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EP 15

平穏を求めて。いざ、ルナミス学園へ!

完璧な朝だった。

暴走寸前だった超弩級の不良債権(戦略空母打撃艦隊・轟丸)を永久凍結し、俺の平穏なスローライフは完全に守られた。

朝の光が差し込むダイニングテーブルで、俺は『影丸』がこっそり淹れてくれた極上のミルクを飲みながら、両親の言葉を待っていた。

「リアン。お前も、もうすぐ6歳になるな」

「うん!」

父アークスが、いつになく真剣な顔つきで切り出した。

このアナスタシア世界では、3歳のスキル検査、5歳の魔力検査を経て、素質を認められた者は6歳から『9年間の進学校』に入れられるという独自の教育制度がある。

だが、俺はここルナハンののどかな街で、適当に地元の学校に通いながら、家ではダラダラとヒモ生活を満喫するつもりだった。

「パパとママで、昨日の夜、お前の将来について真剣に話し合ったんだ」

「……うん?」

「結論から言おう。リアン、お前には来月、隣国の『ルナミス帝国』に留学し、最高学府である【ルナミス学園】の特待生として入学してもらう」

「…………ぶふぉっ!?」

俺は、口に含んでいた極上のミルクを盛大に吹き出した。

「リ、リアン!? 大丈夫!?」

「けほっ、げほっ……! ル、ルナミス帝国……!?」

俺は目を剥いた。

ルナミス帝国といえば、昨夜、あのイカれたAI『賢者君』が「家族割りベーシックプランで侵略しましょう」とホログラムで火の海にしていた、あの近代軍事国家のことではないか!

もし俺が昨夜、轟丸の電源を抜いていなかったら、今頃俺は『侵略国の悪の皇帝』としてルナミス帝国に乗り込む羽目になっていたのだ。タイミングが良すぎて背筋が凍る。

「ど、どうして急にそんな遠くの国へ!? ぼく、パパとママと一緒にルナハンにいたいよ!」

俺は必死に5歳児の涙目を作って訴えた。

親元(実家)を離れるなど、ヒモ生活スローライフの根幹を揺るがす大事件だ。家賃も食費もタダのこの優良物件を手放すわけにはいかない!

だが、母マリアが悲痛な顔で俺を抱きしめた。

「ごめんなさいね、リアン。本当は私たちも、ずっと手元に置いておきたいわ。でも……昨日のポポロ山の事件(空丸の的当て)があったでしょう?」

「あ……」

「あの山を消し飛ばすほどの、未知のエンシェント・ドラゴン……。ルナハンは、もう安全とは言えないの。それに、リアン。あなたの持つ魔法の才能、剣術の理合、そして……あの『奇跡の霊薬』とも呼べる料理の力。この田舎街に埋もれさせておくには、あまりにも大きすぎるわ」

(いや、料理はただのバターと醤油だし、ドラゴンは俺の召喚獣のせいなんだが……!)

真実など口が裂けても言えない。俺は引きつった笑いを浮かべるしかなかった。

「ルナミス帝国は、100年前に異世界人・佐藤太郎様が築き上げた、大陸随一の先進国家だ。魔導防衛フィールドに守られた帝都なら、ドラゴンの脅威もない。それに、学園の設備も世界最高峰だ。お前の才能を伸ばすには、これ以上の環境はない」

「アークスが、騎士団のツテと昔の冒険者仲間のコネを総動員して、特待生としての推薦枠をもぎ取ってきてくれたのよ。全寮制で、セキュリティも万全。最高の護衛もつくわ」

両親の言葉に、俺は反論の言葉を飲み込んだ。

彼らは本気だ。俺の身の安全(自作自演だが)と、俺の輝かしい未来(誤解だが)のために、徹夜で駆けずり回って最高の進路を用意してくれたのだ。

これを無碍に断ることは、彼らの親心(顧客満足度)を著しく損なう。

俺の脳内ソロバンが、カチャカチャと猛烈な勢いで損益分岐点を弾き出し始めた。

(……待てよ? 全寮制?)

俺はハッとした。

ルナミス帝国。前世の知識(佐藤太郎という転生者)によって、地球の近代設備や『100円ショップの概念』などが持ち込まれ、魔導列車や魔導車まで走っている超近代的な国家。

そんなインフラの整った国で。

親の過剰な期待(魔王討伐や特任料理長)から離れ。

一人部屋の寮で、自由に生活できる……?

(あれ? これ……実家にいるより、圧倒的に自由度が高くて快適なスローライフが送れるんじゃないか!?)

冷静に考えろ。

実家にいれば、いずれ「剣の稽古だ」「魔法の特訓だ」と親に扱き使われる。

だが学園の寮に入れば、親の監視の目は届かない。学園の授業など、前世の知識とこのチートボディがあれば、適当に手を抜いて『平均点』をキープすることなど造作もない。

食事は、寮の部屋で『影丸』に仕込みをさせ、ネット通販で買った地球の調味料を使って、自分一人で極上の料理を作って楽しめばいいのだ!

(完全なる自由……! 束縛なき一人暮らし! これは、実家への依存パラサイトから、独立した黒字経営フリーランスへの華麗なるキャリアアップだ!!)

論理は構築された。

俺はマリアの腕の中で、不安を乗り越えた『健気で勇気ある少年』の顔を作り上げた。

「……うん。わかったよ、パパ、ママ。ぼく、ルナミス学園に行く!」

「おおっ! リアン! 流石は俺の息子だ!」

「立派よ、リアン! ママ、寂しいけれど全力で応援するわ!」

涙を流して抱きしめてくる両親の背中越しに、俺は密かにガッツポーズを取った。

『ピロリン♪』

【システム:両親の深い愛情と期待に応え、自らの巣立ちを決意しました。魂の成長ボーナス+100pt】

【現在の善行ポイント:810pt】

無慈悲な電子音も、今だけは俺の門出を祝うファンファーレに聞こえた。

     * * *

そして、数ヶ月後。

俺が6歳の誕生日を迎えた、旅立ちの日。

ルナハン街の中央にある、ルナミス帝国へと続く『魔導列車』の巨大なプラットフォームには、クライン一家と、見送りに来た騎士団の面々が集まっていた。

「リアン。これがお前の荷物だ。必要なものは全て入っている。学園の寮に着いたら、すぐに手紙を書くんだぞ」

「うん、パパ! ありがとう!」

俺の足元には、巨大な革製のトランクが置かれている。

実はこのトランクの中身、昨夜のうちに俺の有能な副料理長(DIYアサシン)である『影丸』が、寸分の狂いもなくテトリスのごとく完璧なパッキングを済ませてくれたものだ。

もちろん、俺が愛用している『地球産の最高級テフロン加工フライパン(ポイント購入)』や、お気に入りの調味料の数々も、衣類の間に厳重に隠されている。

さらに、道中で出たゴミは全て、万能ゴミ箱の『喰丸』に処理させたため、身の回りは完璧にクリーンだ。

「リアン……っ、ちゃんとご飯を食べるのよ! 好き嫌いしちゃダメよ! 悪い虫(女の子)がついたら、すぐにママに言いなさいね!」

「ママ、苦しいよぉ……」

マリアに骨が軋むほどの力(賢者のバフ込み)で抱きしめられ、俺は苦笑いした。

プァァァァンッ!!

魔導列車の重厚な汽笛が鳴り響く。

佐藤太郎が残した技術によって作られたというその列車は、黒鉄のボディに青い魔力ラインを走らせる、見事な近代兵器……いや、交通機関だった。

「出発の時間だ。行け、リアン! ルナミス帝国で、お前のその規格外の力を存分に見せつけてこい! お前は、世界を変える男だ!!」

「……うん! 行ってきます!」

(見せつけるわけないだろ。俺は誰よりも地味に、モブとして生き抜いてみせるさ)

俺は親バカ全開のアークスに手を振りながら、魔導列車のタラップを登った。

車内は、地球のグリーン車も顔負けの豪華な作りだった。

ふかふかのベルベットの座席に腰を下ろすと、列車は滑るように、しかし圧倒的な加速力でルナハンの街を出発した。

車窓から流れる景色を見つめながら、俺は一人、これからの新生活に思いを馳せていた。

ルナミス帝国。

そこには『タロー・マート(コンビニ)』や『ルナキン(24時間ファミレス)』、『ルナミス・スーパー銭湯』など、佐藤太郎が残した地球の文化が根付いていると聞く。

魔法文明と現代の利便性が融合した、ある意味でこの世界最大の『チート国家』。

俺の保有する『善行型ネット通販(現在810pt)』と、二体の有能な召喚獣『影丸』『喰丸』。

そして、前世で培った三ツ星フレンチ副料理長としての料理の腕と、簿記1級の完璧なコスト管理能力。

これだけの圧倒的な資産アセットを持ちながら、近代インフラが整った帝国で暮らすのだ。

(完璧だ。俺の人生設計ビジネスプランに、もはや一切の隙はない!)

学園では決して目立たず。

成績は常に真ん中をキープし。

誰の期待も背負わず。

放課後は寮の部屋で、影丸と一緒に極上の料理を作って、旨い飯を食って寝る!

「フフッ……待っていろ、ルナミス帝国。俺はそこで、誰にも邪魔されない、最高の『モブとしてのスローライフ』を完成させてやる……!」

車窓に映る自分の顔に向かって、俺は自信満々にニヤリと笑った。

だが、この時の俺はまだ気づいていなかった。

『ルナミス学園』という場所が、全国から集まった一癖も二癖もある天才、貴族、そして他国の王族たちが入り乱れる、魔境のようなエリート養成機関であることを。

そして、無意識のうちに『天極流』の理合で歩き、無詠唱で魔力を操り、何気なく作った弁当(料理)で周囲の人間のステータスを限界突破させてしまう俺自身が――『目立たないモブ』でいられるはずなど、天地がひっくり返ってもあり得ないという残酷な事実に。

過労死した三ツ星シェフ・青田優也改め、リアン・クライン、6歳。

隠しスキルのネット通販と、封印指定のヤバすぎる召喚獣たちを従えた彼の、波乱とツッコミに満ちた『勘違い学園スローライフ(大赤字)』が、今、帝国の地で幕を開けようとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

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