表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
44/80

EP 9

【ホープ・クローバー】の総力戦〜バブル崩壊フィニッシュと最強の業務提携〜

『あははははっ! 無駄だ無駄だ! そのスライムは物理も魔法も、あらゆるエネルギー(流動性)を吸収して膨張する! 攻撃すればするほど、ポポロ村の終わりが早まるだけだ!!』

 上空の監視ドローンから、魔人ギアンの勝ち誇った高笑いが響き渡る。

 体長30メートルにまで膨れ上がった【バブル・エコノミー・スライム】は、体内にルナの純金100kgを取り込んだまま、ドロドロと村の広場へ向かって進行を始めていた。

「どうしようリアン君っ! 攻撃が全部吸収されちゃうなら、倒す方法なんてないよ……!」

「ガハハ……こいつは厄介だぜ。俺様の筋肉でも、手応えが全くねぇ!」

 焦燥に駆られるキャルルとイグニス。

 だが、俺は防刃ジャージのポケットに手を入れたまま、極めて冷静に目の前の巨大な絶望バブルを見上げていた。

「落ち着け、お前ら。バブル(不良債権)ってのはな、実態以上の価値があるように見せかけて膨らんでいるだけの、ただの『空洞』だ」

「くうどう……?」

「そうだ。あいつのデカさは、ルナの純金(資本)と魔力(過剰な供給)を核にして、外部からのエネルギーを無理やり取り込んで水増ししているに過ぎない。

 だったら話は簡単だ。……外からの供給を断ち、中身の資本ゴールドを強制的に【回収(引き剥がし)】してやれば、バブルは勝手に弾け飛ぶ」

 俺は四次元魔法ポーチからドワーフ製の日本刀『白雪』を引き抜き、刃を夜の闇に煌めかせた。

「これより、我が【ホープ・クローバー】の全アセット(従業員)を投入し、あの不良債権の強制処理オペレーションを開始する! 全員、俺の指示通りに動け!!」

「「「イエス、ボス(社長)!!」」」

 俺の号令と共に、最強のブラック企業による反撃の狼煙が上がった。

「第一フェーズ! ルナ! お前は一切の攻撃魔法を使うな! その莫大な魔力は全て、村の設備インフラを守るための『防壁ファイアウォール』に全振りしろ!」

「はいっ! リアン社長の指示通りに! 村の皆さんの財産をお守りしますわ!」

 ルナが純白のドレスを翻し、世界樹の杖を天高く掲げた。

『――世界樹の絶対防壁ワールドツリー・ファイアウォール!!』

 彼女の異常なまでの魔力が、今回は『破壊』ではなく『完全な守護』へと変換される。ポポロ村の居住区と店舗をすっぽりと覆い隠すように、淡く緑色に発光する巨大な光のドームが展開された。

 スライムの体液がドームに触れても、ジュワッと音を立てて弾き返される。完璧なリスクヘッジだ。

「第二フェーズ! キャルル! お前は絶対に直接攻撃ヒットするな! その圧倒的な素早さで奴の周囲を走り回り、ヘイト(視線)を稼いで撹乱しろ!」

「任せてリアン君っ! 私の最速の足で、あのドロドロの目を回してあげる!」

 キャルルが特注安全靴の雷竜石をスパークさせ、マッハ1の速度で駆け出した。

 ビュンッ! ビュンッ!

 目にも留まらぬスピードでスライムの周囲を旋回するキャルル。スライムは彼女を捕らえようと無数の触手を伸ばすが、全て空を切り、空振りの連続で無駄なエネルギー(運用コスト)を消費していく。

『チッ、チョロチョロと逃げ回るなウサギィ! だが、攻撃できないなら意味はないぞ!』

 ギアンがドローン越しに毒づくが、俺のオペレーションはすでに第三フェーズへと移行していた。

「イグニス! 直接斬るな! 奴の周囲の『地面』と『空気』だけを、お前の炎で極限まで熱しろ! スライムの粘度(流動性)を強制的に引き上げるんだ!」

「ガハハハ! なるほど、オーブン焼きってわけだな! 任せとけぇっ!!」

 イグニスが両手斧に紅蓮の炎を纏わせ、スライムの足元の地面に向かってフルスイングで叩きつけた。

『イグニス・フレア・オーブンッ!!』

 ドゴォォォォンッ!!

 スライムを包み込むように、周囲の地面がマグマのように赤熱し、超高温の熱気がドーム状に立ち昇る。

 直接攻撃ではないため、スライムは熱エネルギーを上手く吸収できない。その代わり、異常な高温に晒されたゼリー状の巨体は、ドロドロのシャバシャバに溶け始め、ついにその中心に隠されていた『純金100kg』と『魔種の核』が、表面近くまでズルリと滑り落ちてきた。

「よし、流動性が限界マックスに達した! 中身が丸見えだぞ!」

 俺は、満を持して『最強の回収業者』に指示を飛ばした。

「最終フェーズ! 行けリーザ! お前の出番だ! あのバブルの中に眠る純金(資本)を、一円残らず吸い尽くしてこい!!」

「待ってましたわーっ!! わたくしの、わたくしの歩く身代金(ルナ様)の純金……一ミリグラムたりとも魔物なんかに渡しませんの!!」

 芋ジャージを翻し、リーザが猛ダッシュで飛び出した。

 彼女の瞳には、かつてないほど巨大で輝かしい『¥』マークがバチィィンと点灯している。

「愛と御縁(五円)の力、思い知るがいいですわ! ――『お賽銭箱型掃除機・リミッター解除(強制徴収モード)』ッ!!!」

 リーザが、背負っていた掃除機のノズルを、ドロドロに溶けたスライムの中心――純金の塊に向けて突き出した。

 ブォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!

 ブラックホールすらも凌駕する、強欲人魚の圧倒的な吸引力。

 スライムが「ボギュゥゥッ!?」と奇妙な悲鳴を上げる。

 物理攻撃でも魔法攻撃でもない。それは、相手の財産バリューを根本から剥奪するという、概念的な『没収デフレ』攻撃だった。

「吸い込め吸い込め吸い込めぇぇっ!! わたくしのカツ丼と苺パフェと新衣装の資金ですわーっ!!」

『ガ、ギュルルルルルルルッ!?』

 ズボボボボボッ!!

 スライムの体内に取り込まれていた金貨、金の延べ棒、そしてルナの純金100kgが、過剰な魔力ごと強烈な勢いでお賽銭箱の中へと吸い込まれていく。

『な、なんだとォォォッ!? バカな、僕のスライムの質量(資本)が……強制的に引き剥がされているだと!? や、やめろォォッ!!』

 ギアンの悲鳴をよそに、リーザの強欲は止まらない。

 資金源ゴールドと過剰魔力を完全に失ったスライムは、プシューッという間抜けな音を立てて、30メートルの巨体から、あっという間にバスケットボールほどの大きさにまで萎んでしまった。

 バブルが完全に崩壊はじけたのだ。

「完璧だ。……あとは、監査とどめを入れるだけだ」

 俺は、一気に間合いを詰め、残されたスライムの核(強欲の魔種)の前に立った。

 右手に握った日本刀『白雪』に、闘気と一億ボルトの雷属性を極限まで圧縮して纏わせる。青白い紫電が、刀身でバチバチと激しい火花を散らす。

「てめぇらみたいな実態のない不良債権は、ウチの帳簿クランには必要ねぇんだよ」

 俺は、上段に構えた刀を、夜の闇を切り裂く神速で振り下ろした。

「決裁完了。――『ライトニング・ブレイク(強制監査斬り)』ッ!!」

 閃光。

 轟音と共に放たれた一億ボルトの雷撃斬りが、スライムの核を両断した。

 断末魔を上げる暇すら与えない。魔人ギアンの最高傑作第二弾は、俺の雷光によって細胞の一つ一つまで完全に炭化し、夜風に吹かれてチリとなって消滅した。

『ヒィィィィィッ!? ぼ、僕の……僕の最強のバブルが……またしても一瞬で……!!』

 上空でパニックに陥り、旋回軌道を失った監視ドローンが、フラフラと地面に墜落してきた。

 俺は歩み寄り、そのドローンを特注の防刃シューズの踵でガンッ! と踏み砕いた。

「おい、聞こえてるかギアン。次また俺のシマで悪質な市場操作を仕掛けてきたら、今度はお前の本拠地(天魔窟)を直接【買収(物理制圧)】しに行くからな。首を洗って待ってろ」

『ヒィッ!? ご、ごめんなさいィィィィッ!!』

 ドローンから情けない悲鳴が途切れ、完全に通信が沈黙した。

「……ふぅ。これで残業オペレーションコンプリートだ」

 俺が刀を鞘に納めると、防壁魔法を解除したルナが満面の笑みで駆け寄ってきた。

「リアン社長! お見事です! 皆さんの素晴らしい連携チームワーク、本当に感動しました!」

「ガハハハ! どうだお姫様、俺様の火力とリーダーの頭脳があれば、どんなデカブツもイチコロだぜ!」

「リアン君っ! 私の牽制、バッチリだったでしょ! 褒めて褒めて!」

 イグニスが豪快に笑い、キャルルが俺の腕にギュッと抱き着いてくる。

 そして、その傍らでは。

「ふふふ……ふははははっ! 純金100kg! 全額回収完了ですわーっ!! これでわたくし、大富豪ですのーっ!!」

 お賽銭箱を抱きしめ、ヨダレを垂らしながら狂喜乱舞しているリーザがいた。

「……リーザ。言っておくが、その純金はお前のものじゃねぇ。ハイパーインフレを防ぐために、明日また地下の金庫に封印(塩漬け)するからな」

「そ、そんなぁぁぁぁぁっ!! わたくしのバブルも崩壊しましたわーっ!!」

 絶望の淵に突き落とされ、その場に崩れ落ちるリーザを見て、俺は思わず吹き出して笑った。

 ルナという歩くコンプライアンス違反が加わり、さらに騒がしさとリスクの増した【ホープ・クローバー】。

 だが、この不器用で最強の仲間アセットたちがいる限り。

 どんな絶望バブルが膨らもうと、俺たちの前には敵ではないのだ。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ