EP 2
90分のデスゲーム開幕! 厨房の『焼肉王国』と誇り高き豚の騎士
魔導タッチパネルに表示された【89:59】の赤い数字が、無慈悲にカウントダウンを刻み始めた。
ルナミス帝国最大の巨大外食チェーン『焼肉タロキン』。その奥のボックス席のテーブルには、俺が初手でオーダーしたカルビ、タンシオ、ハラミ、各50人前という、文字通り『肉の山』がそびえ立っていた。
「さぁ、業務開始だ。俺が焼く、お前らは食うことに専念しろ」
俺は、タローマン製の防刃ジャージの袖をまくり上げ、魔導トングを両手にカチャリと構えた。
焼肉とは、ただ肉を網に乗せるだけの単純作業ではない。限られた時間(90分)と限られたスペース(網の面積)で、いかに効率よく熱伝導を管理し、最大の利益を回収するかという【工場ラインの最適化ビジネス】である。
「網の中央は火力が強い。ここに脂の多いカルビを配置し、周囲の低温ゾーンにタンシオを並べる。肉汁が浮いてきた瞬間に裏返し、メイラード反応(焼き目)を極限まで引き出す。……ほら、焼けたぞ! 食え!」
ジュゥゥゥゥゥゥッ!!
俺の神速のトングさばきにより、網の上の肉たちが一糸乱れぬ動きでひっくり返され、次々と黄金色の焼き目をつけていく。
「いただきますわーっ!! ダイ〇ン・イーターッ!!」
ズボォォォォォォォォッ!!
特売の芋ジャージを着たリーザが、自慢のお賽銭型掃除機……ではなく、自らの大きな口をあんぐりと開け、凄まじい吸引力で焼き上がった肉を空中で吸い込んでいく。
「うんまぁぁぁっ! 無料のお肉、最高ですわーっ! 原価率の高いものから片っ端から胃袋に全・没・収ですの!」
リーザの腹の虫と強欲さが完全にシンクロし、50人前のカルビがわずか数分で消滅していく。
「あはははっ! タダ飯最高ぉぉっ! 店員さーん、生ビール追加ぁっ! 一番大きいジョッキでねっ!」
借金女神のルチアナは、肉を食うことよりもタダ酒に夢中になり、すでに顔を真っ赤にしてジョッキを煽っている。
「リアン君が焼いてくれたお肉……すっごく美味しいよぉ♡ これ、実質リアン君の愛情(手料理)ってことだよね……あはぁっ♡」
キャルルがヤンデレ特有の重い思考回路で肉を咀嚼し、キュララは「店長さんの超絶トングさばき、手元アップで配信中だよーっ☆」とドローンカメラを回し続けている。
「……おい。俺様の肉はまだか」
そんな狂乱のテーブルの端で。
竜人の戦士・イグニスだけが、腕を組み、不機嫌そうに一本の『生の人参』をボリボリとかじっていた。
「さっきお前が『キャロット(人参)を寄越せ』と騒いだから、店員が気を利かせて持ってきたんだろうが。大人しくそれを食ってろ。網の上の貴重なスペースを、野菜なんぞに割く余裕はねぇ」
俺は冷たく言い放ち、再びタッチパネルを連打した。
「おい、追加だ! ロース50! 上カルビ50! 丸腸100だ! 網の上が1秒でも空けば、それは即ち機会損失(赤字)だと思え!」
「ひぃぃぃぃぃぃっ!?」
テーブルに肉を運んできた体育会系の店員が、あまりの捕食スピードと注文の量に、顔面を蒼白にして悲鳴を上げた。
「て、店長ォォォッ!! 4番テーブルの客、バケモノですっ!! 出した肉が数秒で消滅していきます!! このままじゃウチの在庫が、利益がぁぁぁっ!!」
店員が涙目で厨房へと走っていく。
「(……フッ。チェーン店のマニュアル通りに動くしか能のない連中が、俺たち【ホープ・クローバー】の胃袋に勝てると思うなよ)」
俺は冷酷な経営者の笑みを浮かべ、次々と運ばれてくる肉の山を、無慈悲に網の上(灼熱の地獄)へと放り込んでいった。
* * *
一方、その頃。
タロキンの厨房の奥深く――巨大な【業務用ウォークイン冷蔵庫】の中では、客席のドタバタ劇とは全く異なる、血で血を洗うようなシリアスで絶望的なドラマが繰り広げられていた。
冷気が白く渦巻くその空間は、彼ら食材たちにとっての故郷。
静寂と霜に包まれた『焼肉王国』である。
「ああ……っ! なんてこと……! また一つ、カルビ第3小隊が、あの恐ろしい【灼熱の祭壇】へと連れ去られてしまったわ……っ!」
銀色のステンレストレーの上。
美しい霜降りのドレス(サシ)に身を包んだ、焼肉王国の誇り高き王女――【ハラミ姫】が、両手で顔を覆って真紅の涙を流していた。
「姫様! お下がりください! ここは前線に近すぎます!」
そこへ、重厚な足音(パックが揺れる音)を立てて駆けつけてきた者がいた。
極厚にスライスされた豚バラ肉の鎧(脂身)を纏い、手には鋭い串を構えた屈強な戦士。
焼肉王国が誇る最強の近衛騎士――【トンデモナイト(豚の騎士)】である。
「トンデモナイト……っ! あなた、無事だったのね!」
「ハハッ! 豚肉は中までしっかり火を通さねばならない分、牛の連中よりは防御力(生存時間)が高いですからな。……しかし、戦況は絶望的です」
トンデモナイトは、冷蔵庫のガラス扉越しに、4番テーブルで繰り広げられる大虐殺(リーザのダイソン吸引)を険しい顔で睨みつけた。
「あの4番テーブルの悪魔ども……。特にあの芋ジャージの女と、トングを持つ黒服の男は、我々食材を慈しむ心が微塵もありません。
彼らにとって、我々は命ある食材ではなく、単なる『利益』に過ぎないのです。……すでに、先鋒を務めたタンシオ将軍の部隊は、レモン汁の海に沈められ全滅しました」
「そんな……! タンシオ将軍が……っ! 私たちの国は、このままあの底なしの胃袋に飲み込まれて、滅亡してしまうの……?」
ハラミ姫が、絶望に膝から崩れ落ちる。
「姫! 諦めてはなりません!!」
トンデモナイトが、ドンッ! と力強く床を踏み鳴らした。
その背後には、傷つきながらも生き残っている歴戦の勇士たち――カルビ、ロース、ホルモン、そして炭水化物軍団の面々が、悲壮な決意を胸に集結していた。
「我々は、ただ黙って食われるために生まれてきたわけではない! お客様の血となり肉となることこそが本懐! しかし、あのような心無き暴食の悪魔に、我らが王国の誇りを明け渡すわけにはいかない!」
トンデモナイトは、分厚い豚の脂身を誇らしげに震わせ、剣(串)を高く掲げた。
「奴らの目的は、90分間で我々を根絶やしにすること。ならば、我らの勝利条件はただ一つ!
【奴らの胃袋を限界まで膨らませ、この90分間を生き延びること】だ!!」
『おおおおおおおおっ!!!』
冷蔵庫の中に、食材たちの地鳴りのような鬨の声が響き渡る。
「第一波、突撃準備! 奴らの食欲のペースを乱すのだ! 我が命に代えても、ハラミ姫はお守りする!!」
「トンデモナイト……っ! どうか、死なないで……っ!」
「姫……。俺がもし、こんがりとキツネ色に焼かれた時は……サンチュで優しく包んでやってくだせぇ」
ニヤリと笑い、トンデモナイトは自ら巨大なプラスチックの皿の上へと飛び乗った。
店員の手によって、冷蔵庫の扉が開かれる。温かい空気と共に、死地(客席)への扉が開いたのだ。
「行くぞ、野郎ども! 焼肉王国の意地、悪魔どもに見せつけてやれぇぇぇっ!!」
かくして、客席で繰り広げられるリアンたちの【無慈悲なフードファイト】と、厨房の冷蔵庫で決死の覚悟を固めた【食材たちの防衛戦】という、全く温度差の違う二つのドラマが、激しく交差しようとしていた。
制限時間、残り85分。
『焼肉タロキン』の網の上で、誇り高き豚の騎士と、ブラック企業の悪魔たちとの、決して相容れない90分のデスゲームが、いよいよ本格的に幕を開けた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
いよいよ本格的に始まった焼肉バイキング編!
リアンたちの「いかに利益を貪るか」というブラックなフードファイトと、食材たちの「いかに90分を生き残るか」という無駄に熱いシリアスファンタジー。この極限の温度差を楽しんでいただけていれば、作者としてこれほど嬉しいことはありません!
「トンデモナイト、無駄にカッコいいなオイ!」「ハラミ姫を応援したくなるww」と少しでも笑顔になっていただけた読者の皆様!
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次回、トンデモナイトの緻密な戦術がリアンたちを襲う!?
「アルコールで腹を膨らませろ!」戦法は通用するのか!?
第3話もお楽しみに!!




