第六章 神のクソゲーRTAと、勇者(無法者)たちのバグ技無双
借金女神のパクリゲーと、テストプレイヤー達の強制ダイブ
大衆食堂『ポポロ亭』の昼下がり。
怒涛のランチ営業を終え、ようやく訪れた短いアイドルタイム。俺は厨房のカウンターで微糖の缶コーヒーを煽りながら、今月の売上と経費の計算(帳簿付け)に没頭していた。
相変わらず、ルナの引き起こす自然テロの後始末や、キャルルの満月時の破壊活動の補填、そしてインフルエンサー・キュララの配信機材の電気代など、ウチのブラック企業は売上が高くても経費が莫大だ。
溜め息をつきながら羽ペンを走らせていると、ポポロ亭の扉がカラン、と間抜けな音を立てて開いた。
「おっすー! みんな、青春してる~?」
店に入ってきたのは、ルナミスデパートの特売で買ったであろう『えんじ色の芋ジャージ』に身を包み、足元には健康サンダルを突っ掛けた、どう見ても休日のくたびれたオバサンだった。
手にはコンビニ袋(ストロング系の缶チューハイとスルメ入り)が握られている。
「……何だ、ルチアナか。ウチはまだディナーの仕込み中だぞ。何用だ」
俺は帳簿から目を離さず、極めて冷ややかな塩対応を投げかけた。
この芋ジャージの女、これでも一応、このアナスタシア世界を創造した神であり、天界を束ねる世界神『女神ルチアナ(永遠の17歳)』である。
「ちょっとぉ、冷たい塩対応だこと~! 久しぶりに下界に遊びに来てあげたんだから、『おおっ、麗しの女神様~!』とか、ひれ伏すようなリアクションはないわけ?」
「ひれ伏してほしければ、まずはその芋ジャージと健康サンダルをどうにかしろ。神威が微塵も感じられねぇよ。で、何の用だ? また月人(推しのアイドル)のライブチケットの抽選に外れてヤケ酒しに来たのか?」
俺が冷たく言い放つと、ルチアナはズンッ! と重い足取りでカウンターに歩み寄り、バンッ! と一枚のカードを叩きつけた。
「聞いてよリアン……! 私のエンジェルすまーとふぉんに紐付いてるクレジットカード(上限100万円)が……ついに限度額を突破して止められちゃったのよぉぉっ!」
「自業自得だろ。エステ代とソシャゲのガチャに突っ込みすぎなんだよ」
「このままじゃ、天界からサングラスをかけたレスラー体型の黒服が取り立てに来て、マグローザ漁船(カニ工船)にドナドナされちゃう! だから……私、起死回生の『新規事業』を立ち上げたのよ!」
ルチアナは、スルメをかじりながら、ドヤ顔で虚空に手をかざした。
すると、空間が歪み、テーブルの上に一つの怪しげな『魔導VRクリスタル(箱庭世界)』がゴトリと出現した。
「よくぞ聞いてくれました! クレカの残高がヤバい私が、一山当てるために開発した……ズバリ、王道の剣と魔法の世界!
勇者と愉快な仲間たちが、魔王に囚われたお姫様を助けるという、愛と感動の超大作VR・RPG! その名も『サタンクエスト』よ!!」
「…………」
「どう!? このタイトルから滲み出る、ミリオンセラー間違いなしの覇権ゲーム感!」
「それ、ありきたりすぎるだろ」
俺は、微糖の缶コーヒーを置き、経営者としての冷徹な眼差し(監査の目)でルチアナを見据えた。
「『勇者が魔王を倒して姫を救う』なんて、手垢がつきまくったレッドオーシャンの市場だ。
さてはお前、他所の有名どころのタイトルやシステムを丸パクリして、ガワだけ変えて売り逃げする気だな?」
「ち、ちちちち違うわよ!! パクリじゃないわ、オマージュよ! インスパイアよ!
それに、このゲームは『自由度』が全く違うんだから! プレイヤーの選択次第で、無限の可能性が広がる超絶AI搭載の箱庭なんだからねっ!」
ルチアナが顔を真っ赤にして反論していると、店の奥から騒がしいウチの従業員たちが集まってきた。
「まぁ! ルチアナ様が作られた世界ですか? 実際にプレイして(テストプレイ)みないことには、その自由度とやらは分かりませんわね」
純白のドレスを着たルナが、ふんわりと微笑む。彼女は100%の善意で言っているが、一番ゲームのバグ(生態系破壊)を引き起こしそうな存在だ。
「ガハハハ! 新しい戦いの舞台か! 魔王だろうが何だろうが、俺様の筋肉で真っ二つにしてやるぜ!」
両手斧を背負ったイグニスが、筋肉をピクピクさせながら鼻息を荒くする。
「えー、でもゲームの中ってことは、怪我しても私がヒールし放題ってことだよね? やってみますか♡」
キャルルが、少しだけ瞳のハイライトを消して不穏なヤンデレ発言をこぼす。
そして。
「はいはーいっ☆ リスナーの皆ーっ! キュララの突撃生配信、見たい見たーいっ!?」
いつの間にか、数台の魔導カメラドローンを展開させたインフルエンサー天使・キュララが、最高の営業スマイルでカメラに向かってピースサインを決めていた。
彼女の空中のホログラム画面(コメント欄)は、すでにものすごい勢いでスクロールしている。
『女神ルチアナの新作ゲー!? マジで!?』
『タイトルがすでにパクリ臭くて草』
『キュララちゃんの人柱配信キター!』
『クソゲーの匂いしかしないwww 赤スパ投げとくわ!』
「キャーッ! みんな、配信開始早々の赤スパ(五万G)ありがとぉぉっ♡
今日は特別に、店長さんたちと一緒にこの『サタンクエスト』の世界を完全攻略(ぶっ壊しに)行っちゃうよーっ☆」
キュララが、投げ銭の通知音に歓喜して飛び跳ねる。
「チッ……! またわたくしの前で赤スパを……! 早く行きますわよ、泥棒天使! わたくしもそのゲームの世界で、魔王の隠し財産を全部没収(横領)してやりますわーっ!!」
特売の芋ジャージを着たリーザが、嫉妬でギリギリと歯ぎしりをしながら、お賽銭箱型の掃除機を構えて叫んだ。
「お前らなぁ……。まだ俺はプレイするなんて一言も……」
俺が制止しようとした、まさにその時だった。
「よーし! 宣伝(生配信)も入って最高の滑り出しね!
はーい、ポポロ亭の五名様(+キュララ)、ご案内~っ!!」
パチンッ!!
ルチアナが、悪びれる様子もなく指を鳴らした。
その瞬間、テーブルの上の『魔導VRクリスタル』が眩いほどの光を放ち、ポポロ亭の店内を真っ白に染め上げた。
「おい、強制ダイブかよ! ログアウトの仕様書も確認してねぇぞ!」
俺の抗議の声は光の中に掻き消され、強烈な浮遊感と共に、俺たちの意識は電脳の箱庭世界へと吸い込まれていった。
* * *
「……ん」
光が収まり、目を開けると。
そこは、レンガ造りの家々が立ち並び、のどかなBGM(どこかで聞いたことがあるような8bit風の音楽)が流れる、古典的でテンプレな『初期の村』の広場だった。
「おぉ~! すごいっ! ほんとにゲームの中に入っちゃったよっ☆」
キュララがカメラドローンを引き連れながら、はしゃいで飛び跳ねる。
ルナも「空気が美味しいですわ!」と回り、イグニスは「よし、まずは武器屋だな!」と意気込んでいる。
「(……なるほど。五感のフィードバックは完璧か。だが、ポリゴンのテクスチャ(建物の壁)の作り込みが甘い。完全に納期優先(突貫工事)の粗悪なプログラムだな)」
俺は、自分が着ているタローマン製の防刃ジャージの襟を正し、冷徹な目でこの『初期の村』をぐるりと見渡した。
「リアン君? どうしたの、そんな怖い顔して」
キャルルが首を傾げて尋ねてくる。
「いや……なんでもない」
俺は、唇の端を吊り上げ、極上の『悪徳プロデューサー』の笑みを浮かべた。
「他人の褌(有名タイトル)で相撲を取って、小銭を稼ごうとする甘ったれた運営。
……そのふざけた事業計画、俺たち【ホープ・クローバー】の総力(バグ技)を挙げて、徹底的に監査してやる」
借金女神の浅はかなパクリゲーは、こうして、異世界最悪のブラック企業メンバーという『最強のデバッガー(無法者)たち』を迎え入れることとなった。
RPGの常識と倫理観を根底から破壊する、前代未聞のリアルタイムアタック(RTA)が、今、幕を開ける。
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