第78話 鼻歌
「あの子大人しそうに見えて、結構危ない事にも突っ込んで行っちゃうことあるから・・・。これからもロイスのこと、守ってあげてね?」
ヤナは視線を少し逸らしながらそう言った。
しかし、すぐにジンと目を合わし、ヤナは人差し指を差し出す。
ジンが不思議そうにその人差し指を見ていると、
「ほら、あなたも指出して。」
そう言われて、ジンも人差し指を出す。
ヤナはその人差し指に自分の人差し指を重ね、握る。
ジンもそれに合わせてヤナの人差し指を握る。
「約束・・・だからね。」
その人差し指だけが残り、ヤナの姿が無くなる。
残された人差し指から血が滴り、一気に黒い世界へと切り替わる。
「ヤナ!?」
ジンは驚き、その指から手を離す。
ポトリと足元にその指が落ちると、そこから赤い血が静かに広がって行く。
ジンは足元の指を見つめると、呼吸が浅く、早くなり、ゆっくりと首を横に振る。
浅く、早く、何度も空気を求める。
呼吸が苦しくなったジンは胸を押さえ、その場で座り込む。
息が・・・吸えない。
苦しい呼吸の中で、視線を少し上にあげると、そこにヤナが横たわっていた。
ジンはヤナに必死に手を伸ばそうとするが、ヤナには届かない。
「ヤ・・・ナ・・・。」
守れなかった。
届かなかった。
その後悔がジンの胸に溢れ出す。
一滴の涙が零れた時、歌声がジンの耳に届く。
その歌声は何処かで聞き覚えのある響きだった。
奏でられた旋律は、ジンを包み込む。
夢を見てうなされていたジンは次第に呼吸が整っていき、苦しさから解放され、ゆっくりと眠りについた。
窓から朝の陽ざしが差し込み、優しくジンの顔を照らす。
ジンはその日差しがまぶしく感じ、眉を寄せて目を覚ました。
「つっ・・・!」
ジンは頭を押さえながら起き上がる。
頭が痛い・・・。
ベッドに腰掛けると、薄目で自分の両手を眺めていた。
何か、夢を見たような・・・。
ジンは理由も分からず、胸の奥がずっしりと重く感じた。
夢と現実の狭間を行き来していた時、ドアがノックさる音が部屋の中に響き渡る。
「ジン、起きてる?」
ロイスの声がドアの向こうから聞こえた。
「うん・・・。」
ジンの返事が聞こえると、ロイスはドアを開けてフリーシアと共にジンの部屋に入る。
そこには、ベッドに腰掛け、ぼーっと自分の手を見つめるジンの姿があった。
「二人共おはよう、もう、頭が痛くて・・・。」
ジンは部屋に入って来たロイスとフリーシアを見て困り笑顔を向けたが、言葉を詰まらせた。
誰かに抱き着いている光景が頭を過る。
そしてロイスを見ると、その相手がロイスだったことを思い出す。
一度ではない。
そしてロイスからフリーシアに視線を移すと、フリーシアにも抱き着いたことを思い出す。
「ロイスゥ、フリーシアァ。」
その言葉がジンの頭の中をぐるぐると回り始める。。
まずい、まずい、まずい、まずい・・・。
ジンは冷や汗をかきだした。
「ジン?」
ロイスが固まっているジンの顔を覗き込む。
「どうしたのよ、そんな呆けた顔して。」
フリーシアもジンの顔を覗き込んだ。
「僕、昨日・・・。」
ジンは焦って全部話しそうになったが、ギリギリの所で言葉を切った。
ロイスはジンの言葉で昨日のことを思い出し、ほのかに頬を染める。
「ふーん、昨日のこと覚えてるんだ。」
フリーシアは腰に両手を当て、ジンに顔を近づけてジト目でジンの目を真っ直ぐに見つめる。
「い、いやぁ?昨日酔ってたから、何か変なこと言って無かったかなぁ、て・・・。」
ジンはフリーシアの圧に耐えきれず、瞳が僅かに揺れてしまう。
しかし、そのまま困り笑顔を送り、頭をかいた。
それでもフリーシアは暫くそのままジンを見つめると、顔を離す。
「そう、覚えてないならいいわ。」
フリーシアはそっぽ向き、腕を組む。
ジンは大きく溜息をつき、胸を撫で下ろした所にフリーシアからの一言が飛んで来る。
「たらしね。」
「どこで覚えて来たんだよそんな言葉っ!」
ジンはフリーシアの言葉に焦りを隠せなかった。
ロイスは二人のやり取りに、思わず口に手を当てて笑った。
三人は下の食堂に降りると、簡単に朝食を済ませて宿を出る。
「今日はどうするの?」
「そうだな・・・。」
フリーシアの問いに、ジンは歩きながら考える。
「武器屋に行って、それからポーションとかも揃えておきたいかな?」
「盗賊から奪った武器だね!」
「ロイス、ご名答。」
「じゃあ、まずは武器屋ね。」
三人はゆっくりと街並みを見ながら武器屋へと向かった。
盗賊から奪った武器を売った後、魔道具屋へ寄ってポーションなどの必要そうなものを買いそろえて魔道具屋を後にした。
三人は宿の近くにあったスイーツ屋に向かって歩き出した。
狭い石畳の引かれた裏路地を、一人の少女が走っていた。
「はぁっ・・・!はぁっ・・・!」
両足には足枷がつけられ、ぺちぺちと走る足音に続いて、鎖の音が路地に反響する。
「おら!待ちやがれガキ!!」
その少女をガタイのいい男が走って追いかけている。
少女は逃げながら鼻歌を歌っていた。
それはまるで誰かに届くことを願うかのに・・・。
ジン達三人は歩きながら談笑していた。
「ジンが亜空間バッグから山の様に出した武器に驚いてた店主、なんだか面白かったね。」
ロイスは武器屋に寄ったことを話し、笑っていた。
「それを言ったら、お姉様ったら魔道具屋で魔道具を発動させて驚いてたのには思わず笑ってしまったわ。」
フリーシアは思い出し笑いをする。
「な、勝手に発動したんだから仕方ないでしょ!?」
「僕も、ロイスらしいなって思ったよ。」
ジンも魔道具屋でのロイスのことを思い出し、笑っていた。
「もうっ、ジンまで!」
ロイスは恥ずかしい気持ちと、笑われていることに少しの怒りを覚え、少し険しい表情をしていた。
細い路地へと繋がる道に差し掛かった時、ロイスの表情が変わり、足が止まる。
「ロイス?」
ジンが振り向くと、ロイスは裏路地の奥を見つめていた。
「鼻歌が聞こえる・・・。」




