EP 4
ルナのぽかぽか大作戦〜リアル炎上(物理)と大自然へのテロ行為〜
昨晩の『18禁の夜』大炎上ライブから一夜明けた、ポポロ村の午後。
季節は徐々に冬の気配を帯び始め、冷たい北風が村の広場を吹き抜けていた。俺は厨房で、冷えた体を温めるための『ロックバイソンの特製ビーフシチュー』の仕込みに追われていた。
「(……昨日の炎上騒ぎで、店のブランドイメージに傷がついてないか心配だったが。逆に『あのヤバい曲を歌ったアイドルの店』として、野次馬(新規顧客)が増えやがった)」
悪名は無名に勝る。現代のインフルエンサー・マーケティングの恐ろしさ(バグ)を痛感しながら、俺はシチューの鍋をかき混ぜていた。
一方、ポポロ亭の裏庭では。
純白のお嬢様ドレスを着た天然エルフ・ルナが、地面にしゃがみ込み、木の枝を使って何やら複雑な幾何学模様を描いていた。
「ルナ先輩っ☆ 何をしてるんですか〜?」
そこに、数台のカメラドローンを引き連れたゴッドチューバー・キュララが、あざとい足取りで近づいていった。
昨日のヘイト集金(炎上)で味を占めたのか、今日も朝から元気にカメラを回して配信中である。
「あら、キュララちゃん。……ええ、最近少し寒くなってきたでしょう? だから、外で遊んでいるポポロ村の子供たちのために、村を暖かくしてあげようと思って」
ルナが、いつもの一点の曇りもない『100%の善意』に満ちた極上のスマイルで答えた。
「わぁ〜っ! ルナ先輩、すっごく優しいですね〜っ! さすがは次期エルフの女王様っ☆」
キュララがカメラに向かってウインクを決める。
『ルナちゃんマジ天使!』
『キュララちゃんもルナちゃんも優しくて尊い……』
『昨日のパクリ芋ジャージとは大違いだな!』
『こういうほのぼの配信を待ってたんだよ!』
空中に投影されたホログラムのコメント欄には、称賛と平和なコメントが滝のように流れていく。キュララも「これぞ好感度アップのチャンス(PR案件)!」とばかりに、ルナの隣にしゃがみ込んだ。
「キュララも手伝いますよっ☆ どうするんですか? 薪を集めて焚き火でもするのかな?」
「ううん、違うの。ええっと、まずはここに『魔法陣』を書いて……ってと」
ルナが枝で描き終えたのは、直径5メートルにも及ぶ、禍々しいほどの魔力が凝縮された超高密度の召喚陣だった。
「ま、まほ……魔法陣? ルナ先輩、それ……なんかすごく、魔力の圧がヤバくないですか……? これでどうやって暖かくするんですか?」
キュララが、ビシバシと放たれる魔力のスパークに引きつった笑顔を浮かべる。
しかし、温室育ちのコンプライアンス違反エルフは、悪びれる様子もなく杖を天に掲げた。
「見ててね。――出てきて、ドラゴンちゃんっ!」
ズドォォォォォォォォンッ!!!!
魔法陣から、天を焦がすような漆黒の業火が噴き上がった。
そして、爆発的な熱波と共に姿を現したのは――体長20メートルを超える、全身がマグマのように赤熱し、凶悪な牙と翼を持つ最悪の古代竜。
魔王軍の幹部クラスですら逃げ出すレベルの超危険指定魔物、『獄炎竜』だった。
『ギャァァァァァァオオオオオオオンッ!!!!!』
獄炎竜が、村の空気を震わせるほどの凄まじい咆哮を上げた。
その口から漏れる息だけで、周囲の雑草が一瞬にして炭化し、ポポロ亭の裏庭の気温がサウナ(摂氏80度)のように急上昇する。
「ひ、ひいいぃぃぃぃぃっ!?」
キュララが、完全に配信用の営業スマイルを剥がれ落とし、尻餅をついて後ずさった。
『ファッ!? なんだあのバケモノ!?』
『おいおいおいおい、レイドボスじゃねぇか!』
『逃げろキュララ! 死ぬぞ!!』
『ほのぼの配信じゃなかったのかよぉぉっ!』
コメント欄が一瞬にしてパニック状態(阿鼻叫喚)に陥る。
だが、その地獄絵図のド真ん中で、ルナだけはニコニコと笑いながら獄炎竜の極太の足にすり寄っていた。
「よしよし、ドラゴンちゃん、いい子ねぇ。……ちょっと、アレを燃やして、村のみんなを暖かくして〜」
ルナが、村の裏手に広がる『ポポロ村の森(豊かな自然)』を無邪気に指差した。
『ルルルルォォォォ……ッ!』
獄炎竜が、主の無茶苦茶な命令に忠実に従い、巨大な顎をガパァッと開いた。
その喉の奥で、太陽の表面温度にも匹敵する極大の火球が圧縮されていく。
「ちょっ、ルナ先輩!? なに指差して……待っ、ストォォォォプッ!!!」
キュララの絶叫も虚しく。
獄炎竜の口から、全てを灰燼に帰す最悪のブレス(極太の熱線)が放たれた。
ゴォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!
一瞬だった。
村人たちが薪を拾い、キノコを採る大事なライフラインであった美しい森が。
まるで乾いた紙切れが燃えるように、一瞬にして見渡す限りの『火の海』と化したのだ。
黒煙が天を突き破り、冬の寒さなど微塵も感じないほどの、圧倒的かつ暴力的な熱波が村を包み込む。
「さぁ♡ これでぽかぽかと暖かくなりましたね!」
ルナが、背後で燃え盛る火の海(大自然の終わり)を背景に、極上の天使スマイルでパチンと両手を合わせた。
「なるかああああああああっ!!!」
キュララが、涙目になりながら魂のツッコミを炸裂させた。
「村の森が全部燃えてるじゃん! 暖炉のレベルを超えてるよ! ただの大自然へのテロ行為(放火)だよぉぉっ!!」
キュララの周囲を飛んでいたドローンカメラが、この『森が業火に包まれる決定的瞬間』を、最高画質(4K)で全世界に向けて生配信してしまっていた。
『炎上! 炎上! 文字通りの大炎上!!』
『放送事故発生!! キュララが村に火を付けたぞ!!』
『環境破壊テロリスト・キュララ!』
『特定班急げ! 帝国警察に通報だ!!』
『拡散しろおおお!! #キュララ放火魔 #ポポロ村全焼』
ホログラムのコメント欄が、昨日のパクリ曲など比にならないレベルの、完全な『犯罪者扱い(ガチ炎上)』で埋め尽くされていく。
「ち、ちーがーうーでしょおおおおおっ!!」
キュララがカメラに向かって必死に弁明する。
「私じゃない! キュララは火をつけてないよ! 全部このエルフの先輩がやったの! 私、ただカメラ回してただけだからぁぁっ!!」
『言い訳見苦しいぞ!』
『共犯だろ! 自首しろ!』
『証拠は残ってるぞ! デジタルタトゥー確定!』
炎上マーケティングでバズを狙っていたゴッドチューバーが、ルナという『善意100%の物理的炎上』に巻き込まれ、本物の社会抹殺の危機に瀕した瞬間だった。
「だ、誰かぁぁっ! 助けて店長なさぁぁぁんっ!! このままだと私、ルナミス警察に連行されちゃうよぉぉっ!!」
キュララが涙を流して助けを求めた、その時。
「――全く。少し目を離した隙に、ウチの重要な自然資産を灰にしやがって」
ポポロ亭の裏口のドアを蹴り破り、防刃ジャージ姿の俺が姿を現した。
手には、ドワーフ製の日本刀『白雪』が握られている。
「り、リアンしゃちょー……?」
ルナがキョトンとした顔で振り返る。
「ルナ。お前が召喚したそのトカゲのせいで、村のESG(環境・社会・ガバナンス)評価がストップ安だ。
暖を取るなら、俺が作った『特製ビーフシチュー』で十分なんだよ!」
俺は、白雪の刀身に限界まで『氷属性』の魔力を圧縮し、獄炎竜と、燃え盛る火の海に向けて一気に振り抜いた。
「冬期限定の強制冷却だ。――『アブソリュート・ブリザード・ゼロ』!!」
ビキィィィィィィィンッ!!!!
俺の刀から放たれた絶対零度の猛吹雪が、瞬く間にポポロ村の森を覆い尽くした。
数千度の業火は一瞬にして凍りつき、巨大な獄炎竜も「ギャッ!?」と間抜けな声を上げたまま、氷の彫刻へと姿を変え、そのまま粉々に砕け散って魔法陣の彼方へと強制送還された。
森の火災は、わずか一振りで完全鎮火(凍結)した。
後に残ったのは、焼け焦げた木々と、極寒の雪景色だけである。
「…………」
「…………」
ルナとキュララ、そして配信の向こうの数十万人のリスナーが、圧倒的な三ツ星シェフの制圧力を前に、ポカンと口を開けてフリーズしていた。
「……さて」
俺は刀を鞘に納め、まだカメラが回っているドローンの前に歩み寄った。
「そこの配信者。お前、この森の消失による『木材資源の損失』と『村のブランド価値低下』、合わせて金貨一万枚の損害をどう補填するつもりだ?
お前のアカウントの広告収益を全額差し押さえる同意書(契約)に、今すぐサインしろ」
「えぇぇぇぇっ!? ど、どうして私が払うのぉぉっ!? 火を付けたのはルナ先輩なのにぃぃっ!」
「撮影を止めなかったお前の過失(管理責任)だ。嫌なら、ルナミス警察にお前のIPアドレスをタレ込むぞ」
「あくどい! この店長さん、一番あくどいよぉぉぉっ!!」
キュララが、雪の積もった裏庭で涙を流しながら土下座する羽目になった。
善意の暴走と、承認欲求の成れの果て。
炎上ゴッドチューバーのポポロ亭での生活は、こうして『巨額の負債』と共に、最悪のスタート(物理的な大炎上)を切ったのだった。
読んでいただきありがとうございます。
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