第三話:きみこが見た少年
翌朝、ヨシコは自転車のライトを確認した。
昨夜は突然消えたのに、今日は何事もなかったように点灯する。
(やっぱり故障してへんかったんや……なんやったんやろ)
みどりの怪談が頭をよぎるが、ヨシコは深く考えないようにした。
新学期が始まり。
ヨシコが教室でノートを広げていると、背後から声がした。
「ねえ、ヨシコ。お祭りのときにさ……隣にいた男の人、彼氏?」
きみこだった。
いつものように、どこか探るような笑顔を浮かべている。
「は? 男なんておらんかったで。みどりと二人で自転車置き場向かっただけやん」
ヨシコは即答した。
きみこは首をかしげ、少しだけ眉を寄せた。
「え? だって……いたよ。ずっとヨシコのこと見てて、ときどき笑ってたし」
ヨシコは一瞬、言葉を失った。
(……誰? そんな人、絶対おらんかった)
きみこは続ける。
「ほら、自転車置き場の前で声かけたやん? あのとき、ヨシコの右後ろに立ってた男の人。」
ヨシコの背筋がすっと冷えた。
昨日、肩を叩かれた感触。
誰もいないはずの背後。
そして、母が絶句した理由。
全部が一本の線でつながるような気がした。
「……きみこ、ほんまに見たん?」
「見たよ。ヨシコ、気づいてへんかったん?」
ヨシコは曖昧に笑ってごまかしたが、心の中ではざわざわと波が立っていた。
(あれ……ほんまに“誰か”やったん?)




