第71話 襲われた村
ジン達は四日程従車を走らせ、太陽が一番高く上がる昼頃に、レナール手前のザンガシ村に到着した。
三人が従車から降りて見た村の光景は悲惨なものだった。
「何・・・だ、これ・・・。」
ジンは息を呑み、呟いた。
「酷い・・・。」
ロイスは思わず口に手を当て、小さく呟いた。
「魔人の仕業かしら・・・。」
フリーシアは辺りを見回した。
村の殆どが倒壊、または半壊し、道には村の人達であろう、死体がいくつも転がっており、その中に鎧を纏った憲兵の死体がいくつか混ざっていた。
村には僅かに鼻を突くような腐敗臭が漂っている。
ジンは一人の遺体に近づいて確認する。
その遺体の大きな歯形が首元を貫通し、肩には爪の傷跡を残し、内臓だけが食い荒らされている。
憲兵の死体は鎧が凹み、圧迫死したものもあれば首が変な方向に曲がっている死体もあった。
「魔物か、魔獣の仕業だ・・・。」
ジンは立ち上がり、辺りを見回す。
「生きている人がいるか手分けして確認しよう。」
三人はばらけて生存者がいないか声をかけながら村を回った。
「・・・すけて。」
半壊した一件の中から女の子の声が微かに聞こえた。
ロイスはすぐに駆け寄り、声をかける。
「誰か、いるの!?」
「助けて・・・。」
ロイスは崩れかけたその家に入ると、その中には女の子が一本の梁の下敷きになっていた。
ロイスは息を呑み、魔力武器化で炎の剣を作り出す。
「今、助けるからね」
ロイスは女の子に声をかけると、梁を切っても崩れないかを確認し、その梁を両断する。
ロイスはその女の子を引きずり出すと、抱えて急いで従車の方へと戻っていく。
女の子は足の骨が折れており、呼吸が浅かった。
「衰弱してる・・・。」
ロイスは従車に戻ると、そっと席に寝かせた。
フルポーションを亜空間バッグから取り出すと、女の子に飲ませる。
赤く腫れ上がっていた足は元に戻り、呼吸が穏やかになった。
ロイスはホッと、胸を撫で下ろした。
そうしている内に、ジンとフリーシアが戻って来た。
「どうだった?」
フリーシアは首を横に振る。
ジンはフリーシアの反応を見て両手を握った。
「ジン!」
ロイスが従車から出てきた。
二人はロイスの方を向く。
「女の子が取り残されてたの。今は従車の中で眠ってる。」
「生存者は一人しかいないのね・・・。」
「とりあえず、その子が起きるまで待って居よう。」
ロイスとフリーシアは従車の中でその女の子が目を覚めるのを待ち、ジンは乗り込み口に腰掛けていた。
それからしばらく経ち、日が傾き空が夕日色の揺らめく頃、女の子が目を覚ます。
「ん・・・。」
女の子は静かに目を開き、体を起こす。
ロイスとフリーシアは女の子が目を覚ますと、その子の前に座り込む。
「気が付いた?」
「お姉ちゃん・・・。」
ロイスとフリーシアは顔を見合わせて笑顔を送りあった。
「何が起きたか、覚えてる?」
ロイスは女の子に何が起きたか質問した。
「うん、村で魔獣が出たって、パパとママが外に出て、私は家の中で待っててって言われて待ってたら、家が崩れて・・・。それで・・・。」
「そうだったの・・・。」
ロイスはその女の子を優しく抱きしめた。
「お腹空いたでしょ。」
フリーシアはそっと燻製肉を取り出した。
ロイスはその女の子から離れ、フリーシアが燻製肉を渡す。
燻製肉を受け取ると、その子は食べ始めた。
「親は帰って来なかった様ね・・・。」
「憲兵が来てたから、街に避難したのかも・・・。」
「でも、娘を置いて逃げるかしら・・・。」
ロイスとフリーシアは女の子に視線を戻す。
その女の子は美味しそうに燻製肉をほおばっていた。
「あとね、夜になるといつも魔獣の唸り声が聞こえてた。それでけんぺい?後からきた人達が戦って大きい声出したり、魔獣の吠える声が聞こえたよ。」
ロイスとフリーシアは息を呑み、顔を合わせる。
「だとすると、夜にその魔獣がこの村に戻って来てるってことだね。」
ジンが従車の中に入って来た。
ロイスとフリーシアの視線がジンに向く。
「さ、水も飲んで。」
ジンはその女の子に水を渡す。
女の子は水をぐびぐびと飲んだ。
「日が落ちきるまでもう少しだ。憲兵でも歯が立たない魔獣だ。もしかしたら既にこの村は見放されている可能性もある。僕達で何とかしよう。」
ジンはロイスとフリーシアを交互に見る。
二人は大きく頷いた。
「それが終わったら、この子も街に連れて行こう。もしかしたら両親が街に逃げてるかもしれないし他の良い残った村人達もいるかも。」
「そうね・・・。」
「君、名前はなんていうのかな?」
ジンはその女の子に笑顔を向ける。
「リリ・・・。」
「リリ、か。痛いのよく我慢した。お兄ちゃんたちが魔獣を退治するから、ここで待っててくれ。」
ジンはリリの頭を優しく撫でた。
リリは小さく頷く。
ジン達三人は従車から降りると、夜になるのを待つことにした。
従車の前で焚火をし、その時が来るのを待つ。
静まり返った村に、ぱちぱちと焚火が弾ける音だけが虚しく響き渡っている
その音を何かが遠くで聞いていた。




