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EP 3

第一波の攻防! 散りゆくタンシオ将軍と「酔わせれば勝ちだ!」

 魔導タッチパネルのタイマーは【83:15】を指していた。

 開始からわずか数分。ルナミス帝国最大の焼肉バイキング『タロキン』の4番テーブルでは、すでに【カルビ50人前】という凄まじい量の肉が、特売の芋ジャージを着た人魚リーザのブラックホールのような胃袋へと消え去っていた。

「ジュゥゥゥゥゥッ!!」

 網の上では、肉の焼ける香ばしい音と、焦げた脂の匂いが暴力的なまでに立ち昇っている。

 リアンは魔導トングを両手に構え、額に微かな汗を滲ませながらも、機械のように正確な手つきで肉を裏返し続けていた。

「よし、第一陣のカルビは片付けたな。次はあっさりとした『タンシオ』で舌の脂をリセット(洗浄)し、第二陣のハラミへと繋ぐ。……お前ら、ペースを落とすなよ。制限時間コストは有限だ」

「いただきますわーっ! タンシオ、コリコリしてて美味しいですのーっ!」

 リーザが、お賽銭型掃除機のノズルを構えるような勢いで、次々とタンシオを口に放り込んでいく。

「ふはははっ! タダのお肉、最高ぉぉっ! 店員さーん、もっと持ってきてぇっ!」

 ルチアナが、箸で網の上の肉をつつきながら、だらしない笑い声を上げる。

「(……チッ。あの芋ジャージのリーザと、黒服のリアンのコンビネーション、完璧すぎる……!)」

 その惨状を、厨房から客席へと肉を運ぶ『配膳用ワゴン』の陰から、血を吐くような思いで見つめている者がいた。

 厚切り豚バラ肉の鎧を着た騎士――【トンデモナイト】である。

「我らがカルビ第3小隊が、為す術もなく全滅しただと……。あの悪魔ども、ただ食い散らかしているわけではない。温度管理、配置、そして味覚のローテーションまで、完全に計算し尽くしていやがる……っ!」

 トンデモナイトは、ワゴンのステンレスの縁を強く握りしめた。

 このまま正面から『肉』を投入し続ければ、90分を待たずに焼肉王国の在庫(仲間たち)は根絶やしにされてしまう。

 何か、奴らの『食欲のペース』を物理的に破壊する手立てを打たねばならない。

「……トンデモナイト殿」

 ふと、彼の背後から、重々しくも威厳のある声が響いた。

 見れば、見事な薄紅色の肉体に、黒胡椒と特製塩ダレの装甲を纏った歴戦の老将――【タンシオ将軍】が、次の出撃用の皿の上に立っていた。

「タ、タンシオ将軍! あなた自ら前線に!?」

「うむ。第一陣のカルビたちが散った今、奴らの標的は我々タンシオ部隊に向いている。……ここは私が殿しんがりを務めよう」

 タンシオ将軍は、覚悟を決めた武人の顔つきで、遠く離れた4番テーブルの【灼熱の祭壇ロースター】を見据えた。

「なりません! 将軍まであの地獄の網に上がれば、一瞬でレモン汁の海に沈められてしまいます!」

「構わん。私の薄い肉体スライスでは、あの強火の網の上で30秒と持つまい。だが……その30秒で、奴らのトングに一矢報いてみせる」

「将軍……っ!」

 トンデモナイトは、真紅のドリップ(涙)を流して老将の背中を見送った。

「(……いや、待てよ)」

 トンデモナイトの脳裏に、起死回生の『戦術』が閃いた。

 相手は人間だ。人間の胃袋の容量キャパシティには物理的な限界がある。

 そして、焼肉バイキングにおいて、店側が最も利益(生存率)を確保するための絶対的なセオリーがあるではないか。

「……そうだ。まともに戦っては全滅する! 飲料部隊ドリンク、前に出ろ!」

 トンデモナイトの号令を受け、ワゴンの下の段から、キンキンに冷えた『生ビールの特大ジョッキ』たちが次々と姿を現した。

「いいか、お前たち! 奴らを炭酸とアルコールで満たし、酔わせれば我々の勝ちだ! 満腹中枢を破壊し、胃袋のスペースを無駄な水分で埋め尽くしてやれ!」

『オオオオオオオオッ!!』

 黄金色の泡を乗せた生ビール部隊が、特攻の雄叫びを上げた。

     * * *

「お待たせいたしましたー! 生ビール特大ジョッキと、追加のタンシオ50人前でーす!」

 店員が、4番テーブルにジョッキと肉の皿をドンッと置いた。

「きゃっほぉぉぉぉっ!! 待ってましたぁぁぁっ!!」

 真っ先にそのビールに飛びついたのは、天界の借金女神・ルチアナだった。

「タダ酒! タダ酒! これが一番原価が高いはずよぉぉっ!!」

 ルチアナは、顔ほどの大きさがある特大ジョッキを両手で掴むと、まるで砂漠でオアシスを見つけた遭難者のように、凄まじい勢いで喉を鳴らし始めた。

「ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……ぷっはぁぁぁぁぁっ!! くぅ〜っ!! 昼間から飲むタダ酒は、五臓六腑に染み渡るわねぇぇっ!!」

 ガンッ! と空になったジョッキをテーブルに叩きつけるルチアナ。

 だが、すきっ腹に特大ジョッキのアルコールを一気飲みした代償は、ポンコツの肉体であっても誤魔化せるものではなかった。

「へへっ……なんか、世界がグルグル回ってきたわぁ……。月人君のライブ……サイリウム振らなきゃ……むにゃ」

 ドサッ。

 ルチアナは、一瞬にして目をトロンとさせ、そのままテーブルの下へと崩れ落ち、盛大なイビキをかき始めた。

「よし! まず一人、撃破リタイアだ!」

 ワゴンの陰から見ていたトンデモナイトが、ガッツポーズを握る。

 生ビール部隊の『胃袋膨張&泥酔作戦』が見事に刺さったのだ。

「店員さーん! こっちも生ビールおかわりぃっ!」

 ヤンデレウサギのキャルルも、ルチアナにつられてジョッキに手を伸ばそうとする。

 このまま連鎖的にアルコールを摂取させれば、奴らの食欲ペースは確実に落ちるはずだ――!

「……おい」

 だが、その甘い目論見は、ブラック企業経営者の冷徹な一言によって一刀両断された。

「酒は原価が安い。水でいい」

「……え?」

 キャルルがジョッキに伸ばした手を止める。

 リアンは、トングを持ったまま、ジョッキのビールを冷ややかな目で見下ろした。

「いいか。ビールなんてものは原価数十円の麦汁と炭酸だ。そんなもので胃袋の貴重なスペースを埋めるのは、食べ放題ビジネスにおいて最大の愚行(赤字)だ。

 水分が欲しければ、無料の氷水(お冷)をチビチビと飲め。……店員、このテーブルの飲み物は今後すべて『水』だ。酒はいらん」

「ひぃぃっ! かしこまりましたぁぁっ!」

 店員が慌てて残りのビールジョッキを回収していく。

「バ、バカな……! 食べ放題の魔力である『タダ酒』の誘惑を、あの男、一瞬のコスト計算で切り捨てやがった……っ!」

 トンデモナイトは、戦慄に震えた。

 あの黒服のリアンには、常人のような『欲』や『場の空気』が一切通用しない。存在するのは、極限まで効率化された【利益追求のロジック】のみ。

「さぁ、次だ。タンシオを並べるぞ」

 リアンがトングを構え、ついに『タンシオ将軍』とその部隊が、灼熱の網の上へと放り込まれた。

「ぐおおおおおっ……!! こ、これが灼熱の祭壇ロースターの業火か……っ!!」

 タンシオ将軍が、網の熱に焼かれ、その薄い肉体をよじらせる。

「だが……私は屈せん! 30秒……いや、1分でも長くこの網の上に居座り、奴らの時間を奪ってみせるわぁぁっ!!」

 ジジジジジッ……!!

 タンシオ将軍の肉体から、極上の脂と肉汁が滲み出し、網の下の炎がごうっと燃え上がる。

 武人としての意地。己の身を焦がしてでも、ハラミを守り抜くという強き意志。

 だが。

「……よし。焼き色(メイラード反応)、完璧だ。タンには火を通しすぎると硬くなる。この一瞬が命だ」

 リアンのトングが、光の速さで閃いた。

「なっ……! は、速い……っ!」

 タンシオ将軍は、己の肉体が空中に持ち上げられるのを、スローモーションのように感じていた。

「そして、脂の乗ったタンを無限に食うための秘訣……。それがこの【レモン汁(酸味)】だ」

 チャプッ。

 リアンは、焼き上がったばかりのタンシオ将軍を、小皿に並々とお盆に注がれた『特製レモン汁』のプールへと無慈悲にダイブさせた。

「ぐあああああっ!! レ、レモン汁の海……っ! 酸っぱい……だが、なぜだか私の脂(装甲)が、サッパリと洗い流されていくような……っ!?」

 タンシオ将軍が、レモン汁の中で最後の断末魔を上げる。

「レモンのクエン酸が肉の脂を中和し、胃もたれを防ぐ。これで、さらに50人前は余裕で腹に入る計算だ。……食え、リーザ」

「はいですのーっ!!」

 ズボォォォォォォォォォッ!!!

「ト、トンデモナイト……っ! あとは……頼む……っ!」

 タンシオ将軍の最期の言葉は、リーザのダイソン吸引の轟音にかき消され、そのままブラックホール(胃袋)へと消え去っていった。

「タ、タンシオ将軍ぉぉぉぉぉぉんっ!!!」

 トンデモナイトが、ワゴンの陰で血の涙を流して絶叫する。

 生ビール部隊の特攻は、ルチアナ一人を撃沈させたのみで、リアンという強固な防壁(コスト管理)の前に無力化された。

 そして、殿しんがりを務めたタンシオ将軍もまた、レモン汁という最強の『味変バフ』の前に、わずか数秒で美味しく捕食されてしまったのだ。

「……おい。俺様のキャロット(人参)はいつ網に乗るんだ」

 そんな悲劇のド真ん中で。

 イグニスだけが、いまだに生の人参を握りしめ、貧乏ゆすりをしながら自分の出番(?)を待ち続けていた。

「ちくしょう……! 肉の部隊だけでは、あの悪魔どもの侵攻は止められない……!」

 トンデモナイトは、ギリッと歯を食いしばり、冷蔵庫の奥深くに眠る『最終兵器』たちへと振り返った。

「こうなれば手段は選ばん! 【炭水化物トラップ部隊】、出撃準備だ!

 まずは……あの黄色い悪魔カレーライスを解き放て!!」

 制限時間、残り78分。

 焼肉バイキングにおける店側の最大兵器――『カレーの罠』が、ポポロ亭の面々に牙を剥こうとしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

焼肉の攻防、いかがでしたでしょうか?

アルコールで腹を膨らませる作戦を「原価が安い」と一刀両断するリアンのサイコパス経営者ぶりと、タンシオ将軍の無駄に熱い最期(レモン汁ダイブ)。

そして、いまだにキャロットを待ち続けるイグニス(笑)。

「タンシオ将軍、美味そうだな……」「リアンの焼肉奉行っぷりがエグいww」と少しでも楽しんでいただけましたら、ぜひ画面下の【ブックマークに追加】と、【☆☆☆☆☆】の評価ポイントを【★★★★★】にポチッと押して応援をお願いいたします!

皆様の星の数が、次回出撃する「カレーライス部隊」の辛さ(モチベーション)になります!

次回、炭水化物の罠がルナに襲いかかる!? 第4話もお楽しみに!

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