EP 4
強制イベント(長話)スキップと、伝説の騎士の身ぐるみ剥がし
NPCの命を無限の盾にした極悪MPKにより、開始わずか30分で全員のレベルを【99(カンスト)】まで引き上げた俺たちは、飛ぶ鳥を落とす勢いで王都『ルチア・キャッスル』へと足を踏み入れた。
資金は99999999G。レベルはMAX。
あとはラスボスである魔王を物理的に殴り倒すだけなのだが、RPGというものは大抵、面倒な『おつかい』や『キーアイテムの取得フラグ』を踏まないと、魔王城への道が開かれない仕様になっている。
「さぁて、次のフラグ(業務)は……あいつだな」
王城の訓練場。
そこに、ひときわ豪華な金ピカの鎧に身を包み、身の丈ほどもある大剣を地面に突き立てた、筋骨隆々の白髭の老騎士が立っていた。
頭上には【伝説の騎士・ガウェイン】と表示されている。
おそらく、魔王を倒すための『伝説の武具』を授けてくれる、重要なキーキャラクターだろう。
「おお、よくぞ参った、若き勇者たちよ!」
俺たちが近づくと、ガウェインが重々しい声で語りかけ、空中に半透明の【テキストボックス】が出現した。
「ワシは伝説の騎士、ガウェイン。お主らが来るのを、ここでずっと待っておった……。
魔王の事だが、あれは今から100年前の出来事だった……。かつてこの世界は、美しき緑と平和に満ち溢れていたのじゃが……」
ポロ……ポロポロポロ……。
「…………」
俺は、無言でテキストボックスを見つめた。
文字の表示速度が、異常に遅い。
一文字表示されるのに、体感で約1秒。しかも、「……」などのタメの部分で無駄に時間がかかる、古き悪きRPGの『強制スクロール』である。
「(……チッ。文字送り速度のオプション設定すらないのか。どんだけプレイヤーの可処分時間を奪う気だ、あの借金女神は)」
俺は舌打ちをし、空中のテキストボックスを指で連打してみた。
しかし、システム音と鳴るだけで、テキストはスキップされない。
完全なる【強制イベント(スキップ不可)】である。
「あー、あの時の悲劇は今でも忘れられぬ……。魔王の軍勢は、まず北の砦を……そう、あれは寒い冬の朝じゃった……」
「(……長い。クソ長いぞ。お前の回顧録(自分語り)なんか、会社の朝礼の校長先生の話より興味ねぇんだよ)」
俺は、タローマン製防刃ジャージの袖をまくり、腕時計(プレイ時間)を確認した。
ただのテキスト読解に、すでに3分のタイムロス(負債)が発生している。RTAにおいて、この無駄な時間は致命的だ。
「おい、ジジイ。昔話はいいから、さっさとその着てる『伝説の装備』とやらを寄越せ。巻きで頼む」
俺が直球で要求(交渉)する。
しかし。
「……そう、あれは寒い冬の朝じゃった……。空からは冷たい雪が舞い落ち……」
ガウェインは、俺の言葉を完全に無視して、プログラムされた長文を朗読し続けている。
「……バグってんな。ループしてやがる」
俺は深いため息をつき、頭を掻いた。
「特定のフラグが絡み合って、会話の進行がスタック(停止)してる。ルチアナの奴、デバッグをサボったツケがこんなところで出やがったか」
このままでは、一生このジジイの昔話を聞かされるハメになる。
ならば、解決策は一つだ。
「キャルル」
「はいっ、リアン君♡」
俺が名前を呼ぶと、ヤンデレウサギが嬉しそうに前に出た。
「あのジジイの処理、強制終了させろ」
「了解ですっ♡」
キャルルが、ニッコリと笑ってトンファーを構え、レベル99の圧倒的な脚力でマッハの速度で踏み込んだ。
「月影流・峰打ちぃぃぃっ!!」
ドゴォォォォォォンッ!!!!!
「ふぐはぁぁぁっ!?」
伝説の騎士の顎に、キャルルの容赦ない一撃がクリーンヒットした。
ガウェインのHPゲージが一瞬でミリ(1)まで減少し、頭上にピヨピヨと星が回る【気絶】のステータスアイコンが点灯。そのまま白目を剥いて地面にズドーンと倒れ伏した。
パリンッ!
その瞬間、空中に展開されていた『強制イベントのテキストボックス』が、エラー音とともに粉々に砕け散った。
「よし、イベントスキップ成功だ。さすがは物理デバッグだな」
俺は満足げに頷き、倒れたガウェインの傍らにしゃがみ込んだ。
「さぁ、リーザ。回収作業(アセット調達)に入るぞ」
「はいですの、リアン様! 待ってましたわーっ!!」
俺とリーザは、息の合った手付きで、気絶している伝説の騎士の装備を次々と引っぺがし始めた。
「ほい、『伝説の兜』ゲット」
「『伝説の黄金鎧』も、わたくしのものですわーっ!」
「この『聖剣エクスカリ……パー』? パクリ回避のために微妙に名前変えてんな。まぁいい、これも回収だ」
ベリッ、バキッ、スポーン。
わずか十数秒の間に、威厳に満ちていた伝説の騎士・ガウェインは、すべての武具を剥ぎ取られ、白目を剥いたまま【ピンク色のハート柄トランクス一丁】という、あまりにも無惨な姿で冷たい石畳の上に放置された。
「…………」
その一部始終を後ろで見ていたイグニスが、両手斧を取り落とし、ワナワナと震え出した。
「ゆ、勇者とは……伝説の騎士をパンツ一丁にして身ぐるみ剥ぐ(追い剥ぎ)職業だったのか……!?
俺様が今まで憧れていた『英雄譚』ってのは、こんな山賊みたいな……ッ!」
竜人の純粋な心が、令和のRTAプレイングによって音を立てて崩れ去っていく。
「イグニス、勘違いするな。これは正当な『勇者特権』だ」
俺は、剥ぎ取ったばかりの『伝説の黄金鎧』をアイテムボックスに突っ込みながら、至極真面目な顔で答えた。
「システムが『倒せる(気絶させられる)NPC』として配置している以上、こいつからアイテムをドロップ(強奪)するのはプレイヤーの正当な権利だ。時間効率を考えれば、これが最適解なんだよ」
「まぁ……リアン様がそうおっしゃるなら、これが『正しい行い』なのですね! 私、勉強になりますわ!」
ルナが、完全に間違った知識(コンプライアンス違反)を笑顔で吸収している。相変わらずこのエルフは危なっかしい。
「はーいっ☆ リスナーの皆ーっ、スクショの準備はいいかな!?」
そして。
この地獄のような光景(バグ技とNPCへの暴行)を、キュララがドローンカメラで世界中に生配信していた。
「見ての通り、勇者御一行による『伝説の騎士・強制追い剥ぎ配信』だよーっ♡
長ったらしいイベントは物理でスキップ! これが【ホープ・クローバー】流の超絶時短テクニック(RTA)でーすっ☆」
『うわあああああっ!!』
『ガウェインがパンツ一丁www 放送事故だろwww』
『イベントスキップ斬新すぎるwww(赤スパ)』
『勇者じゃなくてただの反社(山賊)じゃねぇか!』
『「エクスカリパー」って名前の時点でクソゲー確定で草』
『運営息してるか!? クレームの準備するぞ!!』
ホログラムのコメント欄は、爆笑とツッコミ、そして「クソゲー運営への非難」で完全に祭りの様相を呈していた。
キュララが煽れば煽るほど、このゲームの致命的な欠陥(ガバガバなフラグ管理)が全世界に拡散されていく。
「ふぅ……よし。伝説の武具一式、調達完了だ」
俺は、奪い取った装備のステータスを確認し、満足げに頷いた。
強盗で得た資金(無限増殖バグ)。
MPKで得たレベル(カンスト)。
そして、NPCへの暴行で得た伝説の装備。
開始からわずか1時間弱。
俺たち【ホープ・クローバー】は、ルチアナが作ったクソゲーの仕様の穴を完膚なきまでに突き、最速・最強の『無法者(勇者)』として仕上がっていた。
「さぁ、行くぞお前ら。残るフラグ(業務)は、魔王の首一つだ。……このふざけた箱庭を、最短距離でぶっ壊してやる」
俺は、ハート柄のパンツ一丁で気絶しているジジイを冷たく見下ろすと、次なるバグ技を求めて、迷いなく王城の出口へと足を踏み出すのだった。
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