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EP 7

飛竜タクシーと『壁抜け』〜ダンジョン完全無視の最適解〜

 上空のホログラムウィンドウで、運営ルチアナが「中ボス四天王の出番がぁぁっ!」と血の涙を流して絶叫しているのを完全にBGM(環境音)として処理し、俺は魔導通信石スマホを耳に当てた。

「あぁ、ポポロ村の飛竜タクシーか。俺だ。迎車を頼む。場所は『サタンクエスト』の魔王城の中庭だ。……ああ、次元の壁を越える特別料金? 構わん、チップも弾むから一番速い個体を寄越せ」

 通話を切り、俺は腕時計(プレイ時間)を確認した。

 ゲーム開始から約1時間5分。このまま最短ルートを構築すれば、2時間以内での完全クリア(RTA世界記録)も夢ではない。

「ええっ!? リアン君、タクシー呼んじゃったの!? 魔王城って、一階から順番に罠を解除して、強敵を倒しながら玉座を目指すのが普通じゃないの!?」

 キャルルが、ウサギの耳をピンと立てて常識的なRPGのセオリーを説いてくる。

「ガハハハ! そうだぜリアン! 俺様の斧が、魔王軍の血を吸いたがって疼いてるんだ! 正面突破で大暴れしようぜ!」

 イグニスも両手斧をブンブンと振り回し、脳筋全開で同意する。

「お前ら、RTAビジネスにおける『タイムパフォーマンス』という概念を全く理解していないな」

 俺は、熱血勇者(脳筋)たちに冷ややかな視線を向けた。

「いいか。一階から玉座まで登るのに、雑魚戦や中ボス戦、無駄な謎解き(ギミック)にどれだけの時間がかかると思ってる。およそ3時間は下らない『無給の残業』だぞ。

 俺たちには、無限増殖バグでカンストした99999999Gという圧倒的な『資本』がある。カネの力でプロセスをショートカットできるなら、迷わず投資するのが優秀な経営者ゲーマーだ」

「相変わらず、勇者にあるまじき反社みたいな発言ロジックだね……」

 キャルルがドン引きしていると、上空から巨大な影が舞い降りてきた。

『バッサ、バッサ、バッサ!』

 飛竜ワイバーンの背中に、黄色い「TAXI」の行灯あんどんを乗せた、ポポロ村名物の『飛竜タクシー』である。

 背中の座席にまたがったドワーフの運転手が、ゴーグルを上げて片手を挙げた。

「おう、待たせたな旦那! 魔王城の中庭まで呼ぶたぁ、ずいぶんと豪儀な客だぜ。で、行き先は?」

「上だ。この城の最上階……魔王の玉座がある階層の外壁まで、一気に飛んでくれ」

「へへっ、了解した! 捕まってな!」

 俺たち5人(+キュララのドローン)が飛竜の背中のカゴに乗り込むと、飛竜は力強く羽ばたき、魔王城の尖塔に沿って垂直に急上昇を始めた。

『ちょっ、ちょっとおおおおおっ!!』

 空中のホログラムから、ルチアナの悲鳴がさらにボリュームアップする。

『タクシーでラスダンをスキップする勇者がどこにいるのよおおっ!!

 一階の【灼熱の迷宮】も、二階の【騙し絵の回廊】も、私が徹夜して考えた超絶ギミックなんだからね!? それを外から一気に最上階まで飛ぶなんて、ルール違反チートよ!!』

「うるせぇ。屋根(マップの上部)に『飛行進入禁止(見えない壁)』の判定を設定し忘れたお前の仕様の甘さだ」

 俺は、泣き喚く借金女神を冷たく切り捨てた。

「さぁさぁリスナーの皆っ☆ 見てこの絶景!

 魔王城の外壁を飛竜タクシーでスイスイ登ってまーすっ♡ 窓越しに、出番をすっ飛ばされて棒立ちしてる四天王の中ボスたちが見えるよーっ☆」

 キュララが、城の窓ガラス越しに、手持ち無沙汰にしている敵キャラたちをドローンで撮影して煽りまくる。

『四天王かわいそすぎるwww』

『タクシーでラスボス直行は草』

『資本主義(カンスト金貨)の暴力www』

『ルチアナの徹夜のギミック、完全スルーされてて涙拭けよww』

 コメント欄はもはや、運営への同情(を装った煽り)と、俺の容赦ないショートカットへの大爆笑で完全にカオスと化していた。

「旦那、着いたぜ! 最上階の外壁だ。……でもよ、ここには入り口(扉)なんてねぇぜ?」

 飛竜タクシーが空中でホバリングし、ドワーフの運転手が首を捻る。

 目の前には、禍々しい紫色のレンガで積まれた魔王城の強固な外壁が立ちはだかっている。

 本来なら、城の内部から階段を登ってこなければ玉座には辿り着けない設計だ。

「問題ない。……払いはこれで釣りは取っておけ」

 俺はポーチから、カンストした金貨を無造作に数掴み(約数百万G)取り出し、運転手に投げ渡した。

「ひょえええっ!? だ、旦那! 一生遊んで暮らせる額だぜ! まいどありぃぃっ!」

 運転手は狂喜乱舞し、飛竜を急旋回させて逃げるように去っていった。

「さてと。玉座はこの壁の向こう側だが……」

 俺は、飛竜から飛び降り、最上階の細い出窓のテラスに着地した。

 そして、壁のレンガの継ぎ目を、指でコンコンと叩いて回る。

「リアン様? そんなところを叩いて、隠し扉でも探しているんですの?」

 リーザがお賽銭箱型掃除機を抱えながら首を傾げる。

「隠し扉じゃない。このクソゲーに必ず存在するであろう『脆弱性』を探しているんだ」

 俺は、テクスチャの繋がりが不自然に歪んでいる箇所を見つけ、ニヤリと笑った。

「ルチアナのような素人ポンコツが急ごしらえで作った3Dマップだ。必ずどこかに、ポリゴンの『継ぎ目(コリジョン抜け)』が存在する。

 ……ルナ。ちょっとここに向かって、軽い魔法をぶつけてみろ」

「はいっ、お任せくださいませリアン様! 軽い魔法ですね!」

 純白のドレスのエルフが、世界樹の杖を構えた。

「――『精霊の光弾フェアリー・バレット』っ!」

 ルナの放った光の弾が、俺が指定したレンガの継ぎ目に直撃した。

 ポスッ、という気の抜けた音と共に。

 フッ……。

「……は?」

 イグニスが目を瞬かせた。

 壁のレンガの一部(約1メートル四方)が、まるでそこだけ画像が読み込まれなかったかのように、真っ黒な【虚無(バグ穴)】へと変わったのだ。

「よし、ビンゴだ。当たり判定コリジョンが設定されていない、ガバガバのテクスチャ抜けだ」

 俺は満足げに頷いた。

『ああああああああああああああああっっっっ!!!!!!』

 上空のホログラムで、ルチアナが髪を振り乱して絶叫する。

『やめて! そこはダメ! その壁抜け(アウト・オブ・バウンズ)は本当にやめてええええっ!!

 そこを通られると、玉座の前の『ドラマチックな最終決戦ムービー』のフラグが読み込まれないのよぉぉっ!!』

「それが狙い(スキップ)だろうが」

 俺は、泣き叫ぶ運営の悲鳴を背に受けながら、その真っ黒なバグ穴へと迷いなく足を踏み入れた。

 ズボッ。

 まるで水面を通り抜けるように、俺の身体が壁の中に吸い込まれる。

 キャルル、リーザ、イグニス、ルナ、そしてキュララのドローンも、それに続いて次々と壁抜けを敢行した。

     * * *

「……うおっ」

 壁をすり抜けた先は、マップの『裏側』だった。

 通常なら玉座ラストダンジョンに繋がるはずの正規ルートを完全に無視し、俺たちは真っ暗な空間を少しだけ落下した。

 ドスッ。

 着地したのは、柔らかい絨毯の上だった。

 だが、周囲の景色がどうもおかしい。

 禍々しい玉座や、燃え盛る炎、ラスボス特有の重厚なBGMは一切ない。

 あるのは、高級そうな天蓋付きのキングサイズベッドと、可愛らしいピンク色のウサギのぬいぐるみが置かれた棚。

 そして、生活感に溢れた『脱ぎっぱなしの服』や『読みかけの漫画雑誌』。

「……リアン君。ここ、魔王の玉座じゃなくて……」

 キャルルが、呆れたように周囲を見回す。

「あぁ。どうやら壁抜けの座標がズレて、玉座の『奥の部屋』……魔王の【寝室】のど真ん中に直接スポーン(侵入)しちまったみたいだな」

 俺は、ため息をつきながら肩をすくめた。

「フゴォォ……フゴォォ……」

 そして。

 その部屋の巨大なキングサイズベッドのド真ん中で。

 禍々しい二本の角を生やした、いかにも『大魔王』といった風貌の巨漢が――

【可愛いクマさん柄のシルクのパジャマ】を着て、アイマスクを装着し、ヨダレを垂らしながら無防備に爆睡していた。

「…………」

「…………」

「……これが、この世界を恐怖に陥れた大魔王?」

 イグニスが、持っていた両手斧を力なく下ろし、完全に戦意を喪失した顔で呟いた。

「キャーッ☆ リスナーの皆! 魔王様の寝起きドッキリ(不法侵入)配信、スタートだよーっ♡」

 キュララが、空気を読まずにドローンカメラを、クマさんパジャマの魔王の寝顔にドアップで寄せていく。

『魔王のパジャマwwww』

『クマさん柄www 威厳ゼロwww』

『まさかの寝室直行バグww』

『ラスボス戦が寝起きドッキリになるとか神ゲー(クソゲー)すぎるだろww』

 コメント欄は、もはやRPGのクライマックスとは程遠い、深夜のバラエティ番組のノリで爆発的な盛り上がりを見せていた。

 俺は、白雪の柄に手をかけ、ベッドの脇へと静かに歩み寄った。

「さぁて、残業(ラスボス戦)を終わらせるか。……起きろ、大魔王」

 俺が冷酷な声で呼びかけると、クマさんパジャマの魔王が、アイマスクをズラして「んむぁ……?」と間抜けな声を漏らしながら寝返りを打った。

 RTA世界記録更新の瞬間(魔王討伐)は、もう目の前まで迫っていた。

読んでいただきありがとうございます。

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