EP 6
炎上RTA生配信! 運営へのダイレクトクレーム
ルナの超巨大ゴーレムがぶち抜いた『地面の穴(マップ外の虚無空間)』。
俺たちは、その果てしなく続く灰色のポリゴンの海を、物凄いスピードで落下していた。
上を見上げれば、真っ赤に染まったエラーの空が遠ざかり、周囲にはテクスチャが貼られていない市松模様のワイヤーフレームだけが無限に広がっている。
RPGの舞台裏(バグ空間)という、絶対にプレイヤーが立ち入ってはいけない領域だ。
「きゃあああああっ!! 落ちるぅぅぅっ! どこまで落ちるんですのーっ!?」
芋ジャージの人魚・リーザが、自慢のお賽銭型掃除機に必死にしがみつきながら悲鳴を上げる。
「ガハハハ! 風が気持ちいいぜ! これも勇者の試練ってやつだな!」
イグニスは両手斧を広げ、スカイダイビングを楽しむかのように豪快に笑っている。
「リアン君っ、これいつかは地面に激突するんだよね!? 私のパーフェクトヒール、落下ダメージ(即死)には間に合わないよ!?」
キャルルが空中で俺の腕にギュッと抱き着いてくるが、ヤンデレ特有の怪力で腕が千切れそうだ。
「騒ぐな。このゲームの『Z軸(高さ)』の座標データを見る限り、あと2分ほどで魔王城のある地下エリア(別マップ)の天井フラグに強制接触する。着地判定の瞬間にシステムがリセットされて、ダメージは無効化されるはずだ」
俺は冷静に落下座標を計算しながら、タローマン製ジャージのポケットに手をつっこんだ。
そんな緊迫感(?)の中、我らがポンコツインフルエンサー・キュララは、落下しながらも完璧なカメラ目線で生配信を継続していた。
「はーいリスナーの皆っ☆ 今、キュララたちは『サタンクエスト』のマップの外(虚無)を絶賛落下中でーすっ♡
ゲーム開始からたった1時間! 完全に世界が崩壊しちゃったよーっ☆」
キュララの空中のホログラム画面(コメント欄)は、もはや大草原(www)を通り越し、凄まじい勢いの【炎上祭り】へと発展していた。
『マジでなんだこの産廃ゲーwww』
『開始数十分で地面が抜けるRPGとか聞いたことねぇぞ!』
『伝説の武具の名前「エクスカリパー」だし、ガウェインはパンツ一丁だしww』
『NPCがTポーズで無限震動してたのトラウマレベルだわ』
『バグだらけの未完成品じゃねぇか! 金返せ!』
『#サタンクエスト炎上 #ルチアナ運営最低 #クソゲーオブザイヤー確実』
インフルエンサーの拡散力は恐ろしい。
キュララの配信を見た数百万人のリスナーたちが、SNS(ゴッドチューブのレビュー欄や魔導掲示板)で次々とこのゲームの『ヤバさ』を拡散し始めたのだ。
瞬く間にトレンドの1位を独占し、発売前(テストプレイ中)であるにもかかわらず、サタンクエストの評価は『星1(最低評価)』の嵐となっていた。
「あははっ! 視聴者数、過去最高を更新したよっ☆ 炎上マーケティング大成功だねっ!」
キュララが、炎上(他人の火事)で暖を取るインフルエンサー特有のゲスい笑顔を浮かべた、その時だった。
『――ちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっ!!!!!!!』
突如。
灰色の虚無空間全体を震わせるほどの、超大音量の『悲鳴』が響き渡った。
「……あ?」
俺が眉を顰めた瞬間。
何もない空間のド真ん中に、巨大な半透明のホログラムウィンドウが強制的にポップアップした。
そこに映し出されたのは――天界のコタツ部屋で、ストロング系の缶チューハイを握りしめ、顔面を蒼白にして涙と鼻水を垂らしながら絶叫している、えんじ色の芋ジャージを着た女神・ルチアナの姿だった。
『やめてええええええええええっ!!!』
ルチアナが、画面越しに土下座せんばかりの勢いで叫ぶ。
『私の! 私の新作ゲームのレビュー欄を荒らさないでええええっ!!
まだ正式リリース前なのに、ゴッドチューブの評価が【圧倒的不評(星1)】で埋め尽くされてるじゃないのよぉぉぉっ!! これじゃ1本も売れないわよぉぉぉっ!!』
開発者(運営)による、まさかのゲーム内への直接介入である。
「おっ! 運営のルチアナさんからのダイレクトクレームきたーっ☆ リスナーの皆、今の泣き顔、しっかりスクショ撮って拡散してねっ♡」
キュララが、空気を全く読まずにドローンカメラをルチアナの巨大な顔面ホログラムに寄せる。
『やめてっ! 拡散しないで! デジタルタトゥーが残っちゃう!!』
ルチアナが顔を隠して喚き散らす。
「自業自得だろ、ルチアナ」
俺は、落下しながら腕を組み、巨大な女神のホログラムを冷徹に睨みつけた。
「こんなバグだらけの未完成品(産廃)を、テストプレイもせずにフルプライスで売り出そうとしたお前の罪(コンプライアンス違反)だ。
無限増殖バグ、MPK放置、イベントの進行スタック、そしてコリジョン(当たり判定)の崩壊。……消費者庁(ギルドの監査委員会)にタレ込まれる前に、潔く諦めてサービス終了(サ終)しろ」
『うううっ……だってぇ! 納期(クレカの支払い日)が明日までに迫ってたんだもん!
デバッグに回す外注費もなかったし、どうせプレイヤーは雰囲気で遊んでくれるって思ったのよぉっ!
それに、朝倉月人君(推し)のプレミアムライブの最前列チケット、どうしても転売サイト(高額)で落札したかったんだもんっ!!』
「……お前、神の権威もプライドも完全にドブに捨てたな」
ただの借金まみれの限界オタクの言い訳に、俺は深い溜め息を吐いた。
「そうですわよ! そもそも、わたくしたち【勇者】への報酬設定が渋すぎますの!」
リーザがお賽銭箱型掃除機を振り回しながら、運営にクレームを入れる。
「タンスの中身は小銭ばかりだし、NPCはケチだし! わたくしが無限増殖バグで稼がなかったら、今頃まだ『銅の剣』でスライムを叩いてましたわよ!」
『アンタたちが勝手にハッキングと強盗したんでしょうが! 普通はもっとこう、コツコツお使いクエストをこなして町の人と絆を深めるの!』
「そんな長ったらしい話、聞いてられないよ! ガウェインのお爺ちゃん、同じ話ばっかりしてウザかったんだもん!」
キャルルがヤンデレ特有の身勝手な理屈を叩きつける。
『だからって、重要なイベントキャラをトンファーで峰打ちして、パンツ一丁(身ぐるみ剥がし)にする勇者がどこにいるのよ!? あのジジイのセリフ、私が徹夜で書いた超感動のフレーズだったのに!!』
「まぁまぁ、ルチアナ様。私は少しでも道を歩きやすくしてあげようと、お掃除のゴーレムちゃんを出しただけでしてよ?」
ルナがニコニコしながら、一番の戦犯(サーバークラッシュの主犯)である事実を完全に棚に上げている。
『アンタのせいで地面の底が抜けたのよおおおおっ!!』
ルチアナの血の涙が、ホログラム画面を越えて飛んできそうな勢いだ。
『お願いだから! 頼むからリアン! 一回初期の村に戻って、正規のルートで攻略し直してぇっ!
この穴を落ちた先には魔王城があるけど、その前に『嘆きのダンジョン』を踏破して、私が設定した『四天王との中ボス三連戦(激アツ展開)』をプレイしてよぉ!
じゃないと、ゲームのプレイ時間がスカスカになっちゃうのよおおっ!!』
運営が、必死にプレイヤー(俺)に『本来の想定ルート(仕様)』への復帰を懇願してくる。
だが。
「……断る」
俺は、無慈悲に一刀両断した。
「ビジネス(RTA)において、一度見つけたショートカット(効率化)を手放す馬鹿はいない。
中ボス三連戦? 嘆きのダンジョン? 知るか。そんな労働集約型の無駄なプロセスは、全て『スキップ(リストラ)』だ」
『鬼! 悪魔! 最悪のブラック企業の社長ォォォッ!!』
「なんと言われようと、このクソゲーは俺が最速で終わらせる。お前はせいぜい、炎上後の謝罪文のテンプレでも用意しておくんだな」
俺がそう宣言した瞬間。
足元の灰色の空間が急激に薄れ、その下に、禍々しい紫色のオーラに包まれた巨大な城――【魔王城】の全貌が姿を現した。
どうやら、Z軸の落下が底(別マップの天井)に到達したらしい。
「よし、着地するぞ。全員、受け身を取れ!」
ヒュゥゥゥゥゥゥゥンッ……!!
トンッ。
俺たちは、システムによる強制ダメージ無効化の恩恵を受け、魔王城の敷地内(巨大な庭園のド真ん中)へと無傷で着地を果たした。
『ああっ! 魔王城に直接来ちゃった! 中ボス四天王の出番がぁぁっ!!』
上空のホログラムで、ルチアナが頭を抱えて絶望の叫びを上げている。
「さてと。着いたはいいが……ここから魔王の玉座までは、まだ距離がありそうだな」
俺は魔王城のそびえ立つ尖塔を見上げながら、防刃ジャージの襟を正した。
「リアン君、走る? それともイグニスの斧で扉を壊していく?」
キャルルがトンファーを構える。
「いや……歩く(労働する)必要はねぇ。俺たちには、無限増殖でカンストした『資金(資本)』があるからな」
俺は、ポケットから魔導通信石を取り出し、とある番号(配車アプリ)をタップした。
「もしもし。あぁ、俺だ。ちょっと『魔王城の玉座(最上階)』まで、直通のタクシー(飛竜)を一台頼む」
RPGの常識をカネ(資本力)で粉砕する。
最悪の勇者たちによる、前代未聞の魔王討伐(テロ行為)の火蓋が、いよいよ切って落とされようとしていた。
読んでいただきありがとうございます。
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