第6話 背中越しの約束
──校長室。
重たい沈黙が部屋の中に落ちていた。
カサリスの言葉がまだ、頭の中で反響している。
「聖魔人はな・・・。希望にも災厄にもなる力じゃ。」
その沈黙を破ったのはカサリスだった。
「ロイス、お主も同じじゃろう。」
ロイスが一瞬固まる。
「・・・え?」
「彼女もまた、火属性の聖魔人じゃ。ロイスも色々あっての、今ここで訓練しておるんじゃ。」
ロイスは否定したかったが、出来なかった。
「ロイス・・・。どういうことだよ?」
下を向き、指をもじもじしながらロイスは答えた。
「隠す・・・、つもりは無かったの・・・。」
しかし、ジンは聞いて納得した部分もあった。
暴走を止めてくれたあの日に感じた自分の魔力に干渉するような、ロイスの奥底にあるあの温かな温もり・・・。
「うん、大丈夫。ここに来るまで、それどころじゃなかったもんね。それに・・・。君が何であれ、ロイスはロイスだよ。」
ジンは優しく笑いかけた。
「ありがとう・・・。」
ロイスはいつものように笑いかけてくれた。
しかし、どこか浮かない顔をしている。
「ところで・・・じゃ。ジンよ、宝珠を持たぬお主はなぜ2属性持ちなんじゃ?まだ渡って来て間もないじゃろうに。」
そう、右も左も分からない。幻界に渡って来たばかりのジンが水晶で2属性の反応を見せて不思議に思っていた。
「あの水晶・・・。魂に干渉するって、言ってましたよね?多分・・・。」
ジンはつい、言葉を詰まらせる。
「何か、他にあるんじゃな?」
カサリスの言葉に、ジンは頷く。
「多分、僕の内にいる・・・。もう一人の僕、ゼンの属性じゃないかと思います。」
カサリスの眉が深く寄る。
「もう一人?器に魂が・・・二つ、じゃと?」
しばらく沈黙が訪れる。
「信じられん。・・・そんなことが・・・?いや、 しかし。水晶が示したのならば否定できぬ。あの黒い光・・・。そうか、2人分の魂の魔力量を拒絶!?もしそれが事実なら、お主は例外では済まされんぞ。」
ふと、カサリスは顔を上げてジンを見つめる。
見つめていたカサリスの目が徐々に見開いていった。
「まさか・・・。イリシア・・・か?」
知らない名前に、ジンとロイスは顔を見合わせた。
「イリシア・・・って誰ですか?」
「いや、まだ仮説に過ぎん・・・。忘れてくれ。」
カサリスは右手をだし、手を振った。
「さぁ。お主ら、色々あって疲れたじゃろう。今日は帰って休むとええ。」
──ロイスの家。
「ただいま・・・。」
いつもと変わらないはずの言葉が、どこか重く響いた。
ジンは靴を脱ぎながら、ロイスの様子を横目で見る。
「・・・ロイス、大丈夫?」
帰宅途中もずっと登校時とは違い、浮かない顔をしていたロイス。
「え?あ、うん。全然大丈夫だよ。」
少しだけ間があった。
その笑顔はいつもと同じようで少しだけ無理をしているように見えた。
──深夜。
静まり返った部屋。
ジンはベッドに入り目を閉じる。
コンッコンッコンッ
静寂を破り、ドアをノックする音が響いた。
「・・・ジン?起きてる?」
ジンはベッドから起き上がり、ドアを開く。
そこには枕を抱きしめるように持って、少し俯いて不安そうにしているロイスが立っていた。
「実は、寝れなくて・・・。一緒に、いてもいい?」
ジンは一瞬戸惑った。
「やっぱり、迷惑かな?」
ジンは優しく笑いかけた。
「ううん、迷惑じゃないよ。・・・おいで。」
その言葉を聞いて、ジンは部屋へと招きいれた。
ロイスは部屋に入り、ジンのベッドに入る。
「・・・暖かいね。」
ロイスは掛け布団を引っ張り、顔の半分ぐらいまで隠し、呟いた。
ジンも同じベッドに入り、そっと掛け布団を引き上げる。
二人の間には、僅かな距離。
互いに向き合うことは無く、背中を預けるような形で横になった。
しばらく、静寂だけが続く。
しかし、ジンは女の子と二人でいることもなければこのような展開は初めての経験だったこともあり、
──ドクン、ドクン、ドクン。
ジンの鼓動がその静寂をかき消すかのように大きく、早く鳴っていた。
落ち着け、ロイスにバレる・・・。
そんなことを考えていると。
「ねぇ、ジン。まだ起きてる?」
背中越しに、か細い声が届く。
「っ!?お、起きてるよ・・・。」
バレたか!?と思い、変な返事になってしまう。
「もう、なんでそんな返事なの?」
ロイスは、くすくすっと笑った。
しかし、次の言葉は真剣な声になっていた。
「もし、私が・・・本当に災厄になっちゃったら・・・どうする?」
ロイスは布団を引っ張り、体が強張るのが伝わる。
ジンは目を閉じ、それから静かに答えた。
「その時は・・・僕が止める。」
ロイスの呼吸がほんの少しだけ揺れた。
「・・・怖く、ないの?」
「正直、怖いと思う。でも・・・」
ジンはほんの少し間を置いて続けた。
「それ以上に・・・、ロイスを放っておく方が怖いよ。」
沈黙──
ゴソゴソ・・・。とロイスが動く音が響く。
「ありがとう。」
ロイスの声がさっきより大きく聞こえた。
「でもね・・・?」
ロイスはジンの背中の服を引っ張り、続ける。
ロイスの声は震えていた。
「今日、学校で・・・。水晶が光った時、私と同じだって思うよりも先に、ジンがどこかへ行っちゃうんじゃないかって、怖くて・・・」
ロイスはジンの背中に顔を埋める。
ジンは背中から暖かいなにかが広がるのを感じる。
今日起きたことで、ロイスはずっと不安を感じていたんだ。
だからずっとあんな顔をしてたのか・・・。
それに気づいたジンは振り向こうとした。
けれど、その必要はない気がした。
ロイスの震えは、もう背中越しに伝わってきている。
ジンはゆっくりと息を吸い、
「大丈夫。」
短く、でもはっきりと答えた。
「僕はここにいるよ。」
その言葉は、静かな夜の中に溶けていく。
ロイスの手が少しだけ強くジンの服を掴んだ。
「・・・うん。」
かすかな声。
だけどその震えは、さっきよりもずっと穏やかだった。
ロイスの体温が、ほんの少しだけ近づいた・・・。
ジンはここで決意した。
ロイスを、そしてロイスのいるこの世界を守ろうと
「──近い程、失うぞ。」
ゼンの声が聞こえた。
ロイスは顔をあげた。
今・・・、誰か・・・?
最後まで読んで頂きありがとうございます。
この回、甘酸っぱいのもあり、ジンの決意もあり・・・。
続けて投稿予定なので
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