第五話:帰れなかった少年
その日の夕方。
ヨシコが母に伝言を伝えると、母は「実は……」と話し始めた。
あの夏祭りの夜。
玄関のドアを開けたとき、ヨシコの横には“少年”が立っていたという。
最初は、ヨシコがとうとう彼氏を連れてきたのだと思った。
だが、その少年の様子は明らかにおかしかった。
カーキ色の国民服。
戦時中の学生が着ていたような、古い服装。
そして――
腰から下が、なかった。
まるで切り取られたように、存在しなかったのだ。
少年はヨシコと並んで、当然のように玄関に入ろうとした。
母は咄嗟に立ちはだかり、静かに言った。
「ごめんなさいね。うちには入れてあげられないのよ」
ほんの数秒。
少年は、頭を垂れた。涙をこらえているようにも見えた。
そしてその後・・・煙のように消えた。
母はその場に立ち尽くしたまま、震えが止まらなかったという。
母はずっと気になっていた。
消えはしたが、ヨシコに何か悪いものがついているのではないか。
あの夜、ヨシコは誰もいないのに肩を叩かれたり、自転車のライトが消えたりしたと言っていた。
ライトは翌日には普通に点灯したが。
そして――
パメラが伝言を託したということは、あの少年の事情を知っているのだろうと考えた母は、ヨシコが学校に行っている土曜日に、父の車でデパートへ向かった。
占いを口実に、パメラに尋ねた。
パメラは静かに語った。
「あの少年はーーー戦時中、
学徒動員でタチソでの作業中に亡くなりました。
そして長い間ずっとあの土地に縛られたままでいた。
でもあの日、ヨシコさんの『家に帰ろう』という言葉に反応したのです。
自分の家に帰りたい、母に会いたい――その一心で、反射的についてきてしまった。
でも当然、行き着いた先は自分の家ではありませんでした。
だから、お母様に改めて謝罪したいと申し出てきたのです」
若くして命を奪われ、今も家に帰れずにいる少年。
ただただ母に会いたい一心で、ヨシコの言葉に引き寄せられたのだ。
母は涙が止まらなかったという。
しばらく黙っていたパメラが、小さく微笑む。
「でも、大丈夫ですよ。」
母が顔を上げる。
「あの子は、ヨシコさんの言葉をきっかけに、自分がもうその場所に縛られなくてもいいことに気づきました。ちゃんと帰るべき場所へ帰っていきました。」
「もう、迷うことはありません。」




