第77話 居場所
ギルド内では、酒が次々と運ばれ、給仕係が忙しく走り回り、酒が届いた冒険者達は次々と乾杯して盃を交わして賑わい始める。
「くそったれが!今日は特別だぜ!?」
酒場の店主はそう言いながらも、どこか嬉しそうに酒を注いでいた。
「さ、ジン君。報酬を持ってくるから少し待っててね。」
「はい。」
マイネが後ろのドアに手を掛けた時、ジンはマイネを呼び止めた。
「あ、あの・・・。マイネさん。」
マイネはドアノブから手を離し、ジンの方へ振り返る。
「どうしたの?」
ジンは少し不安そうな表情を浮かべ、伏せていた。
マイネは不思議そうにジンを見つめる。
「その・・・。村に、まだ・・・。帰る場所を失った、遺体が残ってます。だから・・・。」
ジンは言葉を全て言い切れず、詰まらせる。
マイネはジンが何故、不安そうな顔をしていたのか、その言葉で腑に落ちた。
この子・・・。
そんな所まで考えて・・・。
「ジン君、大丈夫。魔獣が居なくなった今なら、こちらから人材を派遣して弔ってあげることが出来るわ。私から早急に手配できるよう、話を通しておくから心配しないで。」
マイネはジンを安心させようと微笑みかけた。
ジンはマイネの話を聞いて、小さく息を吐き、肩の力が抜けて表情が緩んだ。
マイネはそれを見ると、ジンに手を振り、ドアの向こうへと姿を消す。
気が付いたらジンもマイネに手を振っていた。
「と、所で二人共?なんだか視線が痛い気がするんだけど・・・。」
ジンはズーンと重たい二人からの視線に、大粒の汗を流す。
何故か後ろのロイスとフリーシアを見れずにいた。
ロイスは頬を膨らませ、フリーシアはジト目でジンの背中を見つめている。
「もうっ。ジンっていつもそうよね。」
ロイスは頬を膨らませたまま、腕を組んだ。
「鼻の下が伸びてたわよ。いやらしい。」
「いやらしいって、二人共違うから。」
ジンは焦りながらフリーシアの言葉を否定する。
「鼻の下・・・伸びて無かったよね?ロイス・・・?」
頬を膨らませてぷんぷん怒っているロイスに助けを求める。
ロイスは薄く目を開き、横目でジンを見て小さい声で答えた。
「・・・伸びてた。」
ジンは二人に何も言い返せず、苦笑いを続けた。
そのまま、ロイスとフリーシアに詰めよられる。
ジンが何て言い逃れようか思考をフル回転に回していた時、カウンター奥のドアが開いた。
「お待たせ、ジン君。」
マイネが報酬を持って出て来た。
すると、ロイスとフリーシアの視線がマイネを鋭く刺す。
どうしちゃったのかしらこの子達・・・。
マイネは状況を理解できないまま、苦笑いを浮かべ、ジンに視線を移す。
重たい子袋を二つカウンターの上に置くと、ジャラリと音を立てて潰れる。
「さ、ジン君、報酬、40万リルよ。」
「よ、40万リルですか!?」
ジンは驚き、受け取ることを躊躇った。
後ろでロイスが小さく「凄いお金・・・。」と、呟く。
「ええ、レナール伯爵直々の受注ですもの。」
「それにしても、随分と気前がいいわね。」
フリーシアは眉をひそめた。
「そうね。でもそれだけ大変な魔獣だったって意味もあるの。」
「そう・・・。確かに強かったわ・・・。」
フリーシアはマイネの言葉で納得した様だった。
「妥当な報酬のはずよ、受け取って。」
ジンは頷くと、カウンターに置かれた成功報酬を受け取り、内ポケットへとしまった。
「さ、これでおしまいね。また何かあったら顔を出してね。」
「はい。」
マイネは三人に笑顔を向け、小さく手を振る。
三人は軽く頭を下げると、ギルドを出ようとした。
しかし、その途中で坊主頭のガタイの良い男がジンの肩に乗りかかる。
「おいおい、主役が飲まないんじゃいかんだろ。」
その男は片手に酒を持ち、顔がほんのり赤くなっていた。
給仕係がすぐにジンの元へ果実酒を運んできた。
ジンは酒を飲むことが初めてで、断りたかったが周りを見ると、「そうだそうだ!」と、皆に誘われ、断りにくい状況になっていた。
ロイスとフリーシアに助けを求めようと視線を送るも、ロイスはにっこりと笑い、フリーシアは肩を上げた。
ジンは給仕係が持ってきたコップを手に取り、生唾を呑み込む。
恐る恐る、口にコップを持って行くと、目を瞑って果実酒を喉に通す。
「ぷは~!」
その果実酒は思いのほか美味しく、ジンは一気に飲み干すと、コップを持った手を高く掲げると「おお~!!」と、ギルド内に大きな歓声が上がった。
それから日が落ち、空がオレンジ色に染まりあがった頃、ジン達はようやく解放された。
「うぅ~、気持ち悪い・・・。」
「飲みすぎよ。」
ジンはロイスとフリーシアに支えられながら、よろよろと歩いていた。
その状態で宿まで歩き、ジンを部屋に運んだ時、ジンはロイスに抱き着いた。
「ロイスゥ。」
「ちょ、ジン!?」
ジンはロイスにしがみ付くと、頬を摺り寄せる。
ロイスは突然の出来事に慌て、顔を赤く染める。
ジンはロイスに抱き着いたと思うと、すぐに離れて今度はフリーシアに抱き着いた。
「フリーシアァ。」
「ちょ、何やってるのよ!」
フリーシアも慌てたものの、強くは引き離さなかった。
ジンはフリーシアから離れると、仰向けでベッドに倒れ込む。
「二人共、ありが、とう・・・。」
その言葉を残し、ジンはそのまま眠りについた。
ロイスとフリーシアの二人は顔を合わせ、お互いにふふっと笑った。




