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EP 5

ポポロ村の大宴会〜絶品フライドポテトと、悪くない騒がしさ〜

「乾杯だぁぁぁっ! ワシらの村と、偉大なる太陽芋を守ってくれた、英雄【ホープ・クローバー】の皆さんに!!」

「「「おおおおおぉぉぉっ!! 乾杯ぃぃっ!!」」」

 その日の夜。

 ポポロ村の中心にある広場では、巨大な焚き火が焚かれ、村人総出の盛大な宴が催されていた。

 死蟲将軍機という絶望的な脅威をノーダメージ(しかも畑の被害ゼロ)で退けた俺たちは、村を救った大英雄として熱烈な歓迎を受けていた。

「ガハハハハ! 飲め飲め! 今日は俺様の奢りだぁっ!(※資金源はクランの経費)」

 イグニスが、村人たちに囲まれながら、樽サイズのジョッキに入った果実水をガブ飲みしている。彼は死蟲将軍機戦での『イグニス・ブレイク』の一撃を、まるで自分一人の手柄のように身振り手振りで盛大に語り、農民の子供たちからキラキラとした尊敬の眼差しを集めていた。

「むぐむぐ……はふっ、ふはぁぁっ……! 幸せ、幸せですわぁぁっ!」

 その隣では、芋ジャージ姿のリーザが、村の女衆が運んでくる料理を片っ端から胃袋にブラックホールのように収めていた。

 彼女の周りには、すでに食べ終えた皿がタワーのように積み上がっている。貧乏神の呪いによって極限まで飢えていた彼女にとって、この無償の宴会(タダ飯)はまさに天国だろう。

「ふぅ……。まぁ、たまにはこういうのも悪くないな」

 俺は少し離れた丸太のベンチに座り、村の特産品である『陽薬茶』をすすりながら、平和な喧騒を眺めていた。

『ピロリン♪』

【システム:村の危機を救い、農民たちの生活と笑顔を守り抜きました。特大ボーナス+500pt】

【現在の善行ポイント:1210pt】

 脳内に響いたファンファーレが、俺の口角をさらに押し上げる。

 報酬の100万円に加え、この莫大な善行ポイントの獲得。そしてリーザが掃除機で吸い尽くした大量の高レア魔石(換金アイテム)。

 クラン設立直後にしては、完璧すぎるほどの特大黒字ハイリターンだ。これでしばらくは、金に困ることはないだろう。

「リアン様、リアン様ぁ!」

 上機嫌で茶を飲んでいると、麦わら帽子を首に下げたロップ村長が、顔を真っ赤にして擦り寄ってきた。手には、村の特産である『太陽芋』を丸ごと蒸したものが乗った大皿を持っている。

「いやぁ、本当に助かりましたぞ! リアン様の見事な指揮、一生忘れませんじゃ! ささっ、ワシらの村の自慢の太陽芋、たくさん食べてくだされ!」

「ありがとうございます、村長」

 俺は蒸し芋を一つ手に取り、パクリと囓った。

 太陽芋。サツマイモのような強い甘みと、ジャガイモのようなホクホクとした食感を併せ持つ、実に優秀な穀物だ。塩を振るだけでも十分に美味い。

(……だが、これだけ素材が良いと、三ツ星シェフとしての『業』が疼くな)

 素材の味を活かすのは料理の基本だが、宴会という熱狂の場においては、少しばかり『ジャンクで暴力的な旨味』が欲しくなる。

 俺は立ち上がり、ニコリと笑った。

「村長。せっかくの宴ですから、俺からも一品、この村の太陽芋を使った料理を提供させてください」

「おおっ!? リアン様が直々に料理を!?」

「ええ。少し、厨房……というか、村の調理場をお借りしても?」

「もちろんですじゃ! 何でも使ってくだされ!」

 俺は広場の隅にある野外調理場へと向かった。

 人目がなくなったのを確認し、足元の影に向かって指を鳴らす。

「影丸」

『……ハッ。ここに、我が主』

「太陽芋を20個。皮を剥いて、太さ1センチ角のスティック状にカットしろ。一本たりともミリ単位の誤差は許さんぞ」

『御意。シャドウクロウの斬撃、とくとご覧あれ』

 影丸が目にも留まらぬ速さで太陽芋を空中に放り投げ、銀閃が交錯する。

 数秒後には、完璧なサイズのスティックポテトの山が完成していた。

 俺はその間に『善行型ネット通販』のウィンドウを開き、ポイントを惜しげもなく投下する。

 ・『地球産:最高級キャノーラ油(大容量)』

 ・『地球産:ヒマラヤ岩塩ピンクソルト

 ・『地球産:完熟トマトの濃厚ケチャップ』

 ・『地球産:とろけるチェダーチーズソース』

 調理場にあった巨大な鉄鍋にキャノーラ油をドバドバと注ぎ込み、俺の魔力(青い炎)で一気に170度まで加熱する。温度管理は魔力で制御しているため、ブレは一切ない。

 そこに、影丸がカットした太陽芋を投入した。

 ジュワァァァァァァッ……!!

 心地よい揚げ音と共に、香ばしい油の匂いが夜空に立ち上る。

 表面がカリッと黄金色に色づいたタイミングで引き上げ、余分な油を切る。そして熱々のうちに、ヒマラヤ岩塩をパラリと振りかけた。

「完成だ。三ツ星シェフ直伝、『太陽芋の極上フライドポテト〜ケチャップ&チーズを添えて〜』だ」

 俺が大皿に山盛りにしたフライドポテトを抱えて広場に戻ると、その強烈に暴力的な香りに、宴会場の空気が一瞬でピタリと止まった。

「な、なんだこの匂いは……!?」

「油の焼ける香ばしい匂いと、芋の甘い香りが……っ!」

 俺がドンッ!とテーブルの中央に大皿を置いた瞬間、真っ先に飛びついてきたのは、やはりリーザだった。

「ふぎゅぅぅぅっ!? こ、これは何ですの!? キラキラと黄金色に輝く、芋の棒……!」

「いいから食ってみろ。ケチャップかチーズ、好きな方をつけてな」

 リーザが震える手でポテトを一本掴み、濃厚なチーズソースにディップして口に運ぶ。

 サクッ。

 その瞬間、彼女の目からブワッと滝のような涙が噴き出した。

「お、おいひぃぃぃぃぃぃっ!!!」

 リーザは天を仰ぎ、両手をグッと握りしめて号泣した。

「外側はカリッカリなのに、中はホックホク! 太陽芋の濃厚な甘みに、岩塩の鋭い塩気、そしてこの……トロットロのチーズのコクが、口の中でオーケストラを奏でていますわ!! こんなの、こんなの無限に食べられてしまいますわぁぁっ!!」

 リーザが両手でポテトを鷲掴みにし、ハムスターのように頬袋をパンパンに膨らませて貪り食い始める。

 それを見たイグニスや村人たちも、我先にとポテトに手を伸ばした。

「うおおおおっ!? なんだこれ、すげぇ旨い! 酒が、イモッカの消費が止まんねぇぞリアン!!」

「リアン様! この赤いソース(ケチャップ)、トマトの酸味と甘みが絶妙ですじゃ! 芋が止まりませぬ!」

「ば、馬鹿野郎! 俺の分も残しとけ!」

 あっという間に、山盛りだったフライドポテトの争奪戦が始まり、広場のボルテージは最高潮に達した。

(……ふふっ。客の喜ぶ顔を見るのは、料理人としてやっぱり悪くないな)

 俺は空になった大皿を眺めながら、満足げに息を吐いた。

 再び丸太のベンチに戻ろうとすると、ロップ村長がポテトを片手に、感動で目を潤ませながら近寄ってきた。

「リアン様……強くて、頭が良くて、その上こんなに素晴らしい料理まで作れるなんて。あんた方は、ワシらポポロ村の恩人じゃ」

「いえ、仕事ビジネスですから。報酬分はきっちり働きますよ」

「なぁ、リアン様。もしよかったら……ワシらの村に、ずっと住み着いてはくれんかのう?」

「……え?」

 村長は、真剣な顔で俺の手を握った。

「この村は三カ国の国境にあるせいで、常に不安が付き纏う。じゃが、あんたたちのような英雄がいてくれれば、村の者も安心して暮らせる。家も、畑も、ワシらが全力で用意する。どうじゃろうか?」

 村からの熱烈なスカウト。

 スローライフを望む俺にとって、「田舎村で英雄としてチヤホヤされながらのんびり暮らす」というのは、ある意味で究極のゴールに近い。

 だが。

「……ありがたいお誘いですが、俺たちにはまだ、世界を見て回るっていう『冒険』が残ってますからね。でも、この村は好きですよ。また必ず、芋を食べに来ます」

「そうか……。残念じゃが、その言葉が聞けただけでもワシは嬉しいぞ。いつでも帰ってきてくだされ!」

 俺がやんわりと断ると、村長は残念そうにしながらも、嬉しそうに宴の輪へと戻っていった。

 俺が村に定住しなかった理由。それは、俺の背負っている厄介な仲間たちの顔が、脳裏をよぎったからだ。

 歌う場所ステージを求めるアイドル人魚に、名を上げることを夢見る見栄っ張りのトカゲ。こいつらを田舎村に縛り付けるのは、少しばかり可哀想に思えたのだ。

「……私、リアン君が『村に住む』って言ったら、どうしようかと思っちゃった」

 不意に、隣から柔らかい声が聞こえた。

 いつの間にか、キャルルが俺の隣のベンチに座っていた。

 彼女の手には、俺が揚げたフライドポテトが入った小さな紙コップが握られている。

「キャルル。お前も定住したかったか?」

「ううん」

 キャルルは、夜空に浮かぶ丸い月を見上げながら、静かに首を振った。

「私ね、お城にいた頃は、ずっとああやって『安全な籠の中』に守られてたの。怪我もしないし、お腹も空かない。でも、毎日がすごく息苦しかった」

「……」

「だから、ここを飛び出したのは正解だったと思う。泥まみれになって戦って、すごく疲れるし、危ない目にも遭うけど……。こうやって、リアン君の作った美味しいご飯を食べて、みんなで笑い合える今の時間が、私は一番好き」

 キャルルは俺の方に向き直り、月明かりの下で、花が咲くような満面の笑みを浮かべた。

「リアン君がリーダーでよかった。私、この【ホープ・クローバー】ってクランが……私たちの『居場所』が、大好きだよ」

「…………」

 ドクン、と。

 彼女のまっすぐすぎる言葉に、柄にもなく心臓が少しだけ跳ねた。

 相変わらず、恋愛方面(俺に対する好意)の圧が少しばかり強いが、彼女の純粋な「仲間を大切に思う気持ち」は、嘘偽りのない本物だ。

「……まぁ、騒がしくて手のかかる連中ばっかりだがな。ブラック企業の社畜やってるよりは、何百倍もマシな職場クランだ」

 俺は少しだけ照れ隠しに、陽薬茶の入ったコップをキャルルの紙コップにコツンと当てた。

「これからもよろしくな、キャルル」

「うんっ! 地の果てまで一緒だからね、リアン君!」

「(……だから、そこがちょっと重いんだよな)」

 俺は内心で苦笑いしながらも、広場で「ポテトは全てわたくしのお賽銭箱行きですわーっ!」と暴れ回るリーザと、「待てコラ! 俺様に一つ残せ!」と追いかけるイグニスを眺めた。

 徹底的に怠惰なスローライフからは、程遠い。

 だが、この規格外でポンコツな仲間たちと共に過ごす、騒がしくも温かいこの時間は――確かに、俺にとっての『新しい居場所』になりつつあった。

 ポポロ村の夜は、笑い声とフライドポテトの香りに包まれながら、平和に更けていくのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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