EP 9
リアンの強制監査! 究極の愛を【超高級ビジネス】へ変換
半壊したビニールハウスの奥。
リーザという名の『物理的な暴食』によって同胞の半数を丸呑みにされ、震え上がる魔性の果実たち。
その生き残りたちを庇うようにして前に出た、ひときわ巨大なボス――【クイーンメロロン】の果肉に、リアンは冷たく光る日本刀『白雪』の刃を突きつけていた。
『どうして……どうして人間の愛(搾取)を邪魔するの? 私たちはただ、愛する人に食べられて、一つになりたいだけなのに……っ!』
クイーンメロロンが、網目模様を悲しげに歪ませ、涙ながらに悲劇のヒロインを演じる。
その声は、聞く者の胸を締め付けるような、哀愁と母性に満ちた極上のトーン(幻聴)に調整されていた。
『人間だって、私たちと一緒にいる時はあんなに幸せそうに笑っていたじゃない! なのに、あなたは武力で私たちの愛を引き裂こうとするの? 悪魔! 血も涙もない冷血漢!!』
「……愛だと?」
リアンは、クイーンメロロンの迫真の抗議を鼻で笑い、冷徹なプロデューサーの目で一蹴した。
「くだらねぇ。お前らが口にする『愛』とやらの正体は、ただの【洗脳】と【搾取】だ。
人間の承認欲求をハッキングし、農家の労働力(生産性)を奪い、経済を停滞させる。何も生み出さず、ただカネ(肥料)だけを吸い上げる……お前らのやってる事は、悪質な『ボッタクリバー』と何一つ変わらねぇんだよ」
リアンは白雪の切っ先で、クイーンの果肉をツンと小突いた。
「大体、お前らのビジネスモデル(生態系)は根本的に間違っている」
『……ビジネス、モデル?』
「そうだ。お前らはこのポポロ村の農家をターゲットにしているが、農家ってのは『生産』して初めてカネを生む職業だ。
お前らに狂わされて農作業を放棄した連中は、いずれ貯金を食いつぶし、来年の種籾すら買えなくなる。そうやって宿主(客)が破産すれば、お前らに肥料を貢ぐ者はいなくなり、最終的にお前ら自身も枯れて死ぬ。……目先の利益(愛情)に目が眩んで、パイ(市場)を焼き畑にしてどうする。低能すぎるだろうが」
『…………っ』
クイーンメロロンが、図星を突かれたように言葉を詰まらせた。
魔物としての本能に従っていただけの彼女にとって、『顧客生涯価値(LTV)』や『市場の持続可能性』などという概念は青天の霹靂だった。
「ひぃっ、ひぃぐっ……! 俺の、俺の仁美ちゃぁぁぁん……っ!」
「幸彦ぉ……! 幸彦を返してぇぇっ!」
背後では、愛するメロンをリーザに食われた泥沼夫妻をはじめとする農家たちが、幻覚から覚めきらぬまま絶望の涙を流している。
「(……とはいえ)」
リアンは、泣き叫ぶ農家たちを一瞥し、そして再びクイーンメロロンへと視線を戻した。
「(このメロロンが持つ『強烈な依存性』と、個々の欲望に合わせた幻覚を見せる『圧倒的な付加価値』は本物だ。……売り方とターゲットさえ間違えなければ、これは莫大な利益を生む『極上の商品』になる)」
リアンの瞳の奥で、ブラック企業経営者としての冷酷な【¥】マークがギラリと光った。
シャコンッ。
リアンは白雪を鞘に納め、先ほどまでの威圧的な態度から一転、胡散臭い営業マンのような、滑らかで甘い笑みを浮かべた。
「おい、クイーン。お前ら、『愛されたい』『貢がれたい』『極上の肥料と水が欲しい』んだろ?」
『え、ええ……。それが私たちの本能……存在意義だから……』
「なら、こんなド田舎の、貯金も底をつきかけた貧乏農家(細客)をチマチマとたぶらかしている場合じゃないだろう。
お前らのその最高級のスペック(魅力)には、もっと相応しい【太客】がいる」
『太客……?』
クイーンメロロンの網目模様が、ピクリと動いた。
「そうだ。例えば……ルナミス帝国の首都に住む、腐るほどカネと暇を持て余した【大貴族】や【大富豪】たちだ」
リアンは、両手を広げて壮大なビジョン(詐欺の青写真)を描き始めた。
「あいつらは、日々の退屈を紛らわすための『極上の刺激』に飢えている。
そこにお前らのような、望み通りの幻覚と疑似恋愛を提供してくれる存在が現れたらどうなる?
奴らはポポロ村の農家なんて目じゃないほどの、何百倍、何千倍もの資産を持っているんだぞ?
泥臭いビニールハウスなんかじゃない。大理石の宮殿で、純金のお立ち台に乗せられ、農家が一生かかっても買えないような【超特濃の魔法液】を、毎日滝のように注いでくれる……。
それこそが、お前らが求める究極の『愛(貢ぎ)』の形じゃないのか?」
『……!!』
宮殿。純金。超特濃の魔法液。
リアンの口から次々と飛び出す魅惑的なワードに、クイーンメロロンの果肉がブルブルと歓喜に震え始めた。
魔物の本能(承認欲求)が、リアンの提示した【超高級キャバクラ(ホスト)への栄転】という甘い罠に、完璧にハッキングされた瞬間だった。
『ほ、本当!? 私たち、そんなピカピカの場所に行けるの!? 泥だらけのおじさんじゃなくて、お金持ちの貴族様に、思いっきり甘やかしてもらえるの!?』
「ああ、俺が保証する」
リアンはニヤリと笑った。
「ただし、条件がある。今日からポポロ村の農家をたぶらかすのは一切禁止(コンプライアンス違反)だ。
その代わり、お前らは俺たち【ホープ・クローバー】の専属キャスト(商品)として契約を結べ。
俺がお前らを、帝国の富裕層向け超高級クラブに『ポポロ村・特選高級ブランドフルーツ』として高値で出荷(派遣)してやる。……どうだ? 悪い話じゃないだろう」
『……ふふっ、ふふふふっ!』
クイーンメロロンが、妖艶な笑い声(幻聴)を響かせた。
『リアンさんって言ったかしら? あなた……最高のプロデューサー(やり手)ね♡
いいわ! こんな泥臭い畑(ドサ回り)はもうおしまい! 私たち、帝国の貴族様たちをメロメロにして、身も心も、そして財産も全部しゃぶり尽くしてやるんだから!!』
クイーンの宣言に、生き残っていたプリンスメロロンたちも「やったぁ! 帝国の太客だぁ!」「ドンペリタワーだぁ!」と、ポヨンポヨン跳ねて歓喜の声を上げた。
彼らはもはや、農家を破滅させる恐ろしい魔物ではない。リアンの手によって、完全に【野心に燃えるトップキャバ嬢とナンバーワンホスト】へと生まれ変わったのだ。
「交渉成立(クロージング完了)だな」
リアンは満足げに頷いた。
「うわぁ……。リアン君、悪魔みたいな手際で魔物を手懐けちゃったよ……」
キャルルが、呆れたようにウサギ耳を揺らす。
「まぁ♡ 私がばら撒いたお花が、帝国の貴族様たちにも喜んでいただけるなんて! 私、やっぱり村おこしと国際交流の天才ですわね!」
ルナが、自分のやらかし(バイオテロ)が結果的にビジネスチャンスに繋がったことを、完全に自分の手柄だと勘違いしてドヤ顔を決めている。
「ガハハハッ……嬢王……俺様のボトル……もう空っぽになっちまったぞぉ……」
そこへ、VIPハウスの奥から、財布をスッカラカンにされたイグニスが、幸せそうな顔でフラフラと歩いてきて、そのままバタリと倒れて白目を剥いた。
彼はわずか数十分で、身も心も(そして所持金も)メロロンに搾取され尽くしたらしい。
「むにゃむにゃ……リアン様ぁ……あと5個はいけますわーっ……」
リーザも、メロロンを食い過ぎて腹をタヌキのように膨らませ、幸せそうに寝落ちしている。
「……たく。どいつもこいつも世話の焼ける連中だ」
リアンは、半壊したハウスと、気絶しているポンコツクランの面々を見渡し、やれやれと首を振った。
生態系を狂わす人生クラッシャー(メロロン)の脅威は、ブラック企業経営者の『強欲なビジネスロジック』によって、ポポロ亭に莫大な利益をもたらす【最高級の商材】へと変換された。
農家たちを狂わせた「甘い夢(悪夢)」は終わりを告げ、明日の朝には、ポポロ村にいつもの退屈で平和な日常が戻ってくるだろう。
「さぁて。監査(ガサ入れ)は終了だ。ポポロ亭に帰るぞ」
リアンは、契約を結んだ最高級のメロロンたち(商品)を魔法ポーチに次々と詰め込みながら、冷たい夜風の吹くポポロ村の空を見上げた。
この騒動の締めくくりとして、彼らにはもう一つだけ、やらなければならないこと(深夜の賄い)が残っていた。
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