第69話 前を向く理由
ジンも、フリーシアも何を話しかければいいか分からず、学校の帰り道は三人共無言だった。
ロイスに声をかけようと口を開こうとするジンだが、その言葉が出てこなかった。
フリーシアは、いつもみたいにロイスにはくっつかず、ただ隣を歩いている。
「ただいま・・・。」
終始無言のまま、ロイスの家に帰って来るとロイスが口を開いた。
「夕食、作るね。」
ロイスは何処かぎこちなく、ジンとフリーシアに笑顔を向ける。
そのことに気付いたフリーシアはロイスに声をかけた。
「お姉様、手伝うわ。」
「ううん、良いの。」
ロイスは首を横に振った。
「じゃあ、僕は部屋に居るね・・・。」
「うん。ゆっくり休んでて。」
ロイスはそう言うと、夕飯の支度を始めた。
ジンは部屋のドアの前で暫くロイスが夕飯を準備する姿を見つめると、ロイスを呼ぼうと口を開く。
しかし、何を伝えればいいか分からずに口を閉じ、部屋の中へと姿を消した。
フリーシアはジンを追うようにジンの部屋に入ろうとドアノブに手をかけ、少し戸惑った。
「ジン、入るわね。」
フリーシアがドアを開くと、ジンがベッドで仰向けになり、腕で目を覆っていた。
静かにベッドへ近づくと、フリーシアはベッドに腰掛ける。
「お姉様、無理してるみたい。」
ジンは少し押し黙って口を開く。
「無理もないさ・・・。記憶が戻って、目の前で一番仲良かったヤナが死んだんだ。」
「そう・・・ね。」
フリーシアは俯いた。
しかし、ジンの言葉を思い出してすぐにジンに視線を向ける。
「お姉様、記憶が戻ったの!?」
「うん、そうみたい。」
「そうだったのね・・・。」
フリーシアはほっと、胸を撫で下ろした。
「これから、どうするの?」
ジンはフリーシアの言葉に少し考えて、答えを出した。
「北に向かうよ。アルヴォル・クリフォティカ・・・。あんなのがまだ七体も残ってる。放ってはおけないよ。」
「そうよね。私達で何とかしなきゃ。」
「でも・・・。」
ジンは言葉を詰まらせた。
「でも?」
ジンは黙り込み、考える。
体を起こし、フリーシアの隣に腰掛けた。
「ロイスは、残していこうと思うんだ。」
フリーシアはジンの言葉を聞き、目を見開いた。
「これ以上、ロイスにあんな思いをさせたくない。ロイスを守るには・・・これしかないんだ。」
「そんな・・・。今のお姉様を一人で置いていく方が酷よ!」
ジンはフリーシアの反論に、言い返すことは出来なかった。
「貴方がそのつもりなら、私はお姉様を置いては行けないわ。」
「分かってくれ、フリーシア・・・。」
「嫌よ!」
フリーシアは立ち上がり、ジンに視線を送る。
ジンは俯き、両手で顔を支えていた。
その姿は、半分抜け殻の様にも感じ取れた。
「貴方は責任から逃れようとしてるだけよ!どうして自分一人で抱え込もうとするの?私達は必要ないの?」
「違う、そういう意味では・・・。」
「だってそうじゃない!ウェリタスを倒した後にも言ってたわ。もう、独りで背負いこまないで。私だって側にいてヤナを守れなかったの!お姉様だってそうよ!とても悔やんでると思うわ!?」
ジンはこの時、やっとフリーシアの顔を見た。
フリーシアは眉を寄せ、苦しさに耐えるような、そんな表情をしていた。
「ジン、貴方はもう一人じゃないの。お姉様だっている。それに私も・・・。」
フリーシアは言葉を切り、口を紡ぐ。
「フリーシア・・・。」
フリーシアは腕を組み、そっぽ向くと口を開いた。
「もっと私達を頼ってよね!そのための仲間でしょ!?」
そう言い残すと、フリーシアはジンの部屋から出て行った。
「仲間・・・か。」
ジンはその言葉を噛み締める様に口に出した。
フリーシアがジンの部屋を出ると、夕食の温かな匂いが広がっていた。
「フリーシア、もうご飯できるからね。」
ロイスはテーブルに夕食を運んでいた。
テーブルに用意されたご飯は四人分用意されていた。
「お姉様・・・。」
遅れてジンが部屋から出て来た。
テーブルを見て、ジンもフリーシアもロイスに言葉をかけることが出来なかった。
二人はテーブルに着くと、ロイスが最後の食器を持って、フリーシアの隣に座る。
「さ、食べよう。」
ロイスは二人を見て空席を見る。
「あれ?ボク、四人分用意しちゃった。」
少し恥ずかしそうに首を傾げると、ロイスは立ち上がり、用意したご飯を下げようとした。
「ロイス、それは僕が食べるから、置いてて大丈夫。」
ジンは食器を持ったロイスの手に、そっと手を重ねた。
「うん、分かった。」
ロイスは食器をそっと戻し、椅子に腰かける。
「じゃ、食べよう。」
「いただきます。」
三人は食事を始めた。
静かな空間に、カチャカチャと食事をする音が響く。
食事が終わった頃、ジンが口を開いた。
「ロイス。」
「ん?」
「ヤナの、ことだけど・・・。」
「うん。」
ジンはロイスを直視できず、僅かに下を向いて話始める。
「もっと早く到着してたら、こんなことにはなって無かったかもしれない・・・。」
ロイスはジンの言葉を受け、少し考えた後、首を横に振る。
「ううん。だってジンはカサリス校長と街の外の脅威に向かって行った。だから仕方ないと思うの。」
「お姉様!私も・・・。私も側に居ながら守ることすら出来なかったわ。」
ロイスはフリーシアにも首を横に振る。
「フリーシアはあの状況を何とかしようと頑張ってくれていたこと。私はちゃんと見てた。」
ロイスは少し俯き、目を閉じる。
「ボクは、ヤナに助けて貰ったの。ボクが手を伸ばしても届かなくて・・・。」
ロイスはその時の光景を鮮明に思い出す。
「何も出来なくて・・・。でも、ヤナが言ってくれたの。」
ロイスは手を胸に当てた。
「君なら大丈夫って。そう言ってくれた。それに・・・。」
ロイスは顔を上げ、ジンとフリーシアを見ると続けた。
「ヤナはボクの中で生きてる。思い出す度側に居るんだって、そう言ってくれたの。だから・・・。」
少しだけ、寂しそうな表情を浮かべ、すぐに笑顔を作った。
「私は・・・。前を向くことにしたの。」
「お姉様・・・。」
フリーシアはロイスの手を取って強く握った。
ジンは両手を強く握り込んだ。
ロイスは前を向くんだね。
思い出す度、側にいる・・・か。
ジンは目を閉じ、ヤナとのことを思い出す。
約束は必ず守るよ・・・ヤナ。
ジンは顔を上げ、ロイスに視線を移す。
ロイスはその視線を感じたのか、ジンに視線を返し、にっこりと笑顔を向けた。
第3章 失ったもの
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
この章を書く中でジン達が失ったもの
そして残されたものを改めて深く考えながら執筆しました。
正直に言うと、第57話以降続きを書くことを躊躇って執筆出来ないこともありました。
しかし、ここまでジン達と一緒に歩いてきた皆様にこの物語を届けたいと思い、最後まで書き切ることが出来ました。
次話から第4章の始まりです。
これからもジン達の旅を見守って頂けると嬉しいです。
ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました。




