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EP 8

魔王の寝起きドッキリと、掃除機による強制退場クリア

 サタンクエストにおける最終到達点ラストダンジョン、魔王城。

 その最深部にあるはずの『魔王の寝室』に、壁抜けバグ(不法侵入)によって直接スポーンした俺たち勇者(無法者)御一行。

 巨大なキングサイズベッドのド真ん中では、この世界を恐怖のどん底に陥れたはずの大魔王が、【可愛いクマさん柄のシルクのパジャマ】を着て、アイマスク姿で爆睡していた。

「さぁて、残業(ラスボス戦)を終わらせるか。……起きろ、大魔王」

 俺が冷酷な声で呼びかけると、クマさんパジャマの魔王が、アイマスクをズラして「んむぁ……?」と間抜けな声を漏らしながら寝返りを打った。

「誰じゃ……。こんな朝早くから、余の安眠を妨げる無礼者は……四天王の奴らか? それともメイド……」

 むくりと起き上がった魔王が、ぼんやりと目をこすりながら周囲を見渡す。

 そして。

 タローマン製防刃ジャージ姿の俺、トンファーを構えたウサギ、芋ジャージの人魚、両手斧を持った筋肉ダルマ、純白のドレスのエルフ、そしてブンブンと飛び回るドローンカメラとバッチリ目が合った。

「…………」

「…………」

 数秒の沈黙。

「え……?」

 魔王の瞳孔が、極限まで収縮した。

「お、お前ら、誰じゃ!? な、なぜ余の寝室に人間が!? 衛兵! 衛兵はどうした!!」

「おはよう。俺たちが勇者だ。魔王討伐(集金業務)にやってきた」

 俺は、白雪の柄に手をかけながら、淡々と名刺を差し出すようなテンションで告げた。

「ゆ、勇者じゃとぉぉぉっ!?」

 魔王が、ベッドの上でビクゥッ! と跳ね上がり、クマさんパジャマを乱しながらパニックに陥った。

「ば、馬鹿な! 勇者がなぜここにいる!?

 一階の『灼熱の迷宮』は!? 二階の『騙し絵の回廊』は!?

 そもそも、余の配下である誇り高き『四天王』たちを倒した報告すら上がってきておらんぞ!! 順序フラグというものがあるじゃろうが!!」

「あぁ、あいつらなら窓ガラス越しに外から見たぞ。飛竜タクシーで屋上まで直行して、壁抜け(バグ)で直接ここに入ったからな」

「壁抜けぇ!? タクシー!? 勇者ともあろう者が、そんな卑怯な手段グリッチを使って恥ずかしくないのか!!」

 大魔王が、涙目でRPGのセオリー(倫理観)を訴えかけてくる。

『ほら見なさいよおおおおおっ!!』

 空中のホログラムウィンドウから、運営ルチアナがバンバンと机を叩きながら絶叫した。

『魔王まで困惑してるじゃないのよ! お願いだから一階に戻って、ちゃんと四天王と戦ってあげて!

 あいつら、勇者が来るのを信じて、ずっと同じポーズで待機スタックしてるのよ!? かわいそうだと思わないの!?』

「黙れ。仕様の抜け穴を突かれるようなセキュリティ(壁)を構築した、運営の責任だ」

 俺は泣き喚くルチアナを一蹴した。

「ふ、ふざけるな! 勇者よ、余をコケにしおって……!」

 魔王が、ベッドの上でワナワナと震えながら、ついに立ち上がった。

 その全身から、禍々しい紫色の暗黒オーラが立ち上り始める。

「よ、よくぞここまで辿り着いたな、勇者よ!

 だが、壁抜けなどという小賢しい真似をしたこと、後悔させてくれるわ!

 我は暗黒の淵より蘇りし、絶望の覇王! 今こそ我が真の力を解放し――」

「(……チッ。第二形態への移行ムービーか)」

 俺は、腕時計(プレイ時間)を確認し、深くため息をついた。

 魔王の長ったらしい変身バンクなど、ガウェインの昔話と同じだ。RTAにおいては、1秒たりとも無駄な時間を割く価値はない。

「おい、リーザ。あいつの処理プロセス、巻きで終わらせろ」

「はいですの、リアン様!! 待ってましたわーっ!!」

 俺の指示を受けたリーザが、芋ジャージ姿でベッドの前に躍り出た。

 そして、背負っていた『お賽銭箱型掃除機』のノズルを、暗黒オーラを放つ魔王の顔面に突きつけた。

「さぁ、大魔王様! わたくしへの絶対無敵のスーパーチャット(強制徴収)のお時間ですの!!

 ダイ〇ンも真っ青のフルパワー、とくと味わいなさいですわーっ!!」

 ブォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!

 お賽銭箱型掃除機が、轟音と共に次元をも歪める凄まじい吸引力を発生させた。

「な、なんじゃこりゃあぁぁぁっ!?」

 魔王が悲鳴を上げる。

 掃除機はまず、魔王が一生懸命に放っていた『暗黒オーラ(MP)』を一瞬で吸い尽くした。

 続いて、魔王のHP(体力ゲージ)が、凄まじい勢いでギュンギュンと減っていく。

「ああっ!? 余の魔力が! 体力が!

 て、ていうか、ベッドの下に隠しておいた『へそくり(魔王の隠し財産)』まで吸い込まれておるぞ!? やめろ、それは四天王との飲み会用の資金じゃぁぁぁっ!!」

「フフフッ! 魔力も体力も隠し財産も、この魔王城の権利書も! すべて、わたくしたち勇者(ブラック企業)のものですわーっ!! 全・没・クリアですの!!」

 ズボォォォォォォォォッ!!!

「ぎゃああああああああっ!! クマさんパジャマまでえええええっ!!」

 魔王の断末魔が寝室に響き渡る。

 パジャマを吸い取られ、パンツ一丁になった大魔王の巨体は、そのまま光の粒子ポリゴンへと変換され――スポンッ! という間抜けな音と共に、リーザの掃除機の中へと完全に吸い込まれて消滅した。

「…………」

「…………」

 ぽつん。

 ベッドの上には、魔王がドロップした小さな『宝箱』だけが残された。

 戦闘時間、わずか3秒。

 伝説の大魔王は、一切のドラマも魔法の打ち合いもなく、ダイソン(人魚)に吸引されてこの世から強制退場デリートさせられた。

『プ、ププー、ププー……プ、ピーーーーッ(異音)』

 魔王を倒したことで鳴るはずの『勝利のファンファーレ』が、システムが正常なフラグ進行を認識できなかったためか、バグった不協和音を奏でてフリーズした。

「ウソだろ……」

 イグニスが、両手斧を取り落とし、絨毯の上に膝から崩れ落ちた。

「俺様の……俺様の求めていた、血湧き肉躍るラストバトル……。大魔王との死闘……。

 それが、クマさんパジャマの寝起きドッキリからの、掃除機でポンだと……?

 勇者って……勇者ってなんだ……?(涙)」

 純粋な竜人の戦士が、あまりのアンチクライマックス(虚無)に直面し、完全に心をへし折られてむせび泣いている。

「やったーっ☆ ラスボス、秒殺クリアだよーっ♡ リスナーの皆、キュララたちの大勝利に盛大な拍手スパチャをよろしくねっ☆」

 キュララが、空気を読まずにドローンカメラに向かってピースサインを決める。

『魔王よわwww 3秒で掃除機に吸い込まれたwww』

『クマさんパジャマのまま強制終了は草』

『イグニスの心がぶっ壊れてて可哀想ww』

『RPGの歴史に残る最低のラスボス戦(褒め言葉)』

『ルチアナ運営、これ返金騒動だろwww』

 コメント欄は、爆笑の渦と、インフルエンサーの炎上生配信による圧倒的なバズ(トラフィック)で埋め尽くされていた。

「ふぅ……。よし、魔王の処理デリートは完了だ」

 俺は、バグってフリーズしているBGMを無視し、ベッドの上に落ちていた宝箱を開けた。

 中には『囚われの姫が閉じ込められている牢屋の鍵』が入っていた。

「タイムは……1時間8分。タクシーと壁抜けを使ったおかげで、大幅なコスト(時間)削減に成功したな」

 俺は満足げに頷き、白雪を鞘に納めた。

『終わった……。私の新作ゲームの評価が、完全に地に落ちたわ……』

 上空のホログラムで、ルチアナが完全に白く燃え尽き、コタツに突っ伏しているのが見える。

「何を落ち込んでいる、ルチアナ。ゲーム(業務)はまだ終わっちゃいないぞ」

 俺は、冷徹な経営者の笑みを浮かべ、牢屋の鍵を指先で回した。

「さぁ、行くぞお前ら。次は囚われの姫の救出だ。……そして、王様クライアントとの、最高にスリリングな【報酬の交渉(身代金要求)】のお時間だ」

 勇者(無法者)たちによる、世界の平和(ゲームの崩壊)への最後のプロセス。

 王道のエンディングすらも、リアンのブラック企業的ロジックによって、最悪の形(テロ行為)で書き換えられようとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

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