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オルビス・ファンタシア~魂の交差~  作者: 蒼香 海斗
第4章 風に乗る歌声
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第72話 虎の姿をした魔獣

「日が落ちて夜になるまでまだ時間があるから、ご飯の用意するね。」


ロイスは亜空間バッグから三脚と鍋を取り出すと、焚火に三脚をセットし、鍋を吊るす。

鍋に火が通ると、肉を投入する。

ジュウジュウと、美味しそうな肉の焼ける音が響きわたる。

肉に火が通ると、ロイスは野菜を投入し、混ぜ合わせながら火を通す。

美味しそうな匂いに、ジンとフリーシアは生唾を呑み込む。


「そろそろかな。」


肉と野菜に火が通ったことを確認したロイスは鍋に水を投入する。

そこに、何種類かのスパイスを加え、混ぜ合わせる。


「あとは煮込むのを待つだけ・・・と。」


湯気が立ち昇り、スパイスの香りが辺りを漂う。


「ロイス、いつ用意してたの!?」


ロイスはふと、初めて野営した時のことを思い出し、目を見開く。


私・・・覚えてる・・・。


ジンとフリーシアに視線を送ると、二人はまだかまだかと鍋の中を覗いていた。

ロイスの視線に気づいたジンがロイスに視線を移すと、少し呆けた顔をしていた。


「ジン、初めて野営した時も同じこと言ってた。」


「え?そうだったっけ?」


ロイスは思わず、ふふっと笑った。

どこか懐かしむ様に。


「家から出る前に、調味料とか色々持ってきてたの。」


「そうだったのか。」


ジンはそのことに感心していた。

ロイスはジンを横目に、鍋をかき回す。


「できた!」


「じゃあ、私はリリ呼んで来るね。」


フリーシアは立ち上がり、従車に向かう。

ロイスはシチューを四人分取り分ける。


「うわー、良い匂い!」


フリーシアとリリが従車から出てくると、焚火を四人で囲んだ。

取り分けた器を三人に配ると、ジン、ロイス、フリーシアは「いただきます。」と、揃えて口にした。

リリはそれを不思議そうに見ていたが、遅れて三人の真似をして「いただきます。」と口にして食べ始めた。

そのシチューは肉と野菜の旨味がスープに溶け込み、いくつものスパイスの香りが鼻を通り抜ける。


「お姉ちゃん、おいしい!」


「おいしいわ!お姉様!」


「でしょ?シチューは旅の夜の定番なんだから。」


ロイスは得意そうにお玉を振ると、女の子に笑顔を向けた。


「どこかで聞いたことあるような言葉だな・・・。デジャヴ!?」


「ジン、なによそれ。」


フリーシアは初めて聞く言葉に、笑いながら聞き返した。

四人は笑いながらシチューを食べ進めた。

夕日も沈み、夜が更けって行った。


「さて、美味しいものも食べたし、魔獣がいつ来ても良いように準備しとかないとだね。」


ジンは立ち上がると村を見つめる。


「近くに井戸があったから、私は食器片してくるね。」


「お姉様、私も手伝うわ。」


ロイスとフリーシアは食器を洗いに村へと姿を消した。

ふと、ジンの服が引っ張られる。

ジンはそれに気づき、リリに視線を移す。


「お兄ちゃん達なら、魔獣に勝てる?」


リリは不安そうな表情を浮かべていた。

ジンはしゃがんでリリを見上げると、優しく頭を撫でた。


「うん、お兄ちゃん達が必ず何とかして見せる。終わったら街に行こう。お父さんやお母さんが居るかもしれない。」


ジンはリリに笑顔を向ける。

リリはジンの言葉を聞き、不安が消えたのか、笑顔に戻り、大きく頷いた。

ロイスとフリーシアが食器を洗って村から戻って来ると、二人はリリと従車の中で待機することにした。

それからしばらく経ち、月が高く上って村を見下ろしていた頃、それは村に訪れた。


グルルル・・・。

と、低く喉を鳴らす音が静寂な村に響き渡った。

姿は見えない。


「ロイス!フリーシア!」


ジンはすぐに二人を呼んだ。


「リリはここで待っててね。」


「うん!」


二人はすぐに従車から降りてくると、ジンの隣に立った。

三人は暗闇の先を見ようと目を細める。

すると、暗闇から二つの赤い眼光が音もなく揺らめく。

ジン達はすかさず戦闘態勢に入る。

しかし、ジン達は唖然としてしまう。

暗闇で光る眼光が、さらに四つ増えた。

月明かりに照らされた時、魔獣がその姿を現す。

その姿は、四足歩行なのに人の大きさは有に在ろう、虎の姿をした三体の魔獣だった。


「魔獣が群れてるなんて聞いたこと無い!」


ロイスは思わず、一歩後ずさった。


ガロロロ!


と、先頭の魔獣が咆哮を放つ。

その咆哮は大気を揺らす。

後ろの二頭が同時に走り出し、ジン達に襲い掛かる。


「早い!」


三人はかろうじて避けるも、魔獣の爪がジンの腕をかすめる。

それだけでジンの腕から大量の血が滴る。


「かすっただけでこれか・・・。」


ジンは激痛に思わず腕を抑える。


「囲まれたわ!」


「後ろの二体は任せる!僕は前のを倒す!」


「分かった!」


三体の魔獣は、獲物を見定めるかのように三人を見据え、ゆっくりと静かに横に動く。

ジンが相対した魔獣が襲い掛かる。

その速度は目で追うのがやっとの速さだ。

魔獣は飛び上がり、右手を挙げて振り下ろす。

ジンは咄嗟に魔力武器化(アルマニティ)で雷の盾を作り出し、その攻撃を受けた。


「ぐっ!」


なんて力だ!


魔獣は想定を遥かに上回り、攻撃を受けたジンを軽々と吹き飛ばす。

吹き飛ばされたジンは半壊していた家に叩きつけられ、木材が弾け飛び、土煙が舞う。

家は崩壊して崩れ落ち、ジンはその衝撃で意識を失った。


「ジン!」


ロイスとフリーシアが横目に飛んで行ったジンを見る。

その隙をついて、後ろの二体が、ロイスとフリーシアに飛び掛かる。

二人は横に飛んで、それを何とかやり過ごす。

ロイスはすぐさま体制を戻し、魔力武器化(アルマニティ)で剣を作り出して反撃を試みる。

しかし、その剣筋は虚しく空を裂いた。


「動きが速い!」


「お姉様、下がって!」


フリーシアが前に出て、ロイスが少し後ろに下がる。


氷霊の断界(テルミス・グラキエ)


フリーシアは左から右に腕を滑らせる。

強烈な冷気を放ち、二体の魔獣を駆け抜ける。

その瞬間、二体の魔獣はその場で高くジャンプし、ジンが相手をしていた一体の魔獣の前に着地する。


「そんな・・・!」


フリーシアの魔法はいとも簡単に避けられてしまう。

三匹の魔獣は焦った様子を見せることなく、喉を鳴らし、ゆっくりと円を描く様に、ロイスとフリーシアに詰め寄って行く。

それはまるで遊んでいる様だった。

その時、魔獣達は一斉に街がある方に視線を向ける。


「また、歌が・・・。」


ロイスの声が僅かに震え、魔獣と同じ方向を見てしまう。

突然、魔獣の目の光が強くなり、歯を剥き出しにして喉を鳴らしながら涎を垂らす。

何かに呼応する様に、三匹は同時に咆哮を放つ。

先程までの咆哮とは違い、辺りに圧を落とす。

ロイスとフリーシアがその咆哮に耐えきれず、耳を塞ぐ。


「急に・・・強く?」


フリーシアが片目を開いて魔獣を見た瞬間、大きな音と共に、一体の魔獣が胴体から真っ二つにされる。


「やれやれ、こんな奴に手こずってたら何も守れやしないぜ。」


吹き飛ばされた方から歩いて来たのは、魔獣にやられた傷が完璧に回復していたジンだった。


「ジン!無事だったの!?」


ロイスがその姿を見て、声をかける。


「俺は、ゼンだ。」


暗闇で開かれたその瞳には、深い青色の輝きが放たれる。

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