第二話:帰ってきた少年
夏祭りの喧騒が遠ざかり、社宅の並ぶ住宅街はいつもの静けさを取り戻していた。
みどりと別れ、ヨシコは自転車を押しながら家の前に立つ。
玄関の鍵は開いているはずだった。
今日は祭りに行くと言って出てきたから、母は帰宅時間を見越して鍵を開けて待っている。
それでもヨシコは、わざとチャイムを鳴らした。
「おかえりって言ってほしいだけやねんけどな……」
ピンポーン。
すぐに足音がして、母がドアを開けた。
「もう、鍵あいてんねんから、さっさと入ればいいのに」
文句を言いながらも、いつもの調子だ。
ヨシコは「ただいま」と返し、靴を脱ぎながら家の中に入った。
その瞬間、母が言いかけた言葉が途切れた。
「お帰……」
母の顔が固まっている。
ヨシコは違和感を覚えたが、まだ気づかない。
それよりも、先に挨拶すべき相手がいる。
「タマちゃん! よしこが帰ってきたよ!」
子猫のタマは、ヨシコを見ると尻尾を立てて駆け寄ってきた。
その姿にヨシコは顔をほころばせる。
「猫もたいへんやな」
父が見ていたTVから顔を向け、斜め上からの視線でつぶやいた。
その声も、いつも通りだった。
ただ――
母だけが、ヨシコの背後を見つめたまま、動けずにいた。
ヨシコは気づかない。
背後に“誰か”が立っていたことを。




