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EP 8

大衆食堂『ポポロ亭』オープン!〜ブラック村おこしと胃袋強奪ビジネス〜

 ロップ村長による『1000万円持ち逃げ・駆け落ちラビリンス事件』から、わずか三日後。

 ポポロ村の中央広場には、突貫工事で建てられたとは思えないほど立派な、ログハウス風の巨大な木造店舗が完成していた。

 店の正面には、一枚板に力強い筆致で彫られた『大衆食堂・ポポロ亭』の看板が掲げられている。

「ガハハハハ! どうだリアン! 俺様の『イグニス・ビルド』の完成度は! どんな巨大な丸太も、俺様の腕力にかかればティッシュ箱と同じだぜ!」

「ああ、お前の筋肉アセットは最高だ。屋根のはりを一人で持ち上げた時は流石に引いたがな」

 汗だくでドヤ顔を決めるイグニスに、俺は冷たい果実水を渡した。

 彼の圧倒的な膂力と、俺の副料理長である『影丸(中)』のシャドウクロウによるミリ単位の精密木工技術。この二つが組み合わさった結果、ゼネコンも真っ青の超高速・低コスト建築が実現したのである。

「リアン君、ただいま! お願いされてた書類、全部通してきたよ!」

 そこへ、タローマン製の特注安全靴を鳴らしながら、キャルルが小走りで帰ってきた。

 彼女の手には、ルナミス帝国、レオンハート獣人王国、アバロン魔皇国の三国それぞれの国境警備隊の『公印』が押された羊皮紙が握られている。

「おお、ご苦労だったな。……って、これ【ポポロ亭における三国間の関税および通行税の完全免除特権】じゃないか!? よくこんな無茶な要求、三国の軍部が飲んだな!?」

 俺が驚愕して羊皮紙を見つめると、キャルルは花が咲くような笑顔で小首を傾げた。

「うんっ! 最初は渋られたんだけどね。『もしポポロ村の新しい村長である私の要求が通らないなら、今夜から毎晩、各国の国境警備隊の詰所に、この靴(雷竜石入り)でご挨拶(月影流・顎砕き)に行きますね♡』って、ちょっとだけ強めにお願いしたの」

「…………」

 満面の笑みの裏に隠された、元・獣人王国近衛騎士隊長候補の圧倒的な覇気と殺意。

 警備隊の連中も、このヤバすぎるウサギ姫の圧(ヤンデレ的交渉術)に震え上がり、ハンコを乱れ押ししたに違いない。

 武力を背景にした外交ガンボート・ディプロマシーの極みである。

「完璧なトップセールスだ、キャルル。これでお客は国境の税金を気にせず、自由にポポロ亭に金(外貨)を落としに来られる。……よし、箱とインフラは整った。あとは、中身コンテンツだ」

 俺は防刃ジャージの袖をまくり上げ、完成したばかりの真新しい厨房へと足を踏み入れた。

     * * *

 大衆食堂『ポポロ亭』のメニューのコンセプト。

 それは、『暴力的なまでの旨味とバフ効果による、胃袋の完全な支配(依存)』である。

 ターゲットは、国境を行き交う荒くれ者の冒険者、商隊の護衛、そして三国の軍人たち。

 彼らは日々の過酷な労働で疲弊しており、カロリーと塩分、そして分かりやすい『美味さ』に飢えている。

「影丸。ロックバイソンの挽き肉に、タマンネギの微塵切りを合わせろ。空気を含ませて極限まで練り込むんだ」

『……イエス、シェフ。我が爪の回転、ミキサーをも凌駕してご覧に入れます』

 俺の指示のもと、厨房内では完璧な仕込みが進行していく。

 俺は脳内の『善行型ネット通販』を開き、この三日間の村人へのホスピタリティで稼いだポイントを投下した。

・『地球産:三ツ星レストラン御用達・発酵無塩バター』

・『地球産:特選丸大豆醤油』

・『地球産:無添加コンソメスープの素(業務用)』

・『地球産:極上ブラックペッパー&ガーリックパウダー』

 この『地球の極上調味料』という絶対的なアドバンテージ(チート)を、ポポロ村の特産品に掛け合わせる。

 まずはスープ。

 村で無限に採れる『太陽芋』をふかしてペースト状にし、俺の無詠唱の魔力(青い炎)で温度を絶妙にコントロールしながら、地球のバターとコンソメ、そしてベヒーモスミルク(浄化済み)で伸ばしていく。

 完成したのは、『太陽芋の極上ポタージュ』。

 芋の強い甘みを岩塩とバターのコクが引き締め、一口飲めば脳が溶けるような至福の味わいだ。

 続いてメインディッシュ。

 影丸が練り上げたロックバイソンの挽き肉を、特大のハンバーグサイズに成形して鉄板で焼き上げる。

 溢れ出す暴力的な肉汁に、醤油とガーリック、そしてポポロ・コーヒーの隠し味を加えた特製デミグラスソースをジュワァァッ!と絡める。

 『ロックバイソンの肉汁爆発ハンバーグ』の完成だ。

 厨房内に、悪魔的とも言える香ばしい匂いが充満する。

 外で待機していたイグニスとキャルルの腹の虫が、盛大に鳴り響いたのが聞こえた。

「よぉし、メニューの準備は完了した! これから俺たちは、失われた1000万を回収するために、鬼のように働くぞ!」

「「「おおおおおぉぉぉっ!!」」」

 俺は厨房のカウンターから身を乗り出し、店の入り口に向かって大声を上げた。

「リーザ! 看板娘! お前の出番だ! 外の客を一人残らず店内に引きずり込め!!」

「お任せあれですわーっ!!」

 店の前。みかん箱を裏返して作った即席の『お立ち台』の上に、芋ジャージ姿のリーザが飛び乗った。

 すでに、美味そうな匂いに釣られて、国境付近をパトロールしていた帝国兵や、獣人王国の兵士、商人たちが店の前に群がり始めている。

 リーザは、胸に抱えた『お賽銭箱型掃除機』をマイク代わりに構え、大きく息を吸い込んだ。

「さぁさぁ皆様! 今日はポポロ亭のグランドオープン! わたくし、絶対無敵のスパチャアイドル・リーザが、皆様の胃袋とハート(と財布)をロックオンいたしますわーっ!!」

 チャリーン♪ という幻聴のような効果音と共に、リーザが本気の歌声を響かせる。

 腐っても人魚姫の彼女の歌声は、聞いた者の心を強制的に惹きつける【魅了チャーム】の魔力が込められていた。

『♪ あかでもない しろでもない

 狙い打つのは 真鍮のゴールド!

 私の配信ステージ 投げ込み カモン!

 御縁をちょーだい キラキラ☆キラリ

 推しの生活 支えてちょーだい!』

「お、おおっ!? なんだこの美少女は! ジャージ姿なのに、めちゃくちゃ声が澄んでて可愛いぞ!」

「飯の匂いもヤバい! おい、入るぞ! 一番前の席を確保しろ!!」

 リーザの『Love & Money』の歌声による集客バフと、俺の作った料理の香りの前では、どんな屈強な兵士も抗えない。

 堰を切ったように、荒くれ者たちが次々とポポロ亭の扉をくぐり抜けてきた。

「いらっしゃいませーっ!! キャルルお姉様、イグニス様! オーダー入りますわ!」

「任せて! いらっしゃいませ、ポポロ亭へようこそ!」

「ガハハハ! 席に座れ! 俺様が水を持ってってやる!」

 キャルルとイグニスが、猛烈なスピードでホールを駆け回る。

 月兎族の圧倒的な俊敏性と、竜人族の怪力(一度に10皿のハンバーグを運べる)が、ホールの回転率を限界まで高めていく。

「お待たせしました! 本日の特選Aセット、『ロックバイソンのハンバーグと太陽芋のポタージュ』です!」

 ドゴォン! とテーブルに置かれた鉄板の上で、ハンバーグのソースがバチバチとはぜる。

 ルナミス帝国の小隊長らしき男が、ゴクリと唾を飲み込み、ナイフを入れた。

 溢れ出す肉汁。それを大盛りの『米麦草ライス』にワンバウンドさせ、一気に口へと放り込む。

「…………ッ!!??」

 小隊長の動きが、完全にフリーズした。

「た、隊長!? 大丈夫ですか!?」

「だ、誰だ……」

 小隊長は、ワナワナと震える手でフォークを握りしめ、ボロボロと大粒の涙を流し始めた。

「誰だ、今まで俺たちに『ゲロオムレツ』なんていうゴミみたいな野戦食を食わせていた奴は……!

 こんな……こんなに暴力的に美味い肉と、深いコクのあるソース……! 米麦草が、無限に……無限に胃袋に吸い込まれていくぞぉぉっ!!」

「た、隊長ォォッ! 落ち着いてください! 俺たちの分も……う、うめええええぇぇっ!! 何だこのポタージュ! 芋の甘みが五臓六腑に染み渡るゥゥッ!!」

 客席のあちこちで、魂の咆哮と歓喜の悲鳴が上がり始めた。

 俺の狙い通りだ。地球の調味料と魔法による完璧な温度管理が生み出した『三ツ星の味』は、この異世界の住人たちにとって、まさに合法的な麻薬オーバードーズである。

 さらに、俺の料理の恐ろしいところは『味』だけではない。

 最高級の食材と魔力を込めた調理過程が、食べた者の肉体を限界突破させる【バフ効果】を引き起こすのだ。

「うおおおおおっ!! 闘気が! 俺の中から力が湧き上がってくるぞ!! これなら魔王軍の幹部とも素手で殴り合える気がするゥゥッ!!」

「すげぇ! 疲労が完全に吹き飛んだ! お嬢ちゃん、おかわりだ! 肉と米をもう三皿持ってこい!!」

 ホールの熱気は、瞬く間に最高潮に達した。

「はいはい! 追加オーダーですね! ありがとうございますわ!

 ……あ、お支払いは前金で、こちらの『お賽銭箱』へお願いしますの! 五円(御縁)じゃなくて、金貨と銀貨でよろしくてよ!!」

 ブォォォォォォォォッ!!!

 リーザが満面の笑みで『お賽銭箱型掃除機』のスイッチを入れる。

 魅了された兵士や商人たちが、チップ代わりにと次々と金貨や銀貨をテーブルに叩きつけ、それが狂ったような吸引力でお賽銭箱へと飲み込まれていく。

 もはや大衆食堂というより、悪徳宗教の集金システム(強欲の極み)である。

「リアン! オーダーが止まんねぇぞ! ハンバーグ追加で30人前だ!!」

「分かってる! 影丸、肉の仕込みを急げ! 焼きは俺が全部やる!!」

 俺は厨房の奥で、5つのフライパンを同時に操りながら、青い炎を自在にコントロールし続けた。

 熱気と油の匂い、飛び交う怒号。

 これだ。この圧倒的なまでの『戦場の空気』。

 前世の三ツ星厨房で毎日味わっていた、狂気すら孕んだ極限のピークタイム。

(……おかしい。俺はスローライフを求めてフリーランスになったはずなのに、どうして前世よりも激しいスピードでフライパンを振っているんだ?)

 俺の簿記1級の脳細胞が、労働時間と対価の矛盾(ブラック労働)にツッコミを入れる。

 だが、次々と飛び込んでくる「旨い!」「最高だ!」という客の声と、お賽銭箱に吸い込まれていくチャリンチャリンという金貨の音が、俺の体にアドレナリンをドバドバと分泌させていた。

「ハハッ……! 上等だ! 客の胃袋と財布の紐、完全に俺たちが支配ジャックしてやる!!」

 俺は額の汗を拭い、狂ったように笑いながら次々とハンバーグを焼き上げていった。

 その日のポポロ亭の売上は、初日にして金貨100枚(100万円)を優に超えた。

 口コミは国境を超えて爆発的に広がり、翌日からは三国から「ポポロ亭の飯を食うためのツアー」が組まれるほどの社会現象を引き起こすことになる。

 村の赤字1000万円。

 そんなものは、俺たち【ホープ・クローバー】の規格外のチームワークと悪知恵(ブラック労働)の前では、たった数週間で回収できる程度の、些細な小銭に過ぎなかったのである。

読んでいただきありがとうございます。

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