第八章 焼肉バイキング『タロキン』の死闘! 散りゆく豚の騎士
黒船来航! 焼肉バイキング『タロキン』への視察
ポポロ村は、ルナミス帝国と獣人王国の緩衝地帯に位置する開拓村である。
温暖な気候と豊かな土壌、そして何より俺たち【ホープ・クローバー】が運営する『ポポロ亭』という確固たる経済のハブが存在することで、村はかつてないほどの繁栄を謳歌していた。
だが、ビジネスの世界において「永遠の安泰」など存在しない。
旨い汁(利益)が湧き出る場所には、必ずそれを嗅ぎつけた巨大資本が群がってくるものだ。
「……おい。これはどういうことだ」
ポポロ亭の厨房。
俺は、仕込みの手を止め、テーブルの上に叩きつけられた一枚の派手な『チラシ』を冷ややかな目で見下ろした。
そこには、筆文字の極太フォントでこう踊っていた。
『ルナミス帝国最大のチェーン、ついにポポロ村に上陸! 焼肉バイキング【タロキン】! 90分食べ放題、怒涛の銀貨3枚! さぁ、肉の海で溺れろ!!』
「どういうことって、書いてある通りだよぉ、リアン君」
チラシを持ってきたヤンデレウサギのキャルルが、ウサギの耳をパタパタと揺らしながら言う。
「最近、村のメインストリートの入り口に、すっごく大きくてケバケバしい建物ができたでしょ? あれ、ルナミス帝国の巨大外食チェーン『タロキン』の新しい店舗なんだって。今日がグランドオープンらしいよ」
「……銀貨3枚で、90分食べ放題だと?」
俺は、チラシの隅に書かれたメニュー表を睨みつけた。
カルビ、ハラミ、タンシオ、ホルモン。サイドメニューにはカレーライスや飲茶、デザートまで揃っている。
「(……あり得ない。ポポロ村の物流コストと肉の原価を考えれば、銀貨3枚で食べ放題など完全に赤字だ。ルナミス帝国の資本力に物を言わせて、ウチみたいな個人経営の店を兵糧攻めで潰しにかかってきているってわけか)」
俺の脳内で、経営者としての警戒アラートがけたたましく鳴り響いた。
飲食店経営において、近くに強大な『食べ放題チェーン』ができるのは死活問題だ。特に客の胃袋の容量には限界がある。あっちで満腹になれば、ウチの定食は売れなくなる。
「許せませんわーっ!!」
突如、床で昼寝をしていた特売の芋ジャージの人魚・リーザが、バネ仕掛けのように跳ね起きた。
彼女の目には、チラシの『食べ放題』という四文字が、黄金に輝く札束のように映っていた。
「食べ放題……! つまり、定額で無限のカロリー(利益)を引き出せる、夢の不労所得システムということですの!?
リアン様! わたくしたちのポポロ亭の売上を脅かす生意気なライバル店ですわ! 今すぐ監査(ガサ入れ)に行って、あの店の在庫(お肉)をわたくしのお腹の中に全・没・収してやりますわーっ!!」
リーザが、口の周りをヨダレでベトベトにしながら、愛用のお賽銭型掃除機を振り回す。相変わらず、食欲と強欲が完全に一致している恐ろしい女だ。
「はーいっ☆ リスナーの皆っ、ビッグニュースだよーっ!」
いつの間にか、インフルエンサー天使のキュララがドローンカメラを起動し、最高の営業スマイルで配信を始めていた。
「今日はなんと、ポポロ亭の店長さんが、ライバル店の焼肉バイキング『タロキン』に殴り込み(フードファイト)に行っちゃうよーっ♡ 果たして店長さんは、巨大チェーンの罠を打ち破れるのか!? 絶対に見逃さないでねっ☆」
「おい、勝手に企画を通すな」
俺がツッコミを入れるが、キュララのホログラム画面(コメント欄)はすでに『カチコミキター!』『タロキンの食べ放題はヤバいらしいぞ』『赤スパ投げとくわ!』と、大盛況の様相を呈している。
「あらあら? 皆様、焼き肉のお食事会ですの?」
純白のドレスのエルフ・ルナが、何処からともなく現れて両手を合わせた。
「私、お肉はあまりいただきませんが、お野菜やデザートならいくらでもいけますわ! ポポロ村の新しいお友達(飲食店)に、ご挨拶に行かなくちゃいけませんわね!」
(※訳:また無自覚にバイオテロや生態系破壊を起こす気満々である)
「ガハハハ! 焼肉か! 戦士の血が騒ぐぜ!」
イグニスも両手斧を肩に担ぎ、謎のモチベーションを燃やしている。先日メロロン(キャバ嬢)に全財産を貢いでスッカラカンになったばかりだというのに、タダ飯が食えると聞いて現金なものだ。
そして、店の奥のコタツから、ズルズルともう一人の芋ジャージ女が這い出してきた。
「や、焼肉……? 食べ放題……?」
天界の世界神にして、永遠の17歳(自称)、そして重度の借金女神であるルチアナだ。
彼女は健康サンダルを突っ掛け、ストロング系の缶チューハイを片手に、血走った目でチラシを凝視した。
「リアン! 私も連れて行きなさいよ! 最近、月人君(推し)のグッズを買いすぎて、マジでエンジェルすまーとふぉんのクレカが止まっちゃって……もやししか食べてないのよぉっ! お願い、タダでお肉を食べさせてぇぇっ!!」
女神の威厳など微塵もない、限界オタクの魂の叫びだった。
「……チッ。どいつもこいつも、タダ飯となると異常に動きが早いな」
俺は深いため息を吐き、タローマン製の防刃ジャージの上に羽織っていたエプロンを脱ぎ捨てた。
だが、リーザの言う通りだ。
ポポロ村という俺たちのシマ(経済圏)に、無断で黒船を乗り入れてきた巨大チェーン店。その【90分食べ放題】というシステムが、いかほどのものか。原価率はどうなっているのか。
経営者として、自らの舌と胃袋で直接「監査」してやる必要がある。
「行くぞ、お前ら」
俺は腰の『白雪』の柄を軽く叩き、冷酷な笑みを浮かべた。
「俺たち【ホープ・クローバー】の胃袋の底なしの恐ろしさを、あの巨大チェーンの運営にたっぷりと分からせてやる。……店の在庫が尽きるまで、一切の手加減は無用だ」
「「「「「おおおおおーっ!!!」」」」」
かくして。
最強のブラック企業メンバー(+ポンコツ女神)による、焼肉バイキング『タロキン』への容赦なき視察の火蓋が切って落とされた。
* * *
ポポロ村のメインストリート。
かつてはのどかな風景が広がっていた場所に、突如として建設された『焼肉タロキン』の店舗は、城のように巨大で、悪趣味なほど煌びやかなネオンに包まれていた。
自動ドアを抜けると、中には凄まじい熱気と、肉の焼ける香ばしい匂いが充満している。
店内は数百人が入れるほどの広さで、各テーブルには最新式の魔導無煙ロースターが設置されていた。
「いらっしゃいませーっ!! 何名様ですかぁっ!?」
体育会系のノリの店員が、大声を張り上げて駆け寄ってくる。
「7名だ」
俺が冷たく告げると、店員は一瞬、俺たちの異様な出で立ち(芋ジャージ2名、ヤンデレウサギ、純白エルフ、両手斧の竜人、ドローン天使、そして目つきの悪いジャージ男)を見て怯んだが、すぐに営業スマイルを貼り付けた。
「は、はいっ! こちらのお席へどうぞ! 当店は90分の食べ放題となっております。お肉の注文は、そちらの魔導タッチパネルからお願いしますね!」
俺たちが案内されたのは、店の奥にある広めのボックス席だった。
テーブルの中央では、すでに魔導ロースターの網が赤々と熱され、獲物(肉)が乗せられるのを待っている。
「90分……。つまり、1時間半のデスゲーム(一本勝負)というわけですね」
リーザが、お賽銭型掃除機を椅子の横に置き、腕まくりをして目をギラつかせる。
「うふふふっ、タダ肉! タダ肉! 今日は死ぬほど食べて、お酒もガブ飲みしてやるんだからぁっ!」
ルチアナが、まだ肉も来ていないのにヨダレを垂らしている。
「さぁさぁリスナーの皆っ☆ 制限時間90分のフードファイト、いよいよ開幕だよーっ! 店長さんたちがどれだけお店の利益(お肉)を食いつくすか、カウントダウン開始でーすっ!」
キュララがドローンを天井付近に待機させ、タイマーのホログラムを空中に投影した。
店員が、最初のルール説明を終え、恭しく一礼する。
「それでは……90分食べ放題コース、スタートですっ!!」
ピッ。
魔導タッチパネルのタイマーが作動し、【90:00】の数字が減り始めた。
「よし、オーダーだ! カルビ50人前! タンシオ50人前! ハラミ50人前! とにかく一番原価の高い肉を片っ端から持ってこい!」
俺が魔導タッチパネルを親指が千切れるほどの速度で連打し、厨房に容赦ない先制攻撃(大量発注)を仕掛ける。
だが、その殺伐としたテーブルの端で。
ただ一人、メニュー画面を睨みつけながら、腕を組んでイライラと貧乏ゆすりをしている男がいた。
竜人の戦士、イグニスである。
彼は、周囲の肉への熱狂をよそに、魔導タッチパネルの『野菜メニュー』のページを何度もスワイプし、ギリッと歯ぎしりをした。
「……おい、店員!」
イグニスが、通りかかった店員を怒鳴りつけた。
「ひぃっ!? は、はいっ! なんでしょうか、お客様!?」
イグニスは、眉間に深いシワを寄せ、誇り高き戦士の……いや、どこかの宇宙の戦闘民族の王子のような、傲慢で底冷えのするトーンで言い放った。
「キャロット(人参)はまだかぁ〜!? 俺様は3時間も待てないぞ!?」
「…………は?」
俺は、タッチパネルを連打する手をピタリと止めた。
「3時間って……お客様、当店の食べ放題は90分(1時間半)ですし……まだ開始から1分しか経っていませんが……っ!?」
店員が困惑して後ずさりする。
「ええい、うるさい! 俺様は野菜から食べないと気が済まないんだ! 早くキャロット(カカロット)を持ってこい! じゃないと、この店ごとビッグ・バン・アタック(両手斧)で吹き飛ばすぞ!」
イグニスが謎のパロディ(キャラブレ)を発揮し、店員を脅迫している。
「おい、イグニス」
俺は、魔導トングでイグニスの頭をバシンッ! と叩いた。
「痛ぇっ!? な、何しやがるリアン!」
「焼肉屋に来て、開始1分で人参を待つな。大体、お前は戦闘民族の王子じゃなくて、ただのポンコツ竜人だろうが。……肉を焼け、肉を。原価の安い野菜で腹を膨らませるなど、経営戦略における下の下だぞ」
俺が冷たく言い放つと、厨房の方から、大量の肉を乗せた巨大なワゴンが、ズゴゴゴゴ……という重い音を立てて運ばれてきた。
「お、お待たせいたしましたぁ……っ! カルビ、タンシオ、ハラミ、各50人前ですっ……!」
店員が悲鳴のような声を上げながら、テーブルの横に肉の山を積み上げていく。
「来ましたわーっ!! わたくしの不労所得!!」
リーザが歓喜の雄叫びを上げ、箸を両手に構えた。
ここから90分間。
俺たち【ホープ・クローバー】の強欲な胃袋と、タロキンの厨房(食材たち)との、血で血を洗う壮絶なデスゲームが幕を開ける。
だが、この時俺たちはまだ知らなかった。
冷蔵庫の奥底で、運ばれていく肉(仲間)たちを見送りながら、決死の覚悟を固めている【誇り高き豚の騎士】たちの存在を――。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
いよいよ始まりました、第8章・焼肉バイキング編! 今回は食材たちの無駄に熱いドラマと、それを無慈悲に捕食するリアンたちのギャップを楽しんでいただければ幸いです(笑)
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次回、厨房(冷蔵庫)で繰り広げられる食材たちの熱きドラマをお楽しみに! 豚の騎士・トンデモナイトの運命やいかに!?




