第7話 流れ始めたもの
──翌朝
柔らかな朝の陽ざしが部屋の中に差し込んでいる。
ジンはゆっくりと目を覚ました。
「・・・朝か。」
ぼんやりとした意識のまま、体を起こそうとした時
──何かに引っ張られた。
視線を落とすと、そこにはロイスの姿があった。
「ロイス・・・?」
昨日のことが一気に頭に蘇る。
背中越しの声、震えていた手。
「ここにいるよ」と伝えたその夜・・・。
ジンは少しだけ視線を逸らす。
「──!!」
ち・・・近い。
そう思いながらも手を振りほどくことはできなかった。
・・・そっか。
すぐ近くに寝ているロイスを見て、頬が少しだけ熱くなるのを感じ、照れくさそうに頬をかく。
「・・・ん。・・・ジン?」
ロイスが目をこすりながらゆっくりと目を開ける。
数秒、ぼんやりとジンを見つめて──
みるみる顔が赤くなり、耳まで赤く染まる。
「あ・・・。ご、ごめんなさいっ!」
状況を理解した途端、ぱっと手を放し、掛け布団を勢いよくかぶり、体ごと顔を隠した。
「ち、違うの!その・・・離したらいなくなっちゃいそうで・・・。」
声がどんどん小さくなっていく。
「・・・。」
ジンはロイスの動揺っぷりに少し驚いたが
「大丈夫だよ。ちゃんといるから。」
そう言って少しだけ笑った。
布団の中でロイスがさらに縮こまる。
「・・・うん。」
その声は、昨日よりも少しだけ軽かった。
──校長室前
ロイスはまだ気まずそうにもじもじしている。
こっちまで恥ずかしくなるからやめてくれ・・・。
なんて言葉をジンは言えるはずも無く、校長室のドアをノックした。
「入りなさい。」
奥からカサリスの声が聞こえる。
二人は校長室の中に入った。
「昨日は大変じゃったのう。ゆっくり休めたか?」
二人の体調を気遣ってくれるカサリス。
「はい、ゆっくり休めました。」
カサリスはゆっくり頷く。
「さて、ジンに色々と覚えて貰わんといけないことが山積みじゃ。」
そう言うとカサリスは立ち上がった。
「ロイス、お主は自分の教室に戻ってよいぞ。」
ロイスはふと、不満げな顔をしたが
「かしこまりました。」
と残し、校長室を出て行った。
「さて、ジンよ。まずは魔力が暴走せぬようにならんとじゃな。ついてこい。」
そう言うとカサリスは部屋を出た。
長い廊下を渡り、地下へと続く狭い階段を下りた。
その先に、鉄で出た扉が現れた。
「さて、ここじゃ。」
カサリスは扉の鍵を開け放った。
ギィィーー
という音と共に開いた扉の向こうにはジンも驚いた。
土の香り、地面を覆いつくすように草、温かな日差し、風が気持ちいい。
「校長、ここは・・・?」
「ここはの、流環の間じゃ。外は危険もあるからのぉ。」
カサリスはジンに笑いかけた。
カサリスは「ほれ」と、小さい何かをジンに渡した。
受け取ったものを見ると、透明なクリスタルのような物だった。
「これは、魔晶石じゃ。見ておれ。」
カサリスは、胡坐をかいて座り、魔晶石を持って両手を組んだ。
ゴオッとカサリスの周囲が揺れたように感じた。
カサリスは目を開け、ジンを呼んだ。
カサリスの手の平に、虹色に輝く魔晶石が乗っていた。
「いきなり体内の魔力を操作しようとすると失敗し、暴走してしまうこともある。まずはこの魔晶石に魔力を注ぎ込むイメージを持つことで、格段とコントロールしやすくなるんじゃ。やってみ。」
ジンはカサリスの前に座り、カサリスの真似をして目を閉じた。
「ん・・・んん!」
「それはただ力んどるだけじゃ。いいか?魔力はな、動かすもんじゃない。流すもんじゃ。集中するんじゃ。」
ジンはカサリスの言葉をきき力を抜いて集中した。
──ドクン。
力むな、巡らせろ・・・。
体の奥底から何かが湧いてくる感覚を覚えた。
その時──
ピシッ!と軽い音が聞こえた。
ジンは目を開け、手の中を見た。
そこに、割れた魔晶石があった。
「ふむ・・・。まぁ、最初から出来る者はほぼおらんしの。」
カサリスは、今度は3つの魔晶石を渡してきた。
「これでやってみなさい。」
ジンは3つの魔晶石を持ってまた集中した。
さっきの感覚・・・覚えてる。
奥底から込み上げてくる何か・・・。
それが体を巡り、大きく膨れる・・・。
「ぐっ、くっ!」
体が軋む。
内側から膨れ上がり、弾けそうになる。
──ゴアッ!!
空気が押し上げられ、周囲の草が一斉に伏せた。
ジンの体から体の何倍ものオーラが噴き出した。
「これは・・・。想像以上じゃな。」
こ、れが・・・魔力。
これを・・・魔晶石に注ぎ込む・・・。
魔晶石から光が溢れ出した。
「だっ、はー!!」
あまりの疲労にジンは後ろに倒れた。
ジンはそっと、自分の魔晶石を目にした。
黒く、鈍く輝いていた。
「黒・・・か。何とかコントロールはできたようじゃが、まだまだ不安定じゃの。じゃが・・・。」
カサリスは僅かに目を細めた。
「その魔力、扱いを誤れば命を落とすぞ・・・。このままではいかんの。今日はきちんとコントロールできるまでは終われんの。」
カサリスは新しく魔水晶をジンに渡した。
今度は・・・4つ。
「最低限の魔力操作は、魔水晶が己の魔法属性と同じ色になるまでじゃ。お主は雷だから淡い紫色じゃな。」
──その頃
「・・・はぁ。」
ロイスは窓際で頬杖をついて外の景色を見ていた。
先生の声は聞こえてくるはずなのに、頭には入ってこない。
ジン、大丈夫かな・・・。
ふと、朝の出来事が蘇る。
近すぎた距離、ジンの温もり・・・。
思い出して顔が一気に火照るのが分かる。
な、なにを考えてるの?私・・・。
慌てて首を横に振る。
でも・・・あの時、確かに思った。
離したらいなくなってしまうと。
それはきっと、気のせいなんかじゃない。
「ロ・・・ス。ロイス?ちゃんと聞いてるか?」
「えっ!?あ、はい!」
ロイスは慌てて立ち上がり、返事をする。
クラスの視線が一斉に集まり、さらに顔が熱くなる。
「まったく・・・。珍しいな、お前が上の空とは。」
「す、すみません。」
小さく頭を下げ、座る。
クラスでは笑いが起こった。
ロイスはその笑いは他所に言葉にできない何か、が静かに広がっていた。
何でこんなに気になっちゃうんだろう・・・。
ロイスはまた窓の外に視線を戻す。
授業休憩の時だった。
「・・・なぁ、ロイス。」
不意に隣の席から声がかかった。
「最近さ、あの転入生と一緒にいるよな?」
「え・・・?」
ロイスは少しだけ視線を泳がす。
「あいつさ、正直やばくね?」
声を潜めながらも、棘のある言い方だった。
「昨日もなんか騒ぎになってたしさ、あいつに関わらない方が良いと思うけど。」
「そんなこと、ないよ。」
小さく、けれどはっきりとロイスは答えた。
男子は少しだけ眉を潜める。
「・・・何でそこまであいつの肩持つんだよ。」
「別に・・・。肩持ってるわけじゃ・・・。」
そう言いながらも、言葉が続かない。
何で・・・?
・・・なんでだろう?
自分でも分からない。
でも・・・。
「ジンはそんな人じゃないから。」
気づけばそう、口にしていた。
「ふーん・・・。」
男子は黙り込み、それ以上は何も言って来なかったが、その場の空気だけが重たくなった。
──夕刻。
何度も、何度も繰り返した──
魔晶石は割れ、魔力は暴れ、意識は何度も途切れかけた。
それでも・・・。
「はぁっ、はぁっ・・・でき、た。」
ジンの手の中で魔晶石は淡い紫いろに輝いていた。
「・・・ようやく、か。」
カサリスは立ち上がり、少し満足げにしていた。
「ここまでできれば上々。明日は魔力行使じゃ。今日は帰ってゆっくり休むとよい。」
カサリスはジンに手を伸ばし、立ち上がらせた。
──校門前
夕焼けに染まる校門の前に、一人の影があった。
「・・・ジン?」
ロイスは思わず足を止める。
「うん、終わったからさ。」
何でもないようにそう言うジン。
「一緒に帰ろ?」
「・・・うん。」
ロイスは小さく頷いた。
並んで歩き出す。
それだけなのに、なぜか胸が温かかった。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます!
次回!・・・ついに!?
言いたいけどネタばれになっちゃうので言えない
ぐっ・・ぎっ!!
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