EP 2
勇者の基本は『強盗』と『無限増殖バグ(錬金術)』
のどかなBGMがループ再生される、サタンクエストの『初期の村』。
木箱や樽が無造作に配置され、頭上に【村人A】と表示されたNPCが、決められたルートをあてもなくウロウロと往復している。
「ようこそ、始まりの村へ! 魔王を倒して、お姫様を助けてくださいね!」
村人Aが、俺たちに向かって機械的に同じセリフを繰り返す。
その様子を冷ややかな目で見下ろした俺は、迷うことなく最も近くにあった民家(NPCの家)のドアを蹴り開け、ズカズカと上がり込んだ。
「よーし。まずは【勇者の基本行動(資金調達)】からだ」
俺は部屋の隅にあった木箱を片っ端から蹴り砕き、中から出てきた『薬草』を四次元魔法ポーチに放り込む。さらに、寝室のタンスを勝手に開け、引き出しの奥から『銅貨5枚』と『布の服』を強奪した。
「リ、リアン様!? な、なんてことを……! 他所様のお家に勝手に入って、タンスを漁るだなんて、立派な住居侵入と窃盗罪ですわ!」
純白のドレスを着たエルフ・ルナが、両手で口を覆って悲鳴を上げる。
善意100%(※ただし自然テロリスト)の彼女にとって、このあからさまな犯罪行為は到底受け入れられないらしい。
「あ? いいんだよ。これはRPG(この世界)における絶対の基本ルール(コンプライアンス)だ」
俺は、他人の家の壺を『白雪の鞘』で粉砕しながら平然と言い放った。
「この世界に配置されている全てのアセット(アイテムと資金)は、魔王を倒すというミッションを遂行する勇者(俺たち)に投資されるべきリソースだ。
タンスに小銭を眠らせておく(塩漬けにする)くらいなら、俺が市場に回して経済を回してやる。これは強盗じゃねぇ、正当な『資産の再分配』だ」
「そうです事よ、ルナ! 目的のためなら手段を選ばないのが、私たちブラック企業【ホープ・クローバー】の流儀ですわーっ!」
俺の極悪非道なロジックに秒速で賛同したのは、強欲人魚のリーザだった。
「おや……? 村人さんの家の隅に、不自然な黒い箱がありますわね」
リーザが目をつけたのは、レンガ造りのファンタジーな世界観にはどう考えてもそぐわない、現代的な『デスクトップ型魔導パソコン』だった。
おそらく、ルチアナが開発費(納期)をケチって、現代モノのゲームアセット(素材)をそのまま流用して配置したのだろう。クソゲーにありがちな世界観崩壊のバグだ。
リーザはカタカタと凄まじい速度でキーボードを叩き始めた。
「フフフ……セキュリティが甘々ですの。初期設定のパスワードのままですわね。
えーっと……この村人Aのネットバンキングに不正アクセスして……定期預金を全額解約!
さらに証券口座にアクセスして、持っている株をすべて成行で売却(現金化)! その資金を、わたくしの口座に全額送金しますわーっ!!」
「お前、完全にサイバー犯罪じゃねぇか」
俺がツッコミを入れるが、リーザの瞳には特大の『¥』マークが輝いている。
「リアン君……リーザちゃん……もう、あなたたちがサタン(魔王)だよぉ……」
キャルルが、ウサギの耳をペシャンと垂らしながら、この世の終わりを見るような目で俺たちを見つめていた。
「おい、キャルル。俺たち(勇者)が悪を為すことで、村人たちは『やっぱり魔王が悪いんだ』と団結する。これも立派なヘイト管理だ」
「その理屈、絶対おかしいからね!?」
キャルルのツッコミを背に受けながら、俺は村の広場へと出た。
しかし、一軒一軒の家を回って数枚の銅貨を集めるのは、タイムパフォーマンス(時間効率)が圧倒的に悪い。RTAにおいて、チマチマした家探しは致命的なタイムロスだ。
「……チッ、個人投資家(NPC)の家だとやっぱりシケてんな。おい、リーザ。あのアホ(ルチアナ)が作った脆弱なシステムだ。もっと手っ取り早い回収スキーム(物理)を試すぞ」
「お任せくださいませリアン様! つまり、アレの出番ですわね!」
リーザは、いつもの芋ジャージ姿で広場のド真ん中に立ち、背中に背負っていた『お賽銭箱型掃除機』のノズルを構えた。
「さぁ、初期の村の皆様! 勇者への強制徴収(税金)のお時間ですの!
ダイ〇ンも真っ青の吸引力、見せてやりますわーっ!!」
ブォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!
広場に、竜巻のごとき圧倒的な吸引力が発生した。
タル、木箱、荷車、薬草、そして武器屋の店先に並んでいた『どうのつるぎ』や『かわのたて』が、次々と宙を舞ってリーザのお賽銭箱へと吸い込まれていく。
「うわあああっ!? 村の備品がぁぁっ!!」
「魔王様、助けてくれぇぇっ!」
設定されたルートを歩くことしかできないNPCたちが、バグったように壁に引っかかりながら絶叫を上げている。
「よしよし、いいぞ。村の流動資産を完全に吸い尽くしたな」
俺は満足げに頷いた。
「うぅ……村が、何もない更地になってしまいましたわ……」
ルナが涙ぐんでいるが、俺の目はすでに次の『システムの穴(脆弱性)』を探す作業へと移行していた。
「(……このゲーム、物理演算とアイテムのフラグ管理が異常に甘い。おそらく、オブジェクトの接触判定に重大な欠陥があるはずだ)」
俺は、村の端にある『畑』のグラフィックの前にしゃがみ込んだ。
四次元魔法ポーチからスコップを取り出し、土のテクスチャを掘り返して小さな穴を作る。
そこに、先ほど奪った『薬草』を一つ置き、土を被せてから、再び掘り返してみた。
ポンッ、ポンッ。
「……なるほど」
俺は、唇の端を吊り上げた。
掘り返した穴から、なぜか『薬草』が【2つ】飛び出してきたのだ。
「キャルル、これを見ろ」
「えっ? リアン君、さっきから穴掘って何をしてるの?」
「いいから、よく見ておけ」
俺は今度は、穴の中に『金貨1枚』を埋めた。
そして、スコップで掘り返す。
チャリン、チャリーンッ。
土の中から、金貨が【2枚】飛び出してきた。
その2枚を同時に埋めて、再び掘り返す。
チャリン、チャリン、チャリン、チャリーンッ!
今度は【4枚】の金貨が湧き出した。
「ふ、増えたぁぁぁぁっ!?」
キャルルが目を丸くして絶叫する。
「よしよし、見つけたぞ。致命的なバグ(錬金術)をな」
俺は冷酷な笑みを深め、金貨の山を前にして腕を組んだ。
「アイテムを地面のオブジェクトに干渉(埋める)させた際、メモリのポインタ解放処理が正常に行われていない。
掘り返すアクションをトリガーにして、アイテムIDが増殖コピーされる『無限増殖バグ』だ。……開発者のルチアナは、デバッグ(品質保証)を完全にサボりやがったな」
「む、無限増殖……!? つ、つまり、これを繰り返せば……!!」
リーザの目が血走り、口から大量のヨダレが滴り落ちる。
「そうだ。資本主義の究極系、ノーリスクの複利計算だ」
俺とリーザは、狂ったような速度で穴を掘り、金貨を埋めては掘り返すという単純作業を始めた。
1枚が2枚に。2枚が4枚に。
1024枚、2048枚、4096枚……!
わずか数分の間に、ポポロ亭のメンバーの所持金(G)のステータス画面は、凄まじい速度でケタを増やし続け、あっという間に【99999999G】の表示でバグったように点滅を始めた。
「あははははっ! 金ですの! お金が無限に湧いてきますわーっ!! 労働なんて馬鹿らしいですの! これが、これが不労所得の極みですわーっ!!」
カンストした金貨の山の中で、リーザが芋ジャージ姿のまま背泳ぎを始めている。
「…………」
一方、その一部始終を空中のドローンカメラで撮影していたインフルエンサー・キュララは、満面の笑みで配信を続けていた。
「さぁさぁリスナーの皆っ☆ 見て見て〜!
勇者御一行による、村への空き巣、サイバーハッキング、そして無限増殖バグによる経済の完全崩壊だよーっ!!」
『うおおおおおっ!! なんだこの外道プレイwww』
『開始5分で資金カンストは草』
『RPGの常識(倫理観)を完全にぶっ壊してて最高』
『ルチアナのプログラミング、ガバガバすぎだろwww 運営出てこい!』
『これが令和の勇者(ブラック企業)のやり方か……!』
ホログラムのコメント欄には、ゲームの世界観を一切無視した俺たちの無法プレイ(RTA)に対する大爆笑と、開発者への容赦ない批判(草)が滝のように流れていた。
「さて、資金調達はこれで完了だ」
俺は、カンストした金貨をポーチにしまいながら立ち上がった。
金は揃った。次は、このポンコツゲームを最速でクリア(破壊)するための、手っ取り早い『武力』の調達だ。
「行くぞお前ら。次は究極のレベリング(MPK)だ。……NPCの命を原資にして、爆速で上場してやる」
借金女神の浅はかなパクリゲームは、開始わずか10分で、生態系と経済の両面から修復不可能なレベルでクラッシュ(崩壊)し始めていた。
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