EP 3
究極のレベリング(MPK)〜NPCの命で作る経験値(利益)〜
無限増殖バグ(錬金術)により、開始わずか10分で所持金をカンスト(99999999G)させた俺たちは、初期の村のゲートをくぐり、広大なフィールドへと足を踏み出した。
RTAにおける資金調達は完璧に完了した。
次なるフェーズは、魔王を圧倒するための『武力』の調達である。
「ガハハハ! 金の次は強さだな! よぉし、魔獣退治なら俺様に任せな!」
イグニスが、背負っていた巨大な両手斧を構え、やる気満々で上腕二頭筋をピクピクさせている。
フィールドを見渡せば、ゲーム序盤のお約束である『スライム』や『角ウサギ』といった低レベルの魔物が、のんびりとポリゴンの草原を跳ね回っていた。
「待て、イグニス。武器をしまえ」
俺は、準備体操を始めた筋肉ダルマを冷たく制止した。
「あ? なんでだ? レベルを上げるには、あいつらを倒して経験値を稼ぐんだろ?」
「それは『一般プレイヤー(素人)』の考え方だ。チマチマとスライムを叩いて経験値を1や2ずつ稼ぐなんて、労働集約型の最悪なビジネスモデルだ。……RTAにおいて、魔物を倒すのに『腕(物理)』は要らない。必要なのは『頭』だ」
俺は、初期装備の『ひのきのぼう』を肩に担ぎ、スライムたちを完全に無視してフィールドの奥へとズンズン進んでいった。
「リアン様、どこへ行かれるんですの?」
「決まってる。このゲームの『脆弱性(ガバガバなマップ設計)』を突くんだ」
歩くこと数分。
俺たちが辿り着いたのは、初期の村から歩いてすぐの場所にあるにもかかわらず、明らかに周囲の風景が違う『禍々しい赤黒い大地』だった。
オープンワールド系の粗悪なゲームにありがちな、「初心者エリアのすぐ隣に、エンドコンテンツ級の高レベルエリアが隣接している」という最悪のレベルデザインである。
「ひぃぃっ!? な、なんかあそこに、すっごくヤバそうなのがいるよぉっ!?」
空中のドローンカメラを引き連れたキュララが、空を指差して悲鳴を上げた。
彼女の指の先。
赤黒い大地のド真ん中で寝そべっていたのは、体長30メートルを超える漆黒の凶竜――頭上に【Lv.99 破滅のデス・バハムート】と表示された、どう見ても終盤のボスキャラだった。
「よし、あいつ(特大の利益)にするか」
俺は足元に落ちていた『石ころ』を拾い上げた。
「えっ……? リアン君、まさか……」
キャルルが青ざめる中、俺はデス・バハムートに向かって、その石ころを思い切りぶん投げた。
ポスッ。
石ころは凶竜の鼻先に当たり、【1ダメージ】という情けないエフェクトが表示された。
『GYAOOOOOOOOOOOOOOOOッッ!!!!』
次の瞬間、安眠を妨害されたデス・バハムートが激怒の咆哮を上げ、その巨大な赤い瞳を完全に俺へと向けた。
地面が揺れ、圧倒的なプレッシャーが初期レベルの俺たちに襲いかかる。
「よし、ヘイト(ヘイトスピーチではない)を取ったぞ! お前ら、全力で村まで走れ!! 追いつかれたら一撃でゲームオーバーだ!!」
「いやああああぁぁぁぁぁっ!! なんで石投げたのぉぉっ! バカァァァッ!!」
「リアン様ぁぁっ! 死にます! 死んでしまいますわーっ!!」
俺の合図とともに、キャルル、ルナ、リーザ、キュララ、そしてイグニスが、涙と鼻水を撒き散らしながら『初期の村』に向かって猛ダッシュを開始した。
背後からは、山を削り、大地を焦がしながら、激怒したレベル99の凶竜が凄まじいスピードで追いかけてくる。
「(……良し。敵の索敵範囲を越えても、ターゲットを追いかけ続ける『ヘイトのバグ(無限追尾)』が機能しているな。ルチアナの奴、本当にデバッグしてねぇな)」
俺は冷静にシステムの挙動を確認しながら、初期の村の入り口ゲートへと滑り込んだ。
「た、助けてぇぇぇぇっ!!」
キュララたちが村の広場へ雪崩れ込む。
そこには、門番として配置されている【村の衛兵(NPC)】たちが立っていた。
「止まれ、旅の者!……な、なんだあの化け物はぁぁぁっ!?」
衛兵NPCたちが、猛スピードで突っ込んでくるデス・バハムートを見て槍を構えた。
彼らのAI(人工知能)には、『村に魔物が近づいたら、命を賭して自動で迎撃する』というスクリプトが組み込まれている。
「村を守れぇぇぇっ!!」
「うおおおおおっ!!」
哀れなNPCたちは、システムの強制命令により、レベル99のデス・バハムートに単玉の初期装備で突撃していった。
ズドォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
凶竜のブレスが一吹きされるたびに、衛兵たちが紙屑のように吹き飛ばされていく。
だが、この『サタンクエスト』のNPCは、死んでも数秒でリスポーン(復活)し、再びシステムに従って無限に特攻を繰り返す仕様になっていた。
「よしよし。いいぞ、働け。俺の代わりに経験値(利益)を削り出せ」
俺は、村の安全地帯のベンチに座り、足を組みながらその凄惨な地獄絵図(オート戦闘)を眺めていた。
「ひどい……! ひどすぎますわリアン様! 村の人たちが、私たちの盾に……っ!」
ルナが涙を流して抗議する。
「人聞きの悪いことを言うな。俺は彼ら(NPC)に、戦闘という『業務』をアウトソーシング(外部委託)しただけだ。彼らも村を守る仕事ができて本望だろう」
「本望なわけないでしょぉぉぉっ!!」
キャルルのツッコミが広場に響く。
オンラインゲーム用語において、意図的に魔物を他プレイヤーやNPCになすりつける行為――【MPK】。
規約違反ギリギリ、いや完全にアウトな極悪非道のプレイングである。
数十人の衛兵NPCが、文字通り「死体の山」を築きながら無限特攻を繰り返し、ついにデス・バハムートのHP(体力ゲージ)が、残りわずか【1%】にまで削り取られた。
「……そろそろだな。業務の『引き継ぎ』だ」
俺はベンチから立ち上がり、瀕死のデス・バハムートの足元へと悠然と歩み寄った。
そして。
「――お疲れ」
ポスッ。
俺は、持っていた『ひのきのぼう』で、凶竜の爪先を軽くチョンッと小突いた。
『GYA……AAA…………』
そのたった1ダメージ(ラストアタック)により。
レベル99のデス・バハムートは、断末魔とともに光の粒子となって砕け散った。
システム上、モンスターの経験値とドロップアイテムは、『最後にトドメを刺した者』に全て入る。
『テレテテッテテーーーッ♪♪』
『テレテテッテテーーーッ♪♪』
『テレテテッテテーーーッ♪♪』
俺たちの頭上に、レベルアップのファンファーレが、完全にバグったように連続で鳴り響き始めた。
レベル1だった俺たちのステータスが、莫大な経験値によって一瞬にして跳ね上がっていく。
10、30、50、80……。
わずか十数秒のファンファーレの嵐の末、全員のレベルが【99(カンスト)】でストップした。
「ガ、ガハハハッ……! な、なんだこれ!? 一回も斧を振ってねぇのに、体の底から無限の闘気が湧き上がってくるぞ!?」
イグニスが、自分の両手を見つめて戦慄している。
「あははははっ! ドロップアイテムで『伝説の竜の牙』が99個手に入りましたわ! これを売ればさらに倍プッシュですのーっ!!」
リーザはもはや完全にゲームバランスの崩壊に順応し、歓喜の舞を踊っている。
「…………」
一方。
空中のドローンカメラで、この『歴史に残る極悪MPK(経験値泥棒)』の一部始終を生配信していたキュララは、最高の笑顔でリスナーたちに語りかけた。
「はーいリスナーの皆っ☆ 見てくれたかな!?
これが、NPCの命を無限の盾にして安全に経験値をかすめ取る、最強にトキシック(有害)なプレイヤー、ウチの店長さんの勇姿だよーっ♡」
『うわああああああああっ!!』
『最低だ! 勇者の風上にも置けねぇ!!(赤スパ)』
『NPCの死体の山の上に立つ勇者www 狂ってるwww』
『こんなに清々しいレベルのラストアタック泥棒初めて見たわ』
『MPKで即レベルマとか、運営息してるか?ww』
コメント欄は、俺の外道すぎる効率プレイ(RTA)への称賛(?)と、ゲームの仕様のガバガバさへの大爆笑で、かつてないほどの盛り上がり(トラフィック)を見せていた。
「よし。資金とレベル(資本と武力)はこれで揃った」
俺は、レベル99(カンスト)になった自分のステータス画面をスワイプして閉じ、平然と振り返った。
「次に行くぞ。このクソゲーを最速で終わらせるための、重要な『フラグ回収』だ」
ゲーム開始からわずか30分。
サタンクエストの世界は、悪徳プロデューサー・リアンの手によって、すでに修復不可能なレベルのバグと無法地帯のド真ん中へと引きずり込まれていた。
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