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EP 9

村の防衛戦と最強のチームワーク〜禁断のカクテル・エンドで害虫駆除〜

 大衆食堂『ポポロ亭』がオープンして数週間。

 村の赤字1000万円は、瞬く間に回収され、むしろ莫大な黒字(利益)を計上し始めていた。

 昼のピークタイムという名の『戦場』を乗り越え、ポポロ亭は現在、つかの間の休憩時間アイドルタイムに入っている。

「……よし。今日の賄い(まかない)は、『ロックバイソンのガーリック・ステーキ丼〜トライバードの半熟卵乗せ〜』だ」

 俺が厨房から大盛りの中華どんぶりを四つ運んでくると、ホールでぐったりしていた三人(キャルル、イグニス、リーザ)が、ゾンビのように立ち上がった。

「うおおおおっ! 肉! 疲れた体に染み渡る、分厚い肉とニンニクの暴力的な香り!!」

「リアン君、ありがとう! いただきますっ!」

「わたくし、この賄いを食べるために生きておりますわぁぁっ!」

 三人が一斉に丼に喰らいつく。

 地球産の特選醤油と発酵バター、そしてニンニクを極限まで煮詰めた特製ダレが、柔らかな赤身肉と米麦草ライスに絡み合う。そこに半熟卵の黄身を崩せば、もはや言葉を失うほどの至福が訪れる。

 だが、俺の作る料理の真骨頂は『味』だけではない。

「……んぐっ。ふぅぅぅぅっ!!」

 ドンッ!! と、イグニスの全身から黄金の闘気が爆発的に噴き出した。

「キタキタキタァッ! リアンの飯を食うと、腹の底からマグマみたいな力が湧き上がってくるぜ! 今なら山でも真っ二つに割れそうだ!!」

「本当だね。体の隅々まで魔力が満ちていくみたい……。疲労が全部吹き飛んじゃった」

 キャルルも頬を紅潮させ、そのウサギの耳をピンと立てている。

 最高級の食材と、俺の魔力によるロスゼロの調理工程。それが三ツ星の技術で統合されることにより、食べた者のステータスを強制的に限界突破オーバードーズさせるのだ。

(ふむ。今日のバフ効果も完璧だな。これで午後の営業もフル回転で働いてもらえる)

 俺は自分の分のステーキ丼を味わいながら、冷徹な経営者リーダーの顔で頷いた。

 そんな、平和で満ち足りた休憩時間のことだった。

 カンカンカンカンカンッ!!!

 突如として、村の広場に設置された見張り台の鐘が、狂ったように鳴り響いた。

「て、敵襲だあああぁぁぁっ!!」

「空から、死蟲機ネクロバグの群れが! しかも、今までの比じゃない数だぞぉぉっ!!」

 農民たちの悲鳴が、ポポロ亭の中まで響き渡る。

     * * *

 ダンジョン『天魔窟』のモニタールーム。

 魔人ギアンは、モニターに映る『大繁盛しているポポロ村』の映像を見て、ギリギリと歯を軋ませていた。

「どういうことだ……。なぜ、僕が死蟲将軍機で絶望を与えたはずの村が、前よりも豊かに、楽しそうになっているんだ!?」

 ギアンの目的は、人々に絶望を与え、その魂を死蟲王サルバロスのにえとすることだ。

 だが、俺たち【ホープ・クローバー】の介入により、絶望どころか『大衆食堂による地域活性化』という超絶ポジティブな結果を生み出してしまったのである。

「許さない……許さないぞ、あの冒険者ども! 村ごと、いや、あの鬱陶しい食堂ごと、更地にしてやる!!

 行け! 僕の持てる全戦力を投入しろ! 死蟻機ネクロアント死蜂機ネクロワスプ、そして……最新型の『合成死蟲将軍機ネクロキメラ・ジェネラル』だ!!」

 ギアンの狂気じみた命令により、天魔窟から黒雲のような大軍勢が吐き出された。

     * * *

「……チッ。どこのブラック企業だ。従業員の休憩時間ブレイクに割り込んでくるなんて、コンプライアンス違反も甚だしいな」

 俺はステーキ丼の箸を置き、ため息をつきながら立ち上がった。

 外に出ると、ポポロ村の上空を真っ黒な死蜂機ネクロワスプの群れが覆い尽くし、地上からは酸を吐く死蟻機ネクロアントの軍勢が押し寄せてきていた。

 そしてその中央には、前回の将軍機をさらに巨大化・凶悪化させた『合成死蟲将軍機』が、地響きを立てて進軍してきている。

 絶望的な戦力差。普通の冒険者なら、村を見捨てて逃げ出すレベルの大軍勢だ。

 だが、俺の背後に立つ三人のポンコツ……いや、頼れる仲間たちの顔に、恐怖の色は一切なかった。

「リアン! 前衛の雑魚アリどもは俺様に任せろ!」

 イグニスが両手斧を構え、ニヤリと笑う。

「安心しろ! 畑にも、店にも、絶対に被害は出さねぇ! 俺様は『コントロールされた圧倒的火力』を身につけた英雄だからな!」

「上空と、あのデカいのは私がやるね」

 キャルルが、タローマン製の特注安全靴の踵をトンッと鳴らした。

「リアン君が徹夜で経営計画を練って、みんなで汗水流して建てたこの『ポポロ亭(居場所)』……虫ケラ一匹たりとも、指一本触れさせない!!」

「敵のドロップ品は、一円残らずわたくしのものですわーっ!!」

 リーザがお賽銭箱型掃除機を構え、目を『¥』マークにしてよだれを垂らす。

 賄い飯でステータスが限界突破している彼女たちの闘気は、もはや魔王軍の幹部すら圧倒するほどの熱量を持っていた。

 俺は、自然と口角が上がるのを止められなかった。

「よし。飲食店において、衛生管理(害虫駆除)は最優先事項だ。

 全従業員、営業再開! 一匹残らず駆逐しろ!!」

「「「おおおおおおおぉぉぉぉっ!!!」」」

 号令と共に、イグニスが前線へと弾け飛んだ。

「燃え尽きろォォッ! 『大火炎・薙ぎ払い』ッ!!」

 イグニスが両手斧に紅蓮の炎を纏わせ、横凪ぎに振るう。

 以前の彼なら周囲一帯を焼け野原にしていたところだが、俺の説教(コスト管理)が効いたのか、その炎は『敵の群れのみ』を正確に焼き尽くす、美しい扇状の火炎放射へと進化していた。

 酸を吐く暇もなく、死蟻機の群れが次々と黒焦げになっていく。

『ギゴォォォォォォッ!!』

 雑魚が散らされたことに激怒したのか、敵のボスである『合成死蟲将軍機』が咆哮を上げ、肩部のカノン砲から強烈な火炎弾を放とうとした。

 だが、その砲門が火を吹くよりも早く。

「遅いよ」

 月光の如き銀の軌跡が、将軍機の懐へと潜り込んだ。キャルルだ。

 100mを5秒台で走る彼女のスピードは、重鈍な巨大兵器のセンサーを完全に置き去りにしていた。

「私たちの『お店』を、壊そうとしないで!!」

 キャルルは特注の安全靴に仕込まれた『雷竜石』のロックを解放した。

 パチパチと紫電の雷光が跳ね、彼女の細い足に一億ボルトの電流と、莫大な闘気が圧縮されていく。

 クラウチングスタートからの、マッハ1に迫る超音速のダッシュ。そして、20メートルの跳躍。

「月影流・絶技――『超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)』ッ!!!」

 空中での一回転から放たれた、約33,750ジュール(物理限界突破)の飛び蹴り。

 雷神の如き紫電を纏った必殺の踵落としが、合成死蟲将軍機の極厚の胸部装甲に、脳天から真っ直ぐに突き刺さった。

 ズドゴォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!

 まるで隕石が墜落したかのような轟音。

 一億ボルトの電流が内部回路を一瞬で焼き切り、莫大な運動エネルギーが鋼鉄の装甲を紙屑のように粉砕した。

 最新鋭の巨大兵器は、たった一撃の蹴りで、爆発すら許されずに文字通り『ひしゃげて』沈黙した。

「すごいな。流石は元・近衛騎士隊長候補だ。……さて、残るは上空のハエ(死蜂機)どもか」

 俺は、上空で円陣を組み、村へ向けて一斉に毒針と爆発ガスを投下しようとしている死蜂機の群れを見上げた。

 数はおよそ数百。広範囲に散開しているため、イグニスの斧やキャルルの打撃では処理しきれない。

(……面倒だな。パパッと終わらせて、早くコーヒーの続きを飲もう)

 俺は四次元魔法ポーチからショートボウを引き抜き、一本の矢を番えた。

 前世で俺が読み漁った『都市ゲリラ教本』や『マギー キッチン・サイエンス(料理の科学)』の知識。

 それを、ファンタジーの魔法と融合させた時、極めて凶悪な現象を引き起こすことができる。

 俺は、番えた矢に四つの要素を同時に付与エンチャントした。

 一つ、膨張をもたらす『炎』。

 二つ、収縮をもたらす『氷(絶対零度)』。

 三つ、分子の結合を破壊する『雷』。

 四つ、それら相反するエネルギーを一つの器に無理やり押し留める『闘気』。

 これは、魔力と物理の法則を意図的にバグらせる、極めて危険な『禁忌の技』だ。

「さっさと散れ。――『カクテル・エンド』」

 弦を弾く。

 放たれた矢は、螺旋を描くような三色の光の尾を引きながら、上空の死蜂機の群れのド真ん中へと吸い込まれた。

 そして。

 …………カッ。

 音は、なかった。

 ただ、上空の一点を中心に、空間そのものがグニャリと歪んだ。

 急激な熱膨張と、絶対零度の収縮。そして一億ボルトの雷撃による分子崩壊が『同時』に発生した結果、局地的な大気の崩壊(真空状態)が引き起こされたのだ。

 数瞬遅れて、空が白くフラッシュした。

 爆風すらない。ただ、数百体いたはずの死蜂機の群れが、音もなく『素粒子レベルで消滅』し、空からパラパラと、魔石(ドロップ品)だけが雨のように降り注いできた。

「はははっ、大漁ですわーっ!! 五円! 御縁! お賽銭箱の出番ですわーっ!!」

 ブォォォォォォォォッ!!!

 空から降ってくる大量の魔石を、リーザがお賽銭箱型掃除機でダイソン顔負けの吸引力で残らずキャッチしていく。

 被害額ゼロ。建物の損壊ゼロ。

 そして、莫大な魔石による利益(大黒字)のみが残った。

     * * *

「な……な、な……っ!?」

 天魔窟のモニタールーム。

 魔人ギアンは、モニター越しに自軍の『完全消滅』を見届け、道化師の仮面の下で泡を吹いていた。

「な、なんだあの矢は……!? 炎と氷と雷を同時に……? あんなの、魔法の理屈システムを無視したチートじゃないか!! バグだ! 運営に報告してやる!!」

 ギアンはモニターの前で地団駄を踏み、大粒の涙を流しながら叫んだ。

「うわあああぁぁぁん! 僕のおもちゃが! 貯金して作ったキメラ将軍機がぁぁっ!! ママァ! サルバロスママァァッ!! 怖いよぉぉっ、あの冒険者たち、人間じゃないよぉぉっ!!」

 悪逆非道な魔軍の指揮官は、もはや完全に心が折れ、幼児退行して床を転げ回っていた。

     * * *

「ふぅ。害虫駆除クエスト完了、だな」

 俺が弓をポーチに仕舞うと、イグニスとキャルルがハイタッチをし、リーザが満タンになったお賽銭箱を抱えて歓喜の舞を踊っていた。

「リアン君! みんな怪我一つないよ!」

 キャルルが駆け寄り、俺に向かってひだまりのような笑顔を向ける。

「ああ。上出来だ。お前ら、最高の従業員チームだよ」

 俺は少しだけ口角を上げ、ポンコツで規格外な仲間たちの頭を、順番にポンポンと撫でてやった。

「さぁ、休憩時間は終わりだ。店の入り口に、行列ができ始めてるぞ。ディナータイムの営業準備に取り掛かるぞ!」

「「「イエス、シェフ!!」」」

 夕日に照らされるポポロ亭。

 そこには、互いを完全に信頼し合い、絶大な武力と悪知恵で理不尽を叩き潰す、最強のフリーランス集団【ホープ・クローバー】の確かな絆が存在していた。

 俺の追い求めた『何もしないスローライフ』とは程遠いが。

 この騒がしくも温かい日常(ブラック労働)も――まぁ、悪くはない。

 俺は再びエプロンの紐を締め直し、活気に満ちた厨房へと戻っていくのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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