使うにはやっぱり丈夫な革製の背負い袋を一つ持っておくのをおすすめするよ。何かのときに放り投げてもよさそうなやつな」


 カバン屋はギルドの数軒先にあった。

 気のよさそうなおじさんが店に立っている。

「いらっしゃい、何かお探しかい?」

「ああ、この人に冒険用の背負い袋をひとつと、あといいものがあれば」

「ふむ。お客さん魔法使いかい、マジックバッグもあるけどどうかな?」


 まじっくばっぐ。

「……とは?」

 ベルが首を傾げると、おじさんはにこにこと教えてくれる。

「魔法がかかったカバンだよ、見た目よりはるかに多いものが出し入れできるんだ。自分の魔力を登録すれば、本人以外に出し入れできない……なんて機能がついてるのもある」

「おお」

「入れたものの重さも軽くなるからね。おすすめだよ」


「なんだかすごそう。……ってことは、高いんでしょ?」

「ははっ、鋭いね。背負い袋型で10万ナール、ポーチなら3万ナールかな」

 ナールはこのあたりの通貨単位である。

「……。ちなみに、普通の背負い袋は?」

「5000ナールだ」

「普通ので」

 即答である。


 わはは、とおじさんは笑って、背負い袋がいくつも置かれている棚に案内してくれた。

「まあ、マジックバッグがおすすめっていうのも本当なんだよ。ランクを上げて資金に余裕が出てきたらぜひ、ご検討を」

「はいはい」

「そちらのお兄さんもね、ぜひ」

「ああ、まあいずれはな」

 ヒューまで巻き込まれて苦笑している。


「魔法使いなら魔石を持ち歩くだろうから、ベルトポーチも出しておくよ。このへんは皮の染色もきれいで、飾りステッチが若い女性に人気なんだ」

「うん、これかわいいね」

 ベルが目に止めたのは絶妙な色合いの茶色いポーチである。

「お、新色のココアブラウンだね。お目が高い。この色を出すには職人がだいぶ試行錯誤したって話だよ」

「ふうん……じゃあそれにしようかな」

 ココアが何かはわからないのだが。


 その店では背負い袋とポーチの他に水袋も買い、たくさん買ったサービスとして二枚ほど布袋をおまけにつけてもらった。

「なんか、すごい喋るおじさんだったね……」

「圧があったな」

 ベルと杖が感想を言い合っていると、ヒューはニヤッとした。

「冒険者相手の店の店員なんてみんなあんなもんだぞ。さ、次行こうか」

「ひょえ」




 ヒューの言う通り、そのあと野営用品店や小間物屋を巡ったが、どちらも話が達者な店員に次から次へとおすすめを紹介された。

「カバン屋さんは序の口だったね……」

「そうだな……」

 買ったのは寝袋にもなる毛布、カンテラ、火をつける道具、小さな手鏡やナイフに衛生用品ぐらいなのだが、多分その十倍ぐらいの品物を見た気がする。


「疲れさせちまったか?」

「あ、ううん。楽しいんだけどね、見たことないものばっかりで」

 ヒューが案じるのに、慌てて首を横に振ると、杖も言い添えた。

「そうだな。どの店でも金が溜まったら買いたいものがあったようだしな?」

「うん」

 

 ベルはうなずく。

「魔法の光のランタンも気になったし、インクがなくならない魔法のペンも検討中」

「ああ、確かにあのへんは便利でいいよな。マジックアイテムとしても手頃だし」

「でしょ?」


「お前さんは何か魔法の品は持っとるのか?」

「俺はないよ、どうしても食材に金を溶かしがちだしなぁ。あ、でも食材が新鮮なまま保存できるカバンってのがどっかで売ってるらしくて……」

「ほほう。それは是非とも手に入れたいところだな」

「だろ? ……お、次の店はここだ」




 案内されたのは、木工の品を扱う店である。

「ここで何を買うの?」

「皿やカップを見てもらおうと思ってさ。俺も予備は持ってるけど、自分用があると、こうテンションが上がるだろ?」

「確かに」


 店内には木製の食器が置かれた一角があり、二人と一本はそこで品をじっくり検分することにした。

「……どう?」

 杖に小声で聞いてみる。

「ふふん、わしはもう決めたぞ」

「早い」


 ベルも自分のお気に入りを見つけるべく、棚を隅から隅まで眺める。

 木が違うのか、塗料の違いか、色や質感もさまざまだ。

「んー……あ、これ」

「お、いいのあったか?」


 目がとまったのはつるっとした作りの、明るい茶色の皿である。

 杖をヒューに預けて、両手で持ち上げてみる。

「おお、かわいい」

 よく見るとりんごの模様が一つ彫られていた。


「お、いいんじゃないか?」

「子供っぽすぎないかな?」

「そんなことないと思うけど。ベルさんが気に入ったならそれが一番だよ」

「そっか」


 じゃあこれにしよう、とほくほくして再び棚を見る。

 同じシリーズでオレンジのマークの小さなボウルと、ぶどうのマークが入ったカップがあったので、それも買うことにした。

 カトラリーも見て、軸が赤く塗られたセットを購入する。


 杖は渋い、ほとんど黒に近い焦げ茶の正方形の皿やコップを選んでいた。

 満足感高く店を出る。

「じゃ、じいさんの食器は俺が預かっておこうかな」

「うむうむ、よろしく頼むぞ」

 ベルの背負い袋も、今日買ったものですっかりいっぱいになった。




 ヒューがまたしても提案する。

「そろそろ昼飯だな。いい店の話を聞いたんだが、行ってみないか?」

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