EP 9
姫救出とエンディング崩壊〜真の魔王の身代金要求〜
魔王の寝室で、クマさんパジャマ姿の魔王を『お賽銭型掃除機』によってわずか3秒でデリートした俺たちは、奥の隠し部屋へと足を踏み入れた。
そこには、鉄格子の牢屋に入れられた金髪の美しい女性――このクソゲーのヒロインである『囚われのお姫様』が、床に座り込んでシクシクと泣いていた。
「おお……! 勇者様! わたくしを助けに来てくださったのですね!」
お姫様が鉄格子越しに俺たちを見て、感動の声を上げる。
「ああ、待たせたな。今開ける」
俺は魔王がドロップした鍵を使い、牢屋の扉を開けた。
姫は涙を拭い、「これで世界に平和が戻るのですね」と微笑む。
「(……ていうかこの姫、初期の村にいた村娘NPCと顔のテクスチャ(ポリゴン)が完全に同じだな。髪の色を金髪に変えただけの露骨な素材の使い回しだ。ルチアナの奴、ヒロインのモデリングすらケチりやがったか)」
俺は内心で呆れながらも、とりあえずフラグ回収のために姫を連れ出した。
「よし、これで任務は完了だ。王都へ帰還するぞ」
「はいですの! ついにクリア報酬のお時間ですわね!」
リーザがお賽銭型掃除機を抱え、ヨダレを拭いながら期待に胸を膨らませる。
「ガハハ……もう、どうにでもなれ……。俺様はもう、疲れたぜ……」
イグニスは、クマさんパジャマの大魔王(笑)によるショックからまだ立ち直れておらず、両手斧を引きずりながら虚ろな目で歩いている。純粋な戦士の心が完全にぶっ壊れてしまったらしい。
「リアン君、帰りもタクシー呼ぶの?」
キャルルが首を傾げる。
「いや、帰りは無料のファストトラベル(ルーラ的な魔法)が使えるはずだ。ルナ、頼む」
「はいっ、お任せくださいませ! ――『帰還の光』!」
ルナが杖を振ると、俺たちの身体は光に包まれ、一瞬にして王都『ルチア・キャッスル』の王の間へと転送された。
* * *
壮麗な王の間の玉座には、立派な王冠を被った王様が座っていた。
俺たちが囚われのお姫様を連れて現れると、王様は玉座から立ち上がり、感動に満ちた大げさなジェスチャーで両手を広げた。
「おおっ! 勇者たちよ! よくぞ、よくぞ魔王を打ち倒し、我が娘を救い出してくれた!」
「お父様ぁっ!」
姫が王様の胸に飛び込み、親子の感動の再会ムービー(スキップ不可)が数分間再生される。
「(……長い。また強制イベントか)」
俺は腕時計を睨みつけながら、苛立ちを抑えて貧乏揺すりをしていた。
やがてムービーが終わり、王様が威厳に満ちた態度で俺たちに向き直った。
「勇者よ、そなたらの働きにより、この世界は救われた! 魔王の脅威は去り、人々に再び笑顔が戻るであろう!
その大いなる功績を讃え、王家よりそなたらに『勇者』の称号と、最大の褒美を授けよう!」
「(……来たな。RPGの集大成、クリア報酬の受け取りだ)」
俺は、タローマン製防刃ジャージの襟を正し、王様の次の言葉を待った。
リーザもキュララも、ゴクリと唾を呑んで玉座を見つめている。
「受け取るが良い、勇者よ! 褒美として、我が王家に伝わる宝刀【銅の剣】と、金貨【100枚】を取らす!!」
王様が、さも凄まじい宝を与えるかのようなドヤ顔で、空中にテキストボックスを表示させた。
「…………」
「…………」
王の間の空気が、ピタリと凍りついた。
「……は?」
俺の口から、絶対零度よりも冷たい声が漏れた。
「えっ……? 今、なんて言いましたの? 銅の剣? 金貨100枚?」
リーザが、自分の耳を疑うように聞き返す。
「うむ! 銅の剣と、金貨100枚じゃ! 大儀であったな、勇者よ!」
王様は、NPC特有の悪気のない笑顔で同じセリフをループ再生する。
俺の脳内で、経営者としての【コスト計算(原価管理)】のプロセスが超高速で演算された。
飛竜タクシーの特別料金(数百万G)。
ガウェインの昔話をスキップするための精神的苦痛。
魔王城への壁抜けに要した技術的リスク。
そして何より、俺たち【ホープ・クローバー】の時給換算による人件費と、世界を救うという超絶ハイリスクな業務に対する正当な対価。
それが、初期装備(銅の剣)と、宿屋に数回泊まれば消える小銭(金貨100枚)だと?
「…………ふざけるな」
ギリッ。
俺は、腰の『白雪』の柄に手をかけた。
「リ、リアン君……? 怒ってる? すごくドス黒いオーラが出てるよ?」
キャルルが、俺の異変に気づいて後ずさりする。
「ふざけるなと言っているんだ、このクソジジイ」
俺は、玉座の王様に向かって、地獄の底から響くような声で言い放った。
「世界を一つ救うのに、どれだけのリスクとコストがかかってると思ってる。ウチの人件費とタクシー代だけで大赤字だぞ。
それをなんだ、銅の剣? 金貨100枚? 派遣社員の交通費より安いだろうが。……俺たちプロの業務(RTA)を、舐めるのも大概にしろよ」
「ゆ、勇者よ……? 一体何を怒っておるのじゃ? 褒美が気に入らないとでも……?」
王様NPCが、想定外のプレイヤーの反応にAIをバグらせ、困惑した表情を浮かべる。
「あぁ、気に入らないね。……だから、正当な『追加請求』をさせてもらう」
シャコンッ!!
俺は、ドワーフ製の日本刀『白雪』を抜き放ち、神速の踏み込みで玉座の階段を駆け上がった。
「キャッ!?」
そして、王様の隣にいた【囚われのお姫様】の背後に回り込み、その細い首筋に、冷たい刀の刃をピタリと突きつけたのだ。
「姫ぇぇぇっ!?」
王様がパニックを起こして絶叫する。
「動くな。動けばこのポリゴンの首が飛ぶぞ」
俺は、お姫様を完全な『人質』に取り、王様を見下ろして冷酷な笑みを浮かべた。
「な、なんてことを! 勇者よ、正気か!? 魔王から救い出した姫を、なぜお主が人質にとるのじゃ!!」
「言ったはずだ。報酬が安すぎる、とな。……俺の会社は、タダ働き(ボランティア)は大嫌いなんだよ」
俺は、刃を少しだけ姫の首に押し当てながら、極悪非道な身代金要求(テロ声明)を突きつけた。
「姫の命が惜しければ、この国の『国庫の全額』と、王都の『権利書(土地と建物)』、そして全ての『税収権』を俺に譲渡する契約書に今すぐサインしろ。
拒否するなら……今ここで姫をデリートし、俺がこの国を武力で制圧して『真の大魔王』として君臨してやる」
「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
王様が、腰を抜かして玉座の前にへたり込んだ。
「さ、最高ですわリアン様ーっ!! その通りですの!
勇者への報酬をケチるようなブラック国家は、わたくしたちの手で買収(乗っ取り)してやるのが正義ですわーっ!!」
リーザが、お賽銭型掃除機を天に掲げて狂喜乱舞している。
「まぁ……国を治めるのも、勇者の立派なお仕事ですわね! 私、新しい王都のお花畑の設計を担当しますわ!」
ルナが、完全に状況を勘違いしたまま、国盗り(クーデター)に賛同している。
「あー……うん。リアン君がそう言うなら、私がヒールしながら国の人たちを強制労働させちゃおっか♡」
キャルルも、ヤンデレ特有の思考回路で俺のテロ行為に同調し始めた。
「勇者が……勇者が魔王にジョブチェンジしやがった……。もう嫌だ、このゲーム……俺様は故郷の竜の里に帰りたい……」
イグニスだけが、部屋の隅で体育座りをしてシクシクと泣いている。
そして。
この前代未聞の【勇者によるクーデター(エンディング崩壊)】の光景を、インフルエンサー・キュララがドローンカメラで世界中に生配信していた。
「キャーッ☆ リスナーの皆っ、見て見てーっ!!
魔王を倒した勇者(店長さん)が、報酬にブチギレてお姫様を人質に取ってまーすっ♡
RPGの永遠の謎『勇者への報酬安すぎ問題』に、物理(身代金要求)でアンサーを出したよーっ☆」
『うおおおおおっ!! 真の魔王爆誕www』
『最高だ! もっとやれ!!(赤スパ)』
『銅の剣と100Gで世界を救わされる勇者の悲哀ww』
『リアン店長、やってることが完全に反社で草』
『感動のエンディングが身代金要求のテロ事件にすり替わったwww』
『ルチアナ運営、早く警察(GM)呼べよwww』
コメント欄は、かつてないほどの熱狂と赤スパの嵐に包まれ、トラフィックは天文学的な数字を叩き出していた。
『や・め・て・ええええええええええええっっ!!!!』
上空のホログラムウィンドウから、天界のコタツ部屋にいるルチアナの悲痛な絶叫が響き渡った。
『私の! 私が書いた感動のエンディングシナリオがぁぁぁっ!
王様と勇者が握手して、姫と結婚して、スタッフロールが流れるはずだったのにぃぃっ!
なんでアンタが王様を恐喝して、国を乗っ取ろうとしてるのよぉぉぉっ!! これじゃRPGじゃなくて【グランド・セフト・オート(犯罪ゲーム)】じゃないのよぉぉぉっ!!』
涙と鼻水で顔をグチャグチャにした女神が、画面の向こうで発狂して暴れ回っている。
「うるせぇ、ルチアナ。労働基準法を無視したクソみたいな報酬設定を作ったお前が悪い」
俺は、白雪を構えたまま、ホログラムのルチアナに向かって冷たく言い放った。
「王様がサインしないなら、今すぐここでお姫様を斬る。……どうする、運営?
このままゲームをバッドエンド(身代金テロ)で終わらせるか? それとも、俺の要求を呑んで、システムのソースコードを書き換えるか?」
『う、ううううっ……鬼! 悪魔! 最悪のデバッガー!!
わかったわよ! 分かればいいんでしょ! 今すぐ王様の報酬データを書き換えるから、姫を離してぇぇっ!』
ルチアナが、泣きながらエンジェルすまーとふぉんのキーボードを高速で叩き始めた。
インフルエンサーの炎上配信によって逃げ場を失った運営(神)が、プレイヤー(ブラック企業の社長)の恐喝に屈し、リアルタイムでゲームの仕様を変更させられた瞬間だった。
最悪の勇者たちによる、クソゲー攻略(完全破壊)の旅。
その結末は、ゲーム業界の歴史に【最凶の炎上事件】として、永遠にデジタルタトゥーを刻み込むこととなるのだった。
読んでいただきありがとうございます。
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