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メシマズ魔女、美食の魔杖と旅をする。  作者: 紫嶋桜花


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4/7

バノックの街の冒険者ギルド

 翌朝、二人と一本は街に向かうべく、野営地を出立した。

 ちなみに朝食は、魔素から作った卵をヒューが調理したスクランブルエッグだった。

 バターが効いていて、大変に美味であった。とは、杖の言である。


 しばらく歩くと、昨日ベルたちが通ってきた街道とぶつかる地点までやってきた。

 道は合流し、しばらくすると丘をのぼっていく。

「あの丘を越えたら街が見えてくるぞ」

 とヒューが教えてくれた。


 丘までたどり着き、緩い傾斜になっている道を登る。

 てっぺんに到達すると、木々の隙間からキラキラしたものが見えた。

「あれ何?」

「お、運河だな」

「うんが?」

「でかい川だな。船が行き来して、人や荷を運ぶんだ」

「ふうん?」


 ヒューと杖が教えてくれるが、ぴんとこない。

「ま、進んでみようぜ」

「ん」


 やがて、木々が途切れて視界が開ける。

「…………!」



 平原が見渡す限り、遠くまで広がっていた。

 道は丘から緩やかに、前方に伸びている。

 そして、その行き着く先に灰色の壁が巡らされ、さらに向こうにはいくつかの尖った建物がそびえ立っていた。



「あれがバノックだ」

「へえ、あれが……」

「おう。今見えてるのは、城壁だな」


「ってことは、あの建物が街?」

「そうそう。それと、左を見てみな」

 ひだり。

「あっ、さっきのキラキラ……!」


 キラキラは、言われてみればとにかく広い川だった。

「あれ、船? いっぱいある」

 ここから見ると小さい船の一つ一つだが、上で動いている人影を見るに、それなりの大きさがあるようだ。

「朝だからな、港を出た船がたくさんいるんだ」

「なるほど……」




 街道をそのまま進んで、城壁に作られた門にたどりつく。

 門衛の軽いチェックを受けて中に入ると、男性の大きな声が耳に飛び込んできた。

「ああっ! ヒューさん!!」


「あっ、ティムさん、無事だったか」

 ヒューが応じる。

「ヒューさんこそ、よくぞご無事でした!!」

 泣き出さんばかりに喜んでいる男性にはベルも見覚えがある。えっと……。

「……あっ、昨日の人」

 ベルに三叉路で声をかけてきた、行商人ふうの男性である。


「あっ、あなたも! 心配してたんですよ」

「……ご心配おかけしました……?」

 話を聞けば、この行商人さんこそヒューの護衛していた相手だったという。

「なるほど、ベルさんはティムさんとすれ違ってたのか」

「うん」


 ティムはヒューの身を案じて門まで来ていたという。

「もしご無事なら、それでよし。そうでなければ、冒険者ギルドに魔物の討伐依頼を出そうかと思いまして」

「そっか、ありがとう。……それじゃこれから一緒に冒険者ギルドに護衛完了の報告に向かう、でいいかな?」

「ぜひに」

「ベルさんも行って、ギルドに入会するか?」

「そうしようかな」



 ここは東門で、街に入ったところがすぐ広場になっているらしい。

「広場からまっすぐ街の中心に向かっていけば、右手に大きな建物があって、そこがギルドなんだ」

 と、ヒューが解説しながら先に立って案内してくれる。

「俺達は、護衛依頼の完了報告と、魔物の討伐報告をしなきゃならない。ベルさんの用事はちょっと待っててくれるか?」

「おっけー」


 ギルドは言われたとおり、三階建てのしっかりとした木造建築だった。

 一階は、武器や鎧をつけた人々が出入りしてがやがやと賑わっている。

 その一角に置かれた椅子に座って、ベルはヒューたちの手続きが終わるのを待った。


「お待たせ」

 用事を済ませたヒューが戻ってきた。ティムは二人に会釈して、ギルドを出ていく。

「入会はあっちの窓口らしいよ。さっそく行こうか」

「うん」




「こんにちは。新規ご入会ですか?」

 カウンターには制服を着た女性が座っていた。

「はい。よろしくお願いします」

 向かいに置かれた椅子に座ると、ヒューもそのへんから椅子を持ってきて横に座った。

「それでは、こちらの申込用紙に必要事項をお書きください」


 ふむ。

「えー、っと……名前、」

「魔女の方でしたら、魔女名でも結構ですよ」

「あ、はい。そうします」

 魔女名とは、魔女としてやっていくと決めたときに師匠からつけてもらう名前である。

 呪力がこもっていて、いろいろと特別な働きがあるもの、らしい。


 ベルガモット、と記入して、あとはできることや仕事の希望を記入する欄やらがあった。

 受付嬢とヒューに助言してもらいながら埋めていく。

「ベルさんなら討伐はこなせるんじゃないかな。薬草とかの採取はどうだ?」

「うん、そういうのも一応ばあちゃん……、師匠から教わってる」

「では、ぜひご記入ください」


 一通り書き終わると、推薦人の欄にヒューが署名し、受付嬢に手渡した。

「……はい、漏れはありませんね。こちらで受理いたします。そうしたら、次は鑑定を受けてください」

「鑑定?」

「ああ、すごいぞ。魔法でその人の能力がわかるんだ」

「へえ……」


 奥の小部屋に案内される。

「こちらに手をかざしていただけますか?」

 台の上に、握りこぶしより少し大きいぐらいの、透明な水晶球が置かれている。

「片手ですか?」

「はい」

 左手で杖を持ったまま、右手を水晶玉にかざした。


 ぽっ、と透明だった水晶玉が白く光る。

「わっ」

「……はい、以上で鑑定は完了です。元の席で少々お待ち下さいね」

 なるほど、これが鑑定かあ。



 カウンターに戻ってしばらくすると、受付の女性は小さなトレイに何かを載せて戻ってきた。

「……これは?」

「冒険者証です。こちらのカードを常にご携帯ください」

「かーど……」

「俺も持ってるんだ」

 ほら、とヒューが見せてくれる。


 その薄っぺらい板のようなものには、ヒューの精巧な似顔絵と名前、あとはベルにはよくわからない言葉がいくつか書かれていた。

「この絵も、魔法で?」

「ええ。記載されている文字も、魔法で自動で書き換わるんですよ」

「おお……」

 詳しい仕組みはわからないが、ものすごく高度な魔法だということはわかる。

 それを一人一人に支給できるなんて、冒険者ギルドというところはよほど強固な組織なのだろう。


「この黄玉(トパーズ)級っていうのは?」

「ああ、それは冒険者のランクだ。ランクはパーティーを組むときとか、依頼を受けるときに関わってくる。ベルさんは……」

 ベルは差し出された自分のカードを見た。ランクの欄は、空欄である。


 受付嬢が口を挟んだ。

「その件なのですが、ベルガモットさんはヒューさんとパーティーを組まれるのですか?」

「はい、そのつもりです」

「でしたら、通常、初めて入会される方は長石(フェルドスパー)級からのスタートになりますが、今回は特別に一つ上の水晶(クォーツ)級からというのはいかがでしょう?」


 冒険者のランクは、上から順に、金剛石(ダイヤモンド)鋼玉(コランダム)柘榴石(ガーネット)黄玉トパーズ水晶クォーツ長石フェルドスパーと定められているそうだ。

「もう一つ、子供が小さなお使いをするとか、副業としてギルドに加入するために琥珀(アンバー)級っていうのがあるけどな。まあ、それはさておき」

「駆け出しの方はしばらく長石級でギルドの仕組みや依頼に慣れていただく形になっています。ですが、黄玉のヒューさんとパーティーを組まれるのであれば、それは必要ないかなと……」

「確かに、その辺は俺が教えながらやってみせればいいもんな」


「はい。それに、ベルガモットさんの魔法の能力が大変秀でていらっしゃるので……、ここは最初から水晶級で手応えのある討伐依頼などをこなしていただいたほうが、ギルドとしても助かるかと」

「なるほど」

 ヒューは頷いているが、ベルはあまりぴんとこない。

「魔法の能力?」

「はい。先ほど、鑑定で魔力の大きさや制御能力、使える魔法の種類を検査させていただきました。ざっとした感じになりますが」

 わお。


「そうなんですか……それで、水晶のほうがいいって?」

「そうなりますね。もちろん、長石を希望されるのでしたら、そちらでも」

 ベルはちらっとヒューを見た。意を察した彼がうなずく。

「俺はベルさんなら水晶でも大丈夫だと思うよ。一緒に魔物を討伐しての感触だけど」

「そっか。……じゃ、水晶でお願いします」


「はい、ではそちらで処理いたします。……おめでとうございます、冒険者ギルドへようこそ!」

 受付嬢がそう言ってぴかぴかの冒険者証を渡してくれると、ヒューをはじめ、近くにいた冒険者たちがぱちぱちと拍手をしてくれた。

 冒険者ベルガモットの誕生である。

 

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